「大丈夫です」っていう言葉ほど信用がないものはない。だって何をもって大丈夫なのか、誰も根拠を示してくれないじゃないですか。その「大丈夫」をもっと定量なのか、定性なのか、はたまた何なのかで示してほしいと思ってしまう私は、意地悪なのですかね……。
「就職は、恋愛や結婚とよく似ている」などと言われる。面接やお見合い(って今時ないかもしれないけれど)、お付き合いや同棲を経て、お互いのことを知ろうとつとめていく。けれど、最後の最後って、もうそれは根拠のないカケじゃないですか?
だからこそ当然、外れることもあるし、知らなかった!もあるし、どうしてこんなことに!といったことも往往にして起こり得る……それは人生のミステリー!
社会人になって18年がたつ。現在はフリーランス、かつては長いこと会社員だった。
大学を卒業後、企業に入社し、複数の企業を渡り歩いてきた。あっちの企業では白が正しくても、こっちの企業では黒が正しい。行く先々で天変地異が繰り返される。キャリアチェンジのために5社経験したけれど、面接のときには明かされないミステリーというものは、どうしても起こり得るものだった。「これを知っていたら、私、最初から入社しないのに!」
今回はかれこれ15年以上にわたり続けた元会社員の、採用にまつわる怖い話を、当時を思い出し震えながら絞り出してお話ししようと思います。
目次
転職エージェントも知らなかった

もう10年以上も前のことです。当時私は、キャリアチェンジをするべく、大手転職エージェントに登録していました。社会人歴も10年を目前とした時期、いわゆる中堅どころにさしかかったころです。同時に結婚をしようとしていたタイミング。もちろん結婚後も、子どもが産まれても働き続ける気持ちは満々。しっかり両立して、培ってきたキャリアを活かして貢献するつもりでした。
転職エージェントからは数多の求人を紹介され、面接を繰り返す日々。そのうちある1社の最終面接に進みました。社長とは前職の話や共通する話題で意気投合。転職エージェントからは「応募者は結婚するタイミング、家庭との両立をして仕事をする予定」と伝えられていたようです。
社長は私の家庭状況を気にしてくれ「結婚しても働いている人はいるからね、ぜひ頑張ってほしい」と声がけをしてくれました。……そう、その一言が幻だと気づくことになるとは。当時、私も転職エージェントも疑いを持つことはありませんでした。
やりたかった職種であること、家庭との両立も図れるだろうという希望を胸に、私は内定を受諾し、いよいよ転職初日を迎えました。
ところが、すぐに違和感をおぼえることになるのです。
社長が執務スペースに入るとオフィスの社員が全員起立し直立不動になる。そして100デシベルはあろうボリュームで「おはようございますっ!!!」と声を張り上げ、全員腰を90度に折ってあいさつをする。社長が部屋に入るまでは、誰も一歩も動くことができないのです。
あいさつに続き求められたのは、社訓の唱和です。暗記ができているか、テストが入るものだから、気が抜けない。その日も社訓を唱和しきれなかった新人社員が、罵倒を浴びていました。その雰囲気はまさに軍隊というべきでしょう。
「……あ……ここに私の人権はないかもしれない……」
初日にして闇に身を置いたと感じることになるのでした。
社長の朝は早く、7時にはオフィスに出社します。社員全員で出迎えをしないといけないため、社員はそれより前に全員揃っていないといけない暗黙の規則。つまり朝7時前に出社をしないといけないのです。
しかし、転職エージェントから提示された就労規則には、明確に「9時から18時まで」と記載がありました。「どうして?」と込み上げる思いや疑問をぶつけることができる空気感は、一切ありません。
朝も早いのですが、同時に帰社も遅いのが社長。最低20時まではオフィスにいて、社員は断りなしに帰宅することができません。つまり社長が帰るまでは誰も帰ることができないのです。
たとえば残業やイレギュラーのトラブルが起こり得た、というのならば理解ができるのかもしれません。しかし、毎日当たり前のように流れるこの一連の行い。そこに違和感を持つ者がいないということに心が震え上がりますーーこの状況は洗脳されているといっても過言ではないのではないでしょうか。
もちろん転職エージェントは、社内の実態がこんな状況だと知るよしもないでしょう。なぜならば暗黙の社則については、求人や面接では語ることもなければ見せることも一切ないからです。
蓋を開ければこの会社は、新卒採用の社員がほとんどでした。なぜこのような状況なのかって?それは新卒社員は疑いもなく「与えられたことを常識」と理解をしてもらいやすいからです。
中途社員だったらこの状況に違和感をおぼえる人は多いでしょう。社長はある会議の際に「中途社員は意に反することばかり唱えてくるから使いにくい」と述べました。つまりはそういうことなのです。
中途社員を入社させるために、見せたくない規則については触れない言わない、隠す。たとえ転職エージェントの担当者にさえも。ということです。
もちろん私は長続きしませんでした。早朝7時から夜も20時以降まで、毎日何時に帰れるかわかりません。これでは仕事を長く続けることは難しいですよね。
社員が企業で仕事を長く続けるためには、自由と信頼が必要です。一方組織に属している以上、規則が必要なこともまたしかり。けれど、見えない規則で締め付ければ締め付けるほどカゴの中の鳥になるということを社長は理解していたのか、今となってはわかりません。
仕事を探しているそこのあなた、見えないブラックボックスにどうぞご注意を……。
働きたいのに働けない罠

30代のときの話です。私はキャリアアップのために転職をしようと、採用面接に挑みました。今まで培った経験の中で専門職に注力したい思いがあったこと、狙っていた職種の営業職で、求人の出会いがあり、とある企業にて準管理職としての入社が決まりました。
採用面接の相手は自分の上司になる予定の部長。そして私の意欲を買ってくれ「独り立ちしてどんどん営業をしてほしい」という声がけをもらいました。
入社してすぐに仕事が始まりました。最初はOJTということで、40代の男性管理職に同行して営業に回っていくことになります。
前職は20代といえども、独り立ちさせて何でもやらせるがモットーの会社に勤務。私も早い段階で一人で営業に回り商談や交渉をしていました。それゆえOJTが早々に終われば当然一人で営業に回ることになる……そう思っていました。
しかし、来る日も来る日も一人で営業に出ることができません。しかも業務内容は、同業他社であった前職とやっていることは変わりはない。できないことはない業務でした。
「そろそろ営業に出させてくれませんか?」と私は提案をします。
その度に返ってくる返事は、
「でも、女性だしね……」
「一人だと心配だよね……」
「もう少し勉強してからにしようか」
と歯切れの悪い言葉ばかり。一向に独り立ちできる日が来ません。
男性管理職の采配に、部長が何かを指摘するのかと思えば、そのようすを見て何も述べない日が永遠に続きました。
はたして私はいったい何のために採用されたのか。即戦力の人材を採用したはずなのに。結局のところ私は、この会社で独り立ちすることができませんでした。どうやらこれまで社内の風潮として「女性はサポート人材」という認識があったようで、それまで社内で総合職として第一線の立場で仕事をしている女性は誰一人もいなかったのです。役職として「総合職」と記載があったとしてもそれが仮の姿でしかなかったのです。しかし、なぜこうした実態を隠して採用したのでしょうか。いまだに理解ができないまま、私は転職することを決めました。
―――――
現代は、転職がしやすくなった時代。とはいえ、転職を繰り返すことは勇気がいるし、エネルギーがいること。誰だって健やかに働くことができる1社と出会いたいですよね。
あなたの周りにある求人、それ、本当に信じていいものですか?
(文:永見薫)
