IT業界は、M&Aの動きが活発な産業の1つです。ただ、文化の違う2つの企業が融合する過程で、特に吸収される側の企業にとっては大きな負荷がかかります。

これはエンジニアチームにも当てはまります。うまく合流できず、別々の文化が併存したままになってしまったり、一方がまったく存在感を出せなくなってしまったり、さらにはチームがほぼ丸ごと離職したりしてしまうことも少なくありません。

この記事では、M&Aによる吸収を経験後も、Securitize Japan(以後、「セキュリタイズ」)で活躍されているリードエンジニアの田中昭博さんが、合流後に苦労したことや、新しい会社の中で存在感を出すために取り組んだこと、現在のチーム運営などについて、自身の経験をもとに解説します。

自社がグローバル企業に買収されるまで

最初に、簡単に買収されるまでの経緯について書こうと思います。

自分はもともとBUIDLというベンチャー企業のエンジニアでした。2018年に立ち上げられた企業で、事業内容はブロックチェーン関連のコンサルがメイン、PoCやクライアントによっては開発まで担うこともありました。また、自社プロダクトとしてブロックチェーンのトラッキングツールのようなものも作っていました。

それが、2019年末にセキュリタイズに買収されることになりました。当時、BUIDLで正社員として働くエンジニアは自分だけでしたが、業務委託の方にも手伝っていただきながら、4、5人ほどのチームで開発をしていました。

セキュリタイズジャパンに残った理由

吸収されたタイミングで会社から離れるメンバーもいるなか、自分はいくつかの理由があって残ることに決めました。

一番大きかったのは、「まだまだブロックチェーンに関する開発を続けたかった」からです。セキュリタイズは、もともとブロックチェーンを使ったデジタル証券システムのプラットフォーム事業を展開していました。所属先が変わっても引き続きブロックチェーンに関する仕事はできます。そのため、私の中では買収されたこと自体が退職理由にはなりませんでした。加えて、セキュリタイズの開発環境と自分が使いたい言語や環境が一致していたので、技術的な問題もありませんでした。

また、私は今後のキャリアに対しても「いずれはグローバルな開発がしたい」と考えていたため、自社が外資系企業に買収されることになったのは、ちょうどよかったともいえます。

もちろん、迷いや悩みがまったくなかったわけではありません。当時BUIDLでは、大手企業のコンサル案件や自社プロダクトの開発などがやっと軌道に乗り始めたところでした。それが突然買収されることになったと言われたので、とても驚きました。セキュリタイズのメインはプラットフォーム事業で、今までやっていた自社プロダクト開発やコンサル事業は徐々に縮小していくことになります。正直言って「今までやってきたことは何だったんだろう」と思いました。

正直戸惑いました。もちろん、今までやってきた成果が買収される要因になったと考えると、無駄だったわけではありません。ただ、タイミング的に「なぜ今なんだろう」という葛藤がありました。

グローバルの開発チームに入っていくために

いろいろな思いはあったものの、こうして私はセキュリタイズのエンジニアになりました。

とはいうものの、買収直後は「これからはこの仕事をしてくれ」と言われることはありませんでした。当初は日本のエンジニアチームに対して、日本プラットフォームで展開していく上で必要になるローカライズの作業をしてもらうことなどは想定していたと思いますが、それ以上のことはまだ詳細には決まっていなかったと思います。

そんな状態から日本の開発チームを整えていくに当たって、私は「自分で考えて能動的に動いていかないといけないな」と考えました。もしここで何も考えず流れに身を任せていたら、ただ海外から依頼されるローカライズの案件だけをやる、つまらないチームになってしまいます。また、これからエンジニアチームを作っていくにあたって、ローカライズの仕事しかないようなチームでは優秀なエンジニアを採用していくこともできないでしょう。

そこで私は、ローカライズをやりつつ「日本でもブロックチェーンに関するコアプロダクトを開発しています」と言えるようなチームを目指して、動いていくことにしました。

ローカライズだけで終わらないための働きかけ

BUIDL時代から続く仕事が落ち着いてからは、こちらからグローバル側の開発チームに「何か仕事をください」と働きかけていきました。

当時、セキュリタイズの証券システムでは、証券会社側が使う管理画面が多言語化されていませんでした。そこで「日本での導入を進めるには日本語対応が必須です」という意見を上げて、実際に多言語化をしたのが最初のローカライズ案件でした。プロダクトに対して「日本の文化や法的な面から、こんな機能や改修が必要では」と感じたことは、最初から積極的に上げていました。日本から発信した機能をグローバルにも取り込んでもらうことは、今でもよくあります。

当時はローカライズだけで終わってしまわないよう、ローカライズを早めに終わらせて、手が空いたらすぐに「何か仕事をください」と言って、次から次へと仕事をもらうようにしていました。セキュリタイズの開発拠点は当時イスラエルだけだったのですが、現地の開発チームからすれば、極東の島国から突然エンジニアが入ってきて、「なんだこいつは、大丈夫か?」という感じだったかもしれません。

もちろん、いきなり「日本でもできるから仕事をくれ」と言っても、最初は信頼できるはずがありません。そこで私は、言われたことをとにかく早く、きっちりとやって、まずは信頼を得ることを目指しました。最初は要求される水準も高く、かなり細かいところまでレビューされましたが、受け入れる側からしたら当然の心情だと思います。

認証モジュール開発とパブリックAPIチームの設立

買収直後から、「日本にプラットフォームを導入するには、Googleデータ連携以外のID/PASSWORD認証の実装が必要」という意見を上げていたのですが、グローバルでもその改修は必要だという話になり、「日本側で認証周りのモジュールをまるっと作ってください」と言われました。そのときはもう、「そんな重要なタスクを日本側でやっちゃっていいの? これはいい仕事が来たぞ」という気持ちでした。それまでの仕事が評価されて、少しは信頼されたタイミングだったのだと思います。

そこからは少しずつ、ちゃんとした開発タスクと言えるような仕事を任せてもらえるようになりました。しばらくして、今度はプラットフォームを外部システムと連携させるためのパブリックAPIを作ることになり、その開発を日本側に任せてもらいました。

セキュリタイズ全社で見ると、投資家関連のシステムを作るチーム、発行体関連のシステムを作るチームなど、グローバルで開発チームが5、6個あるのですが、その中でパブリックAPIを開発するのが、今の日本の開発チームです。現在は3人で日本の開発チームを運営しています。

開発チームなど、セキュリタイズのメンバー。
(※新型コロナウィルス感染症流行前のものです。現在はリモートワークが中心となっています)

グローバルに入っていくために大変だったこと

セキュリタイズの開発では、買収直後は日本のエンジニアチームの扱いが詳細に決まっていなかったこともあり、引き継ぎや導入などがまったくなくてとても苦労しました。特に設計書や開発のフローなど、開発関連した詳細なドキュメント類がなかったのが大変でした。リポジトリは見ることができたので、とにかくひたすらコードを見て、理解を深めるしかないと思い、コードを読んで、わからないところを見つけては、イスラエルにいる開発チームに質問をしました。

みんな質問をすればちゃんと答えてくれますが、「よくわからないから全部教えて」なんて聞き方はできません。とにかくコードを見て、何かを動かすためにに必要な情報があれば、「これとこれがほしい」と伝える。わからないことがあれば、該当箇所のコードを示した上で「ここはどうなっているんですか」と聞く。その繰り返しでした。

セキュリタイズのプラットフォームは、モノリシックなシステムではありません。マイクロサービス化されていて、20や30のリポジトリがあるので、それらを解読するのは本当に大変なことです。それでも、それぞれにどんな関連があるのかを判断して、わからないところを洗い出して質問するフローをくり返して、少しずつ理解できる領域を広げていきました。今でも100%すべてを把握できているわけではないですが(笑)。最初は特に、わからなくてもわからないなりに、コードを読んだり質問したりしながら開発を進めていくしかありませんでした。

一方で、技術的な障壁は最初からあまり感じずに済みました。BUIDL時代の仕事と比べても、方向性や技術の領域はかなり近かかったのです。わからないなりにコードが読めたり、質問ができたり、仕事をなんとかこなせたりできたのは、それが大きかったのだと思います。

現在の日本のチームと採用について

最後に、現在のセキュリタイズの状況をご紹介させてください。

最近は開発に関して、日本側で好きにやらせてもらえるようになっています。メインで担当しているパブリックAPIに関しては、日本で「こんな機能がほしい」となったものをどんどん作っています。また、グローバルで「これを作って」という意見を踏まえつつ、日本側のやりたいこととのバランスを見ながら進めています。そこはしっかりアジャイル開発で、常にやりとりしながら優先度を決めて取り掛かっています。

世界的なサービスに携わりたい人や、新しい技術のキャッチアップが楽しい人にとっては、この会社はとても向いている環境だと思います。

なお、面接でよく「英語力はどれくらい必要か」と聞かれるのですが、エンジニアであれば、ドキュメントやチャットの読み書きができるレベルなら問題ありません。ただ、やはりグローバルな職場を選ぶ人はみなさん英語ができますので、今の開発チームでは私が一番英語力が低いです……(笑)。

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