近年、Webサービス企業を中心に設置されることが増えているVPoE。Tech Team JournalではVPoEについて前後編に分けて詳しく解説しています。
前編では、VPoEがどういう役割を持っているか、なぜ企業でVPoEを置くことが増えているのかについてご紹介しました。後編ではVPoEに求められる能力や、VPoEを導入する際の注意点について解説します。
VPoEに求められる能力・適性とは
前編でもご紹介した通り、VPoEの需要は増大しつつあります。一方で、国内のVPoE経験者はまだまだ少なく、このポジションを担えるだけのスキルを持ち合わせる人も不足しています。
では、具体的にVPoEに求められる能力とはなんでしょうか。ここでは「paiza転職」における、VPoE求人の要件をもとに考えてみます。
会社によって細かい部分は異なりますが、一般的にVPoEの業務範囲としてあげられるのは以下のようなものになります。
- 組織・制度設計(組織制度、組織文化、評価制度、研修制度など)
- 採用(採用戦略の策定、要件設定、面接、採用後のオンボーディングなど)
- 事業戦略(事業計画・採用計画・プロダクト計画の策定など)
- チームマネジメント(チームビルディング、1on1、目標管理、評価、キャリア設計、育成など)
- 開発マネジメント(要件の調整、アサイン管理、部門間での調整など)
主業務は人や組織のマネジメントです。ただし、エンジニアリング組織をマネジメントするため、技術面に関する深い理解が求められます。技術者としてのベースは必須と言っていいでしょう。
それに加えて責任者としての組織管理能力が求められます。エンジニアリング組織のマネジメントといっても、ときには全社的な動向を見ながら課題に取り組む場面も多く、経営に関する知識や経験、人材・組織マネジメントへの深い理解が求められます。
なお、多くの企業では、VPoE自身がエンジニアとして稼働する場面は少ないようです。エンジニアリングや最新の技術トレンドなどへの理解は必要ですが、あくまでマネジメントがメインとなります。
VPoEになるためのキャリアプラン
繰り返しになりますが、まだまだ日本ではVPoE経験者が少なく、多くの場合で未経験からVPoE職に就くことになります。それでは、現在VPoEに就く人はどのような経験やキャリアを積んできているのでしょうか。
考えられるケースとしては以下のようなものがあげられます。
- CTOなど開発部門のトップとしてエンジニアリング組織のマネジメント経験、加えてプロダクトマネジャーやプロダクトオーナーなど、サービスの舵取り役としての経験も持ち合わせている人材
- エンジニアとして新規事業開発などに従事し、エンジニアリングだけでなくプロダクトの成長、組織拡大の戦略策定、ヒト・モノ・カネのマネジメント経験を持っている人材
なお、すでにVPoEというポジションが定着している米国では、エンジニアの経験やエンジニアリングの学士の経験や、経営学修士(MBA)や技術経営管理修士(MOT)などが条件となっている場合もあります。
ここまで何度も書いているように、VPoEは技術をベースにしながらも、マネジメント領域を中心に広範なスキル・経験が必要なポジションです。当然ですが簡単になれるようなものではなく、一般的にはエンジニア、プロダクトオーナーなどで10年程度のキャリアを積んでからVPoEになることが多いようです。
待遇面では、CTOと同格にしている企業が多く、給与のレンジもほぼ同じと考えていいでしょう。企業の規模にもよりますが、年俸1000万円超で募集する例も数多くあります。
VPoEを設置する際の注意点
徐々に日本でも導入されているVPoEですが、CTOとVPoEの2トップ体制にすればすぐにすべて組織の課題が解決するわけではありません。
前編で書いた通り、企業がVPoEを新たに設置しているのは、「ビジネスモデルのIT化」が進みエンジニアリング組織に求められる役割が急速に重くなっているためです。一人の責任者では、開発組織の技術的優位性を保ちながらマネジメントまで見ることは難しくなってきています。
複雑化・高度化する業務を役割分担していくのは容易ではありません。責任範囲、KPIなどを明確にしたうえで実施しないと、責任の所在があいまいになり、結果的に問題がお見合い状態で放置されるといったことが起きてしまいます。技術的負債の返済なども、組織面と技術面を横断する課題であり、分担を明確にしておくべきでしょう。
また、エンジニアリング組織におけるレポートラインが複雑化するため、ルールや共有の仕組みを整えておかないと現場が混乱したり、CTOとVPoEでコンセンサスがとれなくなったりする場合があります。せっかくVPoEを設置したのに意思決定のスピードが下がっては元も子もありませんから、CTOとVPoEがしっかりと連携できるよう、強い信頼関係で結ばれる必要があるでしょう。
まとめ
以上、前後編にわたってVPoEについて解説してきました。
Webサービス産業の成長や、DXの推進によるビジネスモデルのIT化によって、企業におけるエンジニアリング組織の担う役割が非常に大きくなっています。これまでは管理業務の技術化をメインに担ってきた組織が、今後はプロダクトの成長を直接推進していくようになるのです。
エンジニアリング組織の重要性が増すとともに、マネジメントの難易度も高まっていきます。これからは日本でも多くの企業で、VPoEとCTOによる役割分担の仕組みが浸透していくはずです。エンジニアリング組織を健全に成長させていくために、VPoEが欠かせないポジションとなっていくでしょう。