「世界の人事部®」であることを目指す株式会社クイック(以下、クイック)の経営理念は「関わった人全てをハッピーに」。この理念は、ユーザーやクライアントだけでなく、社員とその家族、また自社の業務に関わるスタッフ全てにも向いています。
Web事業企画開発室 エンジニアセクションマネジャーの桃原(とうばる)秀康さんは、社員・ビジネスパートナー合わせて60人のエンジニアをマネジメントしています。
同社の経営理念を体現する桃原さんの組織づくりには、どのような秘けつがあるのでしょうか。お話を伺いました。
目次
チームビルディングに関われる環境を求めてクイックへ
学生時代はプログラミングの授業がなかった桃原さんですが、3Dモデリングアプリケーションの「Blender」に興味を持ち、プラグイン作成のために独学でPythonを学ぶように。
「プログラミングは、3DやWeb・ネットワークの世界のインターフェースとして出会った印象です」(桃原さん)
そこが起点となってシステム開発に興味が出て、エンジニアとしてのキャリアを歩むことになります。
桃原さんはクイックに入社するまでに2社、経験しています。1社目は自社プロダクト開発がメインの企業で、Windowsアプリケーションの開発・セールスをしていました。
「Windows PCの一台一台にアプリケーションをインストールし、システムの修正があればパッチを作成してディスクに焼き、各PCにアップデート作業をしていました。2008年ごろの話で、こうした業務はWebアプリケーションにすることで省力化できると思っていました」(桃原さん)
Web関連のスキルをつけたいと考えた桃原さんはエンジニアとしてのニーズを満たす転職を実現します。
2社目の企業は、多くのエンジニアが客先常駐を行い、桃原さんが所属するチームは社内に数名いるエンジニアとともに受託開発や他社の保守運用業務をしていたことから、
「Webシステムやモバイルアプリの受託開発だけでなく、ユーザーが100万人以上のサービスのシステム責任者を担うことで、『納品して終了』ではなく、サービスをグロースさせる責任のある立場も経験できました。
社内メンバー間のやりとりは、あうんの呼吸でやりやすかったですよ。しかし、第三者から指摘をいただく機会が少なかったり、各サービスや案件を一人で進める事が多く、サービス開発全般について相談する相手がいなかったんです。」(桃原さん)
と、メンバーとの連携に意識が向くようになりました。そのころ技術的に興味があったテストの自動化や、チームビルディングに力を入れている企業を探して、クイックに入社することになりました。
全職種が1チームにアサインされる「マトリクス型組織」
Web事業企画開発室では職種・プロジェクト(プロダクト開発チーム)の二軸でマトリクス型組織を運営しています。縦軸に職種があり、横軸に複数職種(エンジニア・デザイナー・プランナー・マーケター等)を横断したプロジェクトの構成です。
桃原さんはエンジニアという縦軸(職種)のマネージャーをしており、どのプロジェクトにどのエンジニアをアサインするかが大きな役割の1つ。
「プロジェクト軸ではプロデューサーやプロダクトオーナーがサービス全体の責任を背負っています。わたしはエンジニア組織のマネージャーとして、プロジェクトへのアサインのほか、エンジニアの育成やキャリア面談に加え、
直接の評価にはならないものの、桃原さんが他職種のメンバーの行動を、チームリーダーにフィードバックすることも。
「エンジニアから他職種のメンバーのよい動きを聞いたときには、他職種のマネージャーに伝えるようにしています。『エンジニアをうまく巻き込めるようになった』とか『一緒に仕事がしやすい』とか。エンジニアのそうした話をわたしが聞くことがあればうれしいですからね。回り回って、それがサービスやプロダクトの成長につながりますし、チーム全体の成長につながります」(桃原さん)
マトリクス型の組織と、互いにフィードバックする姿勢の相乗効果で、成長する組織づくりが進んでいるそうです。
メンバーの視座が変われば組織は成長する
「エンジニアのマネージャーとしては4年目です。年上のメンバーもいたり、自分より技術力の高いメンバーもいます。物事を進めるには、『どういう状況で・誰に・どのように話すか』
だからこそ、桃原さんが大切にしているのは心情的なこと。相手への敬意を欠かさず、社長に対するときとメンバーに対するときに、同じスタンスで話すことを心がけているそうです。
「相手には自分が仲間であることが伝わってほしいと願っています。どんなことでも、すべて相手のために話していることを感じてほしいですね」(桃原さん)
たたえるべきことは皆の前でたたえ、組織としての価値観に反する行動があった場合は、そっと指摘することを大切にしているのだとか。
その考えを突き詰めて行くうちに、意見が対立しそうな相手との落とし所も見えてきました。
「わたしの意見を言いますし、相手の考えていることもきちんと伝えてもらいます。その上で視点を変え、チームや組織としてどの答えが正しいと思うか、議論するようにしました。自分と相手の意見の対立から、チームとしての答えを探すようにしていくのが、対立構造を無くしていくポイントだと思っています」(桃原さん)
以前はマネージャーである桃原さんが考え・伝え・聞く立場でした。それが、一緒に考える・導く、という役割に変わりました。
さまざまな意見をうまくまとめ上げることに加え、
「自分が書いたコードの品質だけを気にしていたメンバーが、システム全体の品質に目が行くようになったことがありました。視座が変わってきたんです。ソリの合わない人と1on1のミーティングをしてみるようになるなど、自分から改善に向けて動くようになってくれました」(桃原さん)
プロジェクトがうまくいったことに対する喜びは感じられやすいものですが、組織自体の喜びはなかなか実感しにくいものです。
「わたしがいなくてもエンジニアチームが変化や自律しているのをみるとうれしくなりますね」(桃原さん)
メンバーの視座が上がり、組織としてステージが上がる喜びを、桃原さんはひしひしと感じているのだとか。
マネジメントは「スペシャリスト領域の一つ」
マネージャーとしてメンバーに目を行き渡らせている桃原さんは、マネジメントはスペシャリスト領域であると考えています。過去にさまざまな開発経験を持っているからこそ
「エンジニアとしてはゼネラリストとして、幅広く見ていきたいと思っています。Webもモバイルもインフラも、AWSもIaC(Infrastructure as Code=インフラ構築をコードを用いておこなうこと)だって業務として見ていきたいです。プライベートではAI、ブロックチェーンを触って遊んでいます」(桃原さん)
マネジメントはエンジニアの専門性の1つです、と語る桃原さんは、同社の評価ルールを説明してくれました。
「『ステージ』と呼ばれる社員の等級が、1から5までは共通ですが、6からは『エキスパート』『マネジメント』の2タイプに分かれるんです。エキスパートは目的達成のためにサービス・事業をつくること、マネジメントは目的達成のための組織・事業をつくることで評価されます。わたしは、エンジニア組織のマネジメント型なんです」(桃原さん)
スペシャリストとしてのマネジメントで、スキルが高いと思うのはどんな人でしょうか。
「上手なマネジメントをする人がメンバーと接すると、その人は内省して行動を変えるようになります。人の言葉で直接変わるわけではありませんが、結果的に行動が変わってくるのをみるとすごいな、と思いますね。戦略面でのマネジメントであれば、リスク管理や見通しの視座の高さと、それを踏まえてチームを統率するうまさを感じることがあります」(桃原さん)
視座の高さは、マネジメント面にもよい効果をもたらしているのでした。
視座こそがキャリアアップのカギ
最後に、ゼネラリストとしてのエンジニアと、スペシャリストとしてのマネジメントを両立させるべく奮闘している桃原さんに、これからの目標やあるべき姿を尋ねました。
「組織をつくることはゴールではありません。ユーザーへ価値を提供できるサービスを継続的にローンチできる組織を、エンジニアの目線からつくっていき、ブラッシュアップさせていきたいですね」(桃原さん)
と、成長し続けることの大切さを語ってくれました。
「私の中心のキャリアはエンジニアですので、『エンジニアのゼネラリスト』として、フロントエンド・バックエンド・インフラ・クラウドをはじめとした、さまざまな知識を学んで知見を広げたいです。さらに『エンジニアのスペシャリスト』として、マネジメントの力を高め、チームメンバーが活躍できる組織を作っていく。両立する事は難しい事ですが、わたしが『この道で生きていく覚悟』こそが、キャリアだと考えています」(桃原さん)
自らを含めたメンバー全体の視座を上げることによる成長。キャリアアップのカギは立ち位置の向上にありそうです。
(取材/文:奥野大児)