資生堂のIT業務やデジタル開発を担う資生堂インタラクティブビューティー。資生堂とアクセンチュアの出資により設立した合弁会社のIT部門では、特に日本地域での運用構築を中心に全世界共通の基幹システムを導入するという大型プロジェクトに携わっている。
そのプロジェクトを管掌しているのがIT本部長を務める秋岡洋平さんだ。
秋岡さんの経験してきたキャリアの幅は広い。半導体の事業企画、基幹システムのリプレイス、ユーザーサポート、コールセンター、人事など異なる領域の業務に携わり続けることで、視野の広さを獲得してきた。
「違う領域の仕事のオファーをいただく機会は多くありませんよね。機会に恵まれたときにはチャレンジする選択を取ってきました」
このように語る秋岡さんはどのようなキャリアを歩んできたのだろうか。
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秋岡洋平さん プロフィール
資生堂インタラクティブビューティー株式会社
IT本部 本部長
新卒で重電メーカーに就職後、基幹システムの刷新プロジェクトに携わる。その後、Dellで大小さまざまなIT系プロジェクトに取り組む。アスクルではITの他に新規事業開発や人事の仕事も担当。2022年に資生堂インタラクティブビューティー株式会社へ入社した。
目次
転籍がきっかけでIT領域に足を踏み入れる

学生時代の秋岡さんは、社会の土台を裏から支える製品に携わる仕事に就きたいと考えていた。就職活動ではプラントなどの大型設備を作っている重電メーカーへの就職を希望し、第一志望の企業に合格する。ただ、配属は水物でもある。秋岡さんは当初の希望とは異なる配属になった。
「ドイツの重電メーカーに出向になり、半導体の事業部に配属となりました。見上げるような大きさの製品に携わる予定が、指でつまめるような小さな製品になりました」
半導体の事業部ではMOSFETと呼ばれるカテゴリーの製品の拡販に力を入れていた。メインの業務は、工場や開発や営業などの部門からの要望を聞き、市場を見ながら戦略を練ることである。他の部門を巻き込む力が求められる業務において、大切な仕事のノウハウを学んだ。
「課長から『自分の評価ではなくメンバーやチームのアウトプットを最大化する方法だけを考えろ』と言われ続けました。課長はしっかり結果も出していて、厳しい方だったので、よく怒られていました。社会人になりたてだったので当時は理解できていませんでしたが、今はその意味がよくわかるようになりました」
チームで物事に取り組む基本的な姿勢を学びながら3年が経ったある日、転機が訪れる。所属会社と出向先である会社の提携がなくなったのだ。

ここで秋岡さんに与えられた選択肢は2つ。元の会社に戻るか転籍するかだ。3年間の仕事を振り返り、論理的な考え方が身についたこと、外資の会社が成長していたことを考慮して転籍を選んだ。この転籍という選択肢を取ったことが、ITの領域に足を踏み入れるきっかけとなる。
当時、出向元では秋岡さんが入社した会社の基幹システムのフレームを借用していた。ただ、その提携が解消された際に、機能をセパレートしなければならなくなった。
秋岡さんは営業企画に異動し、ExcelやAccessを活用して営業に関わる数値を取りまとめていた。そのため、「数値やパソコンに詳しい」という理由で基幹システム刷新プロジェクトにアサインされた。
「3名の外部コンサルタントをアサインしてもらったんですよね。その方々たちがとても優しかったんです。ウォーターフォール型の開発だったのですが、要件定義、デザイン、アドオン開発、設計、開発……。それらのフローを教えてくれました。
1年半くらいの期間でプロジェクトは完了。その後、操作マニュアルを作りました。それを見ながらシステムを使った人に『昔のシステムよりわかりやすくて使いやすい』と言われたときはうれしかったですね。それと同時に、これからのビジネステクノロジーが必須になるという感覚を覚えて転職を決意しました」
Dell、アスクルでITプロジェクトに携わる

基本的なビジネス思考とITに関する経験を積んだ秋岡さんは、30歳でDellへ転職した。
Dellでは段階的にITのプロジェクトに携わることになる。最初は、社内ITチームに所属して、問い合わせに対して回答するユーザーサポートを行い、その次は開発プロジェクトを担当。その後はアプリケーション全体の業務に携わった。
秋岡さんが入社した当時、IT部門がビジネス面を考えずに業務に取り組んでいたため、ビジネス部門はそのことに不満を募らせていた。
「ITのシステムを導入するのはビジネスの改善や強化が目的です。部門の姿勢には疑問を持っていました。そのときにビジネス部門の課題をヒアリングして、それを元に追加開発を始めたら、徐々に話ができるようになりました」
偶然にも部署内で退職者が相次ぎ、同僚や上司の意向の影響を受けることなくスムーズに仕事に取り組めるようにもなる。この時期の印象に残っている仕事がオンラインストアの注文を基幹システムにつなげるプロジェクトだ。
「Dellオンラインストアの発注から出荷までの業務プロセスがアナログで、発注を受けた紙を印刷して、手動で基幹システムに打ち込んでいたんですよ。それをつなげるプロジェクトに取り組みました。オンラインストア側の商品構成とバックエンド側の構成が一致していなかったので、そこのマッピングが大変でした」
その後、社内の組織体制の変更にともなって、完全な縦割り組織となった。机を並べて仕事に取り組んでいる人であっても、アメリカに本部をおく事業部経由でしか依頼をできなくなり、業務に集中しにくくなったのだ。「今では笑い話なんですが、本当に仕事がやりにくかったです」と振り返る。
そして、文房具の通信販売を手がけるアスクルへ転職する。
「日本の会社に転職したいと思ったんですよね。そのときに志望していたのが、ベンチャー気質があって社会へインパクトを与えられる会社です。2006年当時のアスクルはカタログとeコマースを活用して、既存の流通モデルを変革していました。おもしろそうな会社だと思って入社を決めました」
「日本の会社を良くしたい」と思い、資生堂へ

アスクルではIT領域を含めて、多くのジャンルの仕事に挑戦した。まず、大企業向けのオフィス用品を購入できる「ソロエル」の新規事業を経験し、ECサイトの立上に関わる。その後、基幹システムやIT系のプロジェクトに取り組み、人事のオファーを受けて承諾した。
「人事の業務は興味深かったです。実力主義を反映した、新しい人事評価制度も作りました。ただ、そこでは賛否が出たんですよね。人事ではおそらく100%の人を満足させるものはつくれないんだろうなと思いました。
反面、ITはシステムを導入すると明確に結果が出て、成功か失敗か明確にわかりますよね。私自身、日本の会社を良くしたいという想いが強かったので、資生堂に入社しました」
資生堂は大型プロジェクトの「FOCUS」を推進している。ビジネス思考とIT経験を持ち、人をつなぐことのできる秋岡さんはプロジェクトにとってなくてはならない存在だ。「今はプロジェクトを推進することで頭がいっぱい」と語るが、今後の目標はあるのだろうか。
「日本の会社が元気になってほしいと思っています。なので、地方創生に少しずつ携わりたいです。地方には特別な商品を持っている会社もたくさんあるんですよね。でも、販売方法や組織の整備の仕方がわからずに困っている。そういうところで、これまでの知見を役立てていければと思います」
第一線で活躍したビジネスパーソンの手を借りたいと考える企業は多い。ビジネスやITの知見を持つ秋岡さんの力は多くの企業の課題解決につながるだろう。
幅広い視野を武器に、さらに活躍の場を広げようとしている秋岡さん。その未来は日本社会の成長とつながるはずだ。
