いつだって、主役は輝いている。小〜中学生のころ、学芸会でやった演劇の主人公。高校生のころ、教室で目立っていたムードメーカーたち。大学生のころ、なんだかんだ文化祭で注目を集めるのは軽音サークルだった。主役は輝いているからこそ、主役なのだ。

しかし、キラキラした存在は主役に限らない。脇を支える名バイプレイヤーがいるからこそ、主役は目立つ。本記事では、決して主役ではないけれども、作品の味を抽出している名脇役に注目したい。

『少女は卒業しない』

監督:中川駿
出演:河合優実、小野莉奈、小宮山莉渚、中井友望、窪塚愛流、佐藤緋美(HIMI)、宇佐卓真、藤原季節
⇒映画館上映中、上映館情報へ(2023年4月8日現在)

バイプレイヤー:藤原季節

朝井リョウによる同名小説を実写映画化した『少女は卒業しない』。物語は、とある女子生徒の視点で進んでいく。きちんと事実や心理描写はされるのだけれど、肝心な部分に触れないまま時間が経過する構成は、同じく朝井リョウによる小説(後に実写映画化)『桐島、部活やめるってよ』をほうふつとさせるだろう。

「新たな青春恋愛映画」と題されたとおり、河合優実演じる女子学生・山城まなみを中心に、複数の少女たちの恋模様が描かれる。そのなかでも、中井友望演じる作田詩織のエピソードが胸に迫る。卒業の日までクラスに馴染めず、図書室に救いを求める彼女。そこで交流を重ねるのが、現代文の教師で図書室の管理を担当する坂口優斗(藤原季節)だ。

坂口を演じる藤原季節は、これまで『佐々木、イン、マイマイン』(2020)や『わたし達はおとな』(2022)などの作品に出演。どちらかというと、ゆるく、軸が感じられない、いわゆる典型的な“イマドキの若者”を反映したキャラクターを演じることが多かったように思う。

しかし、『少女は卒業しない』の坂口は違う。完全に、これまでの藤原季節を壊しにきている。メガネ、シャツ、カーディガン、ネギをはみ出させた買い物袋を手にしている姿など、この作品で見る藤原季節はすべてが新鮮だ。年長者として若者の見本とならなければならない立ち位置についても、またそれゆえに終始敬語で話している点も、すべてが前例のない藤原季節なのである。

坂口に思いを寄せる詩織の、たおやかで青々とした恋心も相まって、これまで見たことのない藤原季節がそこにいる。決してこの映画の主軸ではなく、複数描かれる恋愛模様のうちのひとつではあるが、確実に心に迫るものがある。

『ロストケア』

監督:前田哲
出演:松山ケンイチ、長澤まさみ、鈴鹿央士、坂井真紀、戸田菜穂、峯村リエ、加藤菜津、やす
⇒映画館上映中、上映館情報へ(2023年4月8日現在)

バイプレーヤー:鈴鹿央士

松山ケンイチ、長澤まさみのW主演で耳目を集めている映画『ロストケア』。訪問介護センターで働く献身的な職員でありながら、42人の命を連続で奪った殺人犯・斯波宗典を演じる松山ケンイチと、その罪に立ち向かう検事・大友秀美を演じる長澤まさみの、素手で触れればたちまち切り傷がつくような鋭い対峙が印象的な映画である。

本作で注目したい名脇役は、若手俳優のなかでも知名度・人気ともに右肩上がりの鈴鹿央士。ドラマ「ドラゴン桜 第2シリーズ」(2021)や「silent」(2022)などで着実に実力を示している。一見すると可愛らしい容姿だが、本作『ロストケア』で演じるのは検察事務官・椎名幸太。大友検事の補佐として、斯波が起こした連続殺人事件の真相に迫る手助けをする。

高学歴で博識、それゆえに少々凝り固まった考え方をする椎名。数字に目がなく、斯波の事件についても論理的な観点から事実を炙り出すべく切り込んでいく。大友検事の冷静沈着かつ容赦のない迫り方とは、また違ったアプローチをする点が、両者のコントラストを生んでいる。

国内における介護の実態を浮き彫りにした、重い題材だ。斯波と大友検事が相対するシーン含め、どうしたってヘビーな空気がまとわりつく。そこに、嬉々としてホワイトボードに数字を書き込みながら事件を解明しようとする椎名の姿が、閑話休題にも似た少しばかりの癒しを与えてくれるのだ。

生きている限り避けては通れない、病気や介護の問題。身内の介護に“苦しむ”家族を、はたまた当の本人を「救う」ために手をかけたと主張する斯波の存在は、見ているわたしたちに逃れられない問いを与える。いざ、自分が同じ立場になったとき、どんな選択をするのか。簡単には答えの出せない場面で、ふと思い出す椎名の言葉や姿勢は、難しい問題に対するヒントを与えてくれるだろう。

『ちひろさん』

監督:今泉力哉
出演:有村架純、豊嶋花、嶋田鉄太、van、若葉竜也、佐久間由衣、⻑澤樹、市川実和子、鈴木慶一、根岸季衣
⇒映画館上映&Netflix配信中(2023年4月8日現在)

バイプレーヤー:豊嶋花

有村架純主演、今泉力哉監督のタッグが実現した映画『ちひろさん』は、安田弘之による同名漫画を実写化した作品。元風俗嬢であることを隠さない、開けっ広げな性格のちひろ(演・有村架純)は、小さな港町の弁当屋で働いている。どこから来たかも、どこへ行くのかも言わない。誰もが憧れるけれど、決して真似はできない生き方。明るさも暗さも併せ持つ絶妙な空気感を、有村架純は見事に体現している。

本作で挙げたい脇役は、ちひろさんに憧れる女子学生・オカジ。彼女を演じる豊嶋花は、16歳にして約15年のキャリアがある、まさに実力派である。『名も無き世界のエンドロール』(2021)『都会のトム&ソーヤ』(2021)などの映画はもちろん、「大豆田とわ子と三人の元夫」(2021)「祈りのカルテ 研修医の謎解き診察記録」(2022)などのドラマでも存在感を示してきた。

どこか掴みどころのない、ふわふわと水中浮遊するような生き方をするちひろさん。彼女の輪郭を濃く、地に足をつけさせている存在がオカジだ。父と母、妹がいる四人家族で暮らすオカジは、友達もいて学業の面も心配ない、いたって普通の女子学生。しかし、どこか息苦しさを感じている。何も感じていないフリさえ上手ければ、当たり障りなく今の生活を受け流せるのだけれど、彼女にはできない。ちひろさんへの憧れが強まれば強まるほど、お互いの存在が無視できなくなっていく。

一度目は、オカジはちひろさんによって救われている、と思う。しかし、二度目、三度目と鑑賞するにつれ、救われているのはちひろさんのほうかもしれない、と思えてくる。救っているほうもまた救われている、その不思議な関係性は、双方とも無自覚だからこそ生まれるのかもしれない。

『グッバイ・クルエル・ワールド』

監督:大森立嗣
出演:西島秀俊、斎藤工、宮沢氷魚、玉城ティナ、宮川大輔、大森南朋、三浦友和
⇒Amazon Prime Videoで見放題配信、U-Next、Raluten TVでレンタル配信中(※2023年4月8日現在)

バイプレーヤー:奥野瑛太

西島秀俊演じる元ヤクザ・安西を中心とした、急ごしらえの強盗団が大金の奪取に成功するも、暴力団や警察に追われる身となってしまうR-15指定のクライムエンターテイメント『グッバイ・クルエル・ワールド』。斎藤工、宮沢氷魚、玉城ティナ、三浦友和、宮川大輔ら豪華キャストが名を連ねるなか、ギラリと鈍い存在感を放つのが、元暴力団員・飯島を演じる奥野瑛太である。

これまで挙げた作品と同じように、飯島も決してメインのキャラクターではない。出演シーンもわずかで、物語を揺るがす決定的な展開に関わるわけでもない。しかし、一度見たら絶対に忘れられない、心臓を直に擦るような痕を残してくる。

飯島は安西の元舎弟だったが、組にいられなくなった腹いせに安西の元へやってきた。安西は足を洗い、堅気の人間として妻の実家である民宿を立て直そうと奮闘している最中だったが、飯島の登場により流れを乱されてしまう。安西と飯島が対峙し、互いの感情をぶつけ合うシーンは荒々しく、痛々しい。飯島はなんとか安西を言いくるめ、民宿のスタッフとして紛れ込むも、最終的にはうまくいかずに決裂してしまう。

本作における奥野瑛太の演技に対し、西島秀俊は「(奥野さんは)役に没頭する憑依型の役者」と評している。その言葉通り、役になりきり作品に溶け込む役者の代表格として知られる。名脇役の光る仕事があってこそ、主役の存在感が色濃く浮き立つ。あらためてその事実を痛感できる作品である。

『君は永遠にそいつらより若い』

監督:吉野竜平
出演:佐久間由衣、奈緒、、小日向星一、笠松将、葵揚、森田想
⇒U-NEXT、Huluで見放題配信、Amazon Prime Video、Raluten TVでレンタル配信中(※2023年4月8日現在)

バイプレーヤー:笠松将

津村記久子の同名小説を、奈緒と佐久間由衣のW主演で映画化。奈緒演じる猪乃木楠子=イノギ、佐久間由衣演じる堀貝佐世=ホリガイの、触れた途端にはかなく消えてしまいそうな危うい交流を描いた作品である。

本作で注目したい笠松将は、ホリガイと同じ大学に通う青年・穂峰直=ホミネを演じている。飲み会でホリガイと意気投合、彼女からの冗談混じりの求婚にOKするやりとりなどは、若さを詰め込んだシーンとして青々と映る。例によって作品を動かすようなメインキャラではないものの、朴訥な存在感があって妙に心に残る役柄だ。

それには、彼がいきなり自死してしまう展開も関係しているだろう。笑顔で酒を飲み、笑顔でホリガイと話すホミネのようすは、いたって普通の青年だった。昨日までなんの変化もなかった相手が、今日はいきなりいなくなっている。その唐突な喪失感は、容易に映画の枠からはみ出て、ひたひたと音を立てて現実に迫ってくる。

ドラマ「君と世界が終わる日に」(2021)映画『リング・ワンダリング』(2022)など、物語の根幹に影響するメインキャラクターだって張れる笠松将だが、その存在感をコントロールし、作品として求められる役に自らをチューニングする術にも長けている。「この立ち位置で笠松将を起用するのか」と驚いてしまう面もあるが、それさえも含め、彼のポテンシャルを表しているように思えてならない。

エピローグ

脇役が光る映画5作をピックアップしながら、思う。やはり、主役の煌めきは脇役あってこそ。わかりやすく目立つキャッチーな要素に、心を奪われたっていい。けれどたまには、花に隠れるようにそっと身をひそめるバイプレイヤーたちの存在にも目を向ける。そんな余裕を持っていたい。

中学や高校時代、決して青いだけではなかった恋心を思い出したい方は『少女は卒業しない』、命に価値はあるのか、自由な生き方とは何かを考えるきっかけとして『ロストケア』や『ちひろさん』、『君は永遠にそいつらより若い』をおすすめしたい。週末、いつもと少し違うバイオレンスな映画に触れたいと思ったら『グッバイ・クルエル・ワールド』一択だ。

(文:北村有

― presented by paiza

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