いつまでも続く、長時間残業。プロジェクトのスケジュールが遅延しているのに、メンバーが増員される気配もない。
「もう無理、こんな会社辞めてやる!」
このような気持ちになった経験は、誰もが1度や2度はあると思います。
とはいえ、今プロジェクトを抜けてしまったら、これまで苦楽をともにしてきたプロマネや他のメンバーに迷惑をかけてしまうかもしれないと思い、辞表を提出できずにいるかもしれません。
1日でも早く、デスマーチプロジェクトから抜け出すためのいい理由はないかと考え、思いつくのが、「親が倒れた」です。この退職理由なら、会社や上司も納得してくれるので、親が倒れていないのにウソをついて会社を辞める人がいます。
なぜ、「親が倒れた」とウソをついてしまうのか? この理由で会社を辞めてはいけないワケについて、解説します。
目次
退職理由の最強カード「親が倒れた」
もし正直に、上司やメンバーとの人間関係が理由で会社を辞めると言ったら、
「今プロジェクトを抜けられたら、困る」
「もうちょっとだけ頑張って!不平不満があったら、何でも聞くから」
このような言葉で強く引き止められ、すぐには辞められないでしょう。しかし、親が倒れたと言って辞表を提出したら、
「それは大変だね、無事を祈っています」
「早く親御さんのそばに行ってあげて」
と優しい言葉をかけてもらって、すぐに会社を辞められます。それだけ「親が倒れた」という退職理由は、周りを納得させやすいのです。
また会社を辞め、しばらくして転職活動を再開したときも面接官から、
「親御さんが病気になられて、大変でしたね」
と声をかけられ、本当は会社やプロジェクトがイヤで退職しただけなのに、正当な理由として認めてもらえます。
さらに自分のキャリアにも、傷がつきません。カットオーバー寸前でプロジェクトを投げ出したとしても、親が倒れたのならやむを得ないと判断されます。最後まで仕事をやり遂げられない人という、ネガティブな評価にはなりません。
働いていた会社や上司、次の転職先、そして自分のキャリアと、すべてに対して丸く収められる退職理由が、「親が倒れた」なのです。
しかし親の介護を経験し、面接官の経験もあるわたしからすると、この退職理由はオススメしません。なぜ「親が倒れた」と、ウソを言ってはいけないのでしょう?
「親が倒れた」と言って会社を辞める人はたくさんいる
面接官として多くの面接を経験している人なら、「親が倒れたから、会社を辞めた」という転職希望者に会ったことがあると思います。中には、「親って、こんなに倒れるものなの?」と思っている面接官もいるかもしれません。
それくらい退職理由として「親が倒れた」は重宝されていて、疑心暗鬼になっている面接官もいるほどです。とはいえ転職希望者に、
「お父さんは、本当に倒れたのですか?」
とは聞けません。そこで別の質問をすることで、本当に親が倒れたかどうかを確認する方法があります。それは、
「地域包括支援センターへ、相談に行ってみましたか?」
です。親が倒れたり、介護が必要になったりしたときに、65歳以上の人とその家族が無料で利用できる公的な相談窓口が、地域包括支援センター(通称、包括)です。
この包括の存在に気づかずに、介護離職してしまうケースもありますが、本気で介護と仕事を両立させたいと考えている人なら、包括に行き着くはずです。もしも面接で「包括?」と初めて聴いたかのような反応を示したら、面接官は怪しむと思います。
また、このような質問もあります。
「お母さまの要介護度は、いくつですか?」
親の介護が必要になって、ヘルパーやデイサービスなどの介護保険サービスを利用したり、介護施設に預けたりする場合、要介護認定を受けることになります。
親と調査員と面談やかかりつけ医の主治医意見書で、親の要介護度が決定します。介護を経験している人の多くが知っているので、ここでも「要介護度?」と言ったら、面接で落とされるかもしれません。
ウソの退職理由でキャリアアップのチャンスを失う
40代、50代の介護離職者を減らすために、企業側も本腰を入れて社内制度を整えています。とくに人事は介護の知識が豊富なので、安易なウソはすぐにバレてしまうと思っておいたほうがいいでしょう。
ご紹介した2つの質問以外にも、親が倒れたかどうかを確認する方法はたくさんあります。本当に親が倒れたのなら、やるべき手続きやステップがあります。それをやっていなかったら、面接の質問で簡単にウソがバレてしまいます。
会社やプロジェクトメンバー、自分自身も守れる退職理由「親が倒れる」は、最強と思うかもしれません。しかしキャリアアップのために入りたかった会社への転職のチャンスを、小さなウソで失ってしまう可能性もあるので、注意してください。
(文:工藤広伸)