時代とともに変化するITエンジニアの役割にあわせ、ITエンジニアチームの組織体制も常にバージョンアップを重ねています。ポジションも多様化しており、特にマネジメント系の領域においては、経営陣の1人として技術を統括するCTO(Chief Technology Officer、最高技術責任者)をはじめとしてさまざまな役職が生まれてきました。

そして近年、Webサービス企業において注目度を高めているのが「VPoE」(Vice President of Engineering)と呼ばれる職種です。欧米ではすでに一般的なポジションですが、日本ではまだまだなじみがない方も多いかと思います。そこでTech Team Journalでは、前後編に分けてVPoEとはどのような役割を担う職種なのか、詳しく解説していきます。

※後編はこちら
【VPoEとは?(後編)】VPoEに求められる能力・経験とは?VPoEを設置する際に注意すべき点は?

VPoEはエンジニアリング組織のマネジメント責任者

VPoEは、一言でいうと「エンジニアリング組織におけるマネジメント責任者」です。欧米ではVPoEは製造業など幅広い業種に存在していますが、日本国内では設置されているのはWebサービス企業がほとんどです。そのため日本でVPoEという場合は「ソフトウェア開発組織におけるマネジメント責任者」を指すことが多いです。

開発組織のアウトプットを最大化させることが期待されるポジションで、開発にまつわる技術面・ビジネス面・組織面の諸問題を取り除き、解決することが主な役割となります。管理職としてチームや人材に関する知見が求められる一方で、通常は開発業務をすることはありません。

  • ITエンジニアの採用、育成、評価、制度設計
  • 目標設定、戦略策定などの計画、実装、監督
  • 社内の開発業務のフロー整備

VPoEは、ITエンジニアの面接・採用、オンボーディングや1on1などのメンタリングに加え、プロダクト側との調整などを担当します。10名程度の小規模なエンジニアリング組織であれば、VPoEが直接ITエンジニアをマネジメントします。それ以上の規模では、VPoEとメンバーとの間にエンジニアリング・マネジャーを配置し、VPoEはエンジニアリング・マネジャーをマネジメントする体制を敷くことが多くなっていきます。

VPoEが国内でよく知られるようになったのは、2017年ごろではないでしょうか。この年、メガベンチャーの1つであるメルカリが、CTOとVPoEでの2トップ体制への移行を発表しています。同年は、エムスリーやGunosyなどもVPoEを設置しており、にわかにVPoEが注目されるようになりました。

CTOとの違いは?

VPoEとよく比較されるのが、CTOでしょう。次はCTOとVPoEが一般的にどういう役割なのかを解説します。

CTOは技術戦略や技術選定、研究開発など、技術自体のマネジメントを担い、その企業の技術的優位性を維持・向上させて、競争力を高めることを期待されるポジションです。VPoEより技術色の強いポジションで、ITエンジニアから見てシンパシーを感じやすいため、採用広報側面を担当することもよくあります。

近年のWebサービス企業ではVPoEとCTOの二頭体制で開発組織を受け持つことが増えています。序列は企業によって異なりますが、並列であることが多く、役割分担しています。

開発部門のトップがカバーすべき領域を大まかにカテゴライズすると、技術、組織、プロダクトの3つになりますが、これらをすべてこなせる人はめったにいません。そのため、VPoEが組織、CTOが技術を受け持ち、プロダクトは両者が協力しながら見るという体制が注目を集めるようになりました。CTOは社内のトップエンジニアが務め、VPoEは開発出身者の中でマネジメントの得意な人が受け持つイメージです。社内にCTOかVPoEのどちらか一方しかいない場合は、その両方の職責を一人で受け持つこととなります。

従来の日本企業では、CTOがエンジニアリング組織の最高責任者として、技術戦略からチームマネジメントまですべてを見ることが一般的でした。特にスタートアップなど企業サイズの小さい組織では、開発部門の中で高い技術力を有するトップエンジニアがCTOに就くことが多いです。しかし、企業やエンジニアリング組織の規模が拡大すると、技術と組織の両面を見なければならずCTOに大きな負担がかかります。これらの背景から、VPoEを設置して役割を分担する企業が増えてきたと考えられます。

なお、この章の最初で「一般的に」と書いた通り、実際には企業によってCTOとVPoEの役割は少しずつ異なります。企業・エンジニアリング組織が抱えている課題や未来像などに沿って、CTO・VPoEの責任範囲は企業ごとに個別に定められています。

なぜ今VPoEが注目されているのか

さらに、近年は開発部門のトップに求められる役割が複雑化してきており、それもあってVPoEを設置する企業が増えています。

この10年でWebサービス企業における開発手法は大きく変化しています。Webサービスの黎明期は、SIerや出版業界などさまざまな分野から集まった人たちが、それぞれの業界での仕事の進め方を持ち込みWebサービスを作っていました。開発面はSIer出身のITエンジニアが中心となり、ウォーターフォール開発をベースとして試行錯誤しながら、アジャイル開発に移行していきました。

SIerにおけるウォーターフォール開発プロジェクトは、リリース日に開発が終わることを目指しプロジェクトを進めます。こういったプロジェクトの最大の不確実性は、開発するプロダクトの仕様を決める要件定義フェーズにあります。事前に仕様が完全に確定し、関係者の合意を取り付けることができれば、プロジェクトが進捗するごとに不確実性は確実に減り、リリース日には不確実性はゼロになります。このため金融や保険など、規制が多く企業間での差別化が難しい業界、市場の変動性が低い業界においては、しっかりと時間をかけて、よりいいものを作るのに向いている手法といえます。

一方、Webサービス開発で目指すのは、プロダクトが市場からずっと必要とされ、そのプロジェクトが終わらない状態です。Webサービス開発における最大の不確実性は市場の反応と変化です。関係者で決めた仕様通りのプロダクトを作るよりも、プロダクトを市場に出したときにより良い反応が得るほうが重要です。しかし、市場の反応は事前に要件定義することはできないため、素早く小さく一通り動作する形でリリースし、市場の反応を見ながら方向転換を繰り返すスピード感と柔軟性が重要になります。

またWebサービスは、機能やUIなどによる差別化競争が激しく、市場環境の変動が早いのも特徴です。そのため、1年スパンなどの時間軸で開発していると、環境変化についていけず、リリース時にはその機能の競合優位性がなくなっていることもありえます。そこでアジャイル開発が出てきたのです。

この変化が、組織マネジメントに求められる要件をも大きく変えました。開発部門の責任者には、従来以上に戦略的意思決定や技術優位性維持のための投資、研究開発などで、的確かつスピーディな判断が求められるようになっています。

加えて、市場の反応や変化に素早く対応するためには、中央集権的な組織ではなく、プロダクトを開発するチームが市場を理解、学習しながら素早くプロダクトをリリースできる体制が求められるようになりました。このため、チームに求められる要件も、言われたことを開発する受け身のチームではなく、自己組織化した主体的、自律的なスピードと柔軟性をもったチームが求められるようになったのです。

当然ながらチームビルディングやマネジメントに求められる要件も高度化し、開発組織のトップには非常に広範囲かつ高い次元での総合力が求められるようになりました。

しかし、繰り返しになりますが、これらすべてで高い専門性を発揮できる人材は多くないのが現実です。そのため、1人にすべてを任せるのではなく、VPoEが自己組織化できるチームを作り、CTOが技術領域のキャッチアップと展開を受け持つ二頭体制をとり、事業部と協力してプロダクトを開発していく企業が増えてきています。

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後編では

この記事では、VPoEの役割や設置する理由について解説しました。

後編では、VPoEに求められる能力や実際に設置する際の注意点などについて解説します。


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