2024年4月、一般社団法人日本CTO協会は「Webフロントエンド版 DX Criteria」を公開しました。目覚ましい発展を遂げつつも比較的新しい領域であるWebフロントエンドに特化したガイドラインを策定する意義、具体的に企業はどのように活用すべきか。その疑問を解決するため、7月16日・17日に開催された「Developer eXperience Day 2024」でのトークセッションの模様をレポートします。

登壇者・「Webフロントエンド版DX Criteria」作成者(画像左から)

古川陽介氏
株式会社ニジボックス デベロップメント室 室長

佐藤歩氏
KINTOテクノロジーズ株式会社 IT/IS部

広木大地氏
一般社団法人日本CTO協会 理事(DX Criteriaワーキンググループ担当理事)、株式会社レクター 代表取締役

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本家「DX Criteria」からWebフロントエンド特化版を策定した背景

日本CTO協会は2020年から企業のデジタル化とソフトウェア活用のためのガイドライン「DX Criteria」を策定しています。今回登壇した広木理事は「DX Criteria」の策定者であり、Webフロントエンド版の策定に携わった古川氏と佐藤氏とともに「本家」との違いや策定の背景、今後の展望などについて話し合いました。

Webフロントエンド版策定は、古川氏が所属するニジボックスが開催したイベントで広木理事を招いたパネルディスカッションから始まったということです。より領域を絞った「DX Criteria」を策定する予定について古川氏から広木理事に尋ね、その場で策定する方向になったといいます。古川氏は当時の真意について、以下のように語ります。

「パネルディスカッションの趣旨は、広木理事に開発生産性について伺うものでしたが、話が進むにつれて『DX Criteria』に加えてもっとジャンル分けしたものがあった方がいいと思いました。企業や開発組織全体ではなく、もう少しプロダクトやチームに特化した形でクライテリアとして確認できる状態になると、解像度が上がっていいと思いました」(古川氏)

こうして古川氏が発起人となり、「Webフロントエンド版 DX Criteria」の策定が始まりました。古川氏がワーキンググループ結成を呼びかけたタイミングと同じくして、佐藤氏が日本CTO協会にジョインしていたのです。

「私は当時所属していた会社の法人会員として日本CTO協会にジョインし、専用のSlackに参加したばかりでした。そのときちょうど、広木理事が古川さんと策定に動き出しているとチャンネルで発信していて、『自分が何か貢献できれば』という気持ちで参画しました」(佐藤氏)

「Webフロントエンドあるある」から始まった項目策定

古川氏、佐藤氏の2名で策定が始まりました。項目作成のプロセスは「Webフロントエンドあるある」から始まったといいます。

「たとえば、フロントエンドはバックエンドやデザイナー、PMなどと絡むため、コミュニケーションのハブになることが多いです。同時に、各領域や部門の御用聞きや開発の整理を押し付けられる立場にされがちな傾向もあります」(古川氏)

当初はポジティブな側面から策定していこうと話し合っていましたが、このようなWebフロントエンド領域でのアンチパターン、ネガティブな側面にもフォーカスされていきました。

「Webフロントエンドに携わる方々は頷いていただけると思いますが、クライアントサイドにGoogleタグマネージャーなどのスクリプトを入れるのは、Webフロントエンドの開発現場の運用ではない場合が多いです。知らない間にサードパーティのスクリプトがどんどん増えていって、開発の当事者が関知していないところで徐々にパフォーマンスが落ちて困ることもあると思います。そういったフロントエンドエンジニアの立場も反映できるものとして策定を進めていきました」(佐藤氏)

同時に、Webフロントエンド特有の技術トレンドの早さにも着目して策定を進めていったということです。本家「DX Criteria」の策定者として、Webフロントエンド版の策定にもアドバイスを送っていた広木理事は、策定の過程を以下のように振り返ります。

「Webフロントエンドのアンチパターンや、組織やチームで開発していると悪い方向にいくエッセンスを感じ取ってきたのはいいと思いました。ただ、最初は大喜利みたいになっていて『このままじゃ出せないな……』という状態でした(笑)。そこから古川さんと佐藤さんがブラッシュアップを重ねていき、だんだんと良くなっていきました。そういった意味では、Webフロントエンドのプロフェッショナルである二人が、1年間七転八倒して生まれたものです。それを使えるのは贅沢だと思います」(広木理事)

状況を正確に把握し、正しいアクションを起こすためのガイドライン

「Webフロントエンド版DX Criteria」に携わったのは今回登壇した3名だけではなく、アクセシビリティなど分野に詳しい専門家もレビュワーとして参加していました。

「Webフロントエンドという文脈は同じであるものの、その中にはちょっとした分野の違いがあり、専門性にも違いがあります。私や佐藤さんの場合は、パフォーマンスやマネジメントに専門性が高い一方で、アクセシビリティなどより専門的な知見が求められる分野があります。そのような分野については、レビュワーの方々の知恵をお借りして、その分野に明るい方でも腹落ちするような項目にしていきました」(古川氏)

一方で、広木理事が「Webフロントエンドという領域自体がビジネスやマーケティングの交差点にあり、テクノロジーだけでは対応できないものもある。指針を定めることは難しい」と指摘するように、専門的な領域とともに開発現場の実態に合ったチューニングも求められました。

「Webフロントエンドは、まさにこれがベストプラクティスだと言い切ることが難しい領域だと思っています。どのような表現で項目を策定していくかについては非常に苦労しましたね。だからこそ今回は『こういうときにはこうする』というクライテリアではなく、状況をしっかりと把握し、正しいアクションを起こしていくためのガイドラインとなるような項目を策定していきました」(佐藤氏)

では、本家「DX Criteria」とはどのような違いを持たせたのでしょうか。古川氏は「本家と比べて意図的に変えたところもある」と述べ、具体的な変更点を以下のように説明します。

「本家『DX Criteria』の場合、より俯瞰的な会社の目線も含まれていて、どのような制度が会社にあるべきかといった項目も含まれています。Webフロントエンド版の場合はよりチームに特化し、あえて解像度を細かくしていくようにしました。また、アプリケーションの特性への理解も多く盛り込んでいますが、私自身エンジニアリングマネージャーとして少し甘いところがあります。そこはまさにフィードバックをもらいながらブラッシュアップしていけば、より現場に即したものになると考えています」(古川氏)

書籍4、5冊分のナレッジが詰まったガイドライン

古川氏や佐藤氏が関係する企業や自社で実施した具体例も提示されました。「Webフロントエンド版DX Criteria」の5つの大項目はそれぞれ20点満点となっており、項目すべてに回答すると100点満点としたスコアが表示されます。現状ではデータが不足しているものの、一定数が集まった際には他社と比べた偏差値も示せるような建て付けとなっています。

一方で、点数や今後予定される偏差値については、あくまで自社のWebフロントエンド領域における課題抽出が目的であるといいます。

「和気藹々と話しながら、チームビルディングのツールとしてやってほしいと思っています。また、項目に答える中で知らなかったことも多く見つかると思います。そういった意味では輪読会のような進め方もオススメしています」(古川氏)

今回策定された現バージョンについて、広木理事は以下のように評価します。

「現時点の『Webフロントエンド版DX Criteria』でも、書籍にすると4、5冊分のナレッジがあると思います。ガイドラインを通したナレッジの獲得については本家も意識しているところで、具体的な話をして理解できていないことや論点について考えを深めていくと、Webフロントエンドに限らず会社全体のことが見えてくると思います」(広木理事)

今後のアップデートについても、古川氏は「いただいたフィードバックを反映しつつ、今年中にはアップデートしたものをリリースしたい」と意気込みを語ります。また、佐藤氏はアップデートと同時に「答えた後にどのような取り組みを進めていくべきかのプラクティスをシェアしともに考える、ワークショップ形式のイベントも開催していきたい」と展望を語りました。

今回はWebフロントエンド領域に特化したガイドラインが策定されましたが、これを例として他の技術領域への展開が期待されます。ともに策定者である古川氏と佐藤氏、広木理事は策定のノウハウの提供とともに新領域版「DX Criteria」策定を支援していく意志を表明し、講演を締めくくりました。

取材後記

先般実施した古川氏、佐藤氏への取材の際には策定の背景となる課題意識を中心に話を聞きましたが、今回のパネルディスカッションでは広木理事を加えて策定のプロセスや本家「DX Criteria」との違い、実際の利用方法などについて語り合われました。

登壇者が語るように、「Webフロントエンド版DX Criteria」を起点として、さまざまな技術領域への展開は、多くの開発組織やチームリーダー層が待望していることでしょう。日本CTO協会の今後にも目が離せません。

取材/文川島大雅

― presented by paiza

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