映画ソムリエの東紗友美です。試写会などで毎月多くの新作映画を鑑賞させていただいているわたしが「今観るべき話題作」や「オススメ作品」や「絶対に外せない映画」をご紹介します。

今月はディズニー実写映画の話題作「リトル・マーメイド」、今年のカンヌ映画祭で坂元裕二さんが脚本賞を受賞したことで話題の「怪物」、ホラーの伝道師である清水隆監督配信作「忌怪島」をご紹介します。

『怪物』(6月2日公開)


このような人にオススメ!:
是枝監督の子役演出、一寸先の展開が読めない、上質なサスペンスが観たい

監督:是枝裕和
脚本:坂元裕二
音楽:坂本龍一
出演:安藤サクラ、永山瑛太(瑛太)、黒川想矢、柊木陽太、高畑充希、角田晃広、中村獅童、田中裕子
⇒上映中、上映館情報へ(2023年5月31日現在)

2018年『万引き家族』でカンヌ国際映画祭最高賞パルム・ドールに輝いた是枝裕和監督が、「今一番リスペクトしている」と熱く語る脚本家の坂元裕二さん。第76回カンヌ国際映画祭の授賞式が現地時間27日にフランスで行われ「怪物」の脚本を担当した坂元裕二さんが脚本賞を受賞し、話題をよんでいます。坂元さんといえば映画『花束みたいな恋をした』や TVドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」(フジテレビ系)などで圧倒的な人気を博し、常に新作が待ち望まれる脚本家。

是枝さんと坂元さん。日本を代表するストーリーテラーの2人が初タッグを組むなんて、これはまさに映画ファンが待ち望んでいた作品とも言えますよね!

ある郊外の学校で起きた子ども同士の喧嘩が社会やメディアを巻き込んでいく様を描いたこの物語は、綿密な3幕構造となっており、1度目の感想だと少しだけ理解に時間を要する構成となっています。

その部分こそ、是枝監督にとってはこのタイプの作品は新境地のように思えました。カンヌ映画祭の受賞によって、一部ニュースではある種展開が勘のいい人にとっては予測できてしまうような見出しがついているものも現段階(5月31日時点)でありますので、まっさらな状態でご覧になりたい人はできるだけ調べずに映画館に行ってほしいです。

すこしずつ、食い違っていく大人と子どもの言い分、何が真実かを追いかけながらも、学校で起きた問題がメディアを巻き込むほどの一大事になっていく。一寸先の展開が読めない、上質なサスペンスに惹き込まれていきました。

©2023「怪物」製作委員会

まず坂元さんと是枝さんの相性の良さに感嘆!坂元さんが脚本に加わったことでこれまで以上にエモーショナルな物語になっていると感じられましたし、やはり是枝さんの子役演出は安定しており、もはや子どもたちをまったく他人のように感じられなくなってしまうほどの求心力のお芝居を見せてくれております。

そして、この映画から伝わるのは切り取る角度が数秒でも違えば、相手の本質が見えなくなってしまうかもしれない。他者を知るということがどれだけ難しいことなのかを思い知り、そんな誤解を生む可能性のある人間の不完全さにふれ、いろいろと打ちのめされました…。

最後に、世界的な音楽家でも坂本龍一さん。この映画は坂本龍一さんにとって映画遺作となったのですが、劇伴がとにかく素晴らしい。スクリーンの最高の音響で、日本を代表するキャストと製作陣が集まったこの物語に浸ってほしいです。

『リトル・マーメイド』(6月9日公開)

このような人にオススメ!:
美しい映像美!新たな世界に飛び込むアリエルの情熱と知的好奇心を覗きたい人

監督:ロブ・マーシャル
脚本:ジェーン・ゴールドマン、デヴィッド・マギー
出演:ハリー・ベイリー、ジョナ・ハウアー・キング、、メリッサ・マッカーシー、ハビエル・バルデム、ジェイコブ・トレンブレイ、オークワフィナ、ダヴィード・ディグス、ジュード・アクウダイケ
⇒上映中、上映館情報へ(2023年5月31日現在)

試写室を出たあとは、思わず海からあがってきたかのような感覚でゆっくりと深呼吸をして地上を味わい余韻に浸りました。目を見張るような、海の青を背景に色鮮やかな海の生き物たち、海中ならではの光のきらめき、ヒレを踊るように動かしながら優美に泳ぐ人魚たち。それはまるで、海を万華鏡に映し出したような映像美。本当に美しかったです!

リトルマーメイドの主人公アリエルといえば、人間の姿を手に入れて地上に行きたがっている、人間のエリック王子への恋心を抱いた人魚のお姫様も思ってきました。1989年のアニメーション映画では、「王子様に結ばれるために人間になりたい人魚のお姫様」というイメージが強かったけれど、今作ではその印象はだいぶ変わりました。

新たな世界に飛び込んでみたいと願う彼女の情熱と知的好奇心がより輝いているように感じられ、いっそう世の中をサバイブしていかなければならない現代女子たちにとっては共感できる内容となっていた印象です。知らない世界をもっともっと知りたい、自分を信じてもっと遠くへ行ってみたい、そんな欲求をもつパワフルなアリエルがスクリーンでどこまでも広がる海を踊るように泳ぎつづける、そんな映像が素晴らしかったです。


(C)2022 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

アリエルを演じたのは、これが長編映画、初主演となる新星ハリー・ベイリー。世界中でいろんな意見を受けていますが、個人的には最高だったと思います。普通っぽいけど、なかなかいない。そんな等身大感よ!

笑顔がピカイチに可愛いけど、絶世の美女のイメージのディズニープリンセスとはまた異なり(ハリー・ベイリーはもちろん十分魅力がありますが!)自分のお友達のような愛おしさがありました。ぜひ、スクリーンで彼女のアリエルを観てほしいです。

「パート・オブ・ユア・ワールド」「アンダー・ザ・シー」「哀れな人々」など、アニメーション映画「リトル・マーメイド」の今も人々に愛される有名楽曲はもちろんそのまましっかり歌われてiいますが、新たに3曲の新しい歌も加わって広がりをもたらしてくれているので音楽も楽しみにしていてください。また34年前と現在の価値観では、人々の感受性も変容していますよね。楽曲面ではリトル・マーメイドの有名曲のひとつ、「キス・ザ・ガール」はオリジナルの歌詞を現代にあわせ、少しだけ調整しているそう。

そして王子様が大海原に冒険することを夢見ていて、古典的な城を守ります系の王子というより身近に感じられる存在となっていたのも好印象でした!

今知っている世界だけじゃなく、さらに大きな視野で世界をみつめようとしているふたりが恋に落ちるからこそ、誰かと誰かが出会ってお互いの知らない世界を広げていくという“恋すること自体の魅力”と、重なり物語全体にとてもよく効いているのです。

名作でありながらも変わっていくことを尊重した作品となっていて、さらに今回リトル・マーメイドの世界に恋をしました。

最後に“人魚の涙”について言及する原作のアンデルセンのとある言葉が、物語にとても効いております。

ここは注目していただけると、より感動できるポイントとなっているはず。眩いばかりの海の世界、ぜひ冒険してみてくださいね。

『忌怪島』(6月16日公開)

このような人にオススメ!:
青春映画の要素あり!新感覚のホラー体験を味わいたい

監督:清水崇
脚本:いながききよたか、清水崇
出演:西畑大吾、生駒里奈、平岡祐太、水石亜飛夢、川添野愛、大場泰正、祷キララ、吉田妙子、大谷凜香、笹野高史
⇒上映中、上映館情報へ(2023年5月31日現在)

少しずつ気温が高くなってきておりますが、やはり暑くなるとホラーが見たくなるシーズンですよね!

ハリウッドでもリメイクされた「呪怨」シリーズ、近年では「犬鳴村」に始まる「恐怖の村 シリーズ」を手がけた清水崇監督が、今度は閉ざされた南の島を舞台に、現実世界と仮想世界というふたつの空間で起こる恐怖を描きます。

こちらの映画、日本古来から伝わる呪われた言い伝えという古典的ホラー要素と、VRやメタバースやボディシェアリングなど今世界中で行われている人類の知能を超越する研究。このふたつのトピックが融合していて、まさに新感覚のホラー映画になっていました。

驚かされるところには十分に驚かされますし、同時に、現代の技術革新の要素を多く取り入れているためメッセージ性もとても強いところにグッとくるホラー映画に仕上がっていました。

ちなみに東はホラーは大の苦手ジャンルではありますが、青春映画の要素も強いので楽しく見ることができましたよ。

人間が本来、孤独な生き物ではありますが、やはり人は1人では生きていけないなとどこか人恋しくなる物語に仕上がっています。近年ではSNSなどの発達から人付き合いが煩わしくなり、その結果”リセット症候群”なんて言葉も耳に入るようになりましたが、誰とも交わらずひとりきりで生きていくことがどんなことか考えさせられます。


(C)2023「忌怪島 きかいじま」製作委員会

人気アイドルグループ「なにわ男子」の西畑大吾が演じる主人公は人間嫌いで、人と関わるのが苦手というキャラクターですが、突如現れたシステムエラーの謎を解き明かすため、周りとの関係値を少しずつ計り直していきます。ただ、脅かされ続けるだけのタイプの恐怖だけではなく、主人公の心の機微を追いかけ続けている物語が見どころです。

舞台となったのは、南の島。どこまでも広がる空、青い海。休暇シーズンに行ってみたくなるような場所がロケーションなのも、新鮮です。日本のホラー特有の暗くジメジメした場所だけではなく、明るい場所と暗い場所のギャップがあって、映像的な新鮮さも

本来ならば、ロマンチックな恋愛模様が展開されそうな奄美大島をロケーションに不可解な事件がどんどん起こっていく。美しい海、青い空×ホラーのキャップ!

近年ですと「ミッドサマー」などもそうですが、本来明るい場所で起きる恐怖の方が、明暗のコントラストがくっきり出て余計に恐怖を感じてしまうのはわたしだけでしょうか・・・。

(文:映画ソムリエ 東紗友美

presented by paiza

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