生成AIの爆発的な進化により、ソフトウェア開発は書く時代から対話しながら構築する時代へと劇的な転換を迎えています。
開発プロセスそのものが再定義されるなか、エンジニアの真の価値はどこへ向かうのでしょうか。
すべてのユーザーがシステムとAIを使いこなせる世界を目指すAI型デジタルアダプションプラットフォーム(DAP)の旗手、テックタッチ株式会社。
同社は現在、主力事業に加え、データ戦略のAIエージェントであるAI Central Voiceを展開、そしてプロダクトだけでなく社内業務にもAIを組み込み、PoCに留まらず実運用まで一貫して推進しています。
今回は前職でCTOを経験し、現在はテックタッチのAI事業を牽引する横田さんにインタビュー。生成AIによって激変する開発フローの最前線と、これからの時代にエンジニアが生き残るためのコアスキルについて詳しくうかがいました。

横田 匡史 プロフィール
東京大学大学院情報理工学系研究科卒業。在学時は囲碁AI開発プロジェクトであるDeepZenGoに参画。同プロジェクトでは井山裕太本因坊に勝利。また、大学院在学時にスタートアップを創業し、約8年間、CTOとして従事。2025年4月テックタッチ株式会社入社。AI Central事業部所属。入社当初はフルスタックエンジニアとして開発にコミット。チームの拡大に伴い現在はHead of Engineering Managementとして、開発組織・開発体制の構築や採用など、組織づくりを中心としたマネジメント業務に従事。
目次
「正社員も業務委託もチームの一員として同等に扱う文化」に受けた衝撃。元CTOがテックタッチに正社員として合流した理由
——CTOというキャリアを経て、次の舞台にテックタッチを選んだ理由を教えてください。
横田:前職でCTOをしていたなかで、多くの学びや課題意識がありました。たとえばカルチャー面では、プロ意識の高さが強みである一方で、それが行き過ぎると議論が必要以上に白熱し、開発スピードや意思決定に影響してしまうこともありました。個々の専門性や責任感を大切にしながら、どうすればチームとして健全に成果へ向かえるのかは、次に挑戦するうえで考え続けていたテーマでした。
また、プロダクト作りにおいても、良い機能は他社に模倣されることは当然起こり得ます。特にAI時代には、そのスピードがさらに速くなると感じていました。だからこそ、顧客の課題を深く捉え、素早く作り、検証し続けられる組織であることが重要だと考えていました。
そんなときにテックタッチをお手伝いすることになり、AI Central事業部が立ち上がったばかりのころに業務委託としてジョインしました。
テックタッチに関わるなかでまず感じたのは、事業だけでなく、カルチャーの強さです。
「プロ意識」を過度に掲げなくても、メンバー一人ひとりが事業や顧客に向き合い、自分の強みを活かしながらチームとして成果を出そうとしている。そのバランスが非常に良い組織だと感じました。
プロダクトづくりの観点でも、強く惹かれるものがありました。Bizチームの顧客理解や提案力の高さと、プロダクトチームの実現力の高さが組み合わさっていて、「顧客の課題を深く捉え、素早く形にし、検証していく」力があると感じたんです。
もう1つ印象深かったのは、人間関係の良さです。オフィスへ入るときに、仕事で直接は関わりのない方も「お疲れ様です」と挨拶してくれます。従業員数が200名以上いるなかでも、業務委託の一人ひとりに丁寧にコミュニケーションを取ってくれる。その姿勢から、業務委託を含めた全員をチームの一員として扱い、人間関係を大切にする文化が根付いているのだと感じました。
その後、正社員登用の打診をいただきました。私のキャリアや次のステップアップまで考慮した専用のオファーレターをつくってくれて、入社後の働き方をとても具体的にイメージできました。
前職では見つけきれなかった答えが、この環境なら見つかるかもしれないと思い、入社を決めました。
現在のミッションと役割
——現在のテックタッチにおいて、横田さんはどのようなミッションや役割を担っているのでしょうか。
横田:AI Central事業部に所属し、幅広く担当しています。最初は開発をメインで担当していましたが、優秀なメンバーが増えてきたこともあり、マネジメントの役割にシフトし、組織作りを中心としたマネジメント業務を担っています。
開発チームをマネジメントしていく上で、AI Central事業部は少数精鋭の組織であるため、一人ひとりの生産性を最大化し、開発スピードを維持・向上させることが重要だと考えています。
そのため、開発スピードを維持するうえで極めて重要となる、開発にまつわる記録やドキュメントの整備にまず最初に取り組みました。
プログラムのソースコードと同じ場所でドキュメントを管理し、プルリクエストが出されたタイミングで、AIがコードの修正内容に合わせてドキュメントも自動で更新する仕組みを構築しました。これによって、コードとドキュメントの中身が食い違うのを防ぎ、常に最新で正しい情報を参照できる状態にしています。
こうした取り組みによって、情報の分断を防ぎながら、開発効率の底上げにもつなげています。
現在は、組織全体のパフォーマンス向上に向けた取り組みに加え、中長期のロードマップ策定、プロジェクトマネジメント、組織作りなどを幅広く担当しています。AI時代に合わせて、開発組織そのものを継続的にアップデートしていく役割も担っています。
ルール作りによってAI活用を加速させる組織
——どのように生成AI活用を推進していますか?
横田:時代の潮流に対して誰よりも早く経営陣が旗を振ったことが大きいです。生成AIの活用の方針を示したうえで現場に権限を渡し、現場主導で推進する。この巻き込み力は経営陣のもっとも大きな強みの一つです。
また、今回それに大きく貢献しているのが情シスです。セキュリティの観点から利用を制限するアプローチもある中で、テックタッチではあらゆる生成AIサービスの利用規約を事前に調査し、利用できる前提で各サービスをどのように使っても良いかのルールを整備しています。加えて、情シスのメンバーも社内での生成AI活用推進にサイドプロジェクト的な位置付けで貢献しており、単にメンバーが安心してAIを支える環境を整備するだけでなく、どう使えばよいかを誰よりも考え行動してくれています。
このように「まず制限する」のではなく、安心してAIを支える環境を整備しつつ「どう使うか」を考え、自ら行動する。この姿勢が社内のAI活用のスピードを加速させた大きな要因の一つです。

開発者体験を高める工夫
——開発者体験を高めるために、どのような工夫をしていますか?
横田:大前提として「夜にしっかり寝られること」が重要です。
これはサステナブルな開発組織であるために欠かせない要素です。夜も安心して眠れない状態が続くと、エンジニアに負担がかかり、バーンアウトや休職、離職につながるリスクがあります。さらに、組織が不安定になることで製品品質が低下し、障害が発生しやすくなる。結果として、エンジニアがさらに眠れなくなるという負のループに陥ってしまいます。だからこそ、テックタッチでは、週次で品質定例を行い、監視ツールで稼働状況や負荷を可視化し、問題を未然に防ぎます。
また、開発環境はワンコマンドで立ち上がるようにしています。新メンバーでもすぐに開発へ参加できる状態を作ることで、スムーズな立ち上がりにつなげています。
このような開発体験への貢献は、チーム全体で自然と行われており、度々Slackで開発しやすい環境づくりの議論が行われ、継続的に改善されています。
AI時代においても、このような開発体験向上は意識すべきです。
Build to Thinkで顧客のニーズを爆速で実現する開発フロー
——AIの発展により、開発体制などの工夫はされていますか?
横田:AI Central Voiceはまだリリースして一年ほどのプロダクトですが、すでに多くのエンタープライズ企業に導入いただいています。その背景には、顧客ニーズを高速に実現する開発フローがあります。
特にユニークな開発フローとして、PoCチームの存在があります。PoCチームは、お客様から伺ったニーズやご意見をもとに、要件定義から開発までを高速に進める少数精鋭チームです。リアルなニーズを短期間で“実際に動く機能”として形にし、素早く検証まで行います。チームとお客様の双方が実際に動く機能を触りながらフィードバックできるため、早い段階で認識のズレを解消できます。その結果、本当に必要な機能を見極めやすくなっています。このBuild to Thinkな要件定義が、お客様に価値のある機能を届ける上での大きな要因となっています。
加えて、より高速にPoCを進めるために、PoCチームは本番環境へ影響が発生しないように内部の仕組みも整え、機能フラグによる限定公開をすることで、承認フローを極限までシンプルにして高速にデプロイできる体制を整えています。その代わり、本実装するタイミングではPoCチームのコードをすべて削除し、本実装チームが0から1で作り直します。これにより、「スピード」と「品質」の責任を分離し、全体最適を図っています。
AI時代に求められるスキル
横田:「エンジニアリングの基礎能力」と「変化への適応力」の両方が重要です。
AIが強力な道具になった今こそ、以下のような基礎能力がより重要になります。
・論理的思考
・設計力
・技術理解
AIの発展により実装のスピードは上がり、できることの幅も広がりました。
ですが本質は変わらず、「技術をビジネス価値に変換すること」にあります。これからの時代、単にコードを書くだけで評価される機会は少なくなり、我々の持つ技術力をどのようにビジネス価値へ繋げていくのかが、より問われるようになります。そのために何をAIに任せて、エンジニアがどんな責任・役割を果たすべきなのかを改めて考えていく必要があります。単にAIが生成したコードに従うのではなく、ビジネス状況も踏まえながら「何が最適の技術的な選択か」の意思決定が重要です。そのうえで、AIの出力を適切にコントロールしていく力が求められます。
これからの時代にパフォーマンスを出し続けるには、「エンジニアリングの基礎能力」がこれまで以上に重要になります。加えて、AIの進化に合わせて、自身が果たすべき責任や役割をアップデートし続ける「変化への適応力」も欠かせません。
エンジニアへのメッセージ
横田:AIに仕事を奪われることを恐れる声もありますが、重要なのは焦って役割を変えることではありません。
まずはエンジニアとして「技術をビジネス価値に変換する経験」を積み、その精度を高めること。
その先に、スペシャリストやプロダクトオーナーとしての道が見えてきます。
変化の激しい時代だからこそ、日々の技術革新に合わせて自身の役割や発揮すべき価値に向き合い続け、着実なステップを積み重ねることが最も重要です。


