「インフラエンジニアの採用が難しい」という話をいろいろなところで聞きます。著者も長年インフラエンジニア採用に関わっていて、このことをよく感じます。そこで今回はなぜインフラエンジニアの採用が難しいのか考察しつつ、どのようにしたら採用できるのか考えてみたいと思います。
インフラエンジニアの採用が難しい理由
インフラエンジニアの採用が難しいのにはいくつか理由があります。
そもそもインフラエンジニアは流動性が比較的少ない傾向にあります。その中でも特に経験豊富で優秀なインフラエンジニアともなると、転職市場でなかなか見かけない状況です。このことを人材紹介会社の方に話してみると、優秀な人が出たらすぐ決まってしまうのも要因の一つでないかのことでした。
また、自社で求めるスキルセットと候補者とのスキルセットが合わないという場合もあります。たとえば、Linux+オープンソース寄りのスキルセットを持つ人を募集しているのに対して、候補者のスキルセットがWindowsや商用ソフトウェア寄りであるとか、もしくはAWSの経験が豊富な人を募集しているのに対してAWS以外のクラウドしか経験がないなどといった場合です。自社で求めるスキルセットがあることを絶対条件にしてしまうと、ただでさえ転職市場に少ないインフラエンジニアにおいて、さらに候補者となりうる人の数を減らすことにつながります。
インフラエンジニアの定義
インフラエンジニアと言っても最近はさまざまな役割で細分化されています。たとえば以下のような役割が挙げられます。
- サーバエンジニア
- ネットワークエンジニア
- セキュリティエンジニア
- 運用監視エンジニア
など。
また広い意味でインフラエンジニアと呼べそうな役割には以下が挙げられます。
- SRE
- DevOps
- クラウドエンジニア
- 情報システムエンジニア
など。
それぞれで求められるスキルや転職市場での人材層が異なります。各々の役割では技術領域や経験の幅が異なるので、自社で必要な技術領域と候補者の経験領域や成長余地を注意深く見極める必要があります。
インフラエンジニア候補者に巡り合う方法
インフラエンジニアを採用するためには、とにもかくにも候補者となりうる人に巡りあえなければなりません。そのための手段はいくつかあります。
一番わかりやすいのは人材紹介会社に頼る方法でしょう。求める人材像を伝えておくと人材紹介会社から何人も候補者を紹介してもらえます。初級から中級エンジニアを募集している場合には比較的早く採用につながる場合が多いですが、リーダー級のハイレベルなエンジニアはなかなか採用できない方法です。なお、人材紹介会社を使うと比較的費用がかかります。
TwitterなどSNSで自社の採用情報を公開して広く募集する方法もあります。この方法は即効性が低い場合も多いですが、採用担当者の腕の見せ所で、思いのほかすぐに良い人が応募してきてくれることもあります。
最近増えているのが自社社員からの紹介、いわゆるリファラル採用です。知人の紹介となるので、自社に合う人材である可能性が非常に高い方法と言えます。
もしくは個別スカウトに長けた人材紹介会社を通して探すのも有効です。元々転職市場にあまりいないリーダー級のハイレベルなエンジニアを採用するのに有効です。
採用募集要項ページの作り込みが大切
自社に関心をもってくれた候補者の方は、まずは会社のホームページ、特に採用ページに書かれた募集要項を非常に参考にする方が多いです。よって、とにもかくにも募集要項を十分練ることが重要になります。
著者はこれまで採用面接を通して数百人の方々と直接お話しさせていただいたことがあります。その過程で転職志望者の方々が重視していると見受けられるポイントを整理してみたことがあるのでご紹介してみます。(ほとんどの項目はインフラエンジニアに限らず一般的なIT技術者のそれと大差ないと言えるでしょう)
- 技術力が身につく、もしくはキャリアアップができる職場環境であるか
- 自分の経験してきた技術が新しい職場でも通用するか
- 使われている技術は最先端かそれとも旧式か
- インフラの規模感
- ワークライフバランス(残業・無茶なスケジュール・夜間休日の電話や呼び出し等の有無、有給休暇取得の容易さなど)
- 今より年収が上がるか
- 人間関係のストレスがないか
- 会社名のブランド
- 会社の成長性
- 会社のスピード感
- マネージメントが求められるか
- リモートワークか、実際に出社しての勤務か
- 客先常駐の有無
- 得意な語学力が生かせるか
など。
これらの中で特にインフラエンジニアらしい点としてはインフラの規模感や夜間休日の対応が挙げられると思います。インフラの規模感についてはとにかく規模の大きいインフラに関わりたいという方もいれば、自分で全て見通せる程度の規模感を好む方もいます。また夜間休日の対応については今の会社が業務時間外対応が多すぎて転職を考えているという方もいれば、インフラエンジニアたるもの24時間365日インフラを守るために存在しているのでむしろ積極的に対応していきたいという頼もしい考え方の方もいます(夜間休日対応の発生自体は当然好ましいことではないですが)。
またキャリアアップについては、技術幅の拡大(オンプレ→クラウト、サーバ→ネットワーク、仮想化基盤→コンテナ基盤など)、技術の深さの拡大(運用→構築→設計など)、マネージメント、違ったレイヤーへの転換(インフラ→SRE/DevOpsなど)などといったものが考えられそうです。
募集要項を作成する際は、転職志望者の方がどういったところに反応するかイメージしながら、極力具体的に記せば記すほど転職意欲を高めてもらえます。
レベル別インフラエンジニア採用のコツ
経験豊富で優秀なインフラエンジニアは、所属している会社内で重要な役割を担っているので、常に忙しく転職を意識する暇がないといった場合が多いです。ただ、抱えていたプロジェクトが一段落するタイミングや、会社への不満(忙しすぎる、上長が理解がない、毎年同じようなことをしていて変化が乏しいなど)がある場合は転職のきっかけになる場合があります。
初級から中級のインフラエンジニアは、技術レベルの向上や年収アップを目指して転職先を探している場合が多いです。転職意欲がある場合は、うまく自社の魅力を伝えることができれば採用につながる場合が多いです。
技術レベルの向上を重要視している方においては、自社で扱っている技術領域、同僚の技術レベル、社員による外部アウトプットの成果、対応する業務内容(動いているものを監視・保守する程度の場合もあれば、新規構築、新規導入のための検証など)といったものを示すと入社後のイメージを具体的に持ってもらいやすいです。
また年収アップを目指している方においては、その方の扱える技術の幅(どこまでいろいろな技術を扱えるか)と深さ(どこまでその技術を突き詰めているか。たとえばマニュアルがあれば扱えるレベル程度なのか、オープンソースのソースコードを相当読み込んでいて自らデバッグできるレベルなのか、さまざまに組み合わさった技術を適切な技術用語を使いこなしつつ正確にその技術を説明できるレベルなのかなどなど)を考慮しつつ、その方に合った給料水準を業界水準と照らし合わせながら適切な額以上で提示する必要があります。
採用面接のコツ
希少なインフラエンジニアの採用面接においては、こちらが選ぶのではなくて、こちらが選ばれて来ていただくというマインドが必要です。よってぜひ採用したいという人には積極的にラブコールを送る必要があります。
応募者は、どういった条件であれば入社したいか、聞けば一応は答えてくれるとは思いますが、実は応募者自身もどういった条件であれば転職しても良いのかわかっていない場合も多いです。ですのでカジュアル面談や採用面接を実施する際は、応募者のツボがどこにあるのか注意深く観察することで自社のアピールがしやすくなります。このツボは本当に人それぞれで、難しい技術課題があればあるほど燃える、職場の居心地の良さがとにかく大切、できればLinuxよりもWindowsだけずっとやっていたい、技術レベルが非常に高い人と一緒に仕事がしたい、英語が使える職場環境が良い……などなど、いろいろな価値観の方がいます。
また、応募者は意外と採用面接の場での直感が入社してくれるかを左右します。採用面接の場で面接官や会社の心象がものすごく良ければ競合他社より多少条件が悪くても自社に決めてくれる場合もありますし、逆にどんなに条件を良くしても面接官や会社に対する心象が悪ければ他社に流れてしまいます。例えば面接官のこんなところで内定承諾を左右することがあります。
- 質問に熱意があるか
- 技術的な面白い質問がたくさんあるか
- 自社のことをアピールしたくてたまらないか
- 是非自社に入社してほしいと思っているか
- 自社のことをポジティブに紹介しているか(逆に愚痴っぽいことが出てないか)
- 明るい雰囲気か
- 不自然に疲れていないか
- 社内のチームワークが良いと感じるか
とにもかくにも面接中は、応募者の方に最大限の関心を持って、お互いがWin-Winの関係になれる存在か確認する場であることを常時意識することが大切です。
採用ミスに注意
採用ミスには、「実は採るべき人材を落としてないか」という観点と「採用してはいけない人を採用してしまった」という2種類があります。
「実は採るべき人材を落としてないか」については、非常にもったいないと言えます。よく起こりうる例としては、今はスキルや経験が足りないが、実は成長余地がとても期待できるような人です。特に初級レベルの方は、同じ知識や経験が物足りないにしても、直接お話ししてみると人によって技術レベルは相当違います。技術の学習を趣味としてやっているかもしくは習慣化して毎日進化しているような人もいれば、仕事で必要に迫られたことだけを試してみる程度の人です。この違いは採用面接で比較的容易に見抜くことができます。応募書類に書いてある技術キーワードについて掘り下げた質問を繰り返すことでどこまで知っていてどこまで自分で手を動かしてきたのかわかります。
「採用してはいけない人を採用してしまった」については、この人の存在がきっかけで周りの人が辞めてしまったり組織全体にネガティブな言葉が飛び交うようになるなどといった人間関係やコミュニケーションに関する問題を引き起こす場合もあれば、厳密な仕事が求められるインフラ構築・運営においてさまざまな手抜きをすることで、のちのちインフラが崩壊するといった場合もあります。特に取っていたはずのバックアップが取れていなくてデータが完全消失するだとか、冗長化していたはずがされてなくて想定外のサービスダウンが発生するなどといったことが起こらないとも限りません。
まとめ
インフラエンジニアの転職候補者の絶対数は比較的少ないので、まずは候補者の数をどうにかして増やす必要があります。そしてその中から自社に合う人を選んで面接で見極めます。このとき希望条件に完全に一致する人に巡りあうことはまれなので、成長も見越して採用しましょう。ポテンシャルのある方であるかをよく見極め、問題ないと判断したら積極的にラブコールを送りましょう。
ただ、人材採用というのは、ある意味運であり、絶対的な方法論は存在しないと言えます。でもなぜか本当に本当に必要になったときにはさらっと採用できてしまうこともあるのが人材採用の不思議なところです。