私は、無名の一映画ライターでしかありませんが、映画の試写会には多く参加させていただいてます。そんなこともあって、映画に絡んだお話をさせていただくことになります、休日のバリューアップの一助になれれば幸いです。
最初のご紹介は、偉大なブランドが誕生する瞬間を体感できる映画3選です。当然、実話ベースの映画となります。実話モノというのはやはり独特の説得力があるものです。
変な脚色が入って、感動が台無しになってしまうこともありますが、やはり “本当のこと”を題材にしているだけに、見ている側に与えるものが違います。
目次
『AIR/エア』
NIKE社の大ヒットバスケットシューズ“エア・ジョーダン”の誕生の瞬間を描いた映画『AIR/エア』。日本では4月7日(金)から劇場公開されます。監督・出演のベン・アフレックは、もともと盟友のマット・デイモンと脚本を共著した『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(1997)でアカデミー賞を受賞するなど、若くして才能を認められた存在でした。
その後、やや迷走した時期もありましたが、今や最も信頼度の高い映画製作者の一人です。今回の『AIR/エア』では、久しぶりにマット・デイモンとタッグを組んでいます(二人はプロデューサーも兼任)。
今や、NIKEの代名詞とも言うべき存在になったバスケットシューズ“エア・ジョーダン”。映画『AIR/エア』では、その “エア・ジョーダン伝説”の始まりを知ることができます。

当時のNIKEは、バスケットシューズのシェアでは弱小メーカーで、アディダスとコンバース(のちにNIKEが買収)に歯が立たない状態でした。目下の狙いは、NBAドラフト上位の選手と契約して宣伝効果を得ること。そこで、バスケットシューズ部門の責任者であるソニー・ヴァッカロは、ある一人の選手にギリギリまで予算を投下する方針を打ち出します。その選手こそ、後に“神”とまで称される伝説的なプレイヤーのマイケル・ジョーダンでした。
バスケ選手という枠を超え、アメリカ現代史の偉人の一人とも言っていいジョーダン。しかし、当時はまだプロの実績が一切ない選手で、NIKEは「リスクがあり過ぎる」と頭を抱えます。
ソニー・ヴァッカロは、アディダスやコンバースは自社の製品をジョーダンに使わせる手法を取ってくると読み、反対にジョーダン一人だけに合わせたシューズを作る手法を選びます。
“NIKEのジョーダン”ではなく“ジョーダンのNIKE”になることを選ぶのでした。
この決断の結果はご存知の方も多いでしょう。バスケットボールファン、NBAファン、バスケットシューズファン、そして『THE FIRST SLAM DUNK』を見て熱くなった人は必見の映画です。
『フォードVSフェラーリ』
監督:ジェームズ・マンゴールド
出演:マット・デイモンクリスチャン・ベイルトレイシー・レッツカトリーナ・バルフノア・ジュプ
配信:ディズニープラスで見放題配信、Prime Video、DMM TV、Rakuten TVその他でレンタル配信(※2023年4月6日現在)
⇒配信情報へ
『AIR/エア』に引き続き、マット・デイモン主演の映画です。今作や『インビクタス/負けざる者たち』(2009)など、実話系ドラマでは頼もしい存在と言えます。この後もクリストファー・ノーラン監督の『オッペンハイマー』(2023年7月21日公開予定)が公開待機中です。
『フォードVSフェラーリ』は、1960年代にスポーツカー耐久レースの世界で覇権争いをした、フォードとフェラーリの熾烈な闘いを描いたジェームズ・マンゴールド監督作品。“大衆車”のイメージが強かったフォードは、自社のイメージアップのためにフェラーリの買収に動きますが、破談に終わります。
フォードはフェラーリの持つ“高級車メーカーとして矜持”を崩すことができませんでした。
とは言え、このまま負けっぱなしで終われるわけでもなく、モーターレースの最高峰“ル・マン耐久24時間レース”での勝利を目指します。
ル・マンを制覇したことがあるキャロル・シェルビー(演:マット・デイモン)はフォードのチームの指揮を執ることに。やや性格に難があるものの、実力は確かなケン・マイルズ(演:クリスチャン・ベール)をドライバーに迎えます。
当時(商業規模、資本力という点では別として)技術力において、アメリカ車はヨーロッパ車に絶対に適うわけがないというのが定説でした。しかし、キャロル・フィルビーとケン・マイルズはこの定説の打破に挑みます。
エア・ジョーダンのときもそうですが、やはりタイトルを獲ったり、ビッグネームと絡んだりすることで、商業市場の売り上げ上昇はかなり大きくなることがわかります。
『スティーブ・ジョブス』
監督:ダニー・ボイル
出演:マイケル・ファスベンダーケイト・ウィンスレットセス・ローゲンサラ・スヌーク
配信:U-NEXT、Netflixで見放題配信、Raluten TVでレンタル配信(※2023年4月6日現在)
⇒配信情報へ
『スティーブ・ジョブス』はアカデミー賞監督ダニー・ボイルによるITの巨人の物語であり、天才と関わることの難しさを教えられる映画でもあります。
先日NHKで放映された、庵野秀明監督と『シン・仮面ライダー』のメイキングを追いかけた映像を見て、この『スティーブ・ジョブス』を思い出しました。同じIT界のエポックメイキングな場面を切り取ったものに、デヴィッド・フィンチャー監督の『ソーシャル・ネットワーク』(2010)という映画もあります。 SNSのFacebook(現Meta)の誕生秘話と、そこで起きた法廷闘争を描いた作品です。
『スティーブ・ジョブス』と『ソーシャル・ネットワーク』の、どちらを選ぶか悩んだのですが、映画の終わり方に希望を感じさせるモノをと思い『スティーブ・ジョブス』を選びました。
『スティーブ・ジョブス』については、まったく同じ邦題で二つの映画があるためややこしいのですが、今回は2015年公開の映画です(マイケル・ファスベンダーがスティーブ・ジョブスを演じているほう)。日々の選択に割くキャパシティを節約するため、毎日同じ服装をすると決めていた天才、スティーブ・ジョブズの背景が垣間見える作品となっているのではないでしょうか。
まとめ
映画はエンターテイメントで、あくまでも娯楽の一環ですが、実話モノ映画はその枠組みを超えて人の心に迫ってくるものがあります。本当にあったことという説得力の強さに、自分を重ねる人も多いのではないでしょうか。実話ベースの物語からブランド誕生の瞬間を学ぶことで、仕事にもプライベートにも活かせるヒントが見つかるかもしれません。
(文:村松健太郎)