我が家は、フリーランスライターの私とエンジニアである夫、6歳児のいる3人家族です。子どもが生まれてからは時間に追われてあくせく働く、典型的な共働き家庭の一つです。ところが、ワーケーションすると決めてから、私たち家族に変化が生まれました。
これは、「ワーケーション」がもたらした小さくも大きい、私たち家族の変化の物語です。
目次
あえて面倒なことに挑戦したい、と思った
ワーケーションとは「ワーク」と「バケーション」を組み合わせた造語です。普段の職場と異なるリゾート地や観光地で働きながら休暇を取ることを意味しています。
思えばリモートワークが普及し始めた2020年前後から認知度が上がりましたが、だいたいは一人でするもの、というイメージが強い気がします。実際に一人でワーケーションをする分には気軽かもしれません。
しかし、これが家族で大移動となるとどう感じますか? 多くの人は、人数が増えれば一気に手間と面倒くさい気持ちがわくのと同時に、足取りが重くなっていくのを感じるのではないでしょうか。
そもそも一人だと何をするのにも、身軽です。ワーケーションとて、仕事をしたりしなかったり、遊びに行ったり行かなかったり、寝るのも起きるのも自由です。
ところが3人で出かけるとなると、それはもう大そう自由がききません。仕事がどれほど進められるのかも未知数です。なんなら旅行だけすればいいのではないか、という気持ちにさえなるのかもしれません。
それでも私たちはあえて、挑戦しました。手間のかかることをあえて経験する。手間を乗り越えた先にある光り輝く何かをつかみたいと思っていたのです。
崖っぷちで生きていた共働き夫婦を救ったパンデミック

40代の共働き夫婦。それなりの年齢で責任のある立場、仕事をしています。2019年のこと。今はフリーランスの私も、当時はまだ会社勤めでした。おまけに夫婦ともに通勤ありのスタイル。時間に追われながら、急いで帰宅をして子どもを保育園に迎えに行く。帰宅をすれば待ってましたとばかりに畳みかけてくる家事育児。あらゆる便利家電や時短グッズを使ったとしても、それは気休めにしかならない。一呼吸する時間はなく、疲れ切って床に倒れ込むこともしばしばでした。
文字通り、髪をふり乱し、息も絶え絶えに過ごしていたある日、新型コロナウイルスの流行がやってきます。またたく間に各々が勤める会社はフルリモートに切り替えになり、通勤するという概念が見事に消えました。
「これで、ほっとする時間が少し生まれる」
世界中が震撼し、見えないウイルスの存在に翻弄される一方で、正直そんなことを思っていた自分がいました。同時に、今まで「お世話」の観点でしか見られていなかった子どもの一挙一動に、目も気持ちも向けられるようになり、「見逃していたこと、こんなにあったよね」と思いをかみしめていたのも確かです。
働く父母はきっと同じような気持ちを抱いた人、いるのではないでしょうか。
しかし、家で仕事をできるメリットがある一方、余白の時間はしだいに仕事に侵食されていくようになります。行く・帰るという区切りがないと、いつでも仕事ができてしまい、いつでも仕事が入ってきてしまうからです。
リモートワークがもたらした、暮らしの悲喜交々
「迎えの時間までまだあるよね?」「子どもが寝てから少し作業できる?」
じわりじわりと、オーバーワークになっていくのです。
子どもが帰宅した後も仕事&仕事の日々。子どもが遊んでいるのを横目に仕事は途切れません。「ねえねえ」と呼びかけられても生返事。集中をしているときに話しかけられると「今ちょっと話しかけないで」と思わず言ってしまうことも。夫ももちろん、私ほどではなくとも同様のシチュエーションが見られました。
「なんのためのリモートワークだろう」と罪悪感を抱くことも多々。
せっかく時間に少し余白ができたはずなのに。子どもに目を向ける余裕が生まれたはずなのに。タスクによって奪われていく時間を取り戻すためには、よほどの覚悟を持って対峙しないとならない。自由とは実に難しいのです。
「今は仕方がないのかもしれない」そう自分を言い聞かせている一方で、この先子どもが大きくなったときにこのままでいいのだろうかという不安を感じていたこともありました。
「人生において自分の大切なことを見直したい」
そんな思いを頭の中に巡らせていたときに差し伸べられたのが、「保育園留学」というワーケーションプログラムでした。
プチ移住をしながら働き、暮らす
「保育園留学」とは、子どもを真ん中に移住体験を考える、ワーケーションプログラムです。スタートアップ企業のキッチハイク社が提案しています。
全国に約40箇所の滞在先があり、私たちは今回北海道の小樽市を選びました。

このプログラムはその名の通り保育園児が主役。0歳〜6歳までのお子さんは現地の保育園に通園します。一方親たちはワーケーション。保育園での体験を通じて、家族丸ごと「この地域いいな」を味わうことができるのです。
23年の12月に知人を通じて知ったこのプログラムに、私は心が揺らいでいました。まもなく子どもが小学生になろうとしているタイミング、これを逃すとプログラムに参加できなくなるからです。
「知らない土地でも自分のできることを見つけて、自信をつけてほしい。そうしたら小学校という新しい環境に移っても、きっと不安が少なくなる気がする」
そんな思いがどこかにありました。同時に、子どもの成長を見守り、親の働くペースを考え直すきっかけになるとも思ったのです。
そうと決めたら、話は早いもの。23年の2月に行くと決めて、準備を始めました。
「変化したい」と思ったら人は変えられる
滞在日数は8日間。しかし実際に行くとなると、都内を離れて1~2週間もワーケーションすることは至難の業。仕事との調整は必要です。旅程は土日を挟む平日5日間を含むため、とくに会社員の夫にとってはチャレンジだったのだと思います。

実は当初、比較的自由がきく私と子どもの2人で出かけるつもりでした。夫が休暇や仕事の調整に苦戦していたからです。ところがしばらくすると夫は「自分も一緒に行く」と言うのです。
在宅リモートワークとはいえ、少しリモート環境の制限がある会社で働いているため、どうするのか? 興味深いところでしたが、どうやら会社と交渉したのだとか。普段はトラディショナルな会社ゆえに柔軟に対応してくれたことに、心底驚きました。こうして3人で参加ができるようになったのです。
私自身の仕事にも変化をもたらしました。ワーケーションをするとなると、まったくではないにしても実際に現地ではできない仕事も存在します。8日間自宅をあける、と逆算し、できることは自宅にいるうちに済ませておいてしまおうと、仕事の分量を自然と調整するようになりました。
もちろん仕事自体はなくならないですし、現地では想像以上に仕事をしてしまい、もう少し仕事のウェイトを下げてもよかったかなと思ったこともあります。
それでも「場所を変える」と決めたから、仕事の量を調整し、暮らしと遊びを重視しながら仕事をすると決めると意識が変わります。おかげで子どもや現地の暮らしを見つめ、楽しむことができました。
そう、やればできるのです。自分が「ほしい」と願う未来があるならば、自分たちで生活スタイルを改めることができる。できないという前提から描くのではなく、できるという前提で描くのです。
家族や恋人、友人との複数人でのワーケーション、トライして損はないように思います。きっとあなたにも何か必ず変化は生まれるのではないでしょうか。
(文:永見薫)
