全国に広がる武将隊ブームの先駆け・名古屋おもてなし武将隊。400年前よりよみがえった武将たちが、名古屋城をメインに名古屋および愛知県の観光PRをおこなっています。織田信長・豊臣秀吉・徳川家康、いわゆる三英傑の出身地である愛知県は、今年の大河ドラマ『どうする家康』のメイン舞台です。
今年の顔・徳川家康公に、「Tech Team Journal」らしく「20代のキャリア上の悩み」に答えてもらえることに。せっかくなので、名古屋人の好きな「8つの質問」(名古屋では末広がりの八は縁起がよいとして市章にしている)をしてみました。
名古屋おもてなし武将隊とは
2009年「名古屋開府400年」の観光PR部隊として結成。
メンバーは、400年前よりよみがえった「愛知県にゆかりのある」武将6人(織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、前田利家、加藤清正、前田慶次)と陣笠隊(足軽)4人で構成。
全国的にも知名度の高い6人の武将による、全国の武将隊の先駆け。
3年連続「全国武将隊天下一決定戦」で優勝。“天下一”の称号を持つ。
日本人ならではの“おもてなしの心”とSAMURAIカルチャーを世界に発信するために、名古屋城を拠点にさまざまな活動を行っている。
公式サイト
【お悩み・1】会社の飲み会やグループLINEなどの上司とのコミュニケーションが苦手です。どのようにお付き合いすればよいでしょうか?
上司とうまくやっていくには「質問する」のが一番じゃ。上司や年長者は、当然部下より経験が豊富じゃ。自分自身の経験を話して、相手に有益なものを下の者に与えたいと思うものであるし、自分のやってきたことを肯定したいものなのじゃ。うまくいったこと、いかなかったことを伝えたい。上司のそのような言葉に、耳を傾けるだけでよい。
ところで、そなたには、耳と口はいくつついておる? 耳は二つ、口は一つじゃ。理由はわかるかの? そう、たくさん聞くことじゃな。人と話すときには、倍聞いて半分話すくらいで、ちょうどよいのじゃ。
【お悩み・2】毎日不満はないのですが「本当にやりたいこと」が見つからずモヤモヤします。どうやって「やりたいこと」を見つければよいでしょうか?
まず、ほかの者のすることを助けてみれば、やりたいことは見つかる。
人はそもそも、やりたいことなどないものじゃ。人にとっては「何もしたくない」のが「よい状態」なのじゃ。ん?「自分はいつも、『何もしたくない』が、よいのか?」じゃと? それでよい。
たとえば、そちは今、腹が減ってはおらぬし、眠くもない。隣に好きなおのこ(男)がおれば、まず満たされておる。満たされておれば、「やりたいこと」がなくて当然なのじゃ。
困っている者、つまり「満たされていない者」を助けて動いてみることじゃ。やりたいことが最初はなくとも、動いてみれば見つかる。
「やりたいこと」は途中で変わってもよいのじゃ。昔は江戸から伊勢にまいる者が多かった。途中の宿場で気に入ったものを見つけて散財し、伊勢にたどり着けないまま江戸にもどる者も多かった。最初は伊勢が目的でも、途中で他のものが目標になってもかまわんのじゃ。
まずは動くことじゃ。動けば自我が芽生えて、やりたいことが見つかる。やりたいことが見つかったときは、それがすなわち「夢」なのじゃ。
【お悩み・3】春から働きはじめた新入社員です。年長者から「ひとつの会社で3年は頑張れ」「いやだったら逃げてもよい」の両方言われます。どちらを信じればいいのでしょうか?
「いやだったら逃げてもよい」じゃな。これは、世の中の速度に即しておる。
わしの生まれた1542年、世の中はゆっくりと動いておった。そういった時代には、物事をじっくり身につける、まさに「石の上にも三年」がぴったりなのじゃ。世の中の微細なことに幸せを感じるような、ゆったりとした世界じゃな。しかし、桶狭間合戦後のような乱世の三年は長い。変化が激しく、三年たつ間に物事が大きく動いてしまうからじゃ。
年長者が若いころはおそらく昭和の時代。昭和というのは、人類史上まれにみる成長し続ける時代、おだやかな世じゃった。今の令和は急転直下の時代。三年は昭和の時代の九年と同じ価値がある。
問題は「逃げ方」じゃ。「逃げる」を、感情をまじえず「動き」だけであらわすなら、「白」から「青」の地点へ動く、じゃ。このときに「青に行きたい、青に引っ張られるような形」で動くなら問題ない。「白がいやで逃げたい。青以外に行くところがないから」といって動けば、よい結果にはならんじゃろうな。
【お悩み・4】今の仕事は好きなのですが、給料が安くて貯金ができません。将来のことを考えたら、転職すべきでしょうか?
貯金をするためには「転職する」以外にもさまざまな方法がある。まずは「出費を減らす」こと。
わしが現世によみがえって来た14年前(2009年)と今の大きな違いは「給与が少なくとも、豊かに暮らせる世が整いつつある」ことじゃ。
14年前には、2時間の写し絵(映画)を見ようと思えば、映画館で千数百円を支払い、行き帰りも含めれば3~4時間かかるのが常じゃった。今は、月々の銭を支払えば、映画館の半分の値で、家で映画が見られる。4時間あれば二本の映画を見ることもできる。
銭も半分、時間も半分で、等しい価値を得られるとなれば、4倍じゃ。今の世は銭に「収縮性がある」のじゃ。使う者も、銭の収縮性に応じて、柔軟に考えるのがよい。着るものも、新品でなくともまだ着られるものを活用する方法はある。
貯金するためには、もちろん収入を上げる方法もある。しかし、転職をせずとも「投資」や「副業」など、「収入を増やす方法」はいくらでもあるということじゃ。
【お悩み・5】仕事が楽しく、充実した毎日を送っています。ふと、仕事ばかりで遊びも恋愛も何もしていないことに気づき、このままでよいのかなと感じました。家康さんはどう思いますか?
このままでよい。
おそらくこの相談者は、家庭を持ち、子を育むことに憧れを抱いておるのじゃな。わしか? わしには妻も子もおったが、ひどい亡くし方をしておる。わしのように妻や子を自らの手にかける者はそうそうおらんだろう。わしは今も妻子のことを思うと胸が痛む。
夫婦になる必要はない。みなからの、社会の同調圧力に流される必要はないのじゃ。もちろん、本当に結婚したい者もおるであろう。結婚したい者だけ結婚すればよい。
家庭をもてば失う辛さもある。憧れるならば、一度やってみるのもよかろう。
【お悩み・6】今まで何社か転職を繰り返しました。いつも人間関係でつまずきます。家臣と仲の良い家康さん、人間関係がうまくいく秘訣ってなんですか?
無理に仲良くしようとせぬことじゃ。今までうまく行かなかったなら、次も同様になるだろう。この相談者は自分を責めているようだが、責める必要はない。仲良くならなくてもよい環境を自ら作ればよいのじゃ。
たとえ話をするが、よいか?
現世でよくいわれるのが「多様性」という言葉じゃ。わしにいわせれば、まったくこの国の民は、この言葉を理解してはおらぬ。「多様性」とは「違う価値観のものを認める」こと。自分とは「まったく違う考え方」の相手でも受け入れることなのじゃ。
実際には、同じ意見の者としか仲良くできてはおらぬ。意見の異なる者=「分断」を認めない、それは多様性を認めていないことにほかならぬ。多様性とは、分断された者同士が認め合うこと。しかし今の世は「分断=悪」ととらえ、「分断しないように多様性を認め合おう」としておる。土台無理なのじゃ。
分断を否定するのは、日本(ひのもと)が9割8分以上単一民族国家だからじゃな。世界中でこのような国家は日本と朝鮮半島だけじゃ。日本においては、たとえば「赤い木の実は?」とたずねればほぼ全員が「りんご」と答える。中国や米国ではそういうわけにはいかぬ。
日本語の「あたりまえ」は7~8割同じじゃが、英語の「コモンセンス」は5~6割じゃという。「みなが一緒であれば平和」が「あたりまえ」の世の中では、異物をつくれぬ。
本来は、仲良くするのが「あたりまえ」ではないのじゃな。ならば、仲良くできぬからといって、悩む必要はないのじゃ。
【お悩み・7】これから就活の大学生です。将来が不安でたまりません。家康さんが今就活生なら、まずどのようなことをしますか?
わしであれば、どのような場所(企業)でもよいから、仕官する(勤めに出る)ことを考える。まずは動いてみることが大事じゃ。おのが自身に的確な場所を探したり、条件にこだわりすぎたりすれば、動きがにぶくなる。
どうしても「うまく」就職しようと考えがちじゃが、変化の大きい世の中では、悩んでも仕方がない。今、よい条件だと考えたとしても、数年後も同様とは限らんということだ。
【お悩み・8】20代後半までフリーターをしてきて、気づけば何もスキルが身についておらず、焦っています。これからどうすればよいでしょうか?
スキルとは技術のことであるな。はっきりしておるのは、この先、高い技術が必要とされることは、少なくなるということじゃ。
この尾張国(おわりこく=ここでは名古屋市)は1980年代からの40数年、世界有数の貿易都市として、貿易黒字をたたき出しておる。日本の貿易の6割以上が名古屋港から出荷しておる。ものづくりの都市じゃからな。
ものづくりには技術が必要じゃ。最初は人の手による高い技術でおこなう。やがて生産性を上げるために機械化をすると、高い技術をもった者たちが解雇される。
技術はからくり(機械)や人工知能(AI)などに取って代わられる。
技術で戦おうとすれば、からくりや人工知能と戦うことになる。人工知能などは飯も食わねば休みもいらず、間違えることもない。人に勝ち目はない。技術に「保証」はないのじゃ。
では、「技術」ではないとすれば、何を武器に戦うか。それは「自身が欲すること」をみつけることじゃ。人から「やめておけ」と言われても熱中してしまうものがあるだろう。
たとえば「eスポーツ」というものがあるな。スポーツといえばゴルフで賞金が一億といわれておったが、eスポーツの賞金は40数億円じゃ。eスポーツとはそなたも知っておる通り、いわゆる「ゲーム」じゃ。
大抵の子どもが、親から「ゲームなんてやめて、もっと勉強しろ」と叱られる。そう言われて素直に勉強した子どもより、ゲームを辞めなかった子どものほうが賞金を稼ぐこともありえるということじゃな。
わしの生きておった400年前も同様のことが起きた。戦国の世では戦の強い者が活躍できた。平らかな世では、戦がうまくとも役には立たぬ。戦がなくなった武士(もののふ)たちが戦をやりたいと騒いだ。その結果起きたのが「大坂の陣」じゃ。「大坂の陣」は緊急雇用政策のひとつだったのじゃな。
何? 幕末にも同様のことが起きた? わしは生きてはおらんので、幕末のことは詳しくないが。ふむ、幕府側で戦った新選組などは、まさに武士を辞めたくなかったのじゃろうな。
わしが幕末に生きておれば、自らの手でおのれが作った幕府を倒したであろう。わしは(天皇)陛下をお守りするために幕府を開いたのじゃ。しかし幕末の幕府は「幕府のための幕府」になってしまった。わしの本意ではないのじゃ。
家康さんに学んだこと
400年前からよみがえって今を生きる、家康さんの答えを要約すると以下の通りです。
- コミュニケーションのコツは「質問し、よく聞くこと」
- 「やりたいこと」は人を助けて動くうちに見つかる
- 変化の時代には、合わない場所からは逃げてよい。ただし逃げ方は大事
- 現代はお金に収縮性があり、収入を増やす方法も節約方法も多彩な中から選べる
- 仕事が楽しいならそれでよい。無理に恋愛や結婚をしなくてよい
- 周りに無理に合わせて仲良くする必要はない
- 安心安泰な就職先など存在しない、まずはどこでもいいから働いてみる
- これからは技術より熱中できることで結果を出すことが大事
「わしの生きた400年前も現代も、同じようなことを繰り返しておるということじゃな」と家康さん。たしかに、時代が変わっても人の本質的な部分は、大きくは変わらないと感じます。悩めるビジネスパーソンにとって、8つの質問と答えが、「きづき」や「行動のきっかけ」になれば幸いです。
(文/取材:陽菜ひよ子、撮影:宮田雄平)