ITエンジニアの中には、所属する企業での日常業務の他に、社外の勉強会やカンファレンスに参加する方もいます。このTechTeamJournalをご覧の方は、社外のイベント等にとくに積極的に参加していらっしゃるかもしれません。
経済産業省が公開している我が国におけるIT人材の動向(令和3年2月4日)[PDF]においても、
> エンジニアによるコミュニティ活動や勉強会活動は、かなり長い歴史を有するが、最近では、各種コミュニティ活動を支援するためのプラットフォームが充実している点が注目される。
> 誰でも気軽に勉強会を開催し、集客できる環境が整いつつある。
と言及されています。
ITエンジニアが勉強会を開催したり、参加したりするためのインフラ面の充実もあり、イベント参加は一般的になっていると思われます。
このようなイベントに対して、参加するだけでなく、そこで発表をしてみたいというエンジニアもまた多くいらっしゃることでしょう。一方で、「興味はあるけど自分には難しそう」「ハードルが高い」という声も耳にします。
そこで、本記事ではまだ発表経験がない、もしくは発表経験が浅い方に向けて、考え方やコツなどをご紹介します。登壇のためのテクニックなどは多くのテックブログや書籍で言及されており、情報は充実しているといってよいでしょう。今回は私が過去の登壇経験から得た学びのうち、なるべく他で触れられていないものを挙げていきます。
目次
「上手な喋り」は必要ない、が大前提

発表をしてみたいと思っている方でも、「せっかく発表するんだから、上手に喋りたい」や「とくに人前で喋るのが下手だから、聞き手からどう思われるか心配、恥ずかしい」といった考えから、申し込みをためらったり、申し込んでから過度に緊張してしまったりすることがあります。
その考えは、ぜひ忘れてください。
とくに場数を踏んでいないうちは、「上手に喋ろう」という意識は持たなくてよいです。
勉強会の参加者は、なぜ貴重な時間を割いて発表を聞いてくれているのでしょうか。それは、なんらかの学びを得たいからです。普段の業務で抱えている課題を解決するためのヒントがほしい、新しい情報を得たい、先達の話を聞きたいなどの目的を持って参加している方が多いでしょう。
つまり、参加者は上手な喋りを聞きに来ているわけではないのです。発表者が考えるべきなのは上手に喋ることではなく、参加者の学びを最大化することに尽きます。
参加者の学びを最大化することとは、「聞いてよかった」「得るものがあった」と思ってもらうこと。そのためには、発表する内容や構成のほうにまず注力すべきです。プレゼン内容や構成を考える場合、参考になる書籍も充実していますし、自身が「この人の発表は良かった」と思う方のスライドを分析するなどして質を高めることも可能です。
すぐ実践できる3つのポイント

私が勉強会やカンファレンスで発表する際に意識していることの中から、今回は比較的すぐに取り入れやすいポイントを3つご紹介します。いずれも、参加者の学びに貢献しつつ「このひとは発表に慣れているな」と思わせる・安心して聞いてもらえる一石二鳥のテクニックです。
■(1)内容は「薄いかな?」くらいにとどめよう
初心者にありがちな失敗として、内容を詰め込みすぎる、という点が挙げられます。
せっかく発表するなら聞き手の役に立つ情報を提供せねば、という意気込みはとても良いことです。しかし、そのためにあれもこれもと内容を詰め込みすぎてしまっては、かえって大事な内容が伝わりづらくなってしまいます。
私がこれまで何度も発表をしてきた中で、「今回は内容が薄めだけど大丈夫かな」と少し心配になるくらいが、実は聞き手にとってちょうどいいという実感を持っています。
1本の映画を観るときのことを考えてみてください。2時間まるまるクライマックスのような山場では、観るのも疲れてしまいますし、どこが大事なシーンだったのかがまったくわかりません。そうではなく、部分的に山場があるからこそ、全体としておもしろい映画になるのです。
情報を詰め込みすぎるのではなく、伝えたいことを絞って山場を作りましょう。
もし、内容の薄さが心配であれば、補足スライドとしていくつか追加情報を用意しておけばOKです。質問された際や時間が余った際に話すことができます。
■(2)他の方の発表とつなげよう
私がイベントやカンファレンスで登壇する際に、必ずやろうと決めていることが「他の方の発表に言及すること」です。
「前のAさんの発表でもありましたが~」や「Bさんの発表ではこのようにおっしゃっていて、私も同意です」などの話を発表の中に盛り込みます。
なぜ他の人の発表とつなげることが大事なのでしょうか。それは、先に述べた「参加者の学びを最大化する」ため、です。
登壇する側は、つい「自分の発表の出来はどうか」といった視点で考えがちです。しかし、ほとんどの参加者はあなたの発表だけを聞きにきているわけではなく、そのイベントやカンファレンス全体を聞きに来ています。
個別の発表からの学びを得るだけでなく、
・今日は**に関する話題が多いな。今流行っているのかな。
・AさんもBさんも**と言っていた、とくに大事なポイントのようだ。
など、発表のトピック全体の傾向や繰り返し出てくるワード・考え方、Aさんの発表とBさんの発表との違い、などからも学びを得ているのです。
そこで、あなたの発表と他の方の発表との関係、同意見なのか、同じことを違う言い方をしているのか、それとも反対意見なのかなどを示すことで、参加者にとって各発表の理解が深まり、学びを増やすことに繋がります。
■(3)キラーフレーズ「これは実際にあったのですが~」を入れる
3つ目のポイントは、参加者の注意を引くためのことばとして「実際にあったのですが~」等を使うことです。
よほど短いLTでない限りは、聞き手もあなたの発表をずっと集中して聞いているのは難しいでしょう。とくに、1日がかりのカンファレンスなどで後半になってくると、参加者も疲れてきます。
そのような状況においては、発表中は要所要所で聞き手の注意を引き付け、「ここは聞いてほしい」「持ち帰ってほしい」という内容のところで集中力を高めてもらうための工夫があると、より聞き手の学びに繋がります。
集中力を高めてもらう工夫はいくつか考えられますが、私のオススメは「リアルな話感を出す」ことです。
具体的には
・「これは私が実際に困った話なのですが~」
・「ちょうど昨日もあったことなのですが~」
などです。
聞き手は「自分に関係ありそうだ」「使えそうだ」と感じたポイントで集中度合いが増します。そして、関係がありそうだと感じる要素として役立つのが「具体事例」です。
多くの方が、上司や経営層、取引先とのやりとりの中で「事例は?」と聞かれた経験があるでしょう。単純に「こうすべき」「こうするとよい」という情報だけでは聞き手には響きづらいです。それよりも「ある状況でこのような取り組みをした結果、こうなりました」という実体験・事例のほうが、より説得力を持ちます。
発表を続ける中でどうしても切れてしまいがちな聞き手の集中を、要所でグッと引き戻す。そのためのフレーズを入れるようにしましょう。
ITエンジニア皆に勉強会で発表してほしい

ITエンジニアにとって、勉強会での発表は
・自分の学びになる
・他社のエンジニアとの繋がりが生まれる
・次のアウトプットの機会を得られる可能性がある
など良いことずくめです。私は一人でも多くのITエンジニアに人前での発表をしてほしいと思っています。
喋りのうまい下手はいったん気にせず、「参加者にとって役に立つ発表をする」ことを第一に考えてチャレンジしていただければと思います。その際には、今回挙げた
・内容を詰め込みすぎない
・他の発表との関連を話す
・実体験、事例を混ぜて注意を引き付ける
をぜひ意識してみてください。
(文:伊藤由貴)
