場所に縛られないテック企業の経営や、多様な生き方を体現するパラレルワーク。AIネイティブ世代が地方というキャンバスに描く新しい未来とは。

今回はスタイルアーツ代表の芝田さんと、同社で自らの可能性を広げる樋口さんに、地域とテクノロジーが交差する最前線の物語を伺いました。

芝田 龍正​ さん(左) 

株式会社スタイルアーツ 代表取締役CEO。筋電義手と手話CG技術に強い興味を持ち、生体情報と機械学習を組み合わせた研究をスタート。国立スポーツ科学センターと車いすスポーツを対象に生体情報や運動情報を基に、機械学習を活用したUI設計や技術フィードバックについて研究。そのほか2社の起業経験や多数の事業開発経験を活かし、セミナーなどで活動中東京と新潟の2拠点で生活中

樋口 剛琉 さん (右)

株式会社スタイルアーツ 取締役 COO。介護DX領域での起業を経て、スタイルアーツへフルジョイン。
新規事業開発や、セミナーなど、企業や個人のあらゆる挑戦を後押ししている。

やりたいことを形に 長岡から始まるAI×DXの挑戦

2022年、新潟県長岡市で産声を上げた株式会社スタイルアーツ。AI導入・DXコンサルティングからソフトウェア開発、さらにはデザイン、AIスクール、そしてコンセプト書店の運営まで。設立わずか数年で描き出したこの多角的な事業の広がりは、果たして創業時からの構想だったのでしょうか。代表の芝田さんは、その舞台裏を明かします。

順風満帆に見える歩みですが、当初からAI一本だったわけではありません。

「当時はまだAIが社会に浸透していなかったので、周辺の仕事からスタートしました。ただ、最終的にはAIをメインに据えた事業を展開したい、という確かな展望は持っていましたね」

現在はAIを事業の核心に据え、新たな価値創出の最前線を走るスタイルアーツ。その記念すべき第一歩を振り返り、芝田さんはこう語ります。「手がけたのは、長岡市内にある卸売会社の受発注管理のDX支援でした。電話、メール、対面と、バラバラだった発注手段を、テクノロジーの力で一か所に集約したんです。『おかげで業務が本当に楽になったよ』。そんな生の声を聞けた瞬間は、何物にも代えがたい喜びでしたね」

そもそも、なぜ芝田さんは長岡で起業をしたのでしょうか。

「長岡を選んだ理由は、大きく分けて3つあります。1つ目は、私自身のルーツです。長岡の大学に在学中、この地で起業を決意しました。2つ目は、この街に眠る豊かな才能です。長岡にはエンジニアやデザイナーを志す学生たちが数多く集まっています。地方でありながら、最先端の『創る力』を持つ人材が豊富にいることは大きな強みでした。そして3つ目は、あえて『デジタル化の伸び代』がある場所を選んだことです。まだ手付かずの課題が残る地方でこそ、劇的な変化や面白さを生み出せると考えました」

手段にこだわらないことが最大のスキルに

現在、芝田さんは長岡と東京の2拠点を行き来する生活を送っています。東京のIT企業でAI部門の責任者を務め、さらにはサウナ運営会社の取締役としての顔も持っています。「高校生の頃から、自分の会社を経営しながら組織の一員としても働く、そんなパラレルな生き方に憧れていました。現在の会社に入社する際も、起業したまま迎え入れてもらうことを条件にして承諾を得たんです

スタイルアーツのメンバーである樋口さんは、常に挑戦を止めない芝田さんの働き方を間近で見守り、自らもまたその姿勢に突き動かされている一人です。

「正直に言えば、一生かけても届かないほど高い天井を見上げているような感覚。でも、だからこそ、少しでもその高みへ近づけるように、自分自身も上を目指し続けたいという気持ちになれるんです」

芝田さんの妥協なき姿勢に突き動かされているのは、樋口さんだけではありません。その熱量は、今やスタイルアーツのメンバー全員のモチベーションを底上げする原動力となっています。

多彩な顔を持ちながらも、常に「エンジニア」という揺るぎない軸足を保ち続けてきた芝田さん。しかし、仲間と共に高みを目指すなかで、彼自身の心境にもある変化の兆しが生まれ始めていました。

「かつてエンジニアとしての業務に没頭していた頃は、解決手法もおのずとエンジニアリングの枠内に限られていました。しかし今は、たとえ技術を使わなくても、目の前の課題が解決できるのならそれでいい。そんな、手法に縛られない自由さを手に入れた気がしています。セオリーに従えば、一定のクオリティは担保できます。だからこそ、それだけでは差別化できない。自分たちの持つ独自の価値観やアート性、そして何より泥臭い『人との関わり』。そうした領域で勝負することに、私たちの真の価値があると考えています」

AIを「部下」として迎える——マインドセットの転換

AIネイティブな世代とそうではない世代では、AIとの向き合い方はどのように違うのでしょうか。

「AIを単なる『便利な道具』と捉えるか、それとも『新たなチームメンバー』として迎えるか。私たちにとって、AIの活用は『一緒に働く社員が増えた』ような感覚です。しかし、初めて触れるお客様は、どうしても未知のツールに対する抵抗感を抱きがちです。そんなとき、私はこうお伝えします。『新しく入った部下に指示を出すつもりで、そのままの言葉を投げかけてみてください』。道具を使いこなそうとするのではなく、人に接するように向き合う。捉え方を変えるだけで、驚くほど心理的なハードルは低くなるんです」

樋口さんも人と接する感覚でAIを活用しています。

「人間のチームメンバーに業務を適材適所で振り分けるのと同じように、AIにも指示を出しています。複数のAIを並行して稼働させることで、これまでの5倍近い生産性を実現できるようになりました」

個人の能力を拡張するだけでなく、その力を地域社会へ。スタイルアーツでは現在、中高生向けのAIハッカソンを定期的に開催し、プログラミング未経験の学生たちにテクノロジーの面白さを伝えています。

芝田さんは「AIの活用によって、ものづくりのハードルが下がり、誰もがクリエイターになれる時代が来ています」と語ります。実際にAIハッカソンの現場を牽引する樋口さんは、そこでもう一つの驚きを感じています。「エンジニアだと『技術的に難しいからやらない』と止めてしまうようなおもしろいアイデアも生まれています。もう少し技術的なハードルをクリアすれば、サービスとしてローンチできるようなものもありますね」

NAGAOKA WORKERが変える地方の未来

スタイルアーツが目を向けているのは、次世代の育成だけではありません。現在、長岡市は地元に暮らしながら首都圏などの県外企業に「本社採用・同待遇」の完全リモートで勤める新しい働き方、「長岡ワークモデル」を推進しています。

その実践者は「NAGAOKA WORKER(ナガオカワーカー)」と呼ばれており、スタイルアーツも加盟企業としてこのビジョンに共鳴し、推進活動に参加しています。2026年3月現在、NAGAOKA WORKERは100人を越え、時間や場所にとらわれないワークスタイルが浸透しつつあります。

働く「場所」を自由に選べる一方で、日々の業務プロセスは極めてスピーディで実践的です。

「計画に時間をかけすぎるよりも、まずは着手する。失敗するなら、早く失敗して早く立て直すことが大事です」と芝田さんは語ります。社内には、エンジニアの世界で言う「アジャイル(俊敏)」な開発手法が、組織の文化として深く根づいています。

その圧倒的なスピード感を支えているのが、「デザインドキュメント(設計文書)」の存在です。プロジェクトの立ち上げ時には必ずこれを作成し、メンバー全員の共通言語の土台として機能させることで、認識のズレを防ぎながら一気にプロジェクトを前に進めているのです。

「本屋」がリモートワーク時代のリアルな接点

圧倒的なスピード感と合理性でビジネスを進める一方で、スタイルアーツには非常にユニークで人間味あふれる文化があります。それは、自社で「本屋」を運営しているということです。

「スタイルアーツ」が2023年にオープンしたDefiance Books。最大の特徴は、誰かの心を動かした「生きたおすすめ」だけを置いていること。「本との出会い方を変えたい」という想いから、膨大な選択肢に迷うことなく、あなたの背中を押す一冊が見つかる場所を目指しています。

「よく、その本屋に集まって会社の交流会を開くんです」と樋口さんは教えてくれました。

最近では「自分たちも交流会を開きたいから本屋を貸してほしい」と、知人から依頼が舞い込むことも増えたそうです。

売り上げに直結するAI活用の設計思想

オープンな社風を持つ同社には、地方からも「AIを使って新規事業を立ち上げたい」という声が届くといいます。ここで、経営者としての芝田さんのシビアな視点が光ります。

「AIの導入を進める際、単なる『業務時間の削減』を目指すだけでは不十分です。売上や利益をどう向上させるかという目的から逆算した設計があってこそ、AIは初めてその真価を発揮します」

芝田さんが考えるAI活用の真の目的は、単なる業務時間の削減ではありません。

「目的は時間の削減そのものではなく、それによって生まれた時間を使って、いかに売上や利益を向上させるかにある」と芝田さんは語ります。AIが得意な定型業務はAIに任せ、人間はクリエイティブな思考や対面での交渉といった、人間にしかできない価値創造に注力する。

この徹底した合理性と、人間への信頼が共存する設計思想こそが、スタイルアーツが提供するAIソリューションの根幹にあります。

ワクワクが起点。自分たちの挑戦が世の中を変えていく

最終的に、スタイルアーツをどのような組織にしていきたいか。その問いに対し、芝田さんは次のように未来へのビジョンを明かしてくれました。

「自分たちが心からワクワクできることをやらないと、世の中をワクワクさせることなんて絶対に難しいと思うんです。もちろん私たちは企業ですから、しっかりと売上の向上を目指し、結果にはこだわります。けれど、その根底にある『ワクワクする』という軸だけは、これからも決してブレずに貫いていきたいですね」

樋口さんは、個人それぞれの挑戦が大事だと話します。

「挑戦することは楽しいし、明確に成長にも繋がります。会社のみんなが、それぞれ個人起点で挑戦し、その輪が広がっていくような組織にしたいですね」実際にその「挑戦の連鎖」は、すでに組織の中で起き始めています。最近では、インターン生として参加していた高校生が起業に挑戦するという喜ばしい出来事もありました。

そうした仲間のひたむきな姿を見て、芝田さんや樋口さんもまた、新たな刺激と活力を得ています。

「クリエイティブで挑戦を生む」

この揺るぎないミッションのもとに集ったスタイルアーツの仲間たちは、教える・教えられるという関係性を超えて互いに高め合いながら、今日も社会に新たな可能性を広げ続けています。

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