ミニカーに小型コンピュータRaspberry Pi(ラズベリーパイ=ラズパイ)を搭載してプログラミングし、自動運転で既定のコースを疾走する。そんなレースイベント「自動運転ミニカーバトル」が2024年1月26日、東京都港区のITエンジニア養成機関の42 Tokyoで行なわれた。主催は42 Tokyo・トヨタ自動車だ。

42 Tokyoの学生にとってハードウェアの制御は初体験、トヨタが社外で自動運転のプログラミングイベントを開催するのも初めてという本イベント。なかなか動かない車も、スムーズにコースを周回し完走する車も現れた。見学に訪れたトヨタのエンジニアも感心高く、大成功を収めたと言えるだろう。

開催した42 Tokyoの関係者に、狙いや効果を尋ねた。

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トヨタ初の試み<狙いと効果>|自動運転プログラムイベントを42 Tokyoと開催

ソフトウェア開発スキルを中心に学ぶ養成機関で初の自動運転イベント

(一般社団法人 42 Tokyo 副理事長・事務局長 佐藤大吾さん)

もともと、DMMグループのハッシャダイソーシャルとトヨタが高校生向けのキャリア支援プログラムを提供していた。それをきっかけに42 Tokyoをスポンサーとして支援しているDMM.comがトヨタに42 Tokyoの取り組みを紹介し、トヨタがその理念に共感したことで本イベントは開催に至った。学びを提供する側として、42 Tokyoの運営メンバーは今回の開催をどのように捉えているのだろうか。

42 Tokyoのカリキュラムの主軸は、情報システムやデータサイエンスなどのソフトウェア領域の情報技術に関係するもの。自動運転ミニカーバトルはハードウェアを小型コンピュータで制御するもので、本来のカリキュラムにはないものだ。本イベントをなぜ開催したか、どのような期待を持ったのかを、一般社団法人 42 Tokyo 副理事長・事務局長 佐藤大吾さんに伺った。

佐藤:

「“42”は世界54箇所にキャンパスがあり、ほかのキャンパスにはもの作りに取り組んでいるところもあります。ただ、日本ではハードウェア制御に関係するカリキュラムやプロジェクトがありませんでした。わたしたちにとって、そうした技術を学べる機会もあればよいなと常々思っていたんです。

ソフトウェアを学ぶ際に大切なことの一つに、どのように社会実装されるか・社会にどのように役立っているかを知る、というものがあります。今回の例ですと、自分たちが作ったプログラムで車が動いているのをみることで、それが世の中の自動運転に繋がっていくことが実感できると思うんですね。

42で学ぶ学生にとって、就職する業種のイメージは、まずはIT業界だと思います。そもそも自動車業界で自分たちの活躍の場があることを知らない学生もいます。もの作りに対する進路を新たにイメージしてもらえるきっかけになるのではないでしょうか」

42 Tokyoはソフトウェアエンジニアを目指す学生が多く在席しており、週に35〜50時間程度は学習しないと求められるレベルに達することが難しい。自動運転ミニカーバトルは42の普段のカリキュラムやレベルには関わらないイベントとなるが、それでも開催3か月前に参加者を募集した直後から大きな盛り上がりを見せた。

佐藤:

「最初は45人ほどの参加者を募集したんです。ところが2倍近い応募があって、最終的には15チーム・56人の参加になりました。学生にとっては普段のカリキュラムを学ぶことですら大変なので、このプログラムに参加することは大きな負担になるはずなんですが、これだけたくさんの応募があったことに驚きました」

畑違いの技術領域で奮闘

(ペタゴジーディレクター・SIディレクター 矢追良太さん)

ルールは、センサーや制御のためのコンピュータを搭載し、自動運転技術を活用した自動車を既定のコースで走らせ、3周した周回タイムを競うもの。6分の持ち時間で何度でもトライは可能だ。途中で車が止まったり、壁を倒したりした場合は、リセットしてスタートからやり直す。

一般的なIT系の開発イベント・プログラミングイベントでは、多くの参加者が課題をクリアした上で、より優れた結果を競うことが多いだろう。しかし、本イベントは自動運転をテーマに、日ごろはハードウェア制御のシステムに関わらない学生が取り組むもので、完走数も予測がつかない。

ハードウェア制御のプログラミングは、普段42 Tokyoで学んでいるカリキュラムとまったく異なる。日ごろの課題をこなした上で開発に取り組むことになるため、イベントに向けた作業時間をつくることがそもそも難しい。

日ごろ、学生と相対するペタゴジーディレクター・SIディレクター 矢追良太さん(以下 矢追)は

「キャンパスは24時間利用可能ですが、大部分をキャンパスで過ごしているような学生もいたようです。そんななか、一周できる自動車は30%くらいではないか、と予想していました」

と話す。それだけ、日ごろ学んでいる内容とは畑が異なる領域なのだろう。

互いに教えあうスタイルで乗り切る

42の教育システムの大きな特徴は「ピアラーニング」(Peer Learning)。教師がカリキュラムに沿って講義するのではなく、課題に対して学生が自ら調べ、学生同士で教えあったりコードをレビューしあったりして解決を図ることにより、力をつけていこうという学習スタイルだ。本イベントでも、ピアラーニングの思想のもと、学生たちが自動運転車の開発に取り組んだ。

学生が取り組んでいる姿について、矢追さんは当時を振り返り

「主な開発期間だった2023年12月・2024年1月の間、技術サポートやメンタルのサポートは一切しませんでした。学生たちが試行錯誤しながら課題解決に取り組んでいました。

トヨタさんから最初に、参考資料と購入機材の例・サンプルプログラムの提示をいただきましたが、あとは学生たちが独自で調べ、試し、実装しています。僕は見守っているだけでした(笑)

トヨタさんへの質問は、開発期間が始まったばかりのときは部品の購入先に関するものが多かったのですが、途中からはレギュレーションに関する内容が大部分になりました。自分たちの手で動かせていることが伝わってきました」

と語る。壁にぶつかった衝撃などでセンサーや基板上の配線がおかしくなると、前のテストではできていたことが、最新のテストではできなくなる。バージョン管理の進化した現代のソフトウェア開発では起こりえない事象だ。

こうしたトラブルもチームメイトとの対話で乗り越えながら、15チームは自動車を作り続けた。

ソフトウェア領域以外にも活躍できる道筋を

(CSディレクターの平林愛子さん)

3分の1のチームが完走してイベントは終わった。完走車が出たことは喜ばしいが、42 Tokyoの評価ポイントは、完走やタイム以外の部分が大きかった。

佐藤:

「完走する車は1台もないと思っていました。ITのプロフェッショナルではない、いま勉強中の学生が取り組んでいることなので、自分たちで調べて完走車が出たことに驚いています。

今回のイベントでは、エンジニアとしてのもの作りのセンスが求められたのではないでしょうか。1位でなくても、完走できなくても、潜在的にはよいアイデアを持ったチームがあったはずです。そうした意識を、これから大切にしてもらいたいと思っています」

矢追:

「当日まで動かなかった車が、いざイベントが始まると動き出して完走するなど、見守っていた立場としては感慨深くもあり、面白くもありました。完走したことそのものより、ギリギリまで頑張って取り組んでくれたことがうれしいです」

学生の奮闘を見守り続けたCSディレクターの平林愛子さん(以下 平林)は、学生の姿勢に感心を見せる。

平林:

「参加した学生の中には、ミニカーが思った挙動をしなくて悔しかった者もいたり、イベントの後にトヨタさんからレビューをいただけた学生もいたようです。その後、有志がミニカーバトルで再戦する企画を立てているんです。アドバイスを実装して走りきるところまでやりたいのだそうで、今回のイベントも、まだまだ続きそうです(笑)」

現代の産業において、ITが一切入り込まない領域はほとんどないと言える。しかし、ITが役に立っていることを実感できる機会は思ったよりないもの。

42 Tokyoでは、ソフトウェア領域以外にもエンジニアが活躍できるシーンを見せられたことにも大きな価値を感じている。

佐藤:

「半導体業界やモビリティ業界の中で、どのようにソフトウェアが役に立つか、どのようにソフトウェアのエンジニアが活躍できるのかを、今回のイベントを通して想像できるようになったのではないでしょうか。今後もまたコラボレーションしながら、学生がさまざまな業界で活躍していけるような場を作っていきたいと思います」

矢追:

「これからも学生が楽しみながら学習して、社会でも楽しみながら学習した内容を応用できるような、社会との接続が滑らかになるようにしていきたいですね」

平林:

「営業的な仕事をしている中で学生のキャリアにつなげたい狙いはあるものの、まずは一緒にイベントを企画していく中で、技術の楽しさが感じられるようなイベントを、これからも開催したいですね」

42 Tokyo 代表理事の坂之上洋子理事は、イベントのあいさつの際、このように語っていた。

「ここから必ず、5年後・10年後に日本を支えるエンジニアやCTO、ベンチャーのトップを走る人たちが生まれると信じています。今日、悔しい思いをした人の中から、将来、トヨタで自動運転の中心を担うエンジニアが生まれるかもしれないと思いました」

ハードウェアの制御を学び、活躍の場があることを学生が知れば、学習の段階から視野が変わってくるだろう。

同日取材の記事

トヨタ初の試み<狙いと効果>|自動運転プログラムイベントを42 Tokyoと開催

(取材/文:奥野大児

―<presented by paiza

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