実は性根が真面目な染谷でございます。

意外と思われるかもしれませんが、僕はよく信号待ちしてるお婆ちゃんをおんぶして横断歩道を渡ったり、元荒川でよく溺れてる子犬を泳いで助けに行ったりしてるんですよ、内緒ですけど。

で、寒さに震えている子犬をバスタオルで包んで暖めてたときに、ふと走馬灯のように楽しかった思い出が蘇ってきたんですね。

僕ってこう見えて会社員生活を12年間やってるんですけど、20代のころは口だけ達者な部長に向かって「分かってないんだったら、いまの職務から外れたほうがいいんじゃないですか?」って猛々しいメールを、副社長をCCに入れて送信してたんですね。

そうしたらあら不思議、翌月に別の部署に異動になってたりするんです、僕が

とはいえ30代にもなるとそんな角も取れて、だいぶ人間的に丸くなってきましてね。そんなときに、会社員生活の中で一番気の合う上司に出会いました。確か僕が31歳のころで、その上司が40歳ぐらいだったのかな。

その人はアウトローな感じで、会社員というより自由業的な仕事の仕方で、管理するというより「成果物だけしっかり出せば好きにやっていい」という方針で、それが僕の性質に合ってたんですよ。

その上司とは週に1~2回、一緒にランチに行ってたんですが、1000円程度とはいえ毎回奢ってくれるんです。人に奢るの好きで、金銭感覚もかなり狂ってる素敵な上司だったのですが、さすがに毎回ご馳走してもらうのも気が引けるので「いやいや、自分で払いますよ」って猛々しい僕でも気を遣って言うんですよ。

するとね、いつもこう言うんです。

「俺も先輩に奢ってもらってたんだから、染谷も俺に払わせた分、後輩に奢ってやれ」

って。

おそらく今の僕のマインドってこの上司の影響を凄い受けてるなって、溺れてたお爺ちゃんおんぶしながら思ったんですよ。偉そうに聞こえるかもしれませんが、情報とかコネクションとか経験とか、可能な限り下の世代に伝えたいと思って、本やブログを書いたり、講演や勉強会で喋ったり、イベントを開催したりしてるんです。

新興国支援だって、水を提供するより井戸の掘り方を教えたほうが結果として大きな成果につながるっていうじゃないですか。ストレートにお酒を奢るよりも、お酒を飲む資金の稼ぎ方を教えたほうが、ねぇ(金はない)。

人は勝手に育つ

老体に鞭打って、20代の人たちのイベントに時折行くんですけど、最近の若い人たちって凄いですよね。意気揚々と「あーチミチミ、おじさんのアドバイスを聞き給へ」と言おうと思っても、そんな過去の武勇伝なんて必要ないくらい知識も行動力も凄いレベルなんですよ。

10年前と比べるとテクノロジーによって世の中のさまざまな事象が効率化されて、余計な作業をする時間が減り、本来すべきことに注力できるからなのでしょう。

ブログで言えば、昔はWordPressのインストールにしてもFTPソフトにドメインやサーバ情報を入力して、ファイルをアップロードして、パーミッションを一つひとつ変えて、ようやく記事を書く手順に入れたのに、いまやワンクリックですからね。これだけで数時間の短縮になっています。

PCの性能も上がってますよね、スマートフォンで電車の中で簡単に画像加工ができる環境にもなっています。

アドバイスなんておこがましくて、自由にいろいろチャレンジして彼ら自身の道を進んでもらえればいいんです。強いて僕が優れている点を挙げるなら失敗経験値と人脈だけだと思うので、困ったときに利用しに来てもらえばいいやというスタイルに変えました。

もちろん苦言を呈するのと嫌味を言うのは違います。もっとよくなってもらいたいと思って呈するのが苦言(まぁそれでも余計なお節介なのですが)、足を引っ張ろうと思って放つのが嫌味です。「俺たちの時代は~~」なんて過去の武勇伝なんて聞きたくないんですよ。

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」って格言もある通り、たかが僕一人の経験なんて大したことないんです。それよりも時代のサイクルを把握して、流れに乗ればいいんです。

そもそも他人を導いたり変えたりなんてできないんです。人は勝手に学ぶし成長するんです。

自己顕示欲を満たすよりも若い人たちの行動をつぶさに観察することで、自分の時代との違いや現在のトレンドを学ぶことができます。彼らと話してみて「差」に気付くことで、世代のズレを埋めることができるんですよね。

グロースマインドセットとフィックストマインドセット

ようやく本題なのですが、『マインドセット「やればできる!」の研究』という本で、心理学者のキャロル・S・ドゥエック氏が2つのマインドセットについて解説しています。

マインドセットには、以下のような意味があります。

経験や教育、その時代の空気、生まれ持った性質などから形成されるものの見方や考え方を指す言葉です。信念や心構え、価値観、判断基準、あるいは暗黙の了解や無意識の思い込み、陥りやすい思考回路といったものもこれに含まれます。
人事労務用語辞典より引用

本書内で紹介している2つのマインドセットとは、「グロースマインドセット Growth-mindset(和訳だと、しなやかマインドセット)」と「フィックストマインドセット Fixed-mindset(和訳だと、硬直マインドセット)」という分類になります。

「グロースマインドセット」とは自分の基本的性質は努力しだいで伸ばすことができるという信念で、「フィックストマインドセット」は自分の能力は石版に刻まれたように固定的で変わらないと信じている人だと本書内で説明されています。

もちろんどちらかのマインドセットしかない人間は居らず、普通は両方のマインドセットが混在しています。どちらの要素が強いかどうかで、その人の成長度合いや人間性に違いが出てくるわけです。

グロースマインドセットの強い人は「今の」能力が高いか低いかではなく、まだ伸びるかどうかという点に主眼が置かれています。だから自分の未来を信じて行動できますし、他人にも寛容になれます。

なぜ他人に寛容になれるかというと、「今は」できなくても将来的にはできるようになってくれるという信頼を寄せられるからです。また誰かに成果を追いぬかれたとしても、自分もいま以上の努力をすれば追いつき再度追い抜けるという信念がありますから、自分を高める方向の行動になります。

フィックストマインドセットの強い人は、自分の能力は生まれつき固定されていると信じていますから、その固定された能力をいかに大きく見せるかという点に注力します。教室でも、職場でも、人づきあいの場でも、自分の有能さを示すことだけに心奪われ、ことあるごとに自分の有能さ(端から見たら有能じゃないんだけど)を誇示する行動をしています。

そして狭量な人間です。他人に対する度量が小さいんです。だから他人の成長を妬みます。なぜなら人の能力は固定されているのに、相手が自分の能力を超してしまったらもう挽回できないからです。だから他人の足を引っ張る、成長を阻害する方向の行動を取ります。

みなさんの周りにもそんな性質の人っていませんか? 会話の端々ににじみ出る表現に注意を払うと「おお、こういう性質の人なんだ」とか「ああ、フィックスドが強いからこんな発言になるんだな」とか、人の見え方が変わって、余計なストレスを感じなくなります。

なお、グロースマインドセットの人は、周囲のマインドセットまでしなやかに変えていきます。そしてフィックストマインドセットの人は、周囲のマインドセットまで硬直化させてしまいます。リーダーや教師、親のマインドセットしだいで、生徒や子どもの思考は大きく変わります。もし自分が誰かを教える立場になったのであれば、自分自身のマインドセットがどうなっているのかしっかり認識しましょう。

マインドセットの変え方


マインドセットを変えましょう! と言って、すぐに変わることはほぼありません。でも自分の状況を認識することで、変化のきっかけを生み出すことはできます。

自分にとって(他者にとって)望ましくない価値観や行動に気づく

まず自分の考えの癖を分析しましょう。人間、気づいていないことには対処できないんですよ。

ポジティブ寄りかネガティブ寄りか、もしポジティブ寄りであればなぜよい点が見えるのか、ネガティブ寄りなのであればなぜ怒りや妬みが生まれているのか、大変だと思いますが一つひとつ紐解いていきましょう。

解釈を変えるトレーニングをする


このルビンの壺は有名な画像なので見たことがある人も多いと思います。壺に見えたり、向かい合う人に見えたりしますよね。起きていることは一つだけなのに、不思議なことに見る人によってまったく違う印象になります。

乗ろうとしていた電車が事故で止まって「うわー、ふざけんな、ツイてねー」と思う人と、「お、これで駅蕎麦を食べる時間ができてラッキー」と感じる人が同時に存在するわけです。

買ったばかりのノートPCに焼酎の水割りをぶちまけて大きな精神的ダメージを負ったにもかかわらず、これでブログのネタが一つできたなと思う奇特な人もいるわけです、僕です

マイナスな現象をすべてプラスに持っていくことは難しいですが、少しでもポジティブな要素を付け加えられないかトレーニングしてみましょう。

否定的な考えに「まだ」という言葉を加える

言葉の力はとても大きいです。普段使う言葉を少し変えるだけでも、思考は変わってきます。とくに「まだ」という二文字はシンプルで使いやすいです。

  • 自分にはできない→「まだ」自分にはできない
  • 夢や目標がない→「まだ」夢や目標がない
  • 原稿が書けない→「まだ」本気出してないだけだ

ちょっとした言葉遊びに見えるかもしれませんが、大きな変化は継続することが大変ですので、ゲーム感覚で取り組んでみましょう。

プロセス(努力)を重視する

たしかに結果も大切なのですが、「マインドセットを変える」という状況であれば、まずはプロセスや行動自体を評価しましょう。先延ばししていた原稿に取り掛かっただけでも一つの成功です。小さな成功体験を積み上げることで、自分の成長を実感することができます。それが自信に繋がり、他者を少しずつ認められるように慣れるでしょう。

場所を変える

もし自分の周りがグロースマインドセットの人たちで溢れていれば、あなたもしなやかな思考の人間である可能性が高いです。逆に悪口や妬みで溢れていれば、あなたの思考が硬直化している可能性があります。マインドセットは伝染しますから、速やかに自分の居場所を変えていきましょう。

自己認識して変わろうと思うプロセスを大切に

何度も言うようですが、人間は急に変わりません。まず一歩一歩、先延ばしせずになにかに取り組むことから始めてみましょう。ちなみに情報発信はマイナス要素をネタに昇華することで、無理やりポジティブに変えられるのでオススメです。

そうそう、情報発信の方法だったらいくらでも教えられるのでお気軽にご連絡ください。というわけで、若い人に媚を売ってご飯を御馳走になれるように生きていきたいです、おわり。

(文:染谷 昌利

presented by paiza

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