一発撮りのパフォーマンスを鮮明に切り取るYouTubeチャンネルとして注目を集めている「THE FIRST TAKE」。アーティストのルーツを辿り、母校の音楽室で凱旋ライブをおこなう、NHKの音楽ドキュメンタリー番組「おかえり音楽室」。前編に引き続き、クリエイティブディレクターとして活躍する清水恵介(しみずけいすけ)さんに話を伺った。

清水さんはクリエイティブにおいて、「アイコニックなデザインを重視し、“制限を持って削ぎ落としていく”考え方を大切にしている」と語る。続く後編では、番組制作のこだわりや、AI全盛期におけるアートディレクター・クリエイティブディレクターの在り方について迫っていく。

―「THE FIRST TAKE」クリエイティブディレクター清水さんの記事一覧

THE FIRST TAKE 」のこだわりはライティング

ーー「THE FIRST TAKE 」のネーミングやデザイン面でのこだわりを教えてください。

清水:
「THE FIRST TAKE」の名前のファーストはファーストクラスなどに使われるファースト。THEをつけるか、つけないかでも議論をしました。リッチなイメージにしたかったので、ゆっくり読んでもらえるようにロゴの文字の間隔もゆったりめに……など、ネーミングとデザイン面においては特に時間をかけて議論をしましたね。

ーーロゴ以外でも、あらゆるこだわりが見受けられます。サムネイルのポートレートは「ライティングをするときに、どこに光を当てるかではなく、どこに影をつくりたいかから考え始める」とおっしゃっていましたよね。

清水:
ライティングは、かなりこだわっているかもしれません。光は生のエネルギー、影は死のエネルギー。そんなことをよく思うのですが、いろんなエネルギーがその人に合った光になるんですよね。それはみんながそれぞれ持っていて、その人の年齢や考え方によっても変わるかもしれない。光を作るっていうのは、生き方を想像しながら行うライティングだと思うんです。

ただ、例えばもの凄く明るい写真を撮ったにしても、反対に暗い写真を撮ったにしても、何を感じるのかは人それぞれ。「明るい=希望」「暗い=絶望」っていう感受性は、あくまで観ている側の勝手な想像の一つであって。そういう要素を想像しながらそれに合った光、もしくはそれを裏切る影……「今当たっている光じゃなくて本当はその人の魅力は、影にあるかもしれない」とか。突き詰めていく過程で、その人の色々な面を表現していけるのがライティングであり、光と影だと思っています。

ーー今のライティングのお話然り、清水さんはお仕事の中で物語性を大切にされているような印象を受けました。

清水:
動画やグラフィック、さっきの宣伝ポスターに関しても、一貫しているのは、その人の生き様をストーリーにして伝えるというところかもしれません。

たくさん素敵なものを持っている方でも、なかなか人に(良さが)伝わらなかったりするじゃないですか。そういうのって、もったいない。僕がフレームを作る意味はそこにあるのかなと思うのですが、それは脚本を元にしたフレームではなくて。その人が、どういうふうに生きてきたかが自然に現れるようなフレームを作りたいですね。

ーー同じくストーリー性を強く感じられる作品として、NHK総合で放送され大きな話題を集めている音楽ドキュメンタリー番組「おかえり音楽室」も印象的です。番組のイメージでもある、いわゆるエモさを出すために注力した演出だったり、テクニカルな工夫はあったのでしょうか?

清水:
一緒にここに帰郷してる気持ちを追体験してもらいたい。だからこそ、わかりやすく言うと五感に訴えるような演出は意識していました。

例えば、何か食べたときの味覚を想像させたり、階段を登ったときのひんやりした空気感を想像させたり。懐かしいとか美味しそうとか、「こういう時間って人生のいい瞬間だよなって思える瞬間」を追体験ができる映像にしたい想いはありました。

今の時代におけるコンテンツへの信頼=自分の時間を捧げること

ーー最近ではChatGPT4の登場が話題になっていますが、清水さんはAIを活用されていますか?

清水:
AIを用いた企画そのものは真剣に考えてはいますが、僕が理解していない部分もまだまだありますから(笑)。まずはどういうふうにAIを使うかについて向き合っていきたいですね。

もちろん、AIをディレクションにどう活用できるかは肝になる部分ですよね。具体的に、友人の映像でAIを活用しているケースもあるので、(AIの)波は感じているけれど実務的な導入はまだというところでしょうか。

ーー清水さんが考える、このAI全盛期で活躍できる映像・アートディレクターとは?

清水:
僕の歴史でいうと、昔は例えば資料探しをする際は、青山ブックセンターに足を運ぶ機会が多かった。コピーを取ったり、それをファイリングしたり……。そんな時代からGoogle検索が生まれて、Pinterestが生まれて、今や誰もがInstagramでイメージ探しができるわけです。昔は本屋や図書館に行っても、見つからなかったものが、ぱっと見つかる時代。ただ(資料を)ぱっと引き出せる時代になったけど、それを選べるかどうかは、その人次第じゃないですか。

音楽でいえば、誰でもSpotifyから曲選びはできるけれど、“70年代の〇〇ジャンルの△△というアーティスト”は、相当な選択肢から選んでいることになります。デザインとかもそうですよね。本当に大量に世の中に良いデザインがある中で、自分がどんなデザインをするか。だから選択肢が簡単に増やせる時代であっても、根幹の考え方はあまり変わらないんだろうなと。

AIによってできるようになることはみんな平等にあるけれど、問題はそこにどういう指示を出すか。AIにどんな指示を与えて、どんな文脈の中で自分がそれをアップデートさせるか。その価値を考え抜ける人が、この先も活躍される方なんじゃないかなと思います。

ーー最後に、清水さんが今後のキャリアの中で実現したい目標はありますか?

清水:
たとえ時間をかけてでも、観たい・聞きたいと思えるものを作りたいです。これは時代もあると思うんですけど、タイムパフォーマンスに飲み込まれそうで。あらゆるコンテンツの尺がどんどん短くなってますよね。つまりそれって、いかに短く、簡潔に伝えられるかが今の時代に求められているわけで。

それでも、映画館の2時間にはスマホを開けないからこその価値があり続けている。人生も、多分同じです。ぱっと見て印象に残る手軽な格言に感動した気になっても、本当の意味でその人の人生に深く刻まれるかというと、そうじゃない。

時間をかけて、その言葉を理解して、ようやくわかったときに成り立つ深いコミュニケーションがあるはず。僕がやりたいのはやはり、そういうことなんですよね。手軽なものが溢れている今、コンテンツへの信頼の高さって、いかに自分の時間を捧げられるかに表れますから。

だから手軽さ以上の深いコミュニケーションを成立させてくれるようなコンテンツ、時間をかけるに相応しいものを作って、自分の全く知らない遠くの方々と共有できたらいいなとは思っています。

―「THE FIRST TAKE」クリエイティブディレクター清水さんの記事一覧

(取材・文/すなくじら、撮影/原田義治/Yoshiharu Harada)

― presented by paiza

Share

Tech Team Journalをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む