自律的に判断・実行し、タスクを完遂するAIエージェント。2025年、Claude Codeの登場によって、コーディングのあり方は劇的な変化を迎えました。エンジニアの日常にAIが深く入り込む今、私たちの仕事の本質はどう変わっていくのでしょうか。

AIエージェント専門企業、株式会社ジェネラティブエージェンツ代表取締役の西見公宏さんに、AIエージェント時代を生き抜くための生存戦略と、Claude Codeがもたらす「メタメタプログラミング」の可能性についてうかがいました。

西見公宏 プロフィール

株式会社ジェネラティブエージェンツ代表取締役CEO。2024年3月、AIエージェントの開発・利活用を専門に扱う同社を創業。法人を中心にAIエージェントの活用支援・開発支援を行っている。LangChain公式アンバサダー。著書に「その仕事、AIエージェントがやっておきました。」(技術評論社)単著、「LangChainとLangGraphによるRAG・AIエージェント[実践]入門」(技術評論社)共著、「実践ClaudeCode入門―現場で活用するためのAIコーディングの思考法」(技術評論社)共著、「現場で活用するためのAIエージェント実践入門」(講談社)共著。SoftwareDesign誌「実践LLMアプリケーション開発」(技術評論社)連載。

LLM無職からAIエージェントの旗手へ

——西見さんは現在、AIエージェントの第一人者として活動されていますが、ソフトウェア開発のスペシャリストとしての視点が、どのようにAIへの傾倒につながったのでしょうか。

西見さん(以下、西見):学生時代からウェブ事業を起業するなど、事業を自分でやっていくことに興味がありました。

大学卒業後に大手システムインテグレータへ入社して、財務会計領域を中心にERPの導入コンサルタントをしていました。その後、受託開発での新しいビジネスモデルを掲げたベンチャーでフルスタックエンジニアとして、さまざまなサービスの立ち上げを経験しました。その後、2022年11月に独立したのですが、ちょうどその月にChatGPTがリリースされたんです。「これは世界が変わってしまう」と直感しました。「LLM無職」って最近よく聞きますけど、そんな感じでAIにどっぷり浸かって、新しいものを作っていこうと考えました。その後、執筆活動やプロトタイピングを通じてAIエージェントの可能性を確信し、2024年にジェネラティブエージェンツを設立しました。

「指示通りに書く」から問われるのは「問題認識力」

——Claude Codeのような自律型AIの普及により、エンジニアが向き合うべき「課題」の質はどう変化するのでしょうか。

西見:ソフトウェアエンジニアの本質的な仕事とは、単に「指示どおりにコードを書く」ことだったのでしょうか。

私は、業務をスケールさせるための自動化や、品質向上のための仕組みを考え、構築することこそが本来の仕事だと思うんです。課題を解決し、事業ビジョンを実現するための仕組みを企画段階から発想していく。そこにこそ価値があります。

コードを書く作業自体はClaude Codeが代行してくれるようになりました。しかし、「どう問題を解決・改善すべきか」という問いは、今もなお人間にとって難しい、かつ重要なテーマです。コード生成やリサーチといったタスクは寝ている間にAIが済ませてくれるかもしれませんが、本質的に人にしかできない領域の重要性は、むしろ高まっていくはずです。

——そうなると、「言語化力」がこれから求められるようになるのでしょうか。

西見:それだけではないと思います。そもそも、なんとなく感覚でやっていたことを言葉にしてはじめて言語化になるわけです。でも、それ以前に問題を正しく認識できていたのかが問われます。AIがそれを問題だと明確に認識できるまで、自分がその問題を認識できていたのか問い直されている感じがします。

——AIには見えず、人間にしか捉えられないシステムの副作用や複雑性を認識する力は、どうすれば養えるのでしょうか。

西見:僕は「システム論」って考え方がすごく好きなんですよ。問題には、要素が絡み合っていても一つずつ解けば解決できる煩雑な問題と、問題同士が相互作用していて全てを完全に解くことはできないけれど、どこかの副作用を優先して解決策を取る複雑な問題があると言われています。

世の中の問題は基本的に複雑です。特に組織の問題。みんなが満足する人事制度を作るのは難しい。誰かの仕事に報いれば、その副作用で別の不満が出たりもする。そのため、この複雑な問題をいかに認識できるかが問われます。成果をどう出していくかという問題も、方程式のように「こうすれば業績が上がる」と言い切れるものはほぼありません。市場の作用、お客様の変化、組織の変化、諸々の要素が絡み合って、その中で一番妥当なものを選択・実装していく。これこそがシステム論的な見立てで、非常に重要と考えています。

——コードはAIが書けてレビューもできる時代、ソフトウェアエンジニアに求められる能力は何になりますか?

西見:コードを書くのがそもそも仕事だったのかなっていうのはありますよね。僕は13歳ぐらいからずっとプログラマーとしてやってきて、人生のほとんどコードを書いて生きているので、コードに対する捉え方の価値観がちょっと違う部分はあるなと。

そもそもエンジニアの仕事とは何だったのか。ただコードを書くことが仕事だったのか、それとも業務の品質を上げるためにどんな仕組みが必要か考えて作っていくことが仕事だったのか。私は後者だと思うんです。そうなると、その仕事自体は一瞬では終わりません。

コードを書く作業は、Claude Codeなどが代行してくれるようになりました。しかし、「どうすれば問題を解決・改善できるか」という本質的な問いは、依然として難しいものです。

若手エンジニアこそビジネスの全体像を掴め

——「下積みの作業」をAIがやるようになった今、若手はどうやって成長していけばいいのでしょうか?

西見:全体を把握することにもっと取り組んでいくのがいいと思います。自分や周囲のチーム、組織、会社が置かれている市場環境、業界の中の位置づけ、社会から見た立ち位置……。その関係性の中で、自分やチームのサービスがどこにあるのか。若手はどこから始めるべきかというと、自分が関わっているサービス・事業が今どういう位置づけで、なぜ収益が上がっているのか、ビジネスモデルをよく理解することからスタートするのがいいと思います。

これからは、開発チームはどんどん小さくなると思うんです。4〜5人で大きなプロダクトを作っていくのが当たり前になる。Amazonでも「ピザを分け合える小規模チーム」と言われますが、小さいチームは強い。じゃあその一員として、与えられた仕事だけできる人間でいいんだろうかという問いがあるわけです。

これまでの考え方だとジュニアはまず作業をやるという位置づけだったかもしれないですが、その捉え方も変わってくる。より複雑な仕事が中心になり、難易度の低い仕事でもある程度全体を見ないとこなしていけない。仕事環境が変わるので、そこに備えることかなと思います。

AIが代替できない、腹を決めるという意思決定

——エンジニアが技術的な選定者から事業的な意思決定者へと進化するためには、どのようなマインドセットが必要ですか?

西見:AIに作業は代替されていきますが、複雑な問題には答えがありません。何かを取れば、何かが悪くなる中で、みんなが妥協できる策を考えていくというアプローチになるわけです。これはとにかく答えを出そうとするAIにとっては相性が悪い部分です。

結局、腹を決めるのは人なんですよね。AIに「この内容で腹を決めてください」と言われても、なかなか難しいですよね。自分事としてとらえられる人が腹を決めることで、ようやく話が進んでいきます。これをできる人になることが重要だと思います。

また、リーダーシップだけでなく、フォロワーシップも大事です。腹を決めようと言われたら、リスクをとって一緒についていくことも意識として必要になります。リーダーとフォロワーどちら側でもいいのですが、このような意思決定に関わっていけるポジションに立っていくことが大事になります。

「メタメタプログラミング」でAIが自走する環境を設計する

——「実践Claude Code入門―現場で活用するためのAIコーディングの思考法」(技術評論社)を共著で出版されています。Claude Codeについて、どのようなものか教えてください。

西見:そもそもClaude CodeとはAIエージェントの一種です。AIエージェントとは何かというと、以前書いた本では「環境と相互作用しながらタスクをこなす知能システム」と説明しました。タスクを与えると、自分でどうすべきかを考えて自身で達成するソフトウェアです。

例えば「14時に取材が終わったのでご飯を食べたい、いい店を探しておいて」と言ったとします。14時に食べるなら、14時に閉店する店をリストアップされても困るわけです。自分で15時ぐらいまで開いている店を考えてリストアップする必要がある。これは人間が指示しているのではなくて、エージェントが「空気を読んで」条件分岐を自分で作って達成する。そういう意味で知能システムだと言えます。

Claude Codeは、そういったタスクの中でもプログラミングの作業に特化したエージェントです。中で使っているLLMはコーディング性能が非常に高いモデルなので、どんどんコードを書かせる仕組みを作り、大量のファイルを生成した上で全体の整合性が取れるようにコードを整理していく、ということに長けたエージェントです。

——Claude Codeはエンジニアの業務をどのように変えるとお考えでしょうか。

西見:指示通りのタスクをこなすことは、代行できてしまいます。ただ、AIに難しい領域はまだ残されています。たとえば、非常に低レイヤーなレベルでの高速化やコスト削減に関しては、チューニング能力がまだそこまで高くはありません。

あとは、いろいろなシステムを連携していくような仕事も同様です。他のシステムの仕様を踏まえたうえで、どうテストしていくかという戦略は一気に難しくなります。そういった複雑なシステムをうまくメンテナンスし、継続的に機能開発できるようにするのは、人が頭を使う領域です。

こうした計画や設計に、エンジニアは多くの時間が割かれるようになるはずです。その計画をしたうえで、うまくAIエージェントに働いてもらえるような環境づくりをしていくことが仕事の中心になると思います。

「メタメタプログラミング」でAIが開発しやすい環境をつくる

——AIによる開発を進める現場において品質担保について課題を感じる方も多いです。どうすれば、品質が担保されると思いますか?

西見:人間が入って品質を見るのはシンプルですが、それをしたくないというニーズが大きい。AIが書き散らかしたコードを全部人間がチェックして受け入れるのはAIの尻拭いをしているようで面白くない仕事になります。

大きなポイントは「AI自身に自己検証させること」です。画面を動かす、テストを動かす、コードスタイルをチェックする、というふうにAI自身が自己検証できる環境を人間が整える。

コードを生成するコードを書くことを「メタプログラミング」と言いますが、さらにAIエージェントを操る構造を作っていくので「メタメタプログラミング」に取り組んでいくのが今のエンジニアの姿かなと。これはエンジニアリング組織を作るマネージャーと同じ考え方です。みんなが開発しやすい環境を作るマネージャーのように、AIエージェントが開発しやすい環境を作っていく。みんながEM(エンジニアリングマネージャー)と同じ仕事をしていくことになるかなと。

DXの真打ち「AIエージェントビルダー」が牽引する未来

——AIエージェントを活用するうえで、意識したほうがよいことを教えてください。

西見:AIエージェントに、気持ちよく働いてもらうことが重要です。そのために、パフォーマンスを出しきれるような環境づくりが必要になります。情報を適切に得られるように整理するなど、とにかくAIエージェントがつまずかないような環境づくりに注力するのが、使いこなすポイントですね。

さまざまなAIエージェントがあるので、相性の良いものと一緒に共同作業をしていくのがいいのではないでしょうか。

——最後に、西見さんの今後の展望を教えてください。

西見:今後は、AIエージェントが生活や体験を支える中心的な概念になっていくと思っています。AIエージェントを使うことも楽しいですし、自分や業務に最適化されたものをつくっていくことも楽しいです。

私たちの会社では、業務を構造化し、「AIエージェントにどう働いてほしいのか」整理して形にできる人を「AIエージェントビルダー」と呼んでいます。AIエージェントビルダーは、自分で自分のほしいエージェントをつくっていき、それによって会社や世の中の課題を解決していけます。そういう存在が活躍する世界だといいなと思っているので、AIエージェントビルダーをどんどん増やしていきたいですね。

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