「インターネットを通じて、すべての人々が豊かで幸福な生活を送ることができる社会の実現」というミッションを掲げ、インターネットをはじめとしたデジタル技術を誰でも使えるようにすること、そして子どもからシニア層まで誰もが安心して使えるインターネット社会を構築するために奔走する、株式会社Digital Evangelist 代表取締役 金谷武明氏。

そのミッションを実現するために金谷氏が大切にしている仕事の流儀を聞いた。

Rule1.好きなこと、得意なことに取り組む


仕事におけるひとつ目のルールであり、僕が今、人生の中でもっとも大切にしていることが「好きなこと、得意なことに取り組む」という点です。

僕は苦手なことはとことん苦手で、仕事の能力は総合的には高くないと思っています。やっぱり興味が持てないものはうまくできないんですよね。

もう50歳を過ぎ、社会人としての人生もそう長くはないですし、せっかく独立したわけですから、苦手なことに時間を使うよりも、好きで得意なことに時間を使ったほうが少しでも大きな成果を残せますし、有意義に過ごせると考えています。仕事はもちろん、プライベートの時間についても「好き」「得意」を大切に生活しています。

Rule2.世の中の役に立つことをする

常々「世の中の役に立つ仕事」に取り組もうと意識しています。

もちろん会社を経営する立場ですから、収益も考えなければいけません。でもお金を儲けることを先に考えてしまうと、「インターネットを通じて、すべての人々が豊かで幸福な生活を送ることができる社会の実現」という弊社の想いとズレが発生します。

良質なコンテンツを発信することで、結果として検索順位を向上させる方法と、コンテンツを改善することなく検索エンジンの穴を突くようなグレーな方法だけで検索順位を上げる方法、僕が選ぶのはもちろん前者です。低品質のコンテンツを上位に表示させるのは、世の中の役に立つとは思えないですよね。Google在籍時も、起業した今でもその考えは変わっていません。

たとえば、今回ご縁あって顧問に就任した一般社団法人ウェブ解析士協会には、デジタルマーケティングの専門家として認定された正会員が全国各地に約13,000人ほどいらっしゃいます。その専門家のみなさんに健全な検索エンジン最適化の話を伝えていくことで、全国のオンラインマーケティングの質が上がっていくと思いますので、少しずつでも社会にとって良いことにつながるな、と考えています。

プライム・ストラテジー株式会社も同様で、CMSの高速化に高い技術を持つ彼らをお手伝いすることで世界中のネットが快適に使えるようになるわけです。これは世の中の役に立ちますよね。そのお手伝いを一緒にできることにワクワクし、打診を快諾いたしました。

Rule3.信頼される生き方を選ぶ


Google在籍時代からRule.2「世の中の役に立つことをする」を実践していたことで、幸いにも多くの方からの信頼を積み上げてきたと思っています。でも積み上げた信頼って、一瞬で崩れてしまうことも多いと考え、気をつけています。

信頼を失う原因は仕事での失敗だけではありません。仕事での失敗は次の仕事でリカバリーできることが多いですし、そもそも失敗しようと思って取り組んでいる人はいないはずです。それよりも、普段の何気ない発言のほうが大切だと考えています。誰かを攻撃するような発言でなくても、「これは誰かを傷つけてしまわないかな?」「これは誰かに嫌な思いをさせてしまわないかな?」と考えてから投稿するようにしていますし、ネガティブな空気をはっしないように気をつけています。

現在はSNSが普及していますので、ちょっとした発言も拡散されやすい状況です。とくに信頼を損なうような、たとえば悪口や特定の人に対する批判は恐ろしいスピードで拡散されていきますし、場合によっては意図しない文脈で切り取られて広まってしまう危険性もあります。それにより崩れた、人としての信頼をリカバーするのは、相当の労力を必要とします。

だからこそ僕は、特定の誰かに対しての批判や軽口は発言しないようにも心がけています。

また、信頼に関連して、「自分の心を裏切らない」ことも重要だとも思っています。

長く社会人生活を送っていると、素直に指示に従いたくないような指令がくだされることもあると思います。そうした状況に直面したことのある方も少なくないのではないでしょうか。これはよくある、やりたいことやりたくないことの話というよりは、たとえば法律に違反すること、何らかのポリシーや規約に違反することをおこなうことを迫られたような場合にどうするか、です。

家族が聞いたら悲しむ、友人からの信頼をなくすかもしれない、そして何より自分自身が一番失望する、と思うようなことはおこなわないことにしています。もう、そういうケースに直面することもほとんどないですけどね。

Rule4.期待を上回る

とくに仕事に対してなのですが、参加者の期待を上回るという点を意識して行動しています。

たとえばGoogleに在籍していた頃の話になりますが、Googleが検索についてセミナーや講演をおこなうとなると、参加者のみなさんはすごく期待すると思うんです。その、ただでさえ高い期待を、さらに超えるような体験をさせることが重要だな、と思っていつも準備をしていました。もちろん毎回上手くできたとは限りませんが、そういうマインドでセミナーは臨んでいました。

さらにプロとして「保険をかけない」という点も意識しています。言い換えると、前もって期待値を下げないということです。たとえばセミナー登壇時の最初に「これだけ大勢の参加者がいらっしゃって緊張しています」という何気ない一言です。

登壇経験が浅いのであれば、もちろん掴みの言葉として使っても問題ありません。でも僕のようにエヴァンジェリストと名乗り、さまざまな場所で登壇している人間がその言葉を使うのは、みなさんをがっかりさせてしまうと思うのです。ですので、僕がそういう発言をしたことは一度もないと思います。もちろん緊張して声が裏返りそうになったようなことは何度かあるのですが(笑)。でもそこで言い訳しちゃダメだな、と。

その小さな積み重ねが依頼主や参加者からの信頼、そして自分の成長に繋がると信じています。

Rule5.とにかく打席に立つ


与えられた打席に立つというスタンスも大切にしています。

自分にとってのチャンスはいつやってくるのか、予想なんてできません。なにかしらの依頼を受けた際に「Yes慣れ」しているのか、それとも「No慣れ」しているのかによって、瞬発力が大きく変わります。断ることに慣れてしまうと、純粋に経験する機会が減りますし、結果としてせっかくのチャンスも逃してしまうことでしょう。

現在の自分のスキルではちょっと難しいと思う依頼でも、「絶対に断らない」と決めることで、自分の現在の能力でできることを最大限活かす。そして、足りないスキルは適宜身につけていくことで、依頼主の期待値を超えていくことは十分可能です。多少失敗したとしても諦めずに続けてさえいれば、その失敗は経験になり成長の糧となります。最終的に成果に繋がっていればいいわけです。

「自分のまったくできないこと、未経験の分野を依頼されたらどうしよう」と心配される方もいらっしゃると思います。その不安は「自分の得意分野」をわかりやすく世界に伝えることで払拭できます。世界に伝えるツールはSNSでもWebサイトでもブログでも構いません。「自分の得意分野」が知られていると依頼する方の頭に浮かびやすくなりますからね。

自分の得意分野やチャレンジしたい分野を普段からアピールすることで、適切な打席に立つことで、チャンスを呼び込むことができると考えています。

Rule6.真摯に伝え続ける

Rule.5「とにかく打席に立つ」でも軽く触れましたが、「人に何かを伝える」というのは本当に難しいものだな、と日々感じています。それ故にとても重要なものだと考えています。「エヴァンジェリストなんだから、わかりやすく伝えるのは当たり前だし、簡単だろう」と思われるかもしれませんが、人はそれぞれ性格もキャリアも理解度も違います。

たくさんの事例を交えて時間をかけた説明を好む人もいれば、端的に要点だけの説明を好む人もいます。興味を持ってもらうためのおもしろい事例も大切なのですが、単におもしろかったという感想だけが残って、何も伝わっていなかったら意味がありません。伝える相手が一人であれば、その人の基準に合わせて言葉を選べば良いですが、100人参加しているセミナーでは、誰か一人の基準に合わせて話すことはできません。より良いバランスを意識しながら、できるだけ多くの人に、多くの情報を伝えることを心がけています。

また、同じことを何度も伝え続ける必要性も感じています。

たとえば過去に社会問題になったようなスパムだと認定されている行為で業界内では当たり前の禁止事項でも、その出来事を知らない、若い、新しいプレイヤーが何も知らずにそのスパム行為を実施していることもあります。それを指摘していくことも、僕の役割だと感じています。

そうしたスパムがあることで良いコンテンツをつくれるクリエイターが十分な対価を得られず、コンテンツをつくることができなくなってしまうと、長い目で見るとインターネットが役に立たない物になっていきますからね。

また、規制の対象にもなりかねません。規制によってネットが安全になることは良い部分もありますが、次の世代が自由にできる部分が少なくなってしまいます。次の世代になるべくクリーンで自由で安全で安心して使えるインターネットとして渡してあげるのが、僕の役目のひとつだと考えています。

Rule7.最後まで諦めない

途中で諦めなければ、ほとんどのことは失敗にはならないと考えています。これは、僕が子どものころから意識していることです。

就職できなかったことを便宜上“就活に失敗した”と表現することもありますが、その結果今に至っていることを考えると、就職できなかったことも、無職になって苦労したことも、本質的には失敗ではないと考えています。

これは言い換えると諦めの悪さ、しつこさでもあるんです。

この諦めの悪さって、いいことばかりではありません。今でも心のどこかで「音楽で成功したいと思っている」自分がいるのです。ですので、安易にバンド活動を再開したりできないな、と考えています。今バンド活動を再開したら、YouTubeとかもあるし、いろいろなことをやりたくなって多分夢中になってしまうと思います。今音楽に夢中になると、人生が壊れてしまいますので(笑)。もっと気楽に音楽を楽しめるようなタイプだったら良かったな、と思うんですけどね。

そう考えるとこの項目は、自分で決めたルールというより、単に自分の性質、というだけの気もしますね。

番外編:オープンでいる


染谷「金谷さん、よく『今日新宿に行くんだけど、誰かランチできる人いたらランチしませんか?』と投稿してるじゃないですか。今どき珍しいくらいオープンですよね。あれは何かルールがあるのですか?」

金谷「いえ、あれは単におもしろいからやっているだけですね。僕はオープンな人間であることは間違いないと思うんですが、厄介なことに同時に人見知りでもあるんですよね。なので意外とパーティーのようなものは行かないのですが(自分が主催者のものは除く)、時々まったく知らない方や、僕がセレクトしたわけではない方と話してみたいな、と思うんです。あれはドキドキしますが、本当に楽しいし、嬉しいですね。

でもひとりで仕事をするようになると、こういう遊び心のある企画もいいなって思いますね。世界が広がりにくいので。これからも時々、不定期に実施します。ぜひみなさん、お気軽にご参加頂ければと思います」

(取材/文:染谷 昌利、撮影:つるたま)

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