一般社団法人情報サービス産業協会(JISA)が公表した「2024年版 情報サービス産業 基本統計調査」(2023年度データ)によれば、調査対象の正会員企業において、全従業員に占める女性の割合は24.7%です。一方、職種を「ITエンジニア」に限定すると、その女性比率は21.0%に低下します。他調査でも数字の若干の上下はあるものの、一貫して女性のITエンジニアが少数であることは明らかです。
経済産業省では、2030年にはIT人材が79万人不足する、と悲観的な予測を出しています。
しかしこの数字は、いま比率の少ない女性エンジニアが男性エンジニアと同数まで増えることで、ほぼ解消する数字でもあります。

paiza株式会社(以下、paiza)では、より多くの女性がIT業界への進路を選択できるよう、高校・大学の女子生徒・学生を対象にしているイベント「ITは私のミライを広げてくれる。」を開催しています。
自分らしいキャリアの見つけ方とAI時代のITエンジニアのリアルをお伝えするための第1弾として、福岡女子商業高等学校(以下、福岡女子商)でpaizaと株式会社LayerX(以下、LayerX)のエンジニアリングマネージャー新多 真琴さんによる講演、ワークショップ、交流会が行なわれました。
目次
オフィス環境とやりがいから見る、女性ITエンジニアの働きやすさ

講演は、paiza 代表取締役社長/CEOの片山 良平の登壇で始まりました。
片山は最初に、事前に福岡女子商で取ったアンケートの「IT業界で働くことを62%の生徒がイメージできていない」という結果を提示します。その上で
「IT業界がどのようなものかイメージできている人は1割に届いていませんでした。ですので、IT業界の魅力をお話ししたいと思います」
と、IT企業であるpaizaのオフィス紹介と、女性社員の働きぶりについて紹介を始めました。
「paizaは社員の男女比率が6:4と、IT企業の中で女性の社員が多い方です」

東京・虎ノ門にあるpaizaオフィスは全体的にカフェのようなスペースで、個々で音楽を聴きながら仕事をしても構わない風土を紹介。髪型や服装・ネイルなど様々なファッションを楽しみながら業務にあたっている女性社員を取り上げました。
他社事例も含め「カジュアルに働ける人が多く、スーツを着ている人は少ないですよ」と、働きやすいポイントを伝えました。
身近なサービスもITの仕事から。ユーザーの反応を直接見られるやりがい

続けて片山は、生徒たちが普段から慣れ親しんでいるLINE・TikTok・InstagramなどのアプリがIT業界の仕事として生まれていることを示しました。
「作ったものが形になりやすい、人の目に留まりやすいのはIT企業の大きな魅力の一つです」
と語り、世の中の人々の反応を直接見られる手応えがやりがいの一つであることを伝えます。片山自身がディレクターだった時代、携帯サイトやスマートフォン向けの動画コンテンツを作ったり、携帯端末の情報を事前に登録したりしておき、発売日になるとメーカーサイトに機種情報が表示されるようなシステムを構築していました。
「自分たちで企画をして、世の中に出す。それを見た人たちから反応をもらえる。こうした繰り返しはとても楽しかったです」
片山は自分の経験を踏まえ、IT業界で働く楽しみをこのように伝えました。
将来を担う若者に伝えたい、IT業界で働く5つの魅力

片山は最後に、IT業界で働く魅力をまとめ、生徒たちに語りかけました。女性の社会進出・後退する景気・IT人材のニーズ増・ライフスタイルや仕事に対する取組み方の変化などの背景を踏まえ、IT業界で働くことについての特徴を以下のようにまとめました。
・テレワーク率が高い
ーー情報通信技術を活用し自宅からでも働ける
・比較的、収入が高い
ーー時代のニーズに沿った仕事。人材不足
・自分で学ぶことができる
ーーpaizaラーニングなど技術をオンラインで学べる環境が整っている
・働き続けやすい
ーーテレワークの恩恵もあり、結婚や出産などのタイミングで仕事から離れる必要性が減少
・服装や髪型が自由
ーー堅苦しくない業界の風潮
・自分が作ったモノが形になりやすく、手触り感が出やすい
ーー機械・電池で動くものなどではプログラミングが関わっているものが多い
こうしたメリットを元に片山は
「皆さんが今後将来を考える時に、その選択肢の1つにぜひIT業界も入れてみていただければと思います。今、多分ChatGPTなどのAIに、IT業界がどんな業界なのか聞けば、色々答えてくれます。興味持った方はぜひ調べてみて、選択肢に入れていただければと思います」
と締めくくり、講演を終えました。
挫折を乗り越え「私らしい」キャリアを築く LayerX新多さんの軌跡

続いて登壇したのは、株式会社LayerX バクラク事業部 エンジニアリングマネージャーの新多真琴さん。幼いころは音楽家を目指し音大の附属高校に進学したところからITエンジニアに舵を切った経歴と、プログラミングとの出会いを通じて得られた自身のキャリアについて、「好き」から見つける仕事のかたちとして講演しました。

新多さんは自分の体験を語り、時には生徒にマイクを向け、親しみやすく講演を進めます。
プログラミングは「アート」クリエイティブコーディングとの出会い

「幼稚園のころからピアノを弾いていて、中学校では学校で1番上手に弾けるくらいにまでなりました。でも、音大の附属高校でピアノ科に進学したら周りは自分より上手な人ばかりで挫折した、という苦い思い出があります」
そんな新多さんは、偶然、大学でプログラミングにのめり込むことに。出会ったのは、プログラミングすることで絵やアニメーション、動画などを作り出す「クリエイティブコーディング」でした。
新多さんはProcessingという言語で図形を動かしたり、花火が打ち上がったりするデモを見せ、生徒たちの興味を集めます。

「壁で跳ね返るとか、重力で落ちて行く、といった動きも、簡単にコードを書いて実現できるんですね。少し変えては試す、ステップバイステップの感覚がとても楽しかったんです。ここからプログラミングの面白さを知りました」
と語る新多さん。クリエイティブコーディングで、一気にプログラミングの魅力に引き込まれていきました。プログラミングが面白くなり、続けているうちに自然にエンジニアという職業を意識するようになっていったそうです。
サービスを世に出すことのワクワクを

福岡女子商は、生徒全員が簿記を学んでいます。新多さんは簿記の重要さについて
「どんな職業を選んでも、その背景で必ず役に立つ知識です。そして、プログラミングは簿記の知識を使う経理部門の方々を助けることもできるんです」
と熱弁しました。LayerXでは、最先端のAIで働きやすい環境づくりと事業成長を支援する「バクラク」というサービスを展開しています。
「経理部門の人など、企業を支える仕事をしている方々を『楽にする』サービスです。経理の人々はお金を扱うことが多く、ミスができない仕事なんです。振り込む金額を経理スタッフが目視で確認し、数字を手入力して送金していたら、誤振り込みの危険性も、経理スタッフの負担も大きくなってしまいます。これを私たちは、AIが請求書の内容を自動で読み取って、支払い金額や勘定科目を確定させ、人間はそれを確認するだけで良くなったらいいね、という世界に変えています」
とAIの技術を駆使してバクラクのサービスを作り、世に出していくことのワクワク感を伝えました。最後に新多さんは
「皆さんが手にしているノートパソコンを使って、見づらいWebサイトのデザインを変えてみたり、煩わしい広告を出さないようにしてみたりする。そういうアイデアをぜひ試せるようになってほしいな、と思っています」
と、ちょっとしたニーズがプログラミングに繋がることを伝え、講演を終えました。
「IT=理系」は誤解。文系学生のためのキャリア講座

続いて行なわれたのは、paizaラーニング部長の小倉 直樹による、プログラミング演習でした。
Webブラウザーを使い、RPG(ロールプレイングゲーム)を楽しみながらプログラミングを学習できるコンテンツ「コードモンスター大図鑑 プログラミングでゲットだぜ!」を用い、Pythonの入門編を学習。プレゼンルームにいる情報コースの3年生約100人は対面で、それ以外の全校生徒は各教室でオンライン受講しました。

後半は小倉による講演「文系学生のためのIT業界突破講座」を行い、理系以外の学生がIT業界でどう働けるかを解説。
内閣府の男女共同参画局では「新・女性デジタル人材育成プラン」が推進されています。そもそも日本において情報通信業が全産業中2位の給与水準であること、IT業界が文系出身者にも開かれた業界であること、社会人からプログラミングを学び始めた人が4割いることなどをデータで示し、
「IT業界の職種は多岐に渡ります。エンジニアだけではなく、営業やコンサルタント、カスタマーサービスなどの職種があるんです。エンジニアでも、1日のうちコーディングに費やす時間は全体の約25%に過ぎないと言われています」
と、ITイコール男性向けやITイコール理系、というイメージを否定しました。
福岡女子商と締結した連携協定により、paizaのプログラミング学習コンテンツ「paizaラーニング」でプログラミングスキルを学ぶとともにスキルチェックもでき、高ランクを得た利用者は、IT企業への就転職の際に技術力を示せるようになります。
「ITの専門スキルを身につける機会を十分に活かしてほしい」
と伝え、ワークショップは終了しました。
「AI部」部員も参加。講師と生徒による座談会

放課後には、福岡女子商のAI部員・生徒有志・教職員が片山・小倉・新多さんへざっくばらんに質問できる座談会が行なわれました。
リモートワークのメリット・デメリットと、チームでの働き方

「プログラミングを極めたら引きこもり生活ができるか?」
というユニークな質問には、片山からは
「月に一度しかオフィスに来ないエンジニアもいます。自分もニート時代にインターネットに救われた経験があります」
と実際の環境や体験に基づく回答が。
新多さんからは
「家から出ないで仕事をすることは可能です。ただ、まったく人と関わらずに仕事を進めるのは難しいですよ」
と、チームでシステムを作る際にはメンバーとコミュニケーションを取りながら進める必要性があることをアドバイスしました。
AI・Web3・ロボティクスなどの技術トレンドをどう見極めるか

技術トレンドをどう見定めるかという質問については、新多さんからは
「ChatGPTのようなLLMの技術がわずか数年で浸透するほどIT業界は移り変わりが激しいです」
と指摘しつつも、流行を予感させながらも未だ普及に至っていない事例も紹介。新しいトレンドには常に触れながら、それが自分にどう影響するかを常に判断し続ける重要性を語りました。
片山は、市場のニーズから逆算して技術トレンドを予測する視点を紹介。
「2040年までに日本の労働人口が1,000万人不足するという状況は確実にやってきます。これを解決する、例えばロボティクスなどの分野の技術が必ず伸びます」
と断言します。AIが世の中の公開された情報を学習し尽くしたあとは、ロボットが人間の世界に加わることで得たことを学習していくだろうという例を語りました。

こうした回答に、生徒たちはメモを取りながら真剣に聞き入っていました。
AI部活動の経験と「エンジニアの仕事」の本質

福岡女子商にはAIについて学び、活かす部活動「AI部」があります。そこに在籍する生徒からは、
「AIのアプリを作ってみたが、知識が圧倒的に足りません。周りの人に言われたことをやるだけで、自分たちで次のステップを想像できない」
という悩みを打ち明けられました。
新多さんは、これをしたら完成するという完成図を最初から意識できているケースは、プロのエンジニアでもそう多くない、と語ります。その上で
「エンジニアは『分からないことからのスタート』です。重要なことは技術テーマや予算など分からないことを『ざっくりと見積もる』こと、そして『何を学ぶべきか、どう調べるか』を知ることです」
とアドバイス。
「最初は依頼者の困りごとを解決するためのものを作るだけでも構いません。できることを増やしていくことが大切で、今は武道の基本の型を身につけるような時期と捉えるといいですね」
と、自分たちで発想できないことを悲観しなくても良いと励ましました。
片山からは
「エンジニアも、何も見ないでプログラムをかけるわけではありません。でも、ざっくりと、こんなことはできるということを知っていて、細かいことは調べながらやれるようにしています。大きな視点で、できる・できない、を判断していけるようにすると良いですね」
と話します。
AIを使った成果の実感と動作の理解のギャップ

「AIを使って何となく動くものを作れたけれど、実際にどういう原理で動いているのかが分からないことがある。」
というAI部員の質問に対して、片山は
「プログラミングに限らず、難しいことが出た場合には複数の事象が絡み合っているケースが多くあります。まず事象を切り分けて個々で解決できるかを試すことはよくやります」
と答えます。有力な海外のドキュメントを要約し、興味があるものに関しては原典を当たれるようにする、という仕組みをChatGPTで作った際にも
「まとめてAIに聞いて作るのは大変なので、まず良さそうなドキュメントを探す、タイトルだけを28文字に切り出させる、などステップを刻みました。するとAIもそれぞれの処理を適切に処理できるようになって、全体が上手に動くようになりました」
と経験を共有しました。
新多さんは結婚式の準備に例えて
「式場とのやりとりや出席者を決めるなど、やるべきことがいろいろあります。それを分担して、何かおかしいことがあれば手直しをして、ひとつひとつ進めて行きます。そういう役割の分割をAI相手のプログラミングでもしていくとよいでしょう」
と説明しました。
和やかな雰囲気で進んだ質問も後を絶たない状況ではありましたが、残念ながらチャイムが鳴り、名残惜しく閉会に。イベントは無事終了しました。
「資格重視」から「実践的な学び」へ。柴山校長が語る未来と、連携協定の意義

福岡女子商の柴山 翔太校長は、従来の資格重視の商業教育から脱却し、生徒が「何のために勉強するのか」を実感できるよう、企業連携プロジェクトや小論文指導など実践的な学びを導入しています。これにより入学者が増加し、大学進学率も向上しました。
教師も、ただ知識を教えるだけでなく、コーチとして生徒の「やりたいこと」を引き出す役割が重要であることを強調します。また、最前線で活躍する大人との出会いが生徒の将来に大きな影響を与え、自発的な行動を促すとしています。
しかし、商業高校のプログラミング教育は、未だ基礎段階に留まることが多いと柴山校長は語ります。
paizaと連携協定を結び、それによって実践的な学びを得ながらプログラミングやAIのスキルを伸ばす。生徒がスキルを持って社会に出られるよう、伴走していける環境を目指して改革を進めています。
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