魅力的な文章が書けるというのは1つの強みです。

それはマーケティングの職種でも、技術職でも一緒です。マーケティング担当は商品やサービスを広めるために、技術者は仕様や構成をIT未経験者の営業職やクライアントに理解してもらうために。

共感される文章、モノが売れる・欲しくなる文章を書けるというのは、今の時代を生きる上で重要なスキルになります。ChatGPTやBing AIが話題ですが、現状ではまだAIよりも人間のほうが、心を動かす言葉を紡ぎ出す能力は優れていると信じています(2年後はわからないけど)。

文章というものは意図を持って学べば学ぶほど、書けば書くほど上達します。全員が全員、ミリオンセラー作家や村上春樹先生のようになれるとは限りませんが、一定レベル(本を出すぐらい)であれば誰でも到達できます。もちろん努力は必要ですが。

出版社は技術者であり文章が書ける人材を常に求めています。なぜならテクノロジーはすぐに進化し、アプリケーションのバージョンは上がっていきます。一方、文章で上手に使用方法を解説できる技術者は多くありません。

技術書の企画が通ったにもかかわらず、最後まで文章を書ききれずにボツになった出版企画も数多く見てきています。出版のチャンスを逃さないためにも、文章力を身につけておく必要があります。

学びの中でも、一番効果的でありコストパフォーマンスも高い学習法は、やはり読書です。自分で本を書いていて言うのも心苦しいのですが、薄っぺらいテクニック本を何冊も読むぐらいなら、これから紹介する書籍を何回も読んだほうが間違いなく力になります。

そんなわけで、今回の記事は「共感される・モノを売れる・納得感を与える」というポイントにフォーカスしたオススメ書籍を5冊ご紹介します。

物語の法則 強い物語とキャラを作れるハリウッド式創作術


昔に「神話の法則」という名著があったのですが、そのリメイク版です。神話の法則は残念ながら絶版になってしまい、現状では中古でしか入手できません。しかも高いです。

物語の法則 強い物語とキャラを作れるハリウッド式創作術」は、神話の法則のエッセンスはそのままに、現代の事例も追記されています。

物語の法則で述べられている内容は、ストーリーというのはいくつかのパターンの組み合わせであり、この原理を知っておくことにより映画やドラマ、小説の筋道まで理解することができるようになる、ということです。スター・ウォーズやマトリックス、アナと雪の女王、鬼滅の刃などのヒット作品も、物語の法則ですべてが解説できます。

主人公が一つの目的に向かって悩んだり迷ったりしながら成長していく、いわゆる英雄物語(ヒーローズ・ジャーニー)の基本形は「出立・離別」、「試練・通過儀礼」、「帰還」の3幕構成です。

「出立・離別」の中にはさらに「日常の世界」「冒険の誘い」「冒険への拒絶」「賢者との出会い」「第一関門突破」が、「試練・通過儀礼」には「試練・仲間・敵対者」「最も危険な場所への接近」「最大の試練」が、「帰還」には「帰路」「復活」「宝を持って帰還」という要素が包含されています。

要は平穏な日常から誰かの誘いで冒険に出発し、指導者に出会い成長し、ライバルに破れ挫折し、心の葛藤で挫折を乗り越え鍛錬し、最後の敵に勝利して帰還するわけです。ドラゴンボールやスラムダンクでもイメージできませんか?

この流れで物語を構成することで、視聴者(読者)は主人公に共感し、感情移入しやすくなるわけです。ちなみに僕の著書であるブログ飯の第一章は、この神話の法則を意識して書いていたりします。

この本を読むことによる唯一の欠点は、映画とかドラマを観てるときについ先読みしちゃうことですね。あとは、セオリーに当てはめようとするので感情移入ができなくなります。まぁ、僕が映画を苦手にしている理由はこれなんですけど。

影響力の武器

影響力の武器[第三版]」はいろいろな派生本も出版されていますが、ひとまず最新の第三版を読んでおけばOKです。

この本に書かれている内容をざっくり説明すると、「ほしくもないのに買ってしまった」とか「断りたいのに断れない」という心理状態になる理由を解説している書籍になります。人を説得する方法、人に信頼してもらう手法、逆にその防衛法まで書かれているので、その辺りに興味のある人は読んでみるとおもしろいと思います。

本書で解説されている6つの技術、「返報性」「コミットメントと一貫性」「社会的証明」「好意」「権威」「希少性」を駆使することで、相手の反応をこちらの望む方向にコントロールできるようになります

社会的証明や権威を文中に織り交ぜることで内容の信頼性を向上させることができますし、希少性を煽ることで「いま申し込まないと!」という気持ちを盛り上げることができます。

実は僕のセミナーではよく「権威」の要素を使っています。具体的には◯◯教授が言ってたとか、偉い人が書いたこの本に載ってます、とか言うのがそれです。単なる一般人の僕が言っても説得力に欠けますが、その世界の権威が主張していて、僕もその意見に同意ですと言えば、不思議と人は信用するんですよ。

あと日本人が大好きな「みんながそう言ってる」という「社会的証明」も時折使うかな。
 
この本を読むと、世の中にあふれるキャッチフレーズやプロモーションの類が、どのような意図を持っておこなわれているのかに気付くことができます。そうそう、僕のセミナーで権威とか使ってるの気付いても決して指摘しないように

「超」文章法


『超』文章法」の本の帯(僕の持っているバージョン)には「目的は、感動させることではない。メッセージを確実に伝え、読み手を説得することだ」と書かれていますが、まさに自分の主張(メッセージ)を最大限伝えるための内容が詰まっています。

この書籍は各章の目次のフレーズに伝えたいメッセージが込められており、目次を読むだけでも重要なポイントが想像できます。

第1章 メッセージこそ重要だ
第2章 骨組みを作る(1) -内容面のプロット
第3章 骨組みを作る(2) -形式面の構成
第4章 筋力増強 -説得力を強める
第5章 化粧する(1) -わかりにくい文章と戦う
第6章 化粧する(2) -100回でも推敲する
第7章 始めればできる

この本の肝は第1章に書かれている「メッセージ」の重要性に尽きると思います。2章以降はそのメッセージを適切に表現し、発信できるかについて順を追って解説しています。

おもしろいことに第2章・第3章では物語の法則の要素が、第4章では影響力の武器の要素が楽しめます。第5章・第6章は読みやすさや、拡散力を高めるための工夫について述べられています。

そして第7章は目次通り、「とにかく始めろ」ということです。頭の中だけでぐるぐる回していないで、紙に書くでもキーボードを打つでも構わないので行動しろということですね。

ある広告人の告白

ある広告人の告白」は、「現代広告の父」と呼ばれたデイヴィッド・オグルヴィによる、広告人のための教科書と言っても過言ではない書籍です。

デイヴィッド・オグルヴィには数多くの名言があるのですが、僕の好きな言葉はこの5つです。

「我々は売る、そうでなければ存在価値がない」
「人を退屈させて商品を買わせることはできない。興味を持たせて初めて、買ってもらうことができる」
「消費者はバカではない。消費者はあなたの奥さんなのだ。彼女の知性をあなどってはいけない」
「一流のビジネスだけを、一流のやり方で」
「家族に見せたくないような広告を打つな」

本書は具体的なノウハウ集というよりも、広告に対してのマインドセット的な要素が強いです。とはいえ、モノやサービスを売るためのプロモーションには、やはり信念が重要だと思うんです。

今の時代、みんなよい物をつくろうと思って商品開発しているのが当然の姿勢です。質の悪い商品を騙して売るのは論外ですが、いくらよいものだってしっかりとプロモーションしなければ、ほしい人に情報が届きません。そのプロモーションの根底が学べる書籍になっています。

なお、第6章・第7章はランディングページの作り方としても参考になりますので、商品やサービスを販売している人はこの章だけでも読んでほしいです。

知の技法: 東京大学教養学部「基礎演習」テキスト

5冊目の「知の技法: 東京大学教養学部『基礎演習』テキスト」はちょっと変化球で、ストレートな文章術というわけではありません。

これから大学に入学する人たちに向けて大学での学習方法についての考え方を指南し、「学び」に共通する技術・作法としての技術を学ぶための書籍です。

本書は全部で三部構成になっており、第一部は学ぶという行為全般についての考察、第二部が学びを認識するための技術、第三部が表現(論文の作法や口頭発表)の技術という流れになっています。

なお第二部は「フィールドワーク」「史料」「アンケート」「翻訳」「解釈」「検索」「構造」「レトリック」「統計」「モデル」「コンピューティング」「比較」「アクチュアリティ」「関係」。

第三部は「表現するに足る議論とは何か」「論文を書くとはどのようなことか」「論文の作法」「口頭発表の作法と技法」「テクノロジーの利用」「調査の方法」という構成で、計18名もの大学教授・講師の面々が論じています。

文章を書く人は、第二部の「フィールドワーク」「解釈」「統計」「アクチュアリティ」、第三部の「論文を書くとはどのようなことか」「論文の作法」を読んでおくことをお薦めします。

これらの項目を読むことで一つの物事の多面性を認識し、持論を紡ぎ上げていくために必要な要素を学ぶことができます。そして、持論をいかに文章として表現していけばよいのか、読み手になるべく誤解を与えず自分の意見を理解してもらうためにはどうしたらよいのかというヒントを得ることができるでしょう。

この書籍は「現象としては一つのことでも、物の見方によって幾通りもの結論に至る」ということをさまざまな側面から論じている印象です。物事には多面性がある、そして自分はどのような解釈をしたのかを認識することが重要で、日常生活では無意識的におこなっていることでも、論述したり人前で発表したりする機会が多い人は「判断している」ということをしっかりと理解しておく必要があると感じました。

気分を変えて涼しい図書館で読書をしよう

そんなわけで、読み応えのある本5冊を紹介してみました。

読みやすい本を多読するのも悪くないですが、ちょっと読むのに苦労するレベルの本をがんばって読むことで自分の能力を向上させることができます。簡単なことっていくら量を重ねたってなんにも成長しないんですよ。背伸びしないと解けないような課題に取り組むことで、はじめて自分の能力を向上させることができるんです。

ぶっちゃけ、ページをめくり始めると眠くなることが容易に想像できます。でもそれって成長を拒む体の反応だったりします。不思議なことに人間って自分の成長を望まない傾向もあるんです。体の反応を認識しながら、本を読み進めるのもおもしろいかもしれません。

ちなみにいま、僕、「イェルサレムのアイヒマン―悪の陳腐さについての報告」って本読んでるんですけど、眠くて眠くて息絶えそうです。

(文:染谷 昌利

presented by paiza

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