一発撮りのパフォーマンスを鮮明に切り取るYouTubeチャンネルとして注目を集めている「THE FIRST TAKE」。そして、アーティストのルーツを辿り、母校の音楽室で凱旋ライブをおこなう、NHKの音楽ドキュメンタリー番組「おかえり音楽室」。

緊迫感あふれるライブ感とリアリティに加え、高品質な映像と音響で魅力的なコンテンツを提供し、視聴者を驚かせ続けている。アーティストの才能や感情を直接的に感じられる質の良さへのこだわりの根源は、いったいどこにあるのだろうか。

今回お話を伺ったのは「THE FIRST TAKE」や「おかえり音楽室」のクリエイティブディレクターとして、企画からアートディレクションやグラフィックデザイン、映像監督を担当する清水恵介(しみずけいすけ)さん。過去にはUNIQLOやSHISEIDO、UNITED ARROWSなどいろいろなブランドのキャンペーンを担当してきた清水さんに、映像・アートディレクターとしてのやりがいや裏話を聞いた。

―「THE FIRST TAKE」クリエイティブディレクター清水さんの記事一覧

初めて痺れたデザインは「NTTのロゴマーク」

ーー映像の学校に通いながらバンドでデビューというキャリアの出発点をお持ちの清水さんですが、クリエイティブディレクター・アートディレクターとしてキャリアを築く上で影響を受けた方はいますか?

清水恵介(以下:清水):
学生時代、自分がバンドをやっていた背景もあり、とある映像に音楽をつけたんです。そうしたら「この音楽をつけた人に会いたい」と言ってくれた方がいて。その方が「清水くんはいろいろな過程を全部飛ばして、クリエイターにさせてあげる」って言ってくれたんです。「そんなうまい話あるかな(笑)」とは思ったのですが……。

ゆくゆくは、アシスタント的なポジションで学ばせていただくようになりました。その方の自分の仕事に対する命をかけて働く真っ直ぐな姿勢には、僕も影響を受けています。

ーー映画配給会社やデザイン事務所、広告代理店……とさまざまなフィールドで活躍されてきた清水さんですが、求められるアートの視点は仕事によって変わって来るものなのでしょうか。

清水:
僕は、どんな仕事の場合でも(求められる視点は)変わらないなって思っています。例えば、映画の宣伝デザインに求められるのは、その映画を魅力的に見せる1枚の絵なわけです。どの分野でも求められるのは、デザインでどういうストーリーを伝えるか。みんなが興味を持ってくれるように、一つのデザインに集約することそのものは同じなんじゃないかなと思っています。

ーー清水さんは以前別のインタビューでアイコニックなデザインへのこだわりをお話されていましたよね。

清水:
デザインに携わるなかで、“良いデザイン”や“良い写真”って何かがずっとわからないまま、走っていた時期があって。でも、ある日気がつきました。そのきっかけが、亀倉雄策(かみくらゆうさく)さんの展示会です。そこで見た、NTTのロゴマークに痺れてしまって。めちゃくちゃ大きく、壁にNTTのマークだけが描かれたデザインに衝撃を受けたんですよね。

「今までたくさんかっこいいデザインを見てきたはずなのに、この衝撃はなんだろう?」と考えたときに気がついたのが、アイコニックであるシンボルの強さでした。

シンボルには言語も関係ないし、コミュニケーションとして伝わるスピードも速い。そこから、海外の人にも説明もしないでも伝わるような、それをひと目見れば、伝わっていくようなものを作ろうと思うようになりました。

ーーそれこそ、「THE FIRST TAKE」のサムネイル中央を跨ぐ一本線の印象的なデザインもそうですよね。

清水:
そうですね。誰でも真似できて、誰にでもすぐ描けるデザインを意識しています。僕はデザイナーを20年以上やっていますが、あんまりデザイナーとして評価されたことはないんです。でもそれは、デザインをしたくないっていう思いが自分の根底にある点にも繋がってくる気がしていて。

クラフトが凝ったデザインも好きなのですが、自分が描きたいものとは遠いような気がしますね。自分の資質にあったやり方を考えると、実は“デザインをしない”方が自分に合ってるんじゃないかな、と。

ーーデザイナーとのしての経験についてお伺いさせていただきましたが、映像ディレクター・クリエイティブディレクターとして、今の多岐の業務を横断する働き方が定着した背景を教えてください。

清水:
今の会社に入って、いろんなCMディレクターやトップの人たちと一緒に仕事する機会があって。後ろで見ていると、その人独自の素晴らしい部分がだんだんわかってくるんです。そうすると、「ここは誰も触れていない」というところもわかるようになるんですよね。そこに気づいたら、やるしかないじゃないですか(笑)。

誰も触れていない部分を見つけて、今の自分の興味と組み合わせて企画していくみたいなイメージです。匿名性を持った、誰が作ってるのかわからないようなものが好きなんですよね。

「これが自分の作品です」みたいな主張を持ったものよりも、当たり前のようにある、誰がデザインしたのかわからないようなもの。星座だって、元はただの星の集まりに誰かが線を引いて名前をつけたのが始まりじゃないですか。

そういうまだ見つけられていないような星を定義して、みんなに価値として新しく認められていくことに魅力を感じます。とはいえ、きっとあらゆる物事の第一発見者たちも、何かを成し遂げたくて(その発見に)辿り着いたわけじゃないとは思っていて。過去の人たちが成し遂げてきた発見も、実はそんなに、大それたことではないのかもしれません。

根底にあるのは“制限を持って削ぎ落としていく”考え方

ーー「THE FIRST TAKE」におけるクリエイティブディレクターとは、具体的にどんなお仕事なのでしょうか?

清水:
クリエイティブディレクターの仕事って、正直なかなかイメージしにくいですよね(笑)。最近(クリエイティブディレクターが)増えてきていますし。僕の場合は、「YouTubeの企画を考えてほしい」という依頼から始まります。

アイコニックなものを目指す上で、“制限を持って削ぎ落としていく”考え方のもと、企画をして、それを映像やデザインに落とし込むまでを一貫して行うと思ってもらえれば良いかもしれません。全部を任せていただけるところは、強みだなと思っています。映像監督の中でも、「企画は任せます」とか、「ここの部分だけ得意です」とかいろんなタイプの人がいると思うので。

みんなはどんなものを見たいんだろう。どんなものだったら、自分でも楽しめるだろう、と考えを巡らせて……。音楽コンテンツの文脈はもちろん受け継ぐような内容であり、一方でアップデートするような企画を運営スタッフ側にプレゼンテーションしました。結果的に、30案ぐらい出したのかな。

次は、僕が一緒に仕事をしてきた信頼するコピーライターにお願いして、ネーミングを手配します。「一発で、こういう緊張感で……じゃあどんなネーミングがいいと思う?」と考えていって。そこで出来上がったネーミングを元に、今度はロゴデザインを作成。

そこから撮影なんですけど、アーティストのキャスティング以外、プロデューサー、カメラマン、ライティング、スタイリスト……この人だったらこの企画を成立させてくれるだろうと思った方に声をかけていきます。

撮影では「グラフィカルな写真の考え方で、映像だけど、写真みたいなことをやりたい」というのを決めてました。テストシュートもその第1回目の当日の午前中にやりながら、第1回目を撮り終えて。エディターの方とやりとりしながら、動画の色味の調整も重ねていきました。

最後の最後までクリエイティブの責任を持ちながら、関わってくれるスタッフたちと作品を作っていくのが僕の仕事です。

ーー清水さんは過去にTVCMや有名企業の広告デザイン等を手がけてきたと思いますが、初の映像ディレクション且つ媒体がYouTubeというところで、最初に感じた壁を教えてください。

清水:
そもそも、自分はYouTubeをあまり観てこなかったので、どういうものが今、チャンネルとして求められてるのかをリサーチしまくりましたね。最初に手をつけたのは、ヒット動画の人気の理由の因数分解

その点に関して言えば、昔から自分にはそういうところがあるような気がします。好きな映画を観て、自分が好きなシーンに対して惹かれる理由を考えたくなったり。ストーリー?ライティング?それとも音楽?みたいな(笑)。

でも結局は、その全部の掛け合わせだったりして。リサーチって案外そういうものじゃないかなと思います。

なぜこれが流行っているのか。モーニングルーティンの動画なら、情報として他人の朝の習慣をキャッチアップできる、朝の気持ちいい感じを追体験できるとか。そんな中で気がついたのは、とにかく“真似できる”ことは、すごく大事な要素だという点です。YouTubeって、ユーザーが動画を真似して、それが枝わかれして広がっていくUGC(ユーザー生成コンテンツ)が大事なカルチャーなんですよね。「真似されないと駄目なんだな」とか、一つひとつを因数分解して理解していきました。

ーーそれこそ「THE FIRST TAKE」の60CMもクリエイティブディレクションを担当していらっしゃいますよね。実際に作ってみてテレビCMとの違いをどのように感じましたか?

清水:
テレビCMとの違いで一番大きいのは、身近さですかね。前提に、スマホで見るっていう近さがありますから。マスメディアの性質上、どうしてもテレビCMは少し遠い存在になってしまう。

ただ、やはり媒体が大きくなると、晴れ舞台を感じる気持ちも強くなりますよね。新聞広告とかまさにそうですけど。何かを掲げるような広告であった方がいい。だからYouTubeも、身近でありながら「自慢できる場」としてのイメージはもちろん持っていました。

ーー安直にただ観てくれとは言わない、洗練されたスマートな印象を受けるCMでした。

清水:
これはどんなCMにも共通する要素かもしれませんが、あんまり「買って欲しい」という意図が透けて見えるCMって、魅力を感じない気がしませんか?

またいかに商品を出さないで、商品を開拓してもらうかの方が大切だと思っています。

ーーそんな清水さんが考える映像ディレクター・クリエイティブディレクターのやりがいとは何でしょうか?

清水:
この仕事って、「この動画のここで感動してくれたらいいな」とか、「こういう表情を引き出せたらいいな」みたいな側面を考えていく仕事でもあるのですが……。逆に、その考えた階段の先が予定調和じゃないところに着地したという瞬間に、すごく嬉しい気持ちになるんです。僕も出演者も、視聴者も予想していない場所。本当は、映像という記録ではなくて記憶に残るだけでもいいんですけどね。

YouTubeを探しても見つからないけど、鮮明に覚えているバラエティの神回…とかってありませんか?

絶対忘れられない、あの感覚。だから、あんまりやらせる感じとか好きじゃなくて。それぞれが遊べる余白によって、みんなが全然違う方向に進んでいくとめちゃくちゃ嬉しいです。

 

言語をも超えるシンボルの強さ、YouTubeだからこその真似しやすさや親近感ーーファンの心を掴み、成長し続けるコンテンツの核となっている部分は人の心に直に訴えかける「シンプルさ」なのかもしれない。

後編では番組制作の側面に加え、清水さんが考える、AI全盛期の今だからこそ真に求められるディレクターの在り方について語ってもらった。

―「THE FIRST TAKE」クリエイティブディレクター清水さんの記事一覧

(取材・文/すなくじら、撮影:原田義治/Yoshiharu Harada)

― presented by paiza

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