今後ますます拡大が見込まれる国内ヘルスケア市場において、予防医療テックとして存在感を示している株式会社リンケージ。2022年6月1日、同社取締役CTOに曽根壮大氏が就任し、事業・組織ともに成長を加速させようとしています。

「そーだい」の愛称で親しまれる曽根氏は、警察官からエンジニアにキャリアチェンジした経歴を持ち、これまでにも複数の企業でCTOとして開発組織を牽引してきました。

今回、3度目のCTO就任となる曽根氏が同社を選んだ理由のひとつに、自身と同じように異業種から転職したエンジニアを育て、エンジニア組織をいちから作り上げるというチャレンジに魅力を感じたと言います。

本インタビューでは、曽根氏が同社のチーム開発を機能させるために取り組んでいること、エンジニアとして大切にしていることなどを伺いました。

自身の健康を見つめ直し、医療テックでの挑戦を選択

――まずは、曽根さんがリンケージを選んだ理由についてお聞かせいただけますか。

曽根壮大氏(以下、「曽根」):はい。いくつかお声掛けいただいていた中で、リンケージを選んだ理由としては大きくふたつあります。

まずひとつめに、リンケージのソリューションが、わたしがフォーカスしている「ソフトウェアや技術で、世の中をよくしていく・楽しくしていく」「技術そのものを楽しむ」といったところにマッチしていたからです。

「世の中を楽しむ」ためには、まず「健康であること」が前提になります。たとえば、日本の男性の平均寿命は81、82歳くらいですが、60歳まで健康に働いてきた人が残りの20年を病気と付き合いながら生きていくのと、変わらず健康に生きていくのとでは大きな違いがあります。これはわたし自身が、身内を早くに亡くしている経験などから来ている考え方なんですが、人の死って思ったより身近なものなんですよね。

実はコロナウイルスが流行り始めたころ、体重が120kgほどあったんですが……

――曽根さんがですか!? 今はとてもそうは見えないですね。

曽根:病気は他人事ではないなと思って、一念発起してダイエットをしました。今まで先輩たちから教えてもらった多くのことをちゃんと次の世代に引き継いでいく、これを「恩送り」と言っているんですが、それをまっとうするためには、わたし自身が健康じゃないといけないと考えたんです。

2021年にはだいぶ体重が落ちて、仕事もはかどるようになりました。その体験と実感から、リンケージによる健康を支援するソリューションに共感がありました。

ふたつめは、ビジネスモデルとして非常に面白いと感じました。実際に営業力も十分ある会社ですし、ビジネスプランもしっかりしている。あとはいかにソフトウェアをつくるかにかかっていて、BtoBtoCというわたしが得意な形でもあったので、お手伝いできればビジネスがだいぶ前に進む具体的なビジョンも見えました。

まとめると、実現したいビジョンに共感できて、そのビジョンをわたしが前に進めていける具体的イメージが持てた、このふたつが大きな理由になります。

――ありがとうございます。これまで曽根さんは幅広いサービスに関わってこられましたよね。今回は直近の健康に対する意識が影響した部分も大きかったという話でしたが、過去にもそういったことはあったんでしょうか?

曽根:わたしは「このプロダクトを作りたいからこの会社に入ろう」というタイプではありません。どちらかと言うと、「この会社で解決したい問題がある」というイシューベースが多くて、それを解決してみたいと思ったり、あるいは呼んでもらったときも大体は「こういう課題があるから解決してほしい」と言われることが多かったですね。

そういう意味では、ふたつめに挙げた理由は「技術で課題解決したい」というイシューベースですが、ひとつめの理由で選んだのはリンケージが初めてだと思います。

――なるほど。前提としてイシューベースではあるけれども、今回は医療や健康という、ご自身の意識が高まっている領域にリンケージがマッチしたということなんですね。

曽根:技術で課題解決って、CTOではなく業務委託や外部顧問でも可能で、実際そういった形のお仕事もたくさんさせていただいています。その会社のCTOになるというのは、プロダクトにコミットメントする決意表明みたいなものだと思っています。

異業種転職組を育て、いちからエンジニア組織をつくる

――つづいて、リンケージでCTOとしての曽根さんに求められている役割について、詳しくお聞きできればと思います。

曽根:会社としてはもう10年ほどになりますが、もともとはソフトウェアよりも、営業やカスタマーサポートに強みがありました。そういう会社でCTOとして何を求められるのかというと、エンジニア組織をつくることもそうですし、テックカンパニーとなる土台づくりも大きな役割です。「CTO」と言ってもVPoEやCIOの領域にも手を広げてやっていますし、事業開発も手伝っています。一般的なCTOのイメージよりも、ビジネス、プロダクト、チームビルディングにかかわる広い範囲で、経験者として貢献していくことが求められています。スタートアップ初期の全部乗せのCTOといったところでしょうか。

――テックカンパニーという言葉が出てきましたが、そこがリンケージの目指す姿なのでしょうか。

曽根:厳密にはテックカンパニーを目指しているわけではなくて、テックカンパニーと呼ばれる企業がやっているような上手なやり方をうちも取り入れていきましょうという意味ですね。だからテックカンパニーになることが目的ではなくて、目指す組織をつくるための手段としてノウハウやテクニックをまねしていきたいです。

ただ、単に模倣しただけでは、結局上辺だけになってしまうので、「なぜこの会社はそういうやり方を採用しているのか」というWHYをしっかり知って、「じゃあうちのWHYはなんなんだろう?」と深掘りすることを大切にしています。

――ここからは、もう少しエンジニア組織にフォーカスしてお話を伺えればと思います。着任されてまだ間もないですが、どういった課題があって、これからどう解決していきたいとお考えですか?

曽根:まず、当社の特徴でもありますが、今の開発チームは異業種転職組も多く、リンケージからエンジニアのキャリアがスタートした方も何人かいます。非常にチャレンジ精神がある方が多い一方、エンジニア経験者と比べるとソフトウェアの基礎知識や開発のセオリーを知らない方が多いとも言えます。その方たちに対する教育が大きなテーマのひとつかと思います。

もうひとつは、業務における越境をどうやって可能にしてもらうかです。前のキャリアがソフトウェアエンジニアではなかった方、たとえば、当社であればもともと看護師や薬剤師だった方もいるのですが、これまではガイドラインや法律を厳守しながら決められた仕事を決められた範囲でこなす世界だったわけです。そのため、自分の判断で越境して仕事をこなす経験がない方が多いんですね。

そういった方が自社サービスのエンジニアになったからと言って、自然にオーナーシップやフォロワーシップを発揮して動けるかというと非常に難しい。ソフトウェアの知識は学べば入ってきますが、体験や振る舞いを変えるのは一筋縄ではいきません。そこはわたしがいかに成功体験を積ませることができるか、いかに彼らのメンターになるようなメンバーを採用できるかにかかっていると思います。

――昨今はエンジニア経験者の採用難で、異業種からの転職の方を育てて戦力にしたい企業は多いと思います。ぜひ育成についてもお話しいただきたいのですが、具体的に振る舞いを変えていくためのポイントはどのあたりだと捉えていますか?

曽根:よい発想やアイデアというのは、「面倒なことは嫌だから自動化しよう」「ダラダラと時間をかけるより効率よく済ませよう」というエンジニアの気質から来るものがあります。ただ、当社であれば、医療業界から転職してきた方は、忍耐強く、アナログなことでも地道に続けられてしまう。それが悪いという意味ではなく、サービス開発に必要なメンタリティとは違うんですね。ロジカルシンキングや一般的な読解力があればコード自体は書けるようになるかもしれません。でもこのメンタリティをエンジニア然としたものに変えるのは大変です。そこは本当にていねいにやるべきだと思います。

あとは、その大変さを乗り越えてでもサービスを生み出すエンジニアになりたいと本人が望むかどうかです。本気で自分を変えて新しい世界に飛び込みたい方には、ロードマップやロールモデルをきちんと提供してあげることが、我々先人の役目だと思っています。

チーム開発とは何かをていねいに説いて変革をはかった

――曽根さんは、過去にも今回のような種まきから始める組織づくりのご経験はあったのでしょうか。

曽根:正直なところ、これまではエンジニアが飛車角金銀そろっている組織でやることが多かったですね。前職のオミカレは中堅のエンジニアは転職組が少なく、その会社で5、6年のキャリアがあったり、新卒1年目の子たちもいましたが、コードが書けるメンバーばかりでした。はてなももちろん同様です。

そのため完全な初心者を育てた経験はほとんどありません。今のメンバーも素養がないわけではないですが、新卒でバリバリコードが書ける人たちとはやっぱり違うので、その方たちを育てるのがわたしのチャレンジだと思っています。

――ご就任前から状況はご存知だったとは思いますが、今チャレンジという言葉も出たとおり、未知の領域への挑戦に対して面白そう、やってみようと思えたということでしょうか?

曽根:自身が公務員からの転職組なので、そこはわたしがキャリアとして示せるところもあるとは思っていました。また、そういうキャリアの方が生まれること自体、業界にはとてもいいことだと思っているので、何か貢献していきたいなとは考えていました。

――他でもよくお聞きする悩みですが、ビジネスサイドが強いと受け身というか、受託感が強くなってしまうということがありますよね。リンケージではいかがですか?

曽根:まさにおっしゃるとおりで、はじめは受託開発感が強かったですね。

実はCTOになる前、最初は「エンジニア組織をよくするために手伝ってほしい」と言われて関わりはじめました。そのときに1カ月ほどメンバーの様子を見て、チームでソフトウェアをつくっていくための目的や考え方について知ってもらう必要があると感じました。

そのため、まずはこのスライド(目指すべきソフトウェア開発と 今日から始める最初の一歩 / First step for good development – Speaker Deck)にある「そもそもソフトウェア開発とはなんなのか」について話しました。

チーム開発は、誰かひとりに責任があるわけではなく、みんなに責任があります。たとえば、「スクラムをやってみたい」という話が出ていたときに、「スクラムというのはこういうもので、各自がこういう責任を持ってやらないといけない。覚悟はありますか?」と伝えるところから始まりました。「覚悟はある」と答えてくれましたが、だからといってすぐに「では、やってみましょう」というわけにはいきません。さきほどお話したとおり、異業種転職組も多いため、わたし以外誰もスクラムを経験したことがないような状態です。そこでいきなりやってみたところで、キャッチボールも素振りもしたことがないのに野球の試合をするようなものです。そこで、まずは1週間ほどスクラムについて勉強をして、5月にスクラムに備えた素振りとして簡単なチケットを1週間スプリントで4週回して、6月から本格的なスクラムを始めました。

エンジニアに限らず、当然ビジネスサイドにもスクラム経験者はいませんでした。プロダクトオーナーとなる人たちも含めて、まずはチーム開発の目線を合わせる必要がありました。

――資料を拝見すると、素振りというより、野球のルールを教えるみたいなところから始められたのかなとお見受けします。

曽根:そうですね。やはり期待値調整や目線を合わせることもせず、いきなりスクラムを始めたところでうまくいかないですから。

本来、わたしのスタイルは、プレイングマネジャーとして、キャッチャーをやって、バッターボックスに立って、さらに監督もするタイプなんです。しかし、今回はいきなりわたしが試合に出てしまうと、結局「そーだいさんが全部やってくれるな」というトップダウンの構図ができるだけだと思っていたので、ある程度自分たちだけで回せるようになってもらうことを大切にしていました。

ただ、そのあいだビジネスは止まってしまうので、そこはわたしがコードを書いて、防波堤の役割をやっているあいだにチームを育てていく形を取りました。

――それができるのは曽根さんの強みですね。

視野を広げ、視座を上げることで自分の武器を磨く

――ここからは、曽根さん個人についてお伺いします。今後のキャリアをどのように考えていらっしゃるのかお聞かせください。

曽根:ブログ(そーだいなるらくがき帳)でも書いているとおり、CTOまたはマネジャーとプレイヤーを行ったり来たりすることで、視座が上がったり視野が広がったりすると思っています。やはりプレイヤーのほうが実際に自分が動いているので、現場で得られる知見が多くて、視野が広がる部分もありますよね。一方、CTOのほうが視座は高い。経営のビジョンを考えたり、3年、5年のスパンで物事を考えたりしますから。

この2~3年はHave Fan Techという会社でひとりプレイヤーとしてやってきたおかげで幅はかなり広がりました。今回、リンケージでは、高さを広げるフェーズ、つまり視座を上げていくのが大きなチャレンジだと思っています。もちろん、CTOも3回目の経験になりますし、決して低いわけではないと自負していますが、この会社でビジネスを成功させるだけではなく、異業種転職でサクセスストーリーを描けるロールモデルとなって、さらに会社自体も大きくしていければ、もう一段階わたしの視座が上がったことになるのではないでしょうか。

最終的に、わたしの後任のCTO、もしくはVPoEとなる人がメンバーから出てきたときに、この会社でのCTOとしてのチャレンジが終わるような気がしています。そのあとプレイヤーに戻るのか、何をするのかは、そのとき考えればいいと思っています。

――視座を上げるというのをおっしゃる方は多いですけど、曽根さんは視野を広げることも大切にされているんですね。エンジニアの中には、自分のいる位置を正確に見て、その先に何を求めるべきかをイメージできない方も多いと思うのですが、曽根さんのそういった考え方はこれまでのどのような経験に基づいているのでしょうか。

曽根:そうですね、このあたり(壮大なる進化論 – これからも成長を続けて進化し、そして生き残るには / soudai-evolution – Speaker Deck)が近いかと思うのですが、「自分の武器を見つけて、自分の武器を磨く」という自分の戦い方の話を書いていて、これに関連して大切なことはふたつあります。

まずひとつめに、自分と誰かを比較することです。わたしの場合、コミュニティだったりメンターやロールモデルと呼ばれるような人たちとの出会いの中でそれをやっています。

たとえば、コミュニティにはCTOをされている方、CTOからIC(Independent Contractor、外部プロ人材とも)になった方、また同世代で現場でバリバリコードを書いてるエンジニアもいますし、エンジニアから営業職になった方もいます。そういったいろんな方と比較することで自分の強みや弱みが見えてくるんですよね。そういう意味で、他者との比較は非常に重要だと思っています。

ただ、コミュニティって活性化していないとおもしろい人が入ってこないので、貢献できるような活動にも力を入れています。たくさんおもしろい人が入ってくることで、わたし自身もいろいろな視点を得ることができます。

ふたつめは、自分自身の過去・今・未来について考えることです。特に今と過去の振り返りをとても大事にしていて、日報を書いたり1カ月に1回は自分自身のKPTをやってトライを設定したりといったことを続けています。そうすると自分の性格や頑張れるポイント、楽しいと思えるポイントも分かってくるので、また新しいチャレンジをして自身の成長につなげています。

そして未来の話ですが、10年後にこうなりたいというふわっとしたイメージはありますが、明確には決めていません。決めているのは、直近の1年先の姿、2年、3年後のゴールです。そこへの進み方は具体的には決めず、いろいろなことを臨機応変にやってゴールを目指していきます。

成功の確率は「自らがどれだけ行動を起こしたか」で上がる

――最後に、若い世代のエンジニアに向けてメッセージがあればお願いします。

曽根:まさに最近も若い人に向けて話したことなのですが、「誰もやらないことをあえてやる」を意識してみてください。(誰もやらないことを敢えてやるという事 – そーだいなるらくがき帳

といっても難しいことをやれという話ではなくて、たとえ話ですが、誰も変えていない切れたトイレットペーパーを見つけたら自分が変えるとかでいいんです。些細なことであっても、誰もやらないことをあえてやってみると、自分の価値につながることがあります。

もうひとつはやはり「手を動かす」ですね。本やブログを読んだり、SNSから情報を得たりすることって知識を研鑽する上で非常に重要ですし、無駄だとも思いません。その上で、アウトプットも大事にして欲しい。ブログを書く、コードを書く、もしくは誰かに会いに行くでもなんでも、行動を起こすことがものすごく重要だと思っています。

「計画的偶発性理論」というキャリア論に関する考え方があります。自分のキャリアに偶発的によい変化を起こすために、その偶然を計画的に起こすというものです。キャリアに影響を与えるような素晴らしい人や本、サービス、ソースコードに出会えたのは、自分がアクションを起こしたからなんですよね。どの出会いがよい影響をもたらしてくれるかは分かりませんが、試行回数を増やせば、うまくいく確率は上がります。

そうやって自ら「手を動かす」ことが目の前の道を進んでいくということであり、「誰もやらないことをあえてやる」がその道幅を広げていくことだと思います。それらがわだちとなって、結果的に自分のキャリアを形づくっていくんだとわたしは考えています。

――エンジニアに限らず、キャリアを考える上で大変興味深いお話でした。ありがとうございました。


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