2021年8月〜9月にかけ、医療領域のアクセラレーターであるBeyond Next Ventures株式会社は、東病院 NEXT医療機器開発センターと共同で、医療現場の課題を”AI・画像解析・デジタル”で解決するプロダクトを生むためのアイデアソンを開催しました。革新的なデジタルヘルスサービスの事業化について本気で取り組めるイベントに、paizaからも複数のエンジニアの応募がありました。

Tech Team Journalでは同アイデアソンに参加されたエンジニアの田尻文昭さん・中村智英さん・大塚健司さん、さらに東病院の医師の竹下修由さん、Beyond Next Venturesの三國弘樹さんを交えて座談会を開催。アイデアソンの感想や、参加を通じて得られたもの、自身のキャリアについての展望などをお聞きしました。

アイデアソンに参加された(左から)田尻文昭さん・中村智英さん・大塚健司さん

アイデアソンは医療業界とビジネスで関われる貴重な機会だった

ーーまず、エンジニアのみなさんに、なぜ今回のアイデアソンに参加されようと思われたのかをお聞きしたいと思います。参加にあたって「こういうことがしたい」「こんな知見が得られそうだな」と思っていたことがあれば聞かせてください。

田尻文昭さん(以下、「田尻」):私はここ5年ほど、自分で開発業務はしていなかったのですが、技術を知っておく必要はあるのでpaizaで勉強などをさせてもらっていました。参加した目的は、自分がずっと金融畑にいたので、ほかの業界について知りたかったというのが大きいですね。特に医療は遠い世界だったので、こういう機会を通して知識を増やせたらいいなと思って。ハッカソンのような何かを作る場であれば参加していなかったかもしれませんが、アイデアソンであれば多少知識やスキルに不足があっても楽しめそうだなと感じて応募しました。

中村智英さん(以下、「中村」):私もpaizaを見ていたら「アイデアソン」の募集があって、楽しそうだと思って応募しました。(アイデアソンの前に実施された)説明会で三國さんのお話を聞いたときにも、すごくおもしろそうな事業案だなと感じましたね。私は現在スタートアップに足を踏み入れたばかりで、わからないことだらけの中で仕事をしているのですが、そのあたりの勉強や、視野を広げられる機会になるのではないかと考えて参加しました。

大塚健司さん(以下、「大塚」):ここ数年は忙しくてあまり参加できていなかったのですが、以前はハッカソンなどに参加するのが好きだったんです。そんな中でこのアイデアソンの開催を知りました。医療については特に詳しいわけでもなかったのですが、興味はあったので、まずは説明会で話だけでも聞いてみようかなと考えて、応募したのがきっかけです。

ーー今回のアイデアソンはテーマが「医療」でしたが、医療についてはどんな印象や考えをお持ちでしたか。

中村:私は医療に対してそれほど興味を持っていたわけではなかったんですよ。というのもハードルが高いといいますか、エンジニアとしての知見とはまた別の知見が必要ですから。手を出せる領域ではないのかなと思って、視界にすら入れてなかったんです。ただ、こうしたアイデアソンという形で、実際に医療現場で働かれている方々の意見を聞きながらであれば、参加しやすいのではないかと思いました。こんな感じで新しい分野に関われたら、自分の知識や考えられる領域も増えていいなと思います。もし「医療プロジェクトをゼロから作ろう」みたいな募集だったら、応募していなかったと思います。

田尻:私はもともといろいろな分野に興味があって、たとえば農業や水産業などに関するアイデアソンだったとしても参加していたと思います。医療に関しては、どうしてもビジネスから遠い印象がありますよね。一方で最近は、ベンチャー企業と医療業界が組んで新しい事業を始めるといったニュースも見かけるようになってきました。そんな中で、実際に中にいる人たちはどんなことを考えているんだろうと思ってはいました。あとはこうしたアイデアソンなら、普段は触れ合えない人たちといい感じにセッティングしてもらえるから、面白そうだなと思いました。現職のお客様はエンタープライズなので、大きな企業の方々としか接する機会がないんですよね。自社が医療業界に入っていくことは今後もなさそうなのですが、知っておくとおもしろそうだし、ほかの仕事でも生かせるかもしれないなと思っていました。

ーー大塚さんはもともと医療に興味があったというお話でしたよね。

大塚:参加前の医療に対してのイメージは、まだまだIT化が進んでないという感じでした。たとえば、お薬手帳は今でも紙で運用されていて、なかなかオンライン化できていません。他にも、血液検査であれば、採血をせずとも、何らかの光を当ててそれの透過具合を見るなどで検査できるようにできないかな、といったことは考えていました。

参加して「世界が広がった」「勉強になった」

ーー説明会も含めて、今回のアイデアソンに実際に参加してみて、率直にどんな感想を持たれましたか。

田尻:端的に言えば非常に面白かったです。実際にお医者さんの話を聞くと、普通の会社と同じような、利益が上がらないことや労務管理などで困っているという悩みが出てきたんです。そのへんの課題は、自分たちがふだん会社でやっていることでも適用できそうですよね。あとは先ほど大塚さんのお話でもあったように、医療機器が進化していても、医療経営は非常に遅れていたり、病院同士の繋がりもほとんどなかったりするんです。こんなに通信が発達している世の中ですから、新たなビジネスチャンスやこれからやれることも多いんだろうなと考えると、世界が少し広がった感じで楽しかったですね。

中村:私もとても勉強になりました。医療については、前提知識も興味もそれほどない状態でしたが、医療を事業として捉えたときに、これから少子高齢化で患者さんの獲得競争に入るといった話が出てきたんです。そういった病院の内情や先生たちの考えを聞けたのが、とても新鮮でした。また、今回恵まれた環境だなと思ったのが、チームに医療の専門家の方々はもちろん、がんサバイバーの方もいらっしゃって、がっちりコミットしていただいていたことです。その方から実体験にもとづいた話を聞くこともできました。事業の組み立てに必要な専門家と、モデルケースになるユーザーがチームにそろっていたのが、ありがたかったなと思います。実際に自分で事業をやろうとしたら、そういう話は外の人に聞きに行って市場調査しなければなりませんからね。それ以外にもスタートアップに詳しい方々や経験の長い方々がたくさんいらっしゃって、純粋に勉強になりました。医療だけでなく、新規事業の作り方みたいなフレームワークというか、考え方や作り方のようなセオリーに関しても学びがありました。

大塚:私は実際に医師の方々とお話をして、直接意見を聞けたのがよかったですね。私のチームでは、病院の中で看護師さんの動き、例えば患者さんにどんなケアをするとかいった話を医師の方から聞くことができたんですが、コンサルやIT業界で昔から言われているBPRのような、組織内での人の動きやオペレーションをどうするかという話が近いなと思って。そういった経験がある人であれば、医療の分野でも役に立てられるだろうなと感じました。

ーー竹下さんにもお聞きしたいんですが、今回エンジニアの方々が参加されて、受け入れられた医療現場側の方は、領域を広げられたり新しい気づきがあったりしたのでしょうか。

竹下修由さん(以下、「竹下」):そうですね。最近は医工連携と言われる中でこのような取り組みを行っていますが、やはり最初はどうしてもプレイヤー同士のギャップがあるんですよね。医療者は医療についてはわかるけど、技術的なことやビジネスについてはわからない。一方で、エンジニアの方々も医療現場についてはわからない。そこを埋めていかなければならないと思っていたところでした。今回はそういうことにもモチベーションを持った医師の方々に参加してもらって、ディスカッションを重ねていきました。

医療側のペインも、こうやって説明すればみなさんと共有できるといった学びもあって、医療者側のプレイヤーにとっても、すごく勉強になる機会でした。次に同じような機会があれば、さらにスムーズに入っていけるでしょうから、非常によかったと思います。私自身も勉強になりましたし、こうした活動が医療現場でも本当に必要なんだなと感じました。

東病院 NEXT医療機器開発センターの医師、竹下修由さん

 

ーー実際にエンジニアの方々も、医療現場はまだまだIT化の余地があるとお話しされていましたね。医療現場側の方々からはどう捉えていますか。

竹下:効率化は私たちもずっと求めてはいるのですが、さまざまな規制や文化が大きくて、阻まれているような状態です。現状を革新的に変えていくような動きをしづらい領域ではあるので、誰かどうにかしてくれないか、あるいは自分たちでどうにかしたいなとは思い続けています。

3人のエンジニアがアイデアソンを通じて得たもの

ーーエンジニアの方々は実際に参加されて、これまでの自分になかった・足りなかったなと感じたことや、今後の課題だなと気づいたことなどはありましたか。

田尻:スタートアップ事業でのアイデアソンということで、ポイントを絞っていかに目的を短期に達成するかという目線や考え方については、今後の仕事においても非常に使えると思いましたし、そういった考え方を取り入れるのが大事だなと気づきました。

中村:今回のアイデアソンで、本当にメインでフォーカスして考えたのがユーザーについてです。医療系のアプリケーションなどを使う顧客が本当に困っていることって何なんだろうということを、実際にがんサバイバーの方にも聞いて相談しながら作る中で、今まではそういう視点が比較的弱かったのかなという気がしました。エンジニアは、技術にすごく興味がある人だと、この技術を使いたいというのが先行するでしょうし、私は比較的サービスを作りたい人間なので、こんなサービスを作りたいということを考えてしまいがちです。そこで実際に使う人の顔が見えているのか、使う人がどれだけ困っているのかを掘り下げる視点を大きくできたのは、とてもありがたい収穫だったと思います。

大塚:私は医療分野の知識については素人レベルですが、医療従事者の方々は、プログラムやシステムには何ができて何ができないのか、どんな選択肢があるのかもわからない。相手が知らない分野の話をするときに、どれだけわかりやすく説明できるかというのは、今後も課題になるところかなと思います。

ーー三國さんと竹下さんにお聞きしたいのですが、今回この取り組みを実施されての感想や、今後こんなことをしたいといった展望はありますか。

三國弘樹さん:われわれベンチャーキャピタルの立場としましても、こういった場をもっと設けるべきだと思いました。今までは、違う業種と関わろうと思ったら転職をするしかなかったですよね。それが時代の流れもあってか、最近はこういうイベントにもだいぶ参加しやすくなってきていると思います。今回その波に乗ってみて、みなさんに飛び込んできていただけました。それぞれの立場の方々から今回のようなご感想をいただけたことに関しては、たしかな手応えがあります。

今後ももっとアイデアソンのようなイベントを実施して、みなさんが起業されたり、技術を事業に生かしたりするために役立つ仕組みを作っていきたいです。今回の医療のようなジャンルであれば、双方のギャップを埋められる活動になるかと思いますし、ニーズが深まってよい製品が作られる土壌もできそうだなと思います。

Beyond Next Venturesの三國弘樹さん

 

竹下:医療系のエンジニアって本当に少ないんですよね。私たちには開発したいネタがあって、モチベーションのある医療者もおり、最近はそういったところに少しずつコストをかけられる状態にはなってきているんですが、エンジニア人材がいない。ただ、(医療未経験のエンジニアであっても)中に入ってしまえば共通部分も多くて、文化さえ理解してしまえば、強みが発揮できるのかなと思います。

当院は「日本で一番エンジニアが入ってきやすい病院」というのを掲げていまして、あとはエンジニアのみなさんに飛び込んで来ていただくだけなのになと思っているんです(笑)。今回のような取り組みを続けていけば、医療者側も勉強になりますし、勉強していけばプロジェクトを作りたくなってくるので、そうやってベンチャー企業ともどんどん繋がっていければと思います。あとは、こうした取り組みが必ずしも出口に繋がらなくても、ネットワークを作って、ほかのことでもいろいろ相談をしたりするうちに、リアルなプロジェクトになっていけばいいのではないかと考えています。とにかく今回のような取り組みを継続していきたいですね。

ーーエンジニアのみなさんはまた今回のような取り組みが開催されたら、再び参加したいと思われますか?

田尻:時間との相談にはなるんですけど、こういう機会がまたあれば、やってみたいですね。この歳になってノーリスクで何かにチャレンジできる機会があるのは貴重なので、非常にありがたいと思いますね。

中村:私も参加したいなと思います。今回は思ったよりも密度が濃かったというか、やることが多かったので。事業立ち上げ直後の忙しい時期に割と軽い気持ちで参加してしまって、時間をしっかり割けなかったのを少し後悔していまして。ちゃんと時間を割ける環境を作った上で、しっかりコミットできる形で、次の機会があれば参加したいと思います。

大塚:そうですね、そのときに参加する余裕があればしたいなと思います。今回、せん妄というテーマのチームだったのですが、これまでの知識や経験が生かせたと思います。次にまた違うテーマのイベントに参加すれば、また今回とは違う自分の強みが見つかるかもしれないなと思います。

ーー皆さま、本日はありがとうございました。

座談会を終えて

医療という、通常ではなかなか関わることができない業界の事業を考えた今回のアイデアソン。エンジニアの3人からのお話からは、貴重な機会であるとともに非常に学びが多かったことが伝わりました。一方で、主催した病院側にとっても、エンジニアの参加によって得られることは大きかったようです。

自分の力でゼロからサービスを作っていくのは大変ですが、今回のようにアイデアソンのような形で入っていくのも1つの方法です。このような機会に積極的に関与することで、エンジニアのキャリアは、もっと幅が広がるのではないでしょうか。

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