日本で初めて「24時間年中無休」のお肉の無人販売所を展開する「おウチdeお肉」。創業から1年もたたずに全国へ180店舗展開するこの事業を率いるのが、林 眞右(はやし しんすけ)氏だ。
林氏は経営者として異色の経歴を持つ。世界で5千万人がプレイしているカードゲーム「マジックザギャザリング」の全国大会に中学生で出場するとベスト8に入賞。世界大会でもベスト8に進み、2018年から2021年にかけてプロとして活動をしていた。
その後は、パチンコスロットのプロで生計を立てながら服飾専門学校に通った。専門学校を卒業するとトレーディングカードゲームの通販ショップを経営。そして、トレーディングカードゲームの通販事業を売却し、現在は「おウチdeお肉」で新しい無人販売のビジネスを切り拓いている。
さまざまな業界を渡り歩いた林氏はどのような道のりを経て、どのようなマインドで仕事に取り組んでいるのだろうか。話をうかがった。
目次
中学校の成績はオール1。カードゲームの腕は世界レベル
――今につながる部分があると思いますので、どのような環境で育ったのか教えていただけませんでしょうか。
林 眞右(以下・林):
もともと実家がお寺で、やりたいことを否定されることなく自由に生きてきました。ある程度裕福な家庭だったので、欲しいものも買ってもらえましたし、お寺を継いで欲しいと言われたこともない。だから、わがままな性格なんですよ(笑)。
――両親ともにお寺を運営していたのでしょうか。
林:
いえ、母は経営者で喫茶店や漫画喫茶を営んでいました。漫画喫茶も時代の移り変わりとともに業績が落ち込んで、今は福祉施設を運営しています。お金に苦労した場面も見てきましたよ。
――自由な環境で育ったとのことですが、カードゲームはいつから始めたのでしょうか。
林:
小学校の6年生から始めました。遊戯王カードで遊んで、ポケモンカードで遊んで、マジックザギャザリングで遊んでと。当時の主要なカードゲームをやってみて、マジックザギャザリングが1番おもしろかったので、そのまま続けました。
――そこから数年で日本のトップレベルの実力を身につけるんですよね。
林:
はい、ただ運の要素も大きくて。初めて出会ったコミュニティにはマジックザギャザリングのトップランカーが多かったんですよ。野球などのスポーツもそうですが、実力者が周りに多いと能力は上がりやすくなりますよね。
――中学生で全国大会や世界大会に出場されています。マジックザギャザリングにはどれくらい没頭していたんですか。
林:
カードゲームが好きだったので、中学校に行かず、家に引きこもってひたすらネット対戦でカードの腕を磨いていました。中学校の成績はオール1です。3年間ずっとオール1だったので、なかなか同じような人はいないと思います(笑)。
――そこまで割り切れるのはすごいですね。
林:
好きなことには熱中できるけど、興味がないことには取り組めない性格だとわかっていました。だから、ひたすら好きなことだけに打ち込みました。
――カードゲームの対戦というと冷静に相手と自分を分析しながら戦っていくイメージがあります。
林:
カードゲームで勝っていくには理論が必要です。その理論をそのままビジネスにも持ってきていますね。将棋などでも同じですが、1手先ではなく10手先を読む。「このカードを出したら、こう返されて、それには別の手で返す」ということをカードゲームではずっと考えながらプレイします。相手を念頭に置いて、出方によって切るカードを変える。ビジネスでも同じです。
――他にカードゲームでやっていたことでビジネスに展開していることはありますか。
林:
物事に取り組むスタンスですかね。僕はすごく勝ち方に美学を求めるんですよ。サッカーで言えば、PKではなくドリブルで全員抜いてゴールを決めたいです。
どちらも同じ1点ですが、多くの場合、歴史に残るのは後者ですよね。カードゲームをやっていたときも王道ではなく魅せるプレーをしながら勝つことにこだわっていました。正攻法ではなく、誰も通ったことのない道のりをたどって、誰も見たことのないビジネスを実現したいと思っています。かっこよく戦って勝ちたいです。
運を見逃さないように拾い続け、成功を重ねる
――カードゲームに没頭して高校を卒業した後、服飾の専門学校に進まれています。理由について、教えていただけませんでしょうか。
林:
「デザイナーってかっこいいな」と思ったんです(笑)。そのときになりたいと思っていた職業は、美容師かデザイナーでした。どちらも「かっこよさそう」が理由です。
あとは、当時、パチスロのプロとしても活動していたんですけど、当時の恋人がしっかりとした大学に通っていて。「さすがにもう少しちゃんとしないと」と思って専門学校に入学しました。
――パチスロはギャンブルが好きで始めたのでしょうか。
林:
いいえ、思いつきで始めました。まわりにいるプロの人が勝っていると話をしていたので、「じゃあやろうかな」と。同級生5人とチームを組んで、5台や10台のスロットを囲んでひたすら打っていくんですよね。よく「スロットが好きなんですか?」と聞かれますが、逆なんですよ。勝てるからやっていました。今は苦痛でとてもじゃないけどできません……。
――スロットも確率を考えるので、カードと通じる部分がありそうですね。
林:
カードは理論と確率論です。スロットも同じです。世の中の動きは理論と確率で動いているので、カードの考え方って色々なことに通じます。現にカードプレイヤーの経営者や成功者は多いですよ。
――そうなんですね。その後はどのようなことに取り組んだのでしょうか。
林:
トレーディングカードのネットショップを運営していました。当時はカタカナのショップが多かったので漢字の店名をつけて目立つようにしていました。13年間黒字で運営して売却したので事業としては成功したと思います。
――自分の道を進みながら、着実に結果を出されているような印象を受けます。
林:
これまでの人生で失敗していないんですよ。カードゲームで結果を残せましたし、スロットもうまくいきました。カードショップも成功しています。センスがいいんだと思います(笑)。
――すごいですね……!
林:
いつもうまくいっているように見られることもありますが、自分がいいと思ったことを自分の好きなように突き詰めていっているだけなんですよね。
そのときに流行していて一番利益を得られるビジネスに携わってきました。スロットもブームで勝ちやすい時期で、カードゲームショップも収益を上げやすい時期でした。辞める時期も適切でしたし、ものごとを見極める嗅覚は鋭いです。
――ここまで色々なことを突き詰められた理由をどのように考えていますか。
林:
周りの目が気にならない性格の影響が大きいです。僕はメンタルが強いタイプなんですよ。何を言われても気にしない。
あとは、タイミングや人との出会いなどの運の要素も大きいかなと。自分の好きなことと向き合いながらアンテナを張って、訪れた運をしっかり拾えるように準備しています。
――物事をストイックに突き詰められている印象があります。
林:
好きなことだけをやってきて、好きなことで構成されているので努力が苦痛じゃないんです。苦痛じゃなければ、ずっとそれを続けられますよね。色々な人に「めっちゃ努力していますよね」と言われるんですけど、努力している気持ちはないです。
ビジネスの上で大事にしている「かっこよさ」
――今、ビジネスをされていて、楽しさはどういう部分に感じますか。
林:
自由にやりたいことを実現できるという部分に楽しさを感じます。誰からのアドバイスも聞かずに取り組めるからこそ楽しいです。会社員だと会社があるのでここまで自由には動けないですよね。
――これまでお話を聞いてきて、美学を重視されているようにも感じます。
林:
僕自身は利益だけを求めるタイプではないんですよね。「これやったら儲かるよね」と考えたことはあまりなくて。「こういうものがあったらいいよね」を考えて、実現した結果、収益を上げられることを目指しています。
――「おウチdeお肉」も「こういうものがあったらいいよね」からスタートしていますよね。
林:
そうですね。「おウチdeお肉」も「ユーザーが24時間おいしいお肉を買えたらいいよね」「経営者も人を雇わずに店舗を運営できたらいいよね」からスタートしています。
ビジネスでは、Win-Winが成り立てば収益はついてくるので、「こうしたらもっと儲かる」と考えたことはないです。周りから「儲かってるよね」と言われる機会は多いんですが、Twitterでもこの1年で僕は「儲かる」という単語を使っていないんですよ。
――なぜ儲けを追い求め過ぎないのでしょうか。
林:
儲けだけを追い出すと経営者寄りの考え方が強まって、ユーザーが置いてけぼりになるんです。かっこいい勝ち方からは遠ざかりますよね。
――「かっこいい」はビジネスでも重要なんですね。林さんの考える「かっこいい」とはどのようなことか教えていただけませんでしょうか。
林:
圧倒的に強いことですね。群れなくても、ひとりで勝てる。「ワンピース」であれば鷹の目のミホーク、「呪術廻戦」だったら五条悟みたいなタイプです。絶対的な強さに憧れます。もちろん色々な人と一緒に上を目指す人もすごいとは思います。ただ、僕は性格的にそうなれないんですよ。だから、スタンスをぶらさないように、ひとりで戦って圧倒的に強いタイプを目指していこうとしています。
――ありがとうございました。今後の意気込みを教えてください。
林:
ゼロからイチを生み出すのが得意なので、スティーブ・ジョブズみたいに、世の中にいいものを創っていきたいです。
(取材/文/撮影:中 たんぺい)