技術を個人の武器で終わらせず、組織の力へと広げていくために必要な「巻き込み力」。KINTOテクノロジーズ株式会社のあわっちさんこと粟田さんは、巻き込み力を発揮し、DBRE(データベース信頼性エンジニアリング)組織の立ち上げやコミュニティ活動などを実践してきました。

プレーヤーとして圧倒的な成果を重ねて視座を高め、現在はマネージャーとしてチーム全体に寄り添い走る粟田さん。数々の挑戦から掴み取ったエンジニアとしての思考法や、次世代を担う若手への熱いメッセージを伺いました。

粟田 啓介さん プロフィール

KINTOテクノロジーズ株式会社Cloud Engineering Group グループマネージャー。2007年、楽天株式会社に新卒入社。アプリケーションエンジニアからDBAまで経験し、2018年、株式会社ビズリーチ(現 Visional株式会社)へ転職。DBRE組織設立やCCoE組織のマネージャーなどを歴任。2022年、KINTOテクノロジーズ株式会社に入社。DBRE組織を設立し、データベースにおけるアジリティとガバナンスの両立を根付かせるための活動を行っている。

すべて自分で背負うのをやめた日。マネージャーの本質は「メンバーの給与最大化」

——プレイヤー視点から、周囲や組織全体を巻き込む「伴走者」としての関わり方を意識するようになった転機を教えてください。

粟田:一番の転機は、ビズリーチでCCoEのマネージャーを務めたときですね。そこには非常に優秀なメンバーが集まっていました。当時は「マネージャー=誰よりも技術を理解している人」だと思い込んでいたので、すべての業務を自分で背負い込もうとしていたんです。

ですが、当然そんなことができるはずもなく、僕自身がチームのボトルネックになってしまったんです。優秀なメンバーが揃っているのに、すべての進行が僕のところで止まってしまう。そんなとき、背中を預けられる信頼できる同僚がいたので、思い切って技術面は彼に任せ、自分はマネジメントに専念する決断をしました。

また、「How(やり方)」だけでは人は動かないということも学びました。メンバーが非常に優秀だからこそ、感覚で指示を出しても「なぜそれをやる必要があるのか」と問われ、動いてもらえなかったんです。当時はかなり厳しく指摘されましたね(笑)。Howだけでなく「Why(なぜ)」と「What(何をするか)」を明確にして伝える意識を持てるようになったのは、あの苦い経験があったからこそだと思っています。

——優秀な方たちをマネジメントした経験が活きているんですね。

粟田:これほど優秀な人たちと働いているのに、みんなの給与を上げられなかったらそれは僕の責任だと感じたんです。そのとき初めて、マネジメントの最も重要な軸を「メンバーの給与を最大化すること」に置きました。それ以来、すべての行動基準を自分のためではなく、「チームのために何ができるか」へとガラリと変えたんです。

そもそも、チーム自体が評価されなければ、個人が評価されることもないと思っているんです。まず組織やチームが成果を認めてもらい、その土台があって初めて個人の評価に差がついてくる。だからこそ僕は、何よりも「チームが評価されるために必要なこと」に全力を注いでいます。

——組織の成果を最優先にする思考へと変えられたのですね。そのスタンスのもと、KINTOテクノロジーズ入社後のDBRE組織立ち上げという難度の高いプロジェクトには、どのようなアプローチから着手されたのでしょうか。

粟田:入社当時は「DBRE」という箱があるだけで、ほぼ手探りのスタートでした。プロダクトの歴史もキーパーソンも知らず、必要な情報がどこにあるかも分からないという状況でした。

それに、データベース系のドキュメントって結構「現実と違うこと」が混ざりがちなんですよね。手動でのアップデートは手間がかかるので、どうしても実態とずれていってしまうんです。でも裏を返せば、それは誰もが「面倒だな」「メンテが大変だな」と感じている領域だということ。そこで、まずはドキュメントを自動生成できる仕組みづくりから着手しました。新しく入社した人間が信頼を得るには、みんなが手を付けたがらない不便さを率先して引き受けるのが一番ですね。

そうした活動を愚直に積み重ねることで、DBREの価値を社内外へ高めていきました。特に大きかったのが、「AWS Summit Tokyo 2023」に登壇して僕たちの取り組みを発表したことです。この発信が大きなきっかけとなり、たくさんの優秀な仲間が入社してくれました。

登壇×カジュアル面談のセット運用で、若手に「自分は何者か」を言語化させる

——若手エンジニアがプレイヤーとして成果を出しつつ、少しずつ視野を広げてチームに貢献し始めるために必要な最初のステップは何でしょうか。

粟田:大切なのは、まず「自分の特性」を意識することです。その上で、自分の強みや特性に合わせた形で組織の活動に加わってほしい、と若手のみなさんには伝えています。DBREだからといって、最初からデータベースの深い知識を持っている必要はありません。技術や知識なんて、後からいくらでも身につけられますから。

うちのチームは全員キャリア入社なんですけど、DBA未経験の状態で入ってきてくれた人のほうが多いんです。

あと、どれだけ実績のある方が入社してくれたとしても、「すぐに価値を出すことは期待していません」と最初に伝えています。まずは2〜3ヶ月のオンボーディング期間をしっかり設けています。

——自身の立ち位置を理解した上で、さらに視座を高めて「自分は何者か」を確立していくために、若手時代から取り入れられるアウトプットの習慣などはありますか。

粟田:人に自分の仕事を伝えることを、ぜひ実践してほしいですね。

実は、いまSREのリーダーを務めてくれているメンバーも、僕のグループに入ってきた当時は「エンジニアとして自分が何者なのかわからない」と迷い、葛藤している状態だったんです。

そこで、彼に最初に挑戦してもらったのが登壇でした。登壇するとなると、アウトプットのために10倍のインプットが必要になりますし、自分の仕事を言語化して社外へ発信することになりますよね。そうやって強制的に「自分は何に向かって仕事をしているのか」を言葉にする状況を作ったんです。

その次に任せたのが、カジュアル面談の担当です。登壇で言語化した内容に対して面談で質問を受け、それに答えていく。このプロセスを繰り返すことで、自分が何者なのかが少しずつ見えてくるんです。この登壇とカジュアル面談はセットでこそ効果を発揮します。登壇だけでは一方向の言いっぱなしになりますが、面談なら相手の反応や問いがダイレクトに返ってきますから。

テックブログを書くことも有効です。とにかくアウトプットするつもりで仕事をすると、成長速度が上がります。自分は何の仕事をしているのか、何のためにしているのか、誰のためにしているのか。こうしたことを意識して人に伝えることが重要だと思います。

第一声は「ありがとう」から。相手を味方に変える「伴走型」コミュニケーション

——自分だけではできない大きな価値を生み出すために、周囲のメンバーや他部署を巻き込み、味方を増やしていくためのコミュニケーションのコツを教えてください。

粟田:自分に相談してくれたら、まずは「ありがとうございます」から始めることですね。極端な話、僕らがいなくてもアプリケーション自体は動くわけです。それにもかかわらず、わざわざ僕たちを頼って問い合わせてくれている、そのことへの感謝の気持ちを常に持っています。

あとは、どれだけ素早くレスポンスできるかも大事ですね。回答に時間がかかる問い合わせだったとしても、まずは途中経過を伝える。可能であれば、相手も巻き込んで「一緒に課題に向き合っている」という伴走状態を作ることが、社内に味方を増やすうえで何より大切だと思っています。

——周囲を巻き込んで成果を最大化するうえで、「目的の言語化」や「課題の価値共有」を行う際に工夫していることはありますか。

粟田:マインドマップを使って思考を構造化する際、 How(手段)は絶対に書きません。書くのは Why(目的)と What(課題・目標)だけで、How は状況に合わせて柔軟に変えてもらっているんです。その代わり、「なぜその How(手段)を選んだのか」という選択の理由をしっかり言語化してもらうようにしています。

自己満足で終わるなら、別に仕事である必要はないですよね。だからこそ、「誰の、何を幸せにするのか」という目的意識を常に持ってもらうことが不可欠なんです。

——知見の言語化やドキュメント化も徹底されているのですね。

粟田:AIの活用が進む現在だからこそ、ドキュメントとしてナレッジを残しておくことが重要なんです。実際、うちのメンバーたちはものすごい量のドキュメントをConfluenceに残してくれていて、文字数だけで見ると半年間で150万文字くらいになりますね。

声を出して成果を出す人が勝つ世界で、発信力を身につけるには

——ガバナンスや仕組みづくりを単なる縛りにせず、現場が納得して自然と巻き込まれる文化として定着させるために、大切にされているアプローチはありますか。

粟田:「ここからここまでは自由にやっていいんだよ」と、明確な境界線を伝えるようにしています。そして、もしその範囲から外れてしまったときには、責めるのではなく一緒に軌道修正へ向かう。そういうスタンスを持つことが、現場を縛らない健全なガバナンスのあり方だと思っています。

DBREという専門性に特化してお話しすると、万が一間違ってデータベースを壊してしまったとしても、「なんとかするから安心して使って」と周りに伝えるようにしています。もちろんデータが欠損するリスクはゼロではありませんが、そこはしっかり対話を重ねて安心感を提供する。これこそが、自分の専門領域で果たすべき一番の責任だと思っています。

——そうした安心感の提供も重要ですね。一方で、自分の意見や提案を周囲に伝えるのが得意ではない若手エンジニアに対しては、どのようなアドバイスをされていますか。

粟田:メンバーには「自己肯定感を持ってほしい」と常に伝えています。「声の大きい人が勝つ」世界に不満を抱く人は多いと思うんです。でも僕は、発言力のある人が評価されるのは当たり前だと思っていて。ただしその前提にあるのは、「声を上げ、かつ成果を出している人が勝つ」ということ。自分のやっていることを声に出せないときって、実は評価の責任を他人に押し付けてしまっているんですよね。マネージャーが把握しきれない裏方の仕事まで、「評価してくれて当然でしょ」と思い込んでしまう。後から「こんなに頑張っていたのに、なぜ評価されないんだろう」とモヤモヤするくらいなら、最初から自分から言葉にしてアピールしたほうが絶対にいいと思うんです。

自分のやっていることを周囲に言葉で伝えるためには、前提として自己肯定感を持つことが欠かせません。「自分の仕事には価値があるんだ」と自分で自分を認めてあげられて初めて、堂々と声を上げて周りに発信できるようになるからです。

——「質問や相談をしたら申し訳ない」と遠慮してしまう若手エンジニアに対しては、普段どう声をかけたり、お互いに助け合える空気を作ったりされていますか。

粟田:チームの空気って、ちゃんと明文化しないと伝わらないと思っているんです。だから僕たちのチームでは、「ワーキングアグリーメント」という約束事を作っています。例えば、「1時間のミーティング後は15分休憩を入れる」とか「カメラは原則オンにする」といった具体的なルールですね。「なぜそうするのか」という理由までセットで言語化しています。

質問や相談のルールも明確にしています。「15分考えて分からなかったらすぐ聞く。気兼ねなく相談していいけれど、相手にも都合があるから早いレスポンスを期待しすぎない」といった内容ですね。お互いに遠慮しすぎず、かつ相手のリスペクトも忘れない絶妙なバランスを明文化しておくことが大切なんです。

「15分考えて分からないことに延々と時間を費やすくらいなら、あなたの時間をより建設的で生産的な作業に使ったほうがずっといいよね」という感覚なんです。そうした思考のスタンスや判断基準をうやむやにせず、ワーキングアグリーメントとしてしっかり明文化するようにしています。

——今後、目指しているチーム像や、個人・組織として挑戦していきたいことをお聞かせください。

粟田:いまもまさに挑戦中なのですが、「全員が自律的に動ける組織と人づくり」をものすごく意識しています。自分がやっている業務を受け身の作業にせず、一つひとつのアウトプットに責任を持つことが何より重要だからです。全員が同じ目標を向きつつも、それぞれが異なるタスクを担い、それらを掛け合わせることで価値が生まれるのだと思っています。

——最後に、いままさにコードを書きながら「より大きな成果を出したい」「仲間とともに成長したい」と模索している若手エンジニアへ向けて、メッセージをお願いします。

粟田:若手の人たちに一番伝えたいのは、自分が「何者になりたいのか」をしっかり言語化して、それに向けて自分は何ができるのかを常に考えることです。

もう一つは、自己肯定感を持って「自分のやっていることは絶対に無駄じゃない」と信じて取り組むことです。その前向きな姿勢を持ち続けられるかどうかが、結果として成長のスピードを大きく左右すると思っています。

3年後・5年後に振り返り、「あのとき挑戦して良かった」と思える成功体験を増やすことが大切です。目の前の課題に全力で向き合った蓄積こそが、将来の大きな糧となります。

→ 前編『絶望の未経験からトップDBREへ。あわっちさんに聞く、これからの時代に愛されるエンジニアの共通点』

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