スタートアップ企業の資金調達では、銀行融資(借入)や株式調達がおもな手段となっており、特に借入は駆け出しのスタートアップにとってハードルが高いのが現実です。また、いずれも時間や手間がかかり、スピーディーな調達は難しいとされています。

株式会社Yoiiは、資金調達の第3の選択肢として、過去の売上・財務データから未来の売上を買い取る形で資金提供をする、未来査定型の資金調達プラットフォーム『Yoii Fuel』を開発しました。

売上予測には機械学習を用いた与信モデルの精度が肝になります。また、煩雑な手続きをできる限り省略するためには、企業が利用している会計システムとのデータ連携が欠かせません。

本インタビューでは、共同創業者CTOの大森亮さんに、それらを可能にしているテクノロジーについて、そして少数精鋭のエンジニア組織での取り組みや課題、今後の展望などについてお聞きしました。

スタートアップの資金調達に新たな選択肢を

――はじめに事業内容とサービスについて教えてください。その中でどのようにテクノロジーが使われているかもお聞きできればと思います。

大森亮氏(以降、「大森」):Yoiiはレベニュー・ベースド・ファイナンス(RBF、過去の売上データの分析から将来発生する売上を現金化する資金調達手段。詳しくはこちら)の事業を展開している企業です。日本語での表現はいろいろですが、「未来査定型資金調達」と言ったりします。

スタートアップ企業が資金調達をする場合、おもな選択肢としては融資と株式調達がありますが、手続きが煩雑だったり調達までに長い期間を要したりとどちらも使い勝手のよくない部分があります。

そこで当社は第3の選択肢として、新しい資金調達手段であるRBFを提供する『Yoii Fuel』をリリースしました。たとえば、SaaSやサブスクモデル、ECなどのサービスを運営していて、将来的な売り上げの見通しが立っている企業に対しては、売り上げを債権として買い取る形で資金提供をしています。

――既存の資金調達の方法では、経営権の一部や株式を渡すといった制約がありますから、資金が必要な企業にとって大きなメリットですね。

大森:そうなんです。しかも1、2か月にもわたる紙のドキュメントでのやりとりが必要になったりもします。

株式調達では、ベンチャーキャピタル(VC)とのコミュニケーションが大変ですよね。時間がかかるのはもちろん、うまくいったときに返すリターンも何十倍、何百倍といった額になるため、コストとしてもかなり高くなってしまいます。

当社の場合、銀行よりも金利は高くはなりますが、個人保証は不要で、ミドルリスク・ミドルリターンになるような方法で提供しています。

――手続きの煩雑さや資金が入るまでに時間がかかる点についてはどうでしょうか。

大森:当社は、お客様のレポートを紙の書類など別途提出していただくことはありません。たとえば、オンライン決済サービス『Stripe』や、『freee会計』を使っていれば、ワンクリックでAPI連携が可能で、システム上で自動的に分析や予測ができますから、それをもとにスコアを計算します。

このフローが当社の事業でもっとも重要な部分です。データを自動的に取得して審査することで、申し込みが完了し、データがそろってから最短6営業日の資金提供を実現しています。

――それはすごいですね!

大森:また銀行の場合は、返済までの期間や金額の上限が決まっているなど、自由度が低いという特性があります。当社のサービスでは、お客様の規模や状況、ニーズに合わせて比較的柔軟な対応が可能で、期間と金額をできるだけ自由にできる分、手数料で調整する仕組みになっています。与信モデルの構築は難しいですが、そうやってあらゆる資金ニーズに柔軟に対応ができるのもサービスの特徴です。

手間なく・素早くを実現するフローに注力

――ビジネス自体ユニークで、まだそれほど競合のないサービスだとは思いますが、テクノロジーにおいて他社との違いは何かありますか?

大森:事業のアイデア自体は、アメリカで先行事例があります。そちらを見ているとやはり速さと便利さが特徴的です。さまざまなデータソースがAPI連携に対応していて、それをもとにした高速な与信が実現されています。

おっしゃるとおり、国内で競合にあたる企業は、まだそれほど多くはありませんが、似ている事業領域の企業はいくつかあります。他社との差別化を図るには、やはり「いかにデータ提出の手間を少なくするか」と「いかに早く資金を提供できるか」が重要です。

すべてのAPIがつながっている状態が理想的ですが、プラットフォームによってはAPI連携を提供していない場合もあります。その場合はCSVをもらって、多少手作業のフローが発生するわけですが、そちらも高速化する必要がありますね。

――なるほど。大きな額が動くとなると、与信の精度というか「どのくらいの金額が可能か」の判断が重要かつ難しいかと思います。速さと精度の両立はどのように実現されているのでしょうか。

大森:与信モデルは本当に難しいですね。ただお金を渡すだけなら誰でもできますが、返してくれるところに渡すことが大事なんです。そのため最初のフェーズでは、与信モデルの精度を上げるために、少額でお金を渡しつつ、お客様の売上データや会計データを集めていきました。その際はあまり慎重になりすぎず、少なめの額で数をこなしていくことを重視しました。

VCにも「今は実験フェーズです」と説明しております。というのも、モデルの精度を向上させるためには、まずは十分な量のデータを集める必要があるからです。

現在は、分析をタイムリーにおこない、継続してアップデートをしていくために、できるだけ自動的にデータからテーブルを作ったり、SQLで分析したりするフローの作成に注力しています。このフローができれば、モデルのアップデートやデフォルトしたときの原因分析なども素早くできるようになります。データを統計的に分析しつつ、モデルのアップデートをしている段階ですね。

少数でも役割を明確に、組織が希薄化しないための解決策

――ここからは、エンジニアの組織についてお伺いします。組織づくりにおいては、どんなことに注力されているのでしょうか。

大森:エンジニアチームは現在8名ですが、少数のわりには、役割を細かく分けています。

たとえば、お客様のデータをもとに与信モデルを作ったりアップデートをしたりするデータサイエンティスト、お客様がデータを提出するためのプロダクト側を開発するメンバー、その中でもさらにフロントエンド、バックエンド、インフラのエンジニアがいます。

そのため自分の役割だけに終始して、お互いがやっていることや業務範囲を理解できていないと、ミスマッチが起きて、ずれた方向に進んでしまいかねません。個々が違うことをしているからこそ、お互いにキャッチアップをするための仕組みや、コミュニケーションのとり方が大切だと思っています。

――すでに取り組んでいることや、これから取り組もうとしていることはありますか。

大森:3か月ほど前に新しくPdMが入社したので、ちょうど一緒に整えているところです。具体的には、以前からスタンドアップミーティングなどは実施していましたが、最近はやっている仕事の共有を以前よりも詳細化したり、詰まっているときにも抱え込まずに相談し合える雰囲気づくりを進めたりしています。あとは、定期的な1on1も実施するようになりました。

――実際に、以前よりも改善してきた手応えはありますか。

大森:ありますね。お互いの目線が合ってきていると感じています。特に最近は、エンジニアから自発的な「こんなことをやりたい」という提案を受ける機会が増えています。

以前はわたしが決めたことをみんなにやってもらう形に近かったんです。みんなが全体像を把握できるようになって、各々がやるべきこともわかってきたおかげで、自発的な提案が生まれやすくなったんだと思います。

グローバルなチームでの円滑なコミュニケーションのために

――さきほどメンバーの目線が合ってきたというお話をしていただきましたが、大森さんとエンジニアメンバーとのコミュニケーションはどうですか?

大森:創業当時の1、2名のころから比べると、エンジニアメンバーが5名を超えたあたりで個々のメンバーに目が届きにくくなってきたなという課題感がありました。

組織として動いてはいるし、仕事もしているけど、やはり一対一で話し合う場がないと、言いづらい話もありますし相談事もなかなかできないですよね。

特に海外出身のメンバーと1on1を実施すると、業務と関係のないところでの困りごとや、どんなキャリアパスを目指しているといった話もカジュアルにでき、モチベーションの確認もしやすくてよいですね。言語の問題でコミュニケーションをためらってしまうケースが、どうしても発生してしまいがちなので、落ち着いて聞く機会を設けるのが重要だと思います。

――採用に関しては、最初から日本のエンジニアにはこだわらずに募集されていたのですか。

大森:そうですね。私もCEOも英語でのコミュニケーションに特に抵抗がなかったこともあり、最初からグローバルなチームを想定して、国籍や言語要件にはこだわらず求人を出していました。結果的に集まってくれたメンバーには、海外出身者が多くいます。さきほどのPdMもポーランド出身の方なんですよ。日本語レベルの要件を設けなかったのがよかったのか、求人募集の際には100名程度の方に応募していただきました。

――海外出身の方の場合、日本でエンジニアがしたくても、日本語レベルの要件がネックとなってなかなか企業が見つからないといったケースも多いのでしょうか。

大森:多いですね。もちろん社内公用語が英語になっているなど、受け入れ体制が整っている企業もありますがまだまだレアケースですよね。

現地でエンジニアを採用して、日本に連れて来ている企業でも、結局社内の日本人の大半が英語を話せなくて、コミュニケーション面で孤立してしまうといった話は本当によく聞きます。だから当社では、海外出身のメンバーを交えて話すときは、必ず英語を使うように気をつけています。当たり前に聞こえるかもしれませんが、非常に重要なことなんですよね。応募者との面談では、前職の退職理由も聞きますが、チーム内では日本語の会話が中心で、コミュニケーションに課題があったという話はよく出てきます。

事業の拡大と新しい技術の両方を経験できる環境

――この記事で御社に興味を持ったエンジニアの方へ、入社したらこの領域の技術に触れられる、このスキルを伸ばせるといったアピールポイントはありますか。

大森:まずWebサービス側は、サーバレスで開発しています。開発にはGo言語やNext.jsなどの言語を使っています。そのため比較的新しい言語での開発や、インフラをコードでマネージすること、サーバレス構成などについては、かなり力をつけられると思います。

事業的には、やはり金融や経済寄りのビジネスをおもしろいと感じてくれているメンバーが多いですね。ただ、入社前に知識が必須というわけではなくて、興味さえあれば入社後身につけていっていただければ問題ありません。

また、現時点では機械学習のための潤沢なデータがあるわけではありませんが、データ基盤を整えていく段階なので、データサイエンティストや機械学習エンジニアの方にとっては、自分で考えて作り上げていけるのは非常におもしろいと思います。

――最後に、今後のビジネスの展開と組織づくりの展望についてお聞かせください。

大森:ビジネスとしては、現状累計6億円を調達していて、プレシリーズAの段階に来ています。

ビジネスとともに組織も大きくしていく必要があると考えています。与信モデルにおいて、年次の会計データを見るだけなら銀行と変わりません。いかにあらゆるデータを見て、判断の材料にできるかが重要ですから、その実現のためにも組織の拡大は避けて通れません。

あとは社内オペレーションや与信の自動化も、実際にやってみると結構難しくて、事業の内容や法律まで、ケアしないといけない部分が予想以上に多いんです。

ただ、わたし自身はそういったことを考えながらの開発業務をとても楽しく感じています。同じように、この事業におもしろみを感じてくれるようなメンバーを今後も集めていきたいですね。

――ありがとうございました。


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