2024年5月13日、GitHub CXO来日記念イベントが開催された(主催:一般社団法人 日本CTO協会 会場提供:株式会社SmartHR)。
「ちょっと未来の開発者体験を知る」テーマでおこなわれた本イベントは、ライトニングトークやセッションに加え、GitHub本社のCOO・CLO・CROによるパネルディスカッションが実施された。本記事では、イベントの様子をお伝えする。
目次
マイクロソフトとGitHubのシナジー
まずは日本マイクロソフト株式会社で執行役員を務める岡嵜 禎さんが登壇し、マイクロソフトとGitHubのシナジーについて語った。
マイクロソフトは、2018年にGitHubを買収。両社は協力し合い、開発ライフサイクルのあらゆる段階でより多くのことが実現できるよう開発者を支援している。

「開発者の方々にとって、GitHubはスタンダードなプラットフォームになっていると思います。グローバルではユーザー数が1億人を突破しました。最近ではGitHub Copilotという形でAIの力が加わっています。私たちマイクロソフトは開発者ファーストの会社であり、GitHubと協力することで、開発者の自由やオープン性、イノベーションへコミットできると考えています」
生成AIが開発者にどのようなメリットを与えるかについては、大きく分けて2つあると岡嵜さんは話す。それが「開発プロセス」と「サービス全体」でのメリットだ。
設計・開発・テスト・運用という開発プロセスに生成AIが活用され、より生産的になると同時に、より満足度の高い仕事に集中できるようになる。
また、生成AIの登場により、アプリケーションは従来のMVC(モデル・ビュー・コントローラー)から、MVA(モデル・ビュー・AI)へ進化する。MVCモデルにおけるコントローラ部分がAIに置き換わるMVAモデルにより、エンドユーザーの体験を含むサービス全体でもAIが活用されるようになる。利用者の要求に応じて、そのときに最適な手段をアプリが考えて処理する世界が現実的になってきた。
これにより、新しいユーザー体験が生まれたり開発生産性が高まると考えられる。
GitHub Copilot 4つの活用法
続いて、開発にGitHub Copilotを活用している企業の事例紹介がおこなわれた。1社目はSansan株式会社の前嶋さんが登壇。
実験的な機能を提供する「Sansan Labs」では、2022年から2024年の間に約25個のアプリケーションをリリースしている。アプリケーションの企画からリリースまでの目標期間を2週間としているため、GitHub Copilotに助けられているという。

「GitHub Copilotの登場によって、以前は人に聞かないとわからなかったことが24時間365日聞けるようになりました。プロジェクト特有の知識が必要な部分や、ソフトウェア開発における本質的な部分に時間を割けるようになったと思います」
そう語る前嶋さんは、具体的な活用法を4つ紹介してくれた。
1つ目が、「初手でなにか問題ある? と聞く」こと。これにより、チーム内のコードレビューに回す前に大きな問題点を減らしておける。また、自分では気づかなかった視点を得られることがあり、開発力の向上にも寄与する。
2つ目が「diffを解析・解説してもらう」こと。#fileを使うとcontextに与えたいファイルを指定可能になる。変更内容の解説や、さらに修正すべき点の提案などからコードレビュー時の参考情報として活用できる。
3つ目が「トランスパイラとして使い、未知の世界を覗く」こと。たとえば、EDAをおこなう際はR(tidyverse)で書き、同じロジックをPython(pandas)で書き直す。そうすれば自分で書いたコードをベースに別言語の作法を学べるため、学習効果が高い。
4つ目が「最適なデザインパターンを提案してもらう」こと。全体的にコードが散らかってきた際に、運用可能なデザインパターンの提案とコード例の出力を指示する。自分の実装に則した形で、適切なデザインパターンを学べる。
より多くのContextを与えて、精度向上を狙う必要がある
2社目には株式会社プレイドの日鼻さんが登壇。GitHub Copilotを導入する際の話からはじまった。費用対効果は一旦抜きにして、まずはエンジニアに試してもらい、効果が実感できなかったら後から絞ればいいというスタンスではじめたそうだ。
効果測定のためにGitHub Copilotの利用状況が取得できるAPIを使い、どれくらい利用しているのかをデータ化した。

「全体で約90人のエンジニアがいるなかで、30人から50人が日々アクティブに使っています。データを見ると、GitHub Copilot Chatを使っている人は少ないことがわかりました。アンケートを取った結果、ほとんどのエンジニアが作業効率アップに寄与していると評価してくれました。使用しているタスクに関しては、やはり新規コードの作成が多かったです」
新規コードの作成以外にも、既存コードのデバッグやコメント・ドキュメントの生成などにも使用されているという。使い方として、型に沿った初期値の定義やデータベーススキーマの生成、似たような構造のデータや機能をつくる、新規コードを書く際のたたき台作成などが紹介された。
ただし、見極める力が必要になる。おおよそは合っていても、ロジックの一部に間違いのあるコードが含まれる場合もあるため、注意が必要だ。より多くのContextを与えて、精度向上を狙う必要がある。
AIを導入するのは大前提。これからはどう活用するかの議論が必要
続いて、GitHubでアカウントエグゼクティブとして営業を担当している松田さんが登壇。AIによるソフトウェア開発の変化と、AIを最大限活用する方法について話してくれた。

AIによって、ソフトウェア開発や開発者体験そのものが根元的に変わってしまう。そんなパラダイムシフトが起きていると松田さんは話す。
「今後は、激しい変化にどのように追従していくかが企業として非常に重要になってくるかなと思います。これまではAIを導入するか、しないかの議論でした。ただ、これからは導入することが大前提となります。そのうえで、どう活用していくか、どう活用の幅を広げていくかが企業として今後成長していくうえで必要になると思います」
松田さんは、企業のGitHub Enterpriseの採用理由を3つ挙げてくれた。1つ目が「ガバナンス強化」だ。IdPと連携してクラウド上にあるソースコードへの不正アクセスを防ぎたいという声がある。
2つ目が「運用管理の効率化・最適化」だ。アカウント管理や請求をまとめたい、プロジェクトやチームごとにそれぞれ適切なポリシー設定が必要だ、という声がある。
3つ目が「ソースコードのセキュリティ担保」だ。開発の初期段階からセキュリティを担保したい、AIで脆弱性を自動的に修正したいという声がある。
GitHub CXOによるパネルディスカッション
最後に、GitHub社とマイクロソフト社によるパネルディスカッションが開催された。GitHub社からはCOOのカイル デイグルさん、CLOのシェリー マッキンリーさん、CROのエリザベス ペンメルさんが登壇。モデレーターは、日本マイクロソフトの岡嵜さんが務めた。

2013年にGitHubへ入社したカイルさんは、エコシステムエンジニアリングチームを立ち上げた人物だ。現在は、GitHubエグゼクティブチームの生産性向上と成功をサポートしながら、戦略的プロジェクトやプログラム管理、コミュニケーションを統括している。
GitHubはプラットフォーム上の開発者数が1億人を突破しているが、さらに遠くの未来を見据えている。カイルさんは次のように目標を語った。
「私たちの目標は開発者が10億人いる世界の実現です。誰もが自然言語を使ってソフトウェア開発の効率向上をできるようにしたいのです。私の親のような技術に疎い人でも利用可能にしたいと考えています」
「AIが人間の仕事をどう補強していくと思うか」という質問に対しては、次のように回答した。
「誰もが喜んで毎朝のメールを処理するわけではありません。仕事の重要な一部だからやっているのであって、楽しんでいるわけではないのです。私にとっての良いAIは、私たちが最も興奮する仕事、創造性を必要とする仕事に取り組めるように助けてくれるものです」
AIを活用することで、やりたいことに集中できる環境がつくれるようになりそうだ。

2005年にマイクロソフトのデベロッパー部門でキャリアをスタートしたシェリーさん。現在はCLOとして、信頼と安全や社会的影響、開発者ポリシーや製品・規制法務、商業法務、法務オペレーションを担当するチームを率いている。
生成AIツールを利用する際、企業はデータの取り扱いがどうなっているのか気にする。シェリーさんにもデータプライバシーや知的財産権などの質問が多く寄せられるという。
「この2年間、顧客と話すために世界中をまわりました。そのなかでAIと法律に関する質問を多くいただいています。企業としては、まずコンプライアンスや法務を担当しているチームが技術を理解する必要があります。そして、CTOや技術者がこうした関係者を早い段階で巻き込むことが重要です」
GitHubとマイクロソフトは、法的責任についての責任を負う立場を表明し、著作権侵害についてはユーザー組織を保護している。GitHub Copilotを利用した顧客が、第三者から著作権侵害をしたという理由で訴えられた場合、顧客を弁護し、賠償金支払いを命じられた場合は肩代わりする。これにより、GitHub Copilotユーザーの法的懸念に対応している。

2015年にGitHubへ入社したエリザベスさん。CROとしてセールスやカスタマーサクセス、サポートやオペレーションなど、GitHubの市場開拓とカスタマーエクスペリエンスの全側面を統括している。
企業がGitHub Copilotを採用していく際にGitHubがどのようにサポートしていくのか。エリザベスさんが語ってくれた。
「企業全体での採用に関するロードマップを公開しており、そこには私たちが学んだ教訓だけではなく、顧客から聞いたことも含まれています。さらに、支援を求める顧客のために、カスタマーサクセスチームによるサポートを提供しています。ほかにも、YouTubeで動画を公開していたりウェビナーを開催したりしています」
今後はマイクロソフトとも協力し、さらにGitHub Copilotを導入しやすくしていきたいと将来の展望を語ってくれた。
本イベントには約100名が参加し、イベント終了後には懇親会も開催。多くのエンジニアが集まり、情報交換がおこなわれた。このイベントを主催した日本CTO協会のミッションである「テクノロジーによる自己変革を日本社会のあたりまえに」を体現したイベントとなった。
(取材/文/撮影:川崎博則)
