睡眠解析技術とIoT技術を駆使したSaaS型高齢者見守りサービス「ライフリズムナビ®+Dr.」を提供し、わたしたちが健康に暮らせる社会を支えているエコナビスタ株式会社。IPOを視野に入れ、開発組織の強化も進めています。
同社では社内のエンジニアに「フルスタックマインド」を求め、1人のエンジニアに対して意図的に複数の領域を経験していただく体制をとっています。
この記事では、同社でVPoEを務める池田勇樹さんに、エンジニア採用において重視していることや同社のエンジニアに「フルスタックマインド」を求める理由をお聞きしました。また、サービスの今後の展望についても語っていただきました。
エコナビスタCTO 安田輝訓氏(以下、安田氏)へのインタビュー記事はこちら
目次
「サービス全体をよくしていきたい」を大切にする理由
――まず、御社のエンジニア採用について伺えればと思います。現在どのような方針で採用をされていますか?
池田勇樹氏(以下、「池田」):現在は、「フルスタックになんでも挑戦してみたい」というフルスタックマインドを持つ方を採用して、入社後は希望も伺いながら、さまざまな領域を経験できるような配置をしています。
そのため、どちらかといえば、スペシャリスト志向の方よりもゼネラリスト志向の方が合うのかなと思います。というのも現時点の弊社の方針として、ひとつの分野を職人的に突き詰めて高い技術力を生かしていただくというよりは、サービス全体を見渡して営業やデザイナーのチームと連携を取り、開発だけでなく企画から、テストや運用保守まで多岐に渡って担ってもらいたいからです。
――今の採用方針になった経緯もお聞かせいただけますか。
池田:実は3年ほど前までは、スペシャリスト志向の方も採用していました。その後、わたしがプレイヤーからマネジャーへとシフトする際に、自分のマネジメントスキルもまだ乏しい中で「サービス全体を見て、このサービスをもっとよくしていくぞ」ということを考えている人がほとんどいない状況になってしまっていました。
たとえばですが、Webアプリケーションと言っても、アプリ単体では動きません。サーバとの連携や画面のデザインも必要ですし、自社サービスでは、ユーザーの声を吸い上げてそれをアプリに反映することも欠かせません。つまり、エンジニアであっても自分の担当範囲だけではなく、サービスそのものをよりよくしていく視点が求められます。
もちろん今後さらに組織が大きくなり、開発規模も拡大していくと、各々の得意分野に集中する分業体制になる可能性はあります。ただ、今のところはフルスタックに活躍してもらえるよう、会社としても幅広い挑戦を後押しするつもりです。
――ここまでのお話ともつながるとは思いますが、選考での評価基準についても伺ってもよいでしょうか?
池田:さきほどと重なる部分ですが、フルスタックマインドがあるかどうかは見ています。今までの経験を活かしながらも、どんどん新しいことに挑戦してみたいと⾔ってくれる⽅だと嬉しいですね。
当社では新しい開発を進めながら既存のサービスの運用・保守もおこなっています。サービスは日々改良を重ねていて、完成して終了することはありません。そのため開発だけでなく、ユーザーから挙がった「こんな機能が欲しい」というニーズに対してどのように応えるか検討をおこなったり、他部署との連携方法について話し合ったりと、幅広い業務にも興味を持てるか、といった指向性もお話の中で選考対象としています。
また、以前は即戦力採用のみでしたが、IPOを目指すにあたって開発チームの成⻑も⾒据えて、内部で育てるプロセスの蓄積もしていきたいと考え、ポテンシャル枠の採⽤も進めています。
――BtoBの場合、応募時点では自社のサービスについて理解してもらうのは難しい面もあると思います。何か工夫されていることはありますか?
池田:⼀次⾯接で「ライフリズムナビ®」のサービスについて、ていねいに説明するようにしています。加えて、技術課題では、合否だけでなくできるだけ設計⽅針やコードそのものについてフィードバックをするようにしています。たとえ当社に縁がなくても、その⽅がエンジニアとして何か成⻑に繋げていただければ嬉しいと思っているので。
そのおかげもあってか、⾯接が印象に残ったと話してくれる社員も多いんですよ。

フルスタックマインドがエンジニアの市場価値を高める
――つづいて入社後についてですが、いろいろな経験を積んでもらうための仕組みはありますか?たとえばローテーションをおこなうなど。
池田:特に入社間もない方や、エンジニアとしてまだ経験が少ない若手には、サービスの開発に必要なひと通りの業務を経験していただくようにしています。エンジニアとして現在のスキルに満足するのではなく、技術的なキャッチアップはもちろん、興味を持って調べるクセをつけてほしいという思いもあります。当社の場合ですと、1~2年ほどでサーバサイド、フロントサイド、アプリ開発をひと通り経験できます。
そのあとは、メンバーのキャリアビジョンや次にやりたいことをヒアリングし、ご本人の経験値や能力も踏まえて、優先的に希望をかなえられるようなプロジェクトアサインをしています。
――お話を聞いていると、全方位になんでもできてほしいというよりも、自分のメインの担当以外の業務を知り、その立場の気持ちを理解するという意味合いもあるのでしょうか?
池田:おっしゃる通りです。もちろんスキルアップも大切ではありますが、どちらかというと意識づけのほうに重きを置いています。
業務を進めていく上で連携先を知ってるかとか、仕様を決めるときに関係各所と協力しながら、話し合いながら決めていくことができるかとか、などは経験の有無で歴然と差が現れます。さらにエンジニアとして将来のキャリアを考える上で、幅広い経験を積むというのは、自身の強みを見つけていく上でもとても重要だと考えています。
――今回、CTOの安田氏へもお話を伺いましたが、まさになんでも興味を持って関わっていくという方でした。これからもエンジニアのメンバーに対してそれに近い属性が求められるのでしょうか?
池田:そうですね。フルスタックマインドの方を採用する方針は変わらないと思います。
まだまだ小規模な会社ではあるので、「スマホアプリにだけ興味があって、開発もそれしかできません」となると、スマホアプリの開発が落ち着いたときにご本人も困ってしまいます。さまざまな分野に興味を持てれば会社としても助かりますし、その方としても別のスキルセットを身につけることができます。
――なるほど。池田さんのマネジメントのスタイルはどのような感じですか?
池田:基本的にはメンバーに裁量を持たせて任せる方針です。現在はリモートと出社のハイブリッドなので、毎週必ず1on1を実施し、心配事などがある場合にはそこで聞いて、もしズレがあれば接する時間を多く取りつつ修正していきます。
また、メンバーの提案を積極的に取り入れています。サービスレベルの向上につながる効果的なプログラミング言語の提案や新規連携先に合わせたAPIの選択等は、都度採用しています。
また、入社後は技術や業界知識を習得する社内勉強会を実施しています。DockerやKotlin、AWS、カメラなどの技術的な面はもちろん、業界ならではの規格や専門用語、法令などもあり難しい部分もありますので、「介護業界あるある」のような楽しめる形での勉強会をすることもありますね。
「エンジニアとして成長しかない」と感じて決めた入社
――池田さんが入社されてから、今日に至るまでについても伺いたいのですが、やはりさまざまな分野に携われる点に魅力を感じたのでしょうか?
池田:わたしが入社したのは9年ほど前になりますが、まだ開発チームの人数も少なく、一方で、やらなければならないことは山のようにありました。ここにいたら間違いなく開発に関するタスクが次々にあって、手持ち無沙汰になるようなことは絶対にないだろうと思いました。そして、ここでならエンジニアとして多岐にわたる経験と、スキルアップができると確信したのが決め手ですね。
実際に開発業務に限らず、さまざまなことに関わる機会がありました。また、当社では営業や他の部署のメンバーだけでなく、社長などの経営者と直接話をすることもあります。エンジニアに限らず、自社のメンバーには各分野のスペシャリストがそろっているなと感じていますし、日々刺激をもらっています。
――IPOを目指すにあたって、ご入社されるエンジニアの方にメリットはありますか?
池田:IPOの実現が視野に入っているところから、実際にIPOをおこない、そのあと組織が拡大していくというタイムラインの中で開発を経験する機会はなかなかありません。今後入社される方も含め、そういった経験ができるのはエンジニアのキャリアの中で大きな意味を持つのではないでしょうか。
――池田さんは、もともとゲーム開発をしていたと伺っています。エンタメ業界にいる⽅は、転職でも業界を変えない⽅が多い印象なのですが、池⽥さんは何か⼼境の変化があったのでしょうか︖
池田:わたしの場合、ジャンルにはそれほどこだわりがなく、どちらかというとプログラミングそのものが好きだったんです。とにかく⾃分にとって開発職は天職で、コードを書くことをずっと続けていきたいと思っていました。
――それだけ開発職へ強い思いを持ちながら、現在はマネジメント業務にシフトされています。就任当時は葛藤がありませんでしたか?
池田:ありましたね。3、4年くらい前まではだんだんプログラミングから遠ざかっていく自分に対して非常に不安があって、これでいいのかなと考えたりもしました。
一方で、組織的にも自分にマネジャーとしての役割が求められ始めていました。マネジメントはマネジメントでいろいろ必要な知識やスキルもありますし、徐々に自分の中の興味が移っていったと言うのでしょうか。だんだん不安がなくなっていって、むしろマネジメントを突き詰めていきたいと思うまでになりました。
IoT技術がインフラになる未来を目指して
――ここからは、サービスについても伺っていきたいと思います。この施設(今回の取材は実際の家屋を模した実験用の施設で実施しました)もそうですが、最初からこういった構想を持って事業をされていたのでしょうか?
池田:そうですね。当社はもともと大阪市立大学疲労医学講座の特任教授であり、医師でもある会長の梶本が医療とIoT技術を融合させ、世の中の社会課題を解決したいと立ち上げました。これらの知見や技術を介護業界の課題に適用したのが「ライフリズムナビ®+Dr.」です。
またライフリズムナビ事業ではいわゆるビッグデータとして長期間、高密度の睡眠データ、バイタルデータの蓄積が進んだため、AI解析を駆使することで新たなサービス展開も可能になってきています。
そこで、東京ガス様と実験的に一緒にやってみようとなったのが、介護現場を模したこの施設です。現在は「ライフリズムナビ®+HOME」として、ご家庭用の高齢者向け見守りサービスとしてコラボレーションをしています。
現在のサービスは高齢者向けですが、IoTやビッグデータ活用技術自体はそこに特化しているものではなく、ひとつの切り口であると捉えていただければと思います。
――今後はもっと多岐に渡る展開も考えているのでしょうか。
池田:現在は遠方に住んでいる高齢の両親が心配な子世代の方をターゲットにサービスを展開していますが、一般居宅だけではなく訪問介護などのBtoCへの展開を近いうちに実現するつもりです。
たとえば、デイサービスで「(施設から)帰ったあとに『大丈夫かな』と心配になる」という介護事業者の声に応えて、家に着いたあとの姿を見守る仕組みを提供すれば課題解決になるのではといったことを考えています。
長期的には、ビッグデータの中でも睡眠データやバイタルデータは、スポーツや健康などの切り⼝でもニーズがあると思いますし、リスク回避としてだけではなくより豊かな⽣活をサポートするためにも⼗分応⽤ができます。
あとは、食事やお風呂、トイレなど生活に関することでアナログなところのIoT化、ICT化、そこから上がってくるデータの蓄積、その上でビッグデータとして活用したいという構想もあります。今後は本格的にデータ解析や機械学習を用いてデータの連携・利活用をおこなっていきます。
――将来的には、生活習慣のスタンダードを御社が生み出していくようなイメージですか?
池田:わたし個人の意見にはなりますが、どちらかというと、インフラに近い存在になっていきたいですね。家の中に標準的にあるもの、必需品にしていきたいと考えています。
たとえば、昔、インターホンはなかったと思いますが、今や当然のように家についていますよね。床暖房も標準の装備になりつつあります。同様にセンサーも当たり前のようについているものになって、わたしたちの技術がそこに使われているというのが理想です。
――今もそういった設備のある住宅はあると思いますが、まだ限られたものですよね。
池田:そうですね。スマートシティなどのプロジェクトとしての取り組みから始まって、それが家の中の限られた使い方から、街や都市全体でデータの連携が取れるようなそういったものになっていくとおもしろいんじゃないかと思います。
コロナ禍でセンサーが設置される施設などに直接行く機会は減っていましたが、状況がよくなったらまた現地での使用方法を視察することも再開していきます。実際に自分たちが携わったものが使われている現場を見ることができるのはエンジニアとしてもうれしいですし、改善のための新しい視点を得ることにもつながります。
――最後に御社をご検討されてるエンジニアの方に、メッセージがありましたらお願いします。
池田:これからサービスとともに開発チームも成長していく必要があります。
さまざまなことに興味を持って自身の見聞を広め、スキルを伸ばせる環境で働きたい方はぜひ来ていただければと思います。
――ありがとうございました。