私はフリーランス20年目に突入した40代のライターです。旅が好きなので、取材で国内外あちこちに行けて、ユニークな体験ができたり、面白い話を聞けたりと、好奇心を満たしつつ自由度の高い働き方ができていることをありがたく思っています。

しかし、自由であるがゆえに不安定なのがフリーランスの常。「これからもあなたに仕事を頼みたい!」と言われて喜んでいても、先方の事業方針転換であっさりと契約が終了してしまうことは珍しくありません。

そのたびになくなった仕事や環境に未練がましい気持ちを抱き、「こんな条件の良い仕事はもう来ないかも……」と不安になってしまいます。しかし、ダン・アリエリー氏の『予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』を読んで、それは所有物を過大評価してしまう「所有意識」という人間の特性ゆえかもしれないと気づきました。

人は手に入れたものを過大評価する

家を売ろうとする人が買い手になるかもしれない人よりその物件の価値を高く評価したり、車を売ろうとする人が買い手より高い価格を期待したりするのは、行動経済学でいう「保有効果」が働いているためなのだそうです。

これは、家や車だけでなく、仕事、ポジション、環境、あるいは人間関係も同じでしょう。サンクコスト(埋没費用)と似ていますが、キーとなるのは「投資したコスト」ではなく、「所有している(いた)か否か」という点です。

本書では、人間性の中にある「不合理な奇癖」として以下の3つを挙げています。

  • 自分がすでに持っているものにほれこんでしまうこと
  • 手に入るかもしれないものではなく、失うかもしれないものに注目してしまうこと
  • ほかの人が取引を見る視点も自分と同じだと思い込んでしまうこと

「これから手に入れる(かもしれない)もの」への期待より、「すでに持っているもの」を失うことへの恐れのほうがが大きくなってしまうのは、どうやら私だけではないようです。

そして、ある仕事に情熱を注いで取り組んでいればいるほど、苦労してそこのやり方に合わせてきた経験が多ければ多いほど、所有意識は高くなってしまう傾向があるのだとか。

バイアスがかかっていることに気づく

本書では、私たちには所有物を過大評価してしまう傾向があり、それによって合理的な判断ができなくなってしまうことが多々あると、多くの事例とともに解説されています。

備わっている特性は変えられなくても、「冷静に判断しているつもりだけれど、実はそうじゃない」「所有意識によってそう判断させられている」と自覚すれば、行動を変えることはできそうです。

例えば、いまの仕事が客観的に見たとき特別すばらしいものではないのに、「手放したら、もうこれより良い条件のものは手に入らないかも」とすがりついてしまうのは、所有意識によるバイアスがかかっているせいかもしれません。

恋人に不当な扱いをされても頑なに別れない友人を見て「そんな人と別れてもっと良い相手を見つければいいのに」と思うのに、当人は「こんな人にはもう二度と出会えないから」と我慢している……。それと同じことを、仕事でしてしまっているのかもしれません。

バイアスのせいで、条件が悪化してもそこから離れられない、ほかにもっと良いオファーがあっても転換できないとしたら、もったいないし、自分を大事にできていない気がします。

先方から契約終了を告げられ、未練がましい気持ちを抱きそうになったときも、多分同じ。「所有意識のせいで実際以上に良く見えていただけ」と考えれば、必要以上にダメージを受けずに済みそうです。

何かがぽっかりなくなるのは心が痛いし、固定給のないフリーランスは仕事がなければ収入減に直結します。それでも、「手放すもの」と「これから得られるもの」を天秤にかけるなら、所有意識の部分を差し引くことを忘れないようにするのが良さそうです

空いたスペースに入ってくるものは、もっと良いものかもしれないのですから。

行動経済学を学べば、より良い選択ができる

本書のタイトル「予想どおりに不合理」には、人間は不合理な行動をしてしまうけれど、そこには一定の法則性(くせ)があるという事実を表しています。行動経済学を学んで意思決定のくせを知れば、日々の生活でより良い選択ができ、仕事にも応用できそうです。

昨今、生成系AIの進化や普及はすさまじく、「AIが進化すれば、ライターの仕事の大部分がなくなる」なんてツイートも多く見かけます。

私はライターの仕事がなくなるとは考えていませんが、「ゲームのルールが変わる」「個人戦が団体戦になる」くらいのドラスティックな変化はもたらされると予想しています。そうなったとき、前はこうだった、ああだったと言っても仕方ありません。

人間の行動が不合理であること、自分にバイアスがかかっていることをちゃんと自覚して、周囲の助言や意見にもっと耳を傾ければ、環境が変わっても、新たなチャンスを掴んで仕事の幅を広げていけそうです

『予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』は、翻訳本ならではの冗長さもあって、正直なところ読みやすいとは言えません。

それにも関わらず、Amazonで2500件を超える評価が付き、その過半数が星5つを付けているのは、読み手が「なるほど、そうだったのか!」と自分自身の行動パターンに当てはめて、深く納得できる部分が多いからではないでしょうか。

自分を含めた「不合理な行動をしてしまう人たち」とうまく付き合い、これからの人生でより良い選択をするヒントを見つけたい人は、ぜひ読んでみてください。

(文:ayan

presented by paiza

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