学生を卒業し、社会に出る。右も左もわからないヨチヨチ歩きの新人は、20代を必死に歩む時期。その後30代にさしかかると、キャリアもライフもそれぞれに枝分かれをしていく。
基礎体力をつくるべく、こなしていたあらゆる仕事も、徐々にその人特有の仕事に絞られ、専門領域が厚くなり、そしてキャリアの筋力も心の余裕も生まれるときだろう。
脇目も振らずに走っていたあのころから抜け出し、ふとこれまでの自分を振り返りたくもなる時期だ。ところが人は、時間と心に余裕が生まれると急に考えこんでしまうもの。「キャリアが中盤に入り始めた。でも、自分は今のままで本当にいいのだろうか」と、脳裏によぎり始める。
目次
社会人中盤になって変化に戸惑う
40代を目前に控えたころ、私は心身の変化に戸惑いを感じるようになった。体調不良からのリカバリーに、時間がかかるようになったのだ。例えば、仕事が忙しくて1日5時間睡眠になった日。
これまでは翌日にしっかり寝ればすぐに元通りになっていた。ところが1日寝ただけでは体調が整わない。1日睡眠不足になったら、2日寝ないとリカバリーできないのだ。目の疲れや頭痛も強く出るようになった。夕方になると作業をしているPCモニターが眩しく感じられて、目を離したくなるし、パソコン作業を続けていると首が、肩が、ちょっとやそっとではやわらかくなくならないほどに、ガチガチになった。そんな状況だから頭痛の波はちょくちょく訪れる。
社会人として仕事は中堅どころ、家族もいる。一見外からみると、私の生活と仕事は順調だ。しかし、人生70歳まで仕事をしている人が増えている。先を思うとまだ30年近くあるのだ。それなのに、じわじわと減ってくる体力に、気力、体調コントロール力。「このままで残りのライフキャリアを元気よく生き生きと過ごせるのだろうか」と時折ふとよぎる。
そんなときに手にしたのが、尾石晴さんの『「40歳の壁」をスルッと越える人生戦略』だった。
モヤモヤの正体、それは「ミッドライフクライシス」
1981年生まれの尾石晴さん。現在40代、2人のお子さんを育てるワーキングマザーだ。彼女もまた40代になり、年齢の壁に戸惑っていたそうだ。
“40代になり、家族もいて、今さら大きな変化は起こせない。家事・育児・仕事をしていると、毎日があっという間に過ぎていく。でも、どこか不安で自分の人生の意味を問い直さずにはいられなくなる。”(著書より引用)
このように、年齢の変化に対して、戸惑いや変化、不安を感じることは、決して不思議ではないようだ。
“仕事では中堅どころとなり、家族もいる。将来の不安は若い頃よりも減っていて、生活も順調。しかし、ふと洗面所で鏡を見ると、自分が「残りの人生も今の積み重ねでいい? 満足している?」と問うてくる”(著書より引用)
このようなモヤモヤを感じている心身の変化を、一般的には「40歳の壁」と呼ぶそうだ。その正体はなんなのか。答えは「ミッドライフクライシス」。30代後半から50代にかけて陥りやすい、こうした中年期特有の心理的危機のことをいう。
“定年まで働き続けられるかという「雇用不安」、ろくな経験や資格がないと悩む「スキル不足不安」、筋力や体力の衰えを痛感しての「健康不安」、子どもの成長を寂しく感じる「子離れ不安」、容姿の衰えに落ち込む「老化不安」……人は40歳頃まで新しい感覚や知識を得て成長していくが、その後は何もかもが「減る」こととなる。”(著書より引用)
まさに今、私が感じている感情のモヤモヤが「ミッドライフクライシス」なのだろう。これは性別によっても、感じ方が違うらしい。
たとえ壁が立ちはだかっていても、ラッキーととらえる

あなたにもそんな経験はないか。 キャリアの方向性を見失い、突然資格を取ってみたり、急に転職や起業をしたり。趣味を増やそうと急に趣味の拡大に目覚めたり。究極は不安に思っても何もできなくてどうしたらいいのか迷うことも。そんなあなたは、「ミッドライフクライシス」に陥っているかもしれない。
しかしまだ40代に入る手前、人生折り返し地点は、今これからの時間だ。恐れすぎる必要はない。
“壁にぶち当たったとき、50歳であれば、定年まで10年ほどだから「なんとかここでがんばる方法を考えよう」と思うかもしれない。一方、40歳だとあと20年ある。「道を選び直せる」という期待と、「失敗したら何もかも失ってしまうかもしれない」という不安が入り交じる年齢だ。”(著書より引用)
体力知力、気力が落ちていく一方で落ちきっていない年齢でもあるミドルの入り口は、人生のプランBを探すためには良い時期でもある。尾石さんもそう話す。
“この壁の前で立ち止まり、途方に暮れている人もいるだろう。だが、アラフォーでキャリアの転機を迎えた人はラッキーである。アラフォーは「体力がある」「知力がある」「うまくいかなくてもやり直せる」の3点がそろっている年代だからだ。”(著書より引用)
著者自身も「40歳の壁」にぶつかり、試行錯誤の結果、勤めていた会社を辞めて自分がやりたい仕事を見つけていった。その苦悩やアクションについて赤裸々に語っている。
人生に必要な要素は3つ
とはいえそんな簡単に人生のプランBは見つからない。いったいどのように考えたら良いのだろうか。
著者は、多くの人にとって、幸せな人生に必要な要素は3つあり、「お金」「つながり」「健康」だという。
(1)お金
自分の時間や能力を提供(つまり労働)している場合、定年や加齢によって途絶えることになる。「生涯現役で働く」と「お金が入る仕組みを持つ」という2つの方法でお金が入る経路を確保するようにすすめている。
これらの方法は、「小さく始めてみる」→「うまくいくなら続ける」→「うまくいかないなら改善してみる」を繰り返して、自分に合った仕組みを見つけることがすすめられている。
(2)つながり
年齢を重ねるほど、新たなつながりを築くのは難しくなっていく。家族や趣味仲間など、一緒にいてストレスを感じない人とのゆるく長く続く関係を耕すことが理想だ。
(3)健康
幸せな人生を送るためには、健康なカラダとココロが欠かせない。健康なカラダとココロは規則正しい生活によってつくられる。仕事があれば、毎日決まった時間に起き、定期的に食事を取り、適度に体を動かし、思考力を使って考え、仕事関係の人から刺激を得る毎日を過ごすだろう。
(著書より引用)
限られた人生、日々のライフワークが安定していると、不安な思いがある一方で、安心感に包まれリスクのある行動はしにくい。例えば転職、起業などがそうだ。もっと身近なところでいうと新たな習い事を始めたり、資格の勉強をしたり、新しい友人や仲間をつくることなどもそうだろう。
いいかえれば、急ぐ必要がないことだからこそ、結果を求めすぎずに気軽にトライできるのではないか。
何かを始めるとき、何かを変えようとするときは、0か100が答えではない。やりながら小さく行動し、合わなければ辞め、続けられるなら続けて広げる。この小さな行動のくり返しなのだろう。
続けた上で、自分にとってのプランBを見つけたときに、人生長く働き暮らし、豊かに生きることができるのかもしれない。「私の人生には困ったことがあっても引き出しにプランBがある」。
ミドル層にさしかかってきた今だからこそ、小さな一歩を踏み出し、不安を吹き飛ばしたいものだ。
(文:永見薫)

