国内最大級のアルバイト求人サイト「バイトル」をはじめとする求人・転職サービスを複数運営し、企業ニーズに合わせたDXサービスの提供実績も豊富なディップ株式会社。

同社は一部上場企業として、強固な資本力および営業力を武器にした顧客基盤を持つ一方、サービス開発ではエンジニアが企画段階からプロジェクトに携わったり、短期間でPDCAを回せるようスクラム開発を導入したりとベンチャー気質な面も持ち合わせています。

その背景には、2020年11月にディップ初のCTOに就任した豊濱吉庸さんが牽引する「テクノロジーに強い会社にするためのエンジニア組織改革」がありました。社員の多くがパートナー管理やプロジェクトマネジメントがメイン業務だったエンジニア組織を内製化可能にするまでに変えることができたのは、エンジニア採用の抜本的な見直しと「2025年までにエンジニア200名体制」という大きな目標があったからだと言います。

インタビューでは、豊濱さんがCTOとしてこれまで取り組んできたこと、2025年を見据えた今後の展望などをお聞きしました。

エンジニア組織を生まれ変わらせるための「内製化」

――豊濱さんがCTOとして就任されてから、エンジニア組織が大きく変わったと伺っています。まずその取り組みについて教えてください。

豊濱吉庸氏(以下、「豊濱」):わたしがジョインした2020年11月当時、ディップが提供する人材サービス「バイトル」「はたらこねっと」の開発組織には社員だけで50人ほどのエンジニアが所属しており、プロジェクトや開発パートナーのマネジメントを中心に業務を進めていました。多くの開発をパートナーや業務委託の方にお願いしていて、実際手を動かせる社員は半分ほどだったと思います。

そのため、まずは多くの開発をパートナーさんにお任せしている状態を解消していきたいと考え、昨年度はエンジニアの採用にフォーカスした1年になりました。

――いわゆる「内製化」に取り組んだということですよね。

豊濱:そうですね。ただ、社内でもよく言っているのですが、内製化と言っても単純に人の数を増やせばいいという話ではありません。当社でしたら「バイトル」というプロダクトがどういう目的で存在していて、どういう仕組みで動いているのか、それに関わっている我々エンジニアはなぜ存在しているのかといった話をきちんと理解できて、さらにその目的に向かって成果を出し、フィードバックもできてというのが必要になってきます。それができる人材となると社員のほうが適切だろうと思って、エンジニアを増やしています。

当社は2025年にエンジニア組織を200名規模にする目標を掲げていて、将来的には社員と業務委託の方の割合が9:1くらいになるとよいと考えています。

これまでは社内のディレクターやプランナーが要件定義して、エンジニアは決められた仕様を渡されてつくるというやり方が多く、このままではお客様に向けていいものをつくることはできないだろうなと感じていました。そこでエンジニアもプロダクトを開発する一員として輪の中に入って携われるやり方に変えていきました。

――なるほど。手を動かせるというだけでなく、開発者としてビジネスサイドの求めるものを理解できるスキルもより必要とされるようになったんですね。

豊濱:そのとおりです。たとえば、企画から「こういう機能をつくってほしい」という話が来たときに、本当に適切な機能改修なのかを考えたり、「この技術を使えば半分の工数で150%の成果が出せますよ」とエンジニアとして提案できるようになったりしたら最高だなと思います。それを実現するためには、エンジニアのあり方というか、プロダクト開発における立ち位置というか、マインドから変えていく必要がありますね。そこにたどり着くのが内製化の目的でもあります。

組織拡大はエンジニア採用の抜本的な見直しが鍵

――これまでのお話からすると、現在も積極的にエンジニア採用を進めていらっしゃるということになりますか?

豊濱:まさしく絶賛エンジニア採用中でして、前年度は中途採用で30名くらいジョインしていただきました。

もちろん他の大規模な自社サービスの企業さんには及びませんが、当社は「バイトル」は知られていても、ディップという名前はWebエンジニアが転職するときに第一想起する企業ではまだないと思っているので、これだけ来ていただけたというのは大きな成果だと言えます。

――エンジニア採用に苦戦している企業も多い中、御社が組織をここまで拡大できるほど成功した背景が気になります。

豊濱:成功と言っても実際は頭を悩ませながら、「どうやったら自分たちを選んでもらえるか」を常に考え、変化をしていかなければと試行錯誤の連続です。

その中で明確に成果につながったと言えるのは、エンジニア採用の要件をしっかり定義し、採用計画を立てたところだと思います。「事業としてこういうことをしてほしいから、こういう職種を募集していて、こんな活躍をしてほしい」というのを示すべきですが、以前はそれができておらず当然採用は苦戦していました。

そこでまずは採用要件を見直すため、わたしがエンジニアの求人票の叩きを作成したり、エンジニア採用に従事できる人材を採用したりしました。また、将来の組織拡大を見据えてメンバークラスよりさきにエンジニアリングマネジャーを優先して採用するといった戦略もありました。

――マネジャークラスのエンジニアを採用するのは一段と難しそうですが……。

豊濱:そうですね。ただ、そこは包み隠さず、現在の当社の状況や課題をカジュアル面談や面接でお伝えして、それに対して共感してくださった方に来ていただけたと感じています。

とはいえ、偶然そういった方たちを採用できたというわけではありません。さきほどもお伝えした、エンジニア採用方針の再定義や求人票の見直しといった抜本的な改革ができていたからこそだと思います。

――つぎはぎで変えていくと何がなんだか分からなくなることがありますが、御社の場合は骨組みからきちんと組み立てようというのが伺えます。

豊濱:わたし自身、過去に「いい人だったから採用したけどどうしよう」といった状況も経験していました。そのときの反省も踏まえて今回はちゃんと方針を決めていこうという意識が強かったのは確かですね。

――組織設計の方針についても伺えればと思います。

豊濱:2025年にエンジニアを200人にするという目標を実現するためには、200人を抱えられる組織づくりをする必要があります。過去に同程度の規模の組織にいた経験もあるので、入社当時の組織体制ではスケールができず、そのうちパンクするなというのは分かっていました。そこでもともと2部体制だった組織を今は3部にしていて、今後は4部にしてひとつの部に50人程度いても問題ないように設計しています。

当社ではマネジャークラスの役職は、部長・課長となっています。今も彼らの数が十分足りているというわけではないのですが、それぞれ採用は進んでいまして、当初わたしが手を回していた業務もお任せできるようになりました。1人のマネジャーに対して何十人も部下がいるという形は回避できています。

ビジネスサイドの課題をこなすスタイルからの脱却

――豊濱さんがCTOに就任されて以後、積極的にシステム周りで変えてきたことがあれば教えていただけますか。

豊濱:これまではエンジニアの業務の大部分が事業に貢献する機能開発や改善活動でした。具体的には、「バイトル」や「はたらこねっと」が持つKPIの達成やSEOのために開発をするということです。そのため技術的に課題になっている部分を解消する活動はほとんどできていませんでした。

現在もアーキテクチャにはレガシーなところもまだありますが、徐々にクラウドに移行できています。直近では、利用しているオンプレミスのデータセンターが終了するため、データセンターの移行を実施しました。データセンター同士の移行だったのですが、フロントのサーバはすべてAWSに移すことができました(豊濱さんがデータセンターの移行について語ったAWS Summit Online 2022のセッションはこちら)。

また、検索エンジンの開発経験が豊富な方がジョインしてくださって、バックエンドで動いている検索エンジンの見直しについての活動がここ2、3カ月で急速に進んでいます。技術面での改革は他にもいろいろと取り組んでいるところです。

こういった動きができるのも必要な人材を採用して、その人たちがリソースを割ける余裕が組織に生まれてきたからこそだと思っています。まだまだやりたいことはたくさんありますが、この点は手応えを感じていますね。

――ありがとうございます。その中で豊濱さんのCTOとしての役割はどういったところになるでしょうか?

豊濱:わたしが入社する前からクラウド環境は利用していましたが、さきほどお伝えしたとおり、事業に直結するような機能開発や改善にリソースを取られていたので、完全には移行できていない状態でした。それをバランスを取って進められるように調整し、ここ1年でかなり加速できたのではないかと思います。

一方で、開発フローの適正化、テストの自動化といった、開発効率を上げるような取り組みはこれからというところですね。

「ディップをテクノロジーに強い企業に」チャレンジングな環境での挑戦

――ここからは豊濱さんがディップ株式会社に入ろうと思ったきっかけや、今後の展望について伺います。「2025年までに自分がいなくても回る組織にしたい」と書かれていた記事もお見かけしまして、そのあたりもお聞きできればと思います。

豊濱:入社のきっかけは、ヤフー時代の上司だった、当社のCOO(Chief Operating Officer、最高執行責任者)の志立から声を掛けてもらったことでした。

入社当時の状況はここまでご説明したとおりですが、いわゆる営業中心の会社からIT企業に変化させていきたい、その役割をCTOとして担ってほしいと言われたのが非常に魅力を感じたんですね。チャレンジングでもあり、おもしろそうでもありました。

そして、2025年にわたしが席を誰かに譲れるような状態になることはひとつの着地点だと捉えています。今はまだわたしがリードして引っ張っていかないと進まない部分があるのですが、200人の組織になったとき、そこを担ってくれる人たちがたくさん出てきて「自分がいなくても回るな」と思えたらそれなりの成果を出せたと言える状態になるのでは、と考えています。

――ありがとうございます。今、豊濱さん自身はCTOとして「自分だからこそできる仕事をやっているな」という充実感はありますか?

豊濱:実はわたしの専攻は文系で、数学やコンピュータを学んできた人間ではありません。だからこそエンジニアでない人たちの気持ちも分かると思っています。当社の場合、技術的なジャッジだけではなく、「なぜそれが必要なのか」を経営陣と話せることがCTOとして大切なポイントになります。当社では、経営と技術を橋渡しできる存在は、いまのところ自分だけなのかなと思います。

――やはり営業組織主体で大きくなってきた会社という背景も関係しているのでしょうか?

豊濱:そうかもしれません。はじめてCTOという役職ができたのがわたしが入社したときだったので、おそらくこれまではそういった役割の人があまり必要な組織ではなかったのだと思います。それでいうと、わたしが入ってからセキュリティ責任者を専任で採用したことも大きな変化です。これまで経費と考えていたセキュリティに対して、積極的に投資をしていこうという考え方に変わり、お金をかけるべきところについて議論できるまでになりました。

――なるほど。社内の人たちから見たら「エンジニア組織は随分変わったな」と思われているんじゃないですか?

豊濱:全社的な事業貢献という意味ではまだまだこれからなので、もしかしたら今は「最近エンジニア増えたね」くらいの認識かもしれません。ただ、ここから成果を出していく段階なので社内での見え方も変わっていくと思います。

変化し続けるディップは「開店前のお店」のようなわくわく感

――最後に、御社へ応募を検討されている方にメッセージをお願いします。

豊濱:今のディップのエンジニア組織について、よく「開店前のお店だ」と表現するんです。今の施策を着々と進めている期間を「開店準備」、エンジニア採用を「オープニングスタッフ募集」と言ったりしていますね。

もちろん、なにもかも整っている環境というわけではありません。現にエンジニアの評価制度はこれから変えていこうとしています。具体的には、現在は期初に目標を書いて、期末に上司と振り返るというやり方ですが、今後は以前広木大地さんが提言していた「エンジニアリング組織の健全性の指標に、1日あたりのデプロイ回数を開発者数で割ったものを用いる」に当社独自の観点を加えてチームごとの成果を可視化できないかなど検討中です。(関連リンク:広木大地氏のインタビュー記事はこちら

こういったものを一緒につくっていくところに興味を持って、魅力を感じてくれる方が来てくださるとうれしいなと思います。

――御社のような規模のサービスを「これから新規開店だ」というマインドでつくっていけるのはエンジニアにとって非常に魅力的ですよね。このくらいまで大きくなると、なかなか変えにくくなるのが普通だと思います。

豊濱:ありがとうございます。そこはわたし自身も魅力を感じています。やはりいろいろなことにチャレンジするとなると、小回りの利くベンチャーやスタートアップという選択肢が挙がってきますが、そうすると資金的に厳しい面もありますよね。調達した資金に対して成果を出せる活動に制限される可能性もあります。当社くらいの規模で、「オープニングスタッフ募集」は珍しいパターンかもしれません。

だからこそ「何でこれってこうなんだっけ?」と考えることができて、課題感を持ってアプローチしていける人がいると本当にありがたいです。

――組織としても個人としてもチャレンジングなマインドがある方が、今の御社のフェーズには向いているということですかね。

豊濱:そうですね。今あるものをそのまま受け取ってこなしていくというより、変えていこうとしてほしいですし、なにより受身ではなく「自分がもっと会社をよくしていこう」「サービスをもっとよくしていこう」という気持ちを持って取り組むことは楽しくもあります。

――まさに開店前夜のわくわく感といったところでしょうか。2025年にぜひまたお話を伺えればと思いました。本日はありがとうございました。


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