「バリキャリ」「ゆるキャリ」という言葉を耳にしたことがあるだろうか。
「バリキャリ」とは、「バリバリ働くキャリアウーマン」を略した言葉で、昇進を目指し、キャリアを積み重ねるために仕事一筋に頑張っている女性のことを指す。対して「ゆるキャリ」は、ワークライフバランスを重視し、仕事に割く時間は一定程度で、プライベートを大切にするワークスタイルを実践する女性のことだ。
この言葉はまるで頑張る女性を揶揄しているようにも聞こえる。男性に対しては「バリキャリ」という言葉は存在しない。仕事でキャリアを積んでいる女性は「少し異なる」と線引きされているのかもしれない。
女性も総合職として、管理職として最前線で働ける環境が整っているかというと、まだ課題は多い。ましてや出産して育児を伴う場合はもっとハードルが上がる。とはいえ現代は、育児休暇制度が整い、結婚・出産を経験しても仕事を続ける女性は増えてきた。男性が育児休暇を取得するケースも増えてきた。もはや女性をセグメントする「バリキャリ」「ゆるキャリ」なんて言葉は、死語なのではないだろうか。
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暮らしも仕事も頑張りたいけど、とりあってもらえない
出産後も仕事を続け、家事も育児もプライベートも、そして仕事もどれも意欲的に頑張りたい。そう思っている女性は増えているだろう。私もその一人だ。
今から6年前のこと。私は育児休暇を終えて当時勤めていた勤務先に復職した。勤務先では5年キャリアを積んでいたので、社内では中堅のポジションだった。
復職後はもちろん仕事にも意欲的に取り組むつもり、バリキャリには該当しないけどできる仕事は全力で取り組み、新しいことにも挑戦するつもりだった。
しかし復職後は時短勤務ということで、産前と比較するとかなり負荷の少ない仕事を担当することになった。育休から職場復帰して半年が経ったころ、仕事に「物足りなさ」を感じるようになっていく。そこで私は「もっと成長したいし、頑張れる余裕があるので、仕事のウェイトを上げたい」と伝えるも、上司に返された言葉はこんな言葉だった。
「お母さんは無理をしない方がいいでしょ? 時短勤務なのだから頑張らない方がいい」
ただでさえ当時ワーキングマザーが少なかった職場。彼らが私をどう扱っていいのか戸惑いを覚えていたのはなんとなく理解をしていた。おそらく私への「気遣い」から、かけてくれた一言だったのだろう。しかし私のモヤモヤは募っていくばかりだった。いつしか、虚しさを感じるようになり、意欲やモチベーションが下がっている自分に悲しくて悔しくて、涙を流すことが増えていった。
結局その後何回掛け合っても私は一定レベルの仕事は行っていたものの、新しい挑戦とは無縁のまま、ただ日々を漫然と過ごすにとどまってしまった。この日々に意味がないかといったらまったくそうではないが、さりとて充実度があり、キャリアアップにつながったわけではなく、今でも疑問が残っている。
「バリキャリ」未満、「ゆるキャリ」以上の定義、それが「フルキャリ」
これを読んだ人の中で、「私もあるある」「そういえば、周りにそういう人がいるかも」と思う人がいるだろう。そんなあなたに知ってほしいのは「フルキャリ」という定義だ。
著者の武田佳奈さんはシンクタンク野村総合研究所に勤務するコンサルタントだ。総研が提唱する「フルキャリ」とは、「暮らしにも子育てにも、仕事にもキャリアにも、意欲的に取り組みたいと考える働き手の総称」のことを指す。これまではキャリアを優先する「バリキャリ」か、プライベートを重んじる「ゆるキャリ」かの「二者択一」というイメージがあったが、もはやそうではないと語っている。
「従来のように、結婚か仕事か、子どもか仕事かというように、どちらか一方を選ぶ、もしくはどちらか一方に重きを置くのではなく、理想的にはどちらも「Fulfill したい(全うしたい、目標を成就させたい)」と考えているのがフルキャリです。そうであるがゆえに、時間的にも、肉体的にも、精神的にも、「Full(あふれるほどいっぱい)」になりやすいという特徴を持ちます。こうした特徴を踏まえて、筆者は彼女たちを「“フル”キャリ」と名付けました」
(著書P48より引用)
子どもがいても仕事を頑張る私は、悪いことをしているのか。頑張るとかいわないで、上司がいう通り無理をしなければいいのか。半ば自分を責める気持ちを抱いていた私は、すがる思いでこの本を手にしたとき、ほっとしたことを覚えている。「バリキャリ」でもなく「ゆるキャリ」にもセグメントできず宙に浮いた自分だと思っていたからだ。だから、「フルキャリ」という意欲的な言葉を得たことにわずかに希望をいただいたのだった。同じように感じる女性も多いようだ。本書の中でもそのことについて触れている。
「多数寄せられたのはフルキャリ本人たちの声です。「どちらも頑張りたいとする今の自分の気持ちは決してわがままではないんだといってもらえたようでほっとした」、「諦めないでもいいのかもしれないと前向きになれた」といった声が多く寄せられました。わがままか否かはさておき、どちらも頑張りたいという理想とそれは無理なことなのではないかという現実との狭間で、落ち着かない状態だった働く女性が多数存在していることを、改めて確認することになりました」(著書P5より引用)
あなたの周りにも本当は「フルキャリ」な女性、いませんか。

実際にフルキャリと自覚する人はどれくらいいるのだろうか。著書の中で、武田さんはこう語っている。
「筆者が行った働く女性5454人を対象に実施したアンケート調査によると、働く女性の50.4%が自分はフルキャリだと回答しています。ちなみに自分はバリキャリだと回答した人は13.5%、ゆるキャリだと回答した人は36.3%でした」(著書P52より引用)
思った以上に自分はフルキャリだと思っている女性は多い。
ここまで読んでくれた男性の皆さん、周りの女性に「無理しなくていいよ」「頑張りすぎないでいいよ」と声をかけていることはないだろうか。胸に手を当てて振り返ってみよう。
もしかしたらあなたの部下や後輩、同僚は、私と同じで「フルキャリ」かもしれない。配慮したつもりがそうでなかった場合、お互いの溝は深まるばかりだ。表面的な気遣いはかえって邪魔になる。「無理しないで」は誰にでも使える万能ワードではないのだ。一度互いに意向を確認してみると良いのかもしれない。
ではいったいどうしたらいいのだろうか。そんな声が聞こえてきそうだ。私がそのときに実感したのは「配慮は必要だけど、遠慮はいらない」ということだ。
たとえば制限時間があり、その中で仕事をし、時間がくれば即座に帰宅をしないとならない。そういう配慮は必要なのだろう。しかし、与えられた時間内で仕事の難易度まで下げる必要はない(つまり遠慮)のである。
武田さんは著書内で「働き手のマインドをきちんと見極めて、言葉を選ばないと、本人が望まない処遇になりかねない」と心配している。そして互いが噛み合わない思いを持ち続けていることが続くと、せっかくキャリアを積み重ねていた女性が離職することにもつながるのだ。事実、私は復職後2年で退職し、別の企業に転職をした。
長年手塩にかけて育ててきて、戦力にもなっていた人材を、わずかな理由や手違いから失う。企業にとっては、これほどの損失はないだろう。
そもそも、女性も男性も時代とともに働き方や価値観は変わっており、「こうあるべき」「こうだろう」の枠にはめることは難しい。
あなたも一度振り返ってほしい。その目の前にいる部下、同僚、後輩の仕事に対する本当の思いをーー。
(文:永見薫)

