染谷:
「次のTech Team Journalの記事は書評にしようと思います。取り扱う書籍は『ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか』。
人間はモチベーション(テンション)が上がらないという理由で、面倒なことをどんどん先延ばししてしまいます。なんと古代エジプト人も先延ばししていたそうです。
本の内容をベースに、先延ばし脳のタイプ、目の前の誘惑に負ける脳のメカニズム、先延ばしグセを克服するためのコツを解説する記事を書こうと思います」
編集長:
「ぜひ進めてください!」
–数日後–
さーて今日はTTJの原稿を書かないとな。
いや待て、そういえばFF14のデイリークエストやってなかったな、これはやっておかないと日々のルーチンワークが乱れるからな。なんだよエンジェルスの大谷選手またホームランかすごいな。先発でサイクル安打王手ってやばいぞ。
あれ気づいたらもう昼じゃない、腹が減っては原稿は書けぬとも言うし、昼飯でも食いに行くか。やっぱりチキンにこみカレー+ほうれん草は最高だわ。お腹いっぱいになったら眠くなっちゃったから、小一時間仮眠して仕事の効率上げないとな……。
–数日後–
編集長:
「こちらリスケジュールの上で進捗を伺えますと幸いですー」
染谷:
「明日か明後日には初稿出せます!」
フィクションなのか、ノンフィクションなのかの判断は読者の皆さんにお任せしますが、このようなことって日々の生活の中でよくありませんか?
- 洗濯物を畳まなければいけない
- 食器を洗わなければいけない
- 旅行先のホテルを確保しなければいけない
- 年に一度の人間ドックを予約しなければいけない
- 納期を3日遅らせた原稿を一刻も早く仕上げなければいけない
詳細は人それぞれ違うと思いますが、「やらなければいけないとわかっているのに、なかなか取り掛かれない」作業ってありますよね。そして締切が近づいてきたら、あるいは締切を過ぎてから信じられないパワーを発揮して作業を終わらせ、そしてエネルギーを使い果たすサイクルです。わかっていてもなぜかやめられない。
安心してください。さまざまな研究によって、古代エジプト時代のヒエログラフ(象形文字)にも先延ばしを意味する文字が見られ、そしてチンパンジーや鳩も先延ばしをすることが認められています。
このメカニズムをしっかり理解し、上手にコントロールできれば、いつも納期ギリギリの生活から抜け出すことが可能になります、きっと。
ではさっそく、先延ばしのメカニズムについて紹介します。
目次
先延ばしを決める4つの要素
先延ばしするかどうかを決めるのは、以下の4つの要素であると書籍内で解説されています。
- 期待(ご褒美・報酬が得られる確実性が高い)
- 価値(ご褒美・報酬が多い・大きい)
- 時間(ご褒美・報酬を得るまでにかかる時間が短い)
- 衝動性(その人の衝動性・忍耐力が低い)
絶対に報酬を得られる保証があることでやる気が生まれます。逆に報酬が保証されない場合、もちろんやる気は減退します。報酬が大きければやる気に繋がりますが、小さい場合は後回しでもよい気持ちになります。
報酬が得られるのが1年先であれば、その作業をしたいと思いますか? もし同じ作業量で1週間後に報酬を得られるとしたら、どちらの作業を選ぶかは明白です。そして報酬を得るのに時間がかかると衝動に負けてしまいます。世の中には他にも楽しいことはたくさんあるからです。
この4つの要素が絡まり合うことで「やる気の大小=今やるのか先延ばしするのか」が決まってきます。
簡単に言うと、期待と価値を大きくすること、あるいは時間と衝動性を小さくすることで、先延ばしを防げるのです。
方程式にすると以下のようになります。
ただ、人によってこの4つの要素の大小は変わってきます。自分がどの要素が強いのか認識しておくことも大切です。
自分の先延ばしタイプを知る
本書で紹介されている先延ばしタイプは以下の3つです。
- どうせ失敗すると決めつけるタイプ(=「期待」が低い)
- 課題が退屈でたまらないタイプ(=「価値」が低い)
- 目の前の誘惑に勝てないタイプ(=「時間」「衝動性」が高い)
身も蓋もないタイプ分けでその通りなのですが、簡単に補足すると、それぞれ以下のようになります。
失敗タイプは度重なる失敗経験が影響し、「どうせまた失敗するだろう」と試みる前から諦めてしまう傾向があります。
退屈タイプは課題に対しての「楽しさ」が欠如している傾向があります。
そして誘惑タイプは、目の前にある楽しいことの誘惑に負けてしまい、将来の目標や遠くの締切は後回しにする傾向があります。僕です。
先延ばし要素の対策方法
先延ばしする要素、そしてタイプが分かればあとは簡単! 対策方法ですね。
期待を大きくする(どうせ失敗するを克服する)
「どうせ失敗する」を克服するためには、まず期待を高める必要があります。言い換えると報酬を得られる確率を上げるということです。
そのためには小さな成功体験を繰り返すことが有効です。いきなり大きな成果を上げることは難しくても、達成したい目標を小さく分割し、ゴールを細分化することで、定期的に達成感を得ることができます。
結果として自分の活動に自信がついて、目の前の課題に取り組むことに前向きになります。
僕の場合で言ったら、以下のような感じですね。
- FF14を消す、いや消さなくてもよいからウィンドウを最小化しておく
- Wordを立ち上げる
- 雑でいいから記事の骨子を書きなぐる
- 書き出しやすそうな項目から文字を入れていく
- 項目が書き終わったら再読して文章を整理する
- 他の項目に取り組む
すみません、分かってはいるんですよ。
価値を大きくする(退屈を克服する)
退屈を克服するためには、課題のゲーム化が有効です。達成すべき目標を自分で定めて、それをクリアしていくスタイルです。単調作業で飽きてきたら、「半分の時間でできないか」「片手でできないか」など、適度な負荷をかけてみてもよいでしょう。
また目的意識(因果関係)をはっきりさせることで、その作業の本来の意味を再認識することもできます。
この原稿を書いて提出することで、自分のライターとしての実績が積み上がる。記事を読んでくれた人が巡り巡って自分の本を買ってくれる熱心なファンになる。など、ただキーボードで文字を打ち続けているという退屈な作業ではなく、将来を見据えて大きな価値を生み出していると考えることが大切です。
ただ命令されて石を運んでいるのか、偉大な王を祀るためのピラミッドをつくるために運んでいるのか、行動は同じでも捉え方は大きく変わります。
あ、そうそう。小さな達成時のご褒美も重要です。僕、この原稿を書き終わったらキンキンに冷えたビール飲むんだ。
現在の衝動と未来のゴールを管理する(誘惑を克服する)
誘惑を克服する理論って簡単なんですよ。なのでここでは羅列で紹介します。分かってはいるんですよ。
- 誘惑を手が届かない場所に追いやる→FF14をアンインストールしたほうがいいんですよね
- 欲求が膨れ上がる前に欲求を満たす、遊びのスケジュールを先に入れる→飲み会のスケジュールは先に決めてますよ
- 誘惑に負けた場合はペナルティを課す→納期遅れたら腕立てするようにします
- 誘惑対象に対して悪いイメージを持つ(酒→糖分の塊、筋肉の敵)→酒は百薬の長なんだよなぁ
- 適切な環境を整える(メールなどの着信をミュートにして集中しやすい状態にする)→そもそも気が向いたときにまとめて返信するスタイル
- 習慣化→朝起きたらきちんとFF14を起動してますよ
分かってはいるんですよ。なのでゴールを細分化して、少しずつ誘惑を遠ざけて納期を守れるようにします。なお、次の原稿の納期は2日後です。
先延ばし魔の頭の中はどうなっているか
書籍とは直接関係ないのですが、TEDでもハーバード大学卒業のティム・アーバン氏が先延ばしについて述べています。ハーバード大学を出ている人でも先延ばししてるんですよ。
「理性的意思決定者」と「すぐにご褒美が欲しいおサル」、そして先延ばし屋の守護天使「パニックモンスター」という登場人物を使って、先延ばし脳についてエンタメ色強めで解説しています。こちらもぜひ視聴してみてくださいね。
(文:染谷 昌利)