「そろそろ、管理職をやってみないか?」
在籍年数が長く、仕事の実績もあり、周りからの人望も厚い人は、会社や上司から管理職の打診があるかもしれません。
昇進できると喜ぶ人もいますが、うれしいと思わない人のほうが多いというデータもあります。人材サービスのマンパワーグループ(株)が実施した、役職に就いていない20代~50代男女社員400名に聞いた「今後、管理職になりたいか」の調査によると、8割超が「管理職にはなりたくない」と回答しています。
管理職になっても、大して給料は上がらない。残業代はつかないし、責任ばかり重くて割に合わない。とくにエンジニアの皆さんは、管理職としてマネジメントスキルを身につけるよりも、現場でスキルを磨いたほうが、自分の市場価値を上げられると思っているかもしれません。
わたし自身も管理職にまったく興味がなく、上司との面談で「このまま現場で働き続けたい」と希望を伝えました。なのに予想だにしなかった出来事がきっかけで、いきなり管理職になってしまったのです。
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3人の管理職が一斉にいなくなった!
33歳のとき、管理職のひとつ下のポジションであるシニア職として、現場で働いていました。会社に在籍して6年が経ち、ベテランメンバーのひとりでした。
わたしの部署には3人の管理職がいたので、しばらくこのポジションで腰を据えて仕事ができると思っていたのですが、突然2人の管理職の転職が決まったのです。さらに残った1人の管理職は、まさかの部署移動。部署をまとめる管理職がひとりもいなくなる、異例の状況となったのです。

ポジションの順番で考えると、次の管理職候補はわたし。現場で働きたいと、上司に希望を伝えたばかりでした。会社は新しい管理職の採用を検討したのですが、仕事内容が特殊なため、すぐに人材を確保できないかもしれないと言い始めました。
管理職が不在になると、決裁者も不在になり業務に支障が出ます。わたしを含めた現場のメンバーはどうしていいか分からず、会社の業績悪化に直結する緊急事態でした。この最悪な状況を1日も早く打破するため、会社はわたしに「管理職をやってみないか」と声をかけ、やむを得ず引き受けることにしたのです。
管理職としての最初の役割は組織の立て直し
もし会社が緊急事態でなかったら、組織をまとめながら売上目標を達成したり、決められた納期を守るための人事管理をしたり、メンバーのモチベーションを上げたりする、一般的な管理職の役割をお願いされていたでしょう。
しかし普通の状況ではなかったので、管理職のわたしに与えられた最初の役割は、とにかく組織を早く立て直して、業務に支障のない状況まで持っていくことでした。現場が混乱する中、わたしはこれまで接点のなかった経営陣と話す機会が自然と増えていったのです。

経営陣との話題は、経営のことや人事のことなど、会社全体の話がほとんどでした。自然と俯瞰で仕事を見るようになっていき、今までやってきた仕事の範囲の狭さを、痛感させられたのです。
現場が落ち着いて、組織を立て直したあとは新しい人材の採用や人事評価など、一般的な管理職が行う業務に携わりながら、マネジメントスキルを身につけていきました。この経験を基に、他の会社でも管理職として働くことになったのです。
40歳以降の転職を有利にするために管理職へ進むべきか?
「40歳以降の転職を有利にするために、管理職を経験しておいたほうがいい」
転職エージェントに、何度も言われた言葉です。

たしかに管理職を経験したおかげで、転職先から管理職として来てほしいと言われたのですが、それだけのために管理職を目指すのはオススメしません。できれば自分の人生観や世界観を広げるために、管理職を経験してほしいです。
行ったことのない世界の国を旅すると、世界観が変わる。前から会いたかった憧れの人と話すと、人生観が変わる。同じような位置づけで、管理職を経験してみるといいと思います。
わたしは管理職になって、いくつもの困難を乗り越えて、チーム全員で目標達成の喜びを経験できてよかったと思っています。あの高揚感は、管理職としてチームを引っ張らないと味わえなかったでしょう。
一方で管理職として、経営陣とチームメンバーとの板挟みや他部署との調整や連携は、かなりのハードワークでした。
結局、管理職を経験したおかげで、自分が望む働き方に気づけたのです。組織で働く楽しさを理解しつつも、本当はひとりで働きたいと心の底では思っていたようです。その後個人事業主として独立し、今は自由に働くことの楽しさを謳歌しています。
転職のために管理職になるのではなく、新しい人生観や価値観を得るためにチャレンジする価値はあると思います。自分自身もまだ気づいていない、理想のキャリアプランが見つかるきっかけになるかもしれません。
(文:工藤広伸)
