これまで複数の企業でCTOとして開発組織を牽引してきた尾藤正人氏。Tech Team Journalでも「エンジニアリングチームの課題を解決!TTJお悩み相談室」をご担当いただきました。
そんな尾藤氏が次のキャリアに選んだのは、物流プラットフォームを提供する株式会社オープンロジ。これまで経験してきた領域とは大きく異なる物流業界で、学ぶことが多くインプットにある程度時間を要することが予想されました。しかし同時に、それを受け入れてでもジョインしたいと言えるだけの魅力も同社に感じたと言います。
今回は、CTO経験者が多数の選択肢から転職先を決める際の視点や、新しい環境でのエンジニア組織やサービス課題との向き合い方、そして尾藤氏が描くオープンロジの今後の展望についてお伝えします。
企業選びの決め手は他社にはない事業ドメイン
――まずはオープンロジに入社されるまでの経緯についてお伺いします。どんなきっかけで接点を持たれたのでしょうか。
尾藤正人氏(以下、「尾藤」)きっかけはSNSサービス経由でメッセージをもらったことですね。連絡をくださった企業は他にもいくつかあったのですが、その中でオープンロジに決めました。
――決め手となった部分について、具体的にお聞きしてもよいですか?
尾藤:わたしの専門分野はテクノロジーですが、テクノロジーは、それ自身が単体で何か価値を生み出すわけではありません。なんらかの目的や課題があって、それに対してテクノロジーを適用することで初めて価値が生まれます。
そのため、わたしは事業ドメインのおもしろさで転職先を考えるのが重要だと考えています。いろいろな企業からお話をいただいた中でオープンロジに決めたのも、「物流版AWS」という事業ドメインに惹かれたからですね。
最近は物流業界も変化のタイミングを迎えていて、EC市場の拡大による小口配送の増加により購入~配送までそれぞれ課題があり、物流テックの企業も増えてきています。ただ、わたしが今まで知っていた物流テックの企業は、ほとんどが配送業務関連の事業でした。そのため、初めてオープンロジがEC事業者と倉庫事業者に共通のプラットフォームを提供し、物流を最適化するプロダクトであると聞いたときは、すごく新鮮に感じましたね。
EC事業者はサービスがスケールするほど、倉庫拠点が複数必要になったり、冷凍倉庫など特殊な倉庫を必要としたりと、課題感が変わります。そして、倉庫を増やすのに約半年かかるといったような煩雑さがあります。倉庫事業者では倉庫内オペレーションがアナログだったり、急に荷物量が増えた際に対応できなかったりといった課題があります。
それらをオープンロジのプラットフォームを導入することで解決していこうとしています。「物流版AWS」とはEC事業者が物流に関してはオープンロジに任せておけば大丈夫な状態、サーバーレスならぬ物流レスを目指しています。
オープンロジは物流を面で抑えようとしていて、このような戦略でやってる企業は非常に少ないんですよ。ただ、競合が少ない領域だからこそ、やり切ったら確実に勝てるなと思ったんです。もちろん難しい領域なので、急激に伸びるわけではありませんが、着実に市場での価値を高めていけるイメージがありました。
これまでの経験から、サービスやプロダクトを作って運営していても、すぐに競合が出てきて追随を許してしまう事例がよくありました。オープンロジなら、着実にやるべきことをやっていけば盤石な地位を築けそうなところも魅力に感じています。
――なるほど。参入障壁が比較的高い領域なんですね。
尾藤:今後も競合はなかなか出にくいと思っています。倉庫と50社以上提携してネットワークをすでに作っていること、また物流は国ごとの事情や需要とも強く結びついていることなどが主な理由です。
Webサービスやツールだと、競合が海外から入ってくるケースも多いですが、この事業領域は海外からの参入が難しいんです。そのためまずは国内市場での存在感を高めたいと考えています。
課題は組織のボトルネックと大規模データの取り扱い
――続いて、尾藤さんの現在の業務についてお聞きします。まだ入社されて4カ月かとは思いますが…。
尾藤:これから少しずつCTO的な役割で入っていこうとしているところですね。すでにVPoEが組織マネジメントは進めていたので、組織マネジメントは彼、開発の戦略はわたしという役割分担をする予定です。
――現在のエンジニア組織は、どれくらいの規模ですか?
尾藤:開発チームはエンジニア、デザイナー、PMなどを含めて現在40名くらいです。
今期からよりプロダクトで事業を牽引していくべく、エンジニア組織を強化していく方針になりました。現状はエンジニアが30%程度の割合なので、50%に引き上げたいと考えています。そのため今期は先期の約2倍エンジニアを採用しようとアグレッシブな目標を立てています。
――開発組織でもっとも解決したい課題や、早く手をつけたい課題はすでに見えているのでしょうか。
尾藤:事業の成長スピードにシステムが追いついていないことです。最近はユーザーに大型の荷主が増えてきている影響もあって、システム的にさばききれない量のデータになりつつあります。もともと9年ほど前から使われているシステムで、当初の設計ではそこまで大規模なデータを扱うことを想定していなかったんです。
ビジネスのスケールはうれしいですが、システムのスケールがついていけないのが目に見えていますから、早く解決しなければならない課題ですね。
――さきほどのお話にもありましたが、エンジニアを増やしてテックカンパニーを目指されているのも、そういった課題を解決するためでしょうか。
尾藤:そこは少しニュアンスが違います。もともといる経営メンバーは、そこまでテクノロジーに明るいわけではなく、将来的に大量のデータがさばけなくなることも正確には知らない状態でした。エンジニア組織の運営やエンジニアのマネジメントについてもよく分からないまま手探りだったと思います。
経営メンバーの中に技術に強い人が不足しているという認識はあったものの、テクノロジーを軸にした経営はなかなか難しいという課題を抱えていました。
つまり技術的な課題というよりは、もっと手前の経営と技術の橋渡しに課題感がある状態です。CTO職がいない会社だと、こういった問題を抱えるとは往々にしてあると思いますね。
――尾藤さんがこれまでに関わってこられた中にも、そういった課題が出てくるケースはよくありましたか?
尾藤:そうですね。技術顧問などもやったりしていますが、やはりCTOが不在で経営メンバーに技術がわかる人がいないと、どうすればよいかわからなくなってしまいがちですね。
多くの企業が抱える「技術の橋渡し問題」の解決策
――技術の橋渡しのような課題を解決するために、CTOの役割としては何がポイントになるでしょうか。ていねいに説明をしていくほかありませんか?
尾藤:説明するだけであれば、エンジニアのメンバーでもできます。また、経営陣に説明をするだけで状況がよくなるわけではありません。
必要なのは、次のアクションを決めることです。そして、そのアクションを誰がどうやって起こすのか。会社としていろいろな物事の改善を進めるには、経営メンバー自らがトップダウンで方針や戦略を示した上で、全体を動かしていく必要が出てきます。さらに開発組織を運営していくには、テクノロジーがわかっている人の存在が不可欠です。
説明するだけではなくて、「今はこういった課題があるから、この解決方法を実践します」と明確にし、全体の方針を示す。その上で、現場のメンバーたちに動いてもらったり、経営メンバーにも共有したりする必要がある、これがポイントになります。
――今後はエンジニアを増やして、新しい開発をどんどん進めていくと思いますが、他に力を入れたいことはありますか?
尾藤:技術負債の返済は並行して取り組もうと考えています。そのため、ある程度チームごとの役割を分ける必要があると思っています。今後はチームごとの役割を決め、具体的に何をやってもらうかも決めていかなければなりません。そのあたりも含めて、今は来期以降の開発組織をどうしていくのか考えているところです。
――これから尾藤さんがオープンロジで成し遂げたい、将来的な目標などはありますか。
尾藤:ひとつはエンジニアのメンバーがエンジニアらしく開発をして成果を出し、その成果がしっかり認められる環境を作りたいですね。
そして、技術的課題を解決するために全体的な戦略に落とし込んで、施策を実行していくというCTOの役割を果たしていきたいと考えています。
「物流版AWS」を実現することでできる「社会の課題解決」
――最後に、オープンロジに興味を持っているエンジニアの方に向けて、メッセージをお願いします。
尾藤:率直に言いますと、ものすごく最先端の開発ができるわけではありません。業務としては、Webシステムの開発がメインです。実績データを活用して分析・機械学習による作業効率化・物流最適化もやっていますが、それなりにレガシーなシステムなので技術的負債もあります。
そこにどんなおもしろみがあるかですが、やはり事業だと思います。エンジニアに限らず、当社に来る人たちは、事業ドメインに魅力を感じて入ってきた人が多くいます。昨今DXを謳う企業は少なくはありませんが、業界を変える・市場を席巻できる可能性のあるサービスに携われる機会はめったにありません。
わたしも先日倉庫研修で実際に倉庫まで行って業務を体験してきたのですが、一日体験しただけで、まだまだアナログで改善できるところがたくさんあると思いました。
テクノロジーの力で課題を解決し、世の中を変えていけるのは、大きなやりがいを感じられます。今いるエンジニアたちは「自分の技術を伸ばしたい」というよりも、「社会課題を解決したい」という思いの強い人が多いので、同じような考えの人はとてもフィットすると思います。ご興味のある方はぜひお待ちしています!
――未知の領域におもしろみを感じて、どんどん挑戦していく尾藤さんの柔軟さも伺えて、非常に興味深い内容でした。ありがとうございました。