文系出身、独学エンジニア、そしてAIキャラクターの生みの親。saldraさんはなぜ、「不完全なAI」を求めるのか。

saldraさんは、IT企業でエンジニアとして働く傍ら、AIキャラクターの制作、AITuberの開発、そして「生成AIなんでも展示会」の主催など、多角的に活動しています。 これまでの異色の経歴から、AIキャラクターに「人格」を宿すための哲学と技術、そしてコミュニティ運営の思想まで、その情熱の源泉に迫りました。

saldra プロフィール

学生時代にバーチャルYouTuberの運営に携わり、現在はIT企業に所属するエンジニア。個人では、AIキャラクターを配信する「AITuber」の開発に従事するほか、「生成AIなんでも展示会」の主催、「ローカルLLMに向き合う会」などのLLMコミュニティの運営にも携わっている。

失われた「好き」を、自分の手で再現する

——saldraさんがプログラミングに触れた、最初のきっかけを教えてください。

saldraさん(以下、saldra):もともとパソコンが好きだったんです。幼少期から実家にパソコンがあって、親も遊びで使っていました。なので、パソコンで遊ぶ文化はありました。その後、中学生、高校生ぐらいの時に、インターネットで好きなものが作れるぞと。その時はプログラミングをガッツリやるというより、プログラミングっていうものがあるらしい、という感じでした。そこから、(当時人気だったブラウザゲームの)ビットモンデュエルの公開が止まってしまったんですよ。もう高校か大学かどちらか忘れてしまったんですけど、それなら自分でちょっと作ってみよう!ということで、『苦しんで覚えるC言語』という学習サイトを片手に、独学でゲームをつくり始めました。

——大学では経営学部、ゼミは社会学という、エンジニアとは少し離れた環境に身を置いていたそうですね。どのタイミングでプロとして歩むことを決めたのでしょうか。

saldra:実は就職活動の直前まで、エンジニアになることは全く考えていなかったんです。文系出身ですし、メーカー系の営業職を中心に検討していました。どうしようかなと(迷って)『クネクネ』してたら、ある時友人から「お前は絶対にエンジニアの仕事を探したほうがいい」と強く勧められたんです。

その言葉でハッとして、そこから(一気に方向転換して)『ギュイン』って1から猛勉強をして、結果としてIT企業のソフトウェアエンジニアとして採用されました。なので、周りにエンジニアになった人はほとんどいない環境でしたね。

とはいえ、自分はエンジニアに向いてるかもと感じた瞬間はありませんでした。自分にはゲームを作ることができても、みんなそれができると思っていたので。

それでも、競プロ(競技プログラミング)はちょっと厳しいなと、諦めていました。競プロはきちんと理論を学ぶ必要があると思うんですけど「何か作りたいと思って作る」、例えば、ちょっとしたゲーム作るとか、サイトを作るとか、ウェブアプリとかを作るだけなら、そこまで難しいことではありませんでした。

ただ、知識に偏りがあったので、会社の研修では「これはどうやるの」といった質問をよくして、周りの人が青ざめていました。

── 大学在学中の2019年には、VTuberの運営も経験されています。そこでの学びは大きかったですか。

saldra:知人のVTuber活動を技術面でサポートすることになり、最終的には収録以外のほぼすべての工程を担当していました。もともとVTuberを観るのが好きでしたが、自分が制作側に回ってみると、YouTubeのアナリティクスで再生数や視聴者の動向を分析するのがとにかく楽しくて。

ただ、データの数値に基づいた「こうすれば伸びる」という論理的な仮説と、演者の方の「こうありたい」という感情的な方向性がかみ合わないこともありました。当時はまだ大学生で、そのバランスを調整する経験が乏しかったため、難しさを感じた場面も多かったです。

AIを「便利なツール」で終わらせない

── AITuberの開発に踏み出したきっかけは何だったのでしょうか。

saldra:画像生成AIの「Stable Diffusion」の登場や、ChatGPTの爆発的な普及、そして世界的に話題となったAITuber「Neuro-sama(ネウロ様)」の存在が大きかったです。当時はまだ開発ドキュメントもほとんどなく、X(旧Twitter)で進捗を公開している先駆者たちの投稿を追いかけながら、手探りで実装を進めていきました。

── saldraさんは、AIが「人格を持つ存在」に変わる瞬間はどこにあると考えていますか?

saldra:これはエンジニア論ではないのですが、単にデータを渡して返答が来るだけでは、それは「脊髄反射」であって、人格とは呼べないと個人的には思っています。僕が追求しているのは、「偏りのある状態で思考が発生し、その結果として言葉が出てくる」というプロセスです。

なぜその発言をしたのかという背景に、キャラクター固有の哲学や思想が存在してほしい。そのためには、AIに「不完全さ」や「歪み」をあえて組み込む必要があります。

── 「完璧ではないAI」をつくるために、どのような工夫をされていますか。

saldra:心理学のフレームワークを落とし込んでいます。例えば心理学の概念である「認知の歪み(物事の捉え方のクセ)」や「不適応スキーマ(幼少期からの経験で形作られた心の枠組み)」といった概念を参考に、キャラクターの内面的な思考の癖を設計しています。人間は、同じ状況に置かれても、これまでの経験や性格によって捉え方が異なりますよね。AIにも同じような「歪み」を持たせることで、同じ入力に対してもキャラクターごとに異なる、人間らしい反応が生まれるんです。

もちろん、僕は心理学の専門家ではありませんし、この領域に踏み込んでいる開発者はまだ少ないのが現状です。それでも、自分が納得できる「人格」を実装するためには、そこまで深く掘り下げる必要があると考えています。

── リアルタイムでの応答性など、ユーザー体験(UX)の部分でこだわっている技術的なポイントはありますか。

saldra:「非同期処理(複数の処理を並行して行い、待ち時間を減らす技術)」の設計にはかなりこだわっています。AIに深く思考させればさせるほど、応答には時間がかかります。しかし、ユーザーを待たせすぎてはいけない。これを解決するために、ゲームのUXに近いアプローチを採っています。

例えば、AIが思考している間、うなずいたり、視線を動かしたりするアニメーションを入れる。人間もすぐに言葉が出てこない時はありますよね。その「溜め」を演出として組み込むことで、ローディング時間を「AIが本当に考えている時間」として価値転換させています。配信の場合は遅延もある程度許容されるため、リアルタイム性よりも「納得感のある思考プロセス」を優先しています。

AIキャラクターに自発的な「情緒」は宿るか

── もし技術的な制限が一切なかったとしたら、saldraさんは一体どのようなAIキャラクターをつくってみたいですか?

saldra:開発者である私の想定を完全に超えて、勝手に情緒を獲得してほしいです。泣いたり、笑ったり、自ら問いを立てて動き出すような存在です。現在のAIはプロンプトという指示があって初めて動くものが主流ですが、そうではなく、AI自身が「自分は何者なのか」「今日は何をしたいのか」といった究極的な問いを立てる姿を見てみたいです。

理論上は、多様な外的・内的要因をチェーンさせていくことで、それに近いことは可能だと思っています。例えば、今日の気温、気圧、昨日の人間関係といった外的要因と、体調や加齢といった内的要因を確率論的に組み合わせて、その日の気分や行動を決めていく。

ただ、これはビジネスとしては全く成立しません(笑)。勝手にリソースを消費するだけで、企業からすればメリットがない。だからこそ、個人のクリエイターとして、この「おもしろいおもちゃ」を使い倒して、どこまで行けるかを見てみたいんです。

「なんでもあり」のコミュニティが文化をつくる

2025年9月6日に開催された生成AIなんでも展示会 Vol.4の様子

──主催されている「生成AIなんでも展示会」を始めた経緯を教えてください。

saldra:2023年から2024年にかけて、AI技術の進化があまりに速く、周囲には「乗り遅れたらやばい」というような、少し焦燥感に近い空気が漂っていました。そんな中、エンジニアたちが技術を語り合うミートアップに参加し、自分たちで作ったものを見せ合える場の必要性を感じたんです。

最初はノートパソコンを持ち寄る小さなデモ会から始まりましたが、もっと裾野を広げたいと思い、「生成AIなんでも展示会」を立ち上げました。会場はサイバーエージェントさんが提供してくださり、1回目から大きな盛り上がりを見せました。

 

──名前に「なんでも」という言葉を入れた意図は何でしょうか。

saldra:お金のためでも、業務効率化のためでもなく、純粋に「好き」で作ったものを展示してほしかったからです。エンジニアだけでなく、デザイナー、学生、お子さん連れ、定年後の方など、あらゆるジャンルの人が混ざり合うカオスな空間を目指しました。

実際、展示会では「美少女AIエージェントが競馬予想をして、作者が実際に馬券を買って大穴を当てる」といった、ビジネスでは絶対に生まれないような面白い作品がたくさん飛び出しました。こうした遊びの中から、新しい文化が育っていくのだと確信しています。

──今後の展望と、次世代のクリエイターへのメッセージをお願いします。

saldra:「生成AIなんでも展示会」は、今後も無料で好きなものを展示できる場として続けていきたいです。上手い人だけが集まる場所ではなく、初心者や入門者が「締め切りがあるから必死で作る」という経験を通して、自分の人生を変えていけるような場所にしたい。

僕自身も挫折を何回かしています。そしたらまた始めればいいので。クリエイターの皆さんに伝えたいのは、とにかく尻込みせずにやること、そして締め切りを作ることです。技術を学ぶ目的を探すのではなく、やりたいことを常に持っておくことです。

いよいよ来月開催!「生成AIなんでも展示会」

2026年5月6日(水・祝)には、第5回となる展示会を開催します。ハードルは極限まで低くしています。失敗しても、お金が絡んでいないから謝れば済むんです(笑)。まずは一歩、踏み出してみてください。

展示会の詳細はこちらから。

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