フリーライターとして活動して5年目。当初はタイトルや見出し、構成案などを用意してもらって書くスタイルが主流だったのが、今では自ら企画提案することも増えた。おもしろい記事は数多ある世の中、頭ひとつ抜きん出るコンテンツを作るためには「唯一無二の企画」を追求する思考が必要だと感じる。
よい企画をつくるためには、よいコンテンツを摂取して触発されるのが手っ取り早いのではないか。見ていると気持ちが熱くなる、とにかく何か行動を起こしたくなる、クリエイティビティを刺激する映画を5つ紹介したい。
あと一つ粘る力を『BLUE GIANT』
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世界一のジャズプレイヤーを目指す大学生・宮本大。凄腕のピアニスト・沢辺雪祈。大の同級生でドラムに目覚める玉田俊二。メインキャラクター3人の声を当てているのは、山田裕貴、間宮祥太朗、岡山天音の3名だ。メイン3名のうち1人は本職の声優が担当するパターンかと思いきや、全員が役者である点も珍しい。
上京した先で出会った雪祈に対し「俺は、世界一のジャズプレイヤーになります」と宣言した大は、生まれ持った才能をさらに増幅させるような過酷な練習に励んだ。大から紡がれる音の強さは、初めて彼の演奏を聞いた雪祈が「あいつ、どれだけ練習してきたんだ」と思わず涙するほどだった。
大、雪祈にドラム担当の玉田も加わり、3人でジャズバンド「JASS」を結成。小さなライブハウスから地道に活動を始め、日本一のジャズクラブでの演奏を目標に据える。指にできたタコはどんどん肥大していき、3人それぞれが壁にぶつかるなかでも、大はただ一点「世界一のジャズプレイヤーになる夢」だけを見つめていた。
私たちは、年齢を重ねるにつれ、良くも悪くも経験を積むうちに、「人生とはこんなもんだ」と思うようになる。それは諦めでも妥協でもなく、自分にとって最良で心地いい点を見つけてしまうだけのこと。
それでも、この映画を見ているとイヤでも突きつけられる。まだやれるのではないか。まだできることがあるのではないかと。
たとえば成果物を納品するとき。たとえばクライアントから修正依頼がきたとき。たとえば営業先でプレゼンをするとき。「これくらいが妥当だ」と思う自分と「まだテコ入れできる部分があるんじゃないか」と思う自分が、せめぎ合うことはないだろうか。そんなときにこの映画を思い出せば、もしかしたら、次の一手が浮かんでくるかもしれない。
行き詰まりを感じたあなたへ『SING/シング』
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劇場支配人であるコアラのバスター・ムーンを中心に、ネズミのマイク、ゾウのミーナ、ブタのロジータ、ヤマアラシのアッシュ、ゴリラのジョニーなど多才な仲間が集まって、経営難に陥った劇場を復興させるためのショーを計画する物語。日本語吹き替えとして内村光良や長澤まさみ、MISIAなどが参加したことでも話題を呼んだ。
キャラクターそれぞれに背景があるが、歌を歌いたい気持ちは共通している。注目したいのは、引っ込み思案で恥ずかしがり屋な性格のミーナだ。
彼女はその大きな身体に反して気持ちが小さく、聴衆を引き込む歌唱力がありながら、人前で歌うことに尻込みしてしまう。歌いたい、でも、恥ずかしいし怖い……そんな臆病なミーナを、劇場支配人・バスターが鼓舞する。
「大好きなことを始めてしまえば、恐怖なんか吹っ飛ぶ!」まっすぐなキラキラした目で、バスターはそう語る。その言葉に背中を押されたミーナは、勇気を出して立ったステージ上ですばらしい歌を披露するのだ。
仕事においても、私生活においても、“変化”に恐怖を覚えるのは人類共通なのかもしれない。新しいことを始めたい、一段階ステージを上げたい。なんとなくそう思うけれども、具体的な行動に起こせないのは「失敗するのが怖いから」「面倒だから」……。
行き詰まりを感じたら、恐怖を覚えたら、バスターの「大好きなことを始めてしまえば、恐怖なんか吹っ飛ぶ!」を思い出したい。バスターの言葉はシンプルゆえに力がこもっていて、そのまままっすぐに背中を押してくれる。
好きなことがあれば、正直に。そして、目指す先は「上」しかない。
大事なのは立ち止まったあと『劇場版 弱虫ペダル』
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漫画家・渡辺航による原作をアニメ化、後に実写劇場版にもなった『弱虫ペダル(通称:弱ペダ)』。主人公・小野田坂道はアニメや漫画が好きなオタク少年だが、とあるきっかけで自転車競技部に入る事になる。それぞれ個性や特技を持った選手たちと、まさに切磋琢磨し合いながらクライマー(坂道走行に特化した選手)としての才能を磨いていく物語。
アニメ劇場版では、坂道が所属する総北高等学校を始め、箱根学園や呉南工業高校など他校も参加する「熊本火の国やまなみレース」の模様が描かれる。
本記事でピックアップしたいのは、坂道の“困難や課題に向き合う姿勢”。「大丈夫、できる、やるんだ」と自分を鼓舞しながら臨んだレース中、得意分野であるはずの坂道の途中で、坂道の脚が動かなくなってしまった。
そんなとき、本作主人公の坂道は、いったんは心が折れてしまうが、すぐにまた前を向く。信頼し、尊敬する先輩たちの背中を見て、さらに自分を奮い立たせるのだ。「あの背中に追いつきたい! もっと強くなりたい!」と。
仕事にも、うまくいかないことや理不尽は起こり得る。入社したばかりの新人に限らず、ある程度のキャリアと経験を積んだ立場でも、これまでの経験則が通じない現場に遭遇することがある。
失敗は、自分を落とすためのものではない。やりたいこと、好きなこと、達成したいことに向き合って、結果を出すための着火剤のようなものではないだろうか。失敗を失敗ととらえず肥やしにする姿勢と、尊敬するメンターを持っておくことの大切さを教えてくれる。
何歳になったって挑戦できる『ブルーサーマル』
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漫画家・小沢かなの原作『ブルーサーマル -青凪大学体育会航空部-』を劇場版アニメ化。大学生らしい青春(主に恋愛)を求めて入学した主人公・都留たまきが、とあるきっかけから体育会航空部に入部し、グライダーのパイロットとして空を飛ぶ。ブルーサーマルとは、一気に上昇気流に乗れる風のこと。航空部の4年生・倉持いわく「捕まったら幸せになれる風」である。
最初こそ雑用や訓練に文句をいうたまきだが、少しずつ空を飛ぶ楽しさに目覚める。「雲の上、飛んだんですよ! 夢みたい!」と目を輝かせる彼女のようすは、各々の“夢に燃えた青春時代”を思い出させるのではないだろうか。
誰しも、新しいことを始めるとき、経験のない仕事に就くときなどには、いくらかの高揚感を覚えるのではないだろうか。「失敗したらどうしよう」といった不安もあれど、未知の経験を前に「自分はどれだけやれるのか」を試してみたい気持ちにも駆られるはず。
筆者が30歳になる目前、それまで勤めていた葬儀会社を辞めてフリーライターに転身したときも、同じ心境だった。親や友人など周囲からは「無謀な挑戦」と思われていたはず。けれど、当人は「到達したことのない高度に挑む」ような心持ちだった。
映画『ブルーサーマル』は、そんな“青い気持ち”を思い出させてくれる映画だ。
生き方は、選べる『アイの歌声を聴かせて』
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ある日、高校にAIロボット女子高生・シオンがやってきた。シオンがAIであることは絶対の秘密、バレたらシオンは壊されてしまうかもしれない。そんな状況で、同級生のサトミやトウマたちがなんとか立ち回りながらシオンと交流を深めていく物語が『アイの歌声を聴かせて』である。
もともと、シオンにはとある理由から「サトミを幸せにする」という命令がインストールされていた。何かにつけ「サトミ、幸せ?」と訊ね、サトミの幸せのために行動し、ときには暴走してしまうシオンがなんとも可愛らしい。そんな物語の本筋とはズレるが、同級生であるゴッちゃん&アヤのカップルにまつわるよいセリフがある。
容姿もよく勉強もスポーツも万能な彼氏・ゴッちゃんの彼女であるアヤは、物言いがキツく、素直になれない性格。ふたりは喧嘩をしてしまい、気まずい状態にあった。関係がうまくいかないことにイライラしていたアヤは、とあるトラブルからサトミとシオンに八つ当たりする。
そのとき、シオンがアヤに対して「ゴッちゃんには、お姫様を選ぶ権利があるんだよ」と言う。その直後に、それはアヤにとっても同じだと続けるが、ずっとゴッちゃんのことだけを見続けてきたアヤにとっては痛すぎる言葉だった。
しかし、この言葉は恋愛に限らず、仕事や人間関係全般において示唆に満ちているように感じられる。人にはそれぞれ“選びとる”権利があり、それは誰にも何にも侵害されない。
けれど、私たちは迷う。自分の希望や意思とは関係のないところで迷う。親や周囲の目を気にしたり、管理職に気を遣ったりと、年齢を重ねるにつれ“忖度”を求められている気がしてしまう。
筆者も、それまで勤めていた正社員の職を辞し、身ひとつで「フリーライターになる」と宣言したときは、さまざまな言葉とアドバイスをいただいた。誰もが私の未来を予測できていて、「こうすれば必ず幸せになれる」と知っているかのようだった。
よく言われるように、外野からやいのやいのと言葉を投げる人間は、決して自分の人生の責任を背負ってはくれない。シオンが何気なく言ったこのセリフは、もともと人が持っている自由の在処を教えてくれているかのようだ。
仕事の質向上につながる
さすがジャパンアニメーション。世界に認められた映像美+ストーリーは、フリーランスに限らず、多くのクリエイティブ職の創造性を刺激してくれるはずです。よい成果物は、よいインプットから。日常的に良質な映画やドラマ、アニメを見て磨かれた感性は、おのずと仕事の質につながるのではないでしょうか。
(文:北村有)