さまざまな企業の開発現場で活用され始めている生成AI 。とくにアメリカでは、すでにAIが当たり前の存在になっています。

本記事では『Developer eXperience Day 2024』(主催:日本CTO協会)における、「最先端の生成AIトレンドから先読みする これからの生成AIエンジニアに求められるスキルセット大解剖」の模様を、生成AIの最前線を見てきたお二人の対談形式でお届けします。

新田 章太
株式会社ギブリー
取締役 兼 HRTech部門 Givery AILab室長
2012年3月に筑波大学理工学群社会工学類経営工学専攻卒業。
学生インターンシップ時代に「エンジニア」領域に特化した支援事業を株式会社ギブリーにて立ち上げ、入社。現在は取締役を務める。
オンラインプログラミング学習・試験ツール等の自社サービスを立ち上げ、同社のHR tech部門を管掌。また、日本最大規模の学生ハックイベント、JPHACKSの組織委員会幹事を務めるなど、若い世代のイノベーターの発掘・支援にも取り組んでいる。

森重 真純
Givery AI Lab 技術パートナー
Track Academy テクニカルアドバイザー(生成AIエンジニアコース)

慶應義塾大学大学院修士課程修了。日本IBMにデータサイエンティストとして入社。その後、株式会社Galirageを創業、代表取締役CEO。

学生時代に始めた6年間のフリーランス経験を含めると、100を超えるプロジェクトに参画。生成AIに関する教育関連事業にも積極的に活動し、YouTubeチャンネルの立ち上げや、Qiita・Zennなどへの執筆活動なども行う。Givery AIラボの技術パートナー・テクニカルアドバイザーとして、お客様のプロジェクト伴走支援を行っている。

直近では、大手メガバンクの次期経営計画におけるAI戦略の策定支援や、大手製薬企業における生成AIシステムの開発に従事(その他に9社のプライム上場企業への支援実績あり)。

シアトルで感じたAI新時代の到来

本セッションは、5月末にシアトルで開催されたMicrosoft Buildカンファレンスに両氏が参加した経験を軸に展開されました。

新田氏:今日は、我々がシアトルで体験してきた最先端のAI開発における最新技術情報をお伝えしつつ、これからのAI開発の進化と、エンジニアに求められるスキルセットについてお話ししていきたいと思います。シアトルでの体験は、まさに生成AIの最前線を肌で感じる機会となりました。

森重氏:シアトルとサンフランシスコの企業を何社か訪れ、もっとも驚いたのは、日本とアメリカの常識感の違い、世界観の違いでした。たとえば、シアトルの空港からホテルに向かう途中で、AnthropicのClaude(AI言語モデル)の巨大な広告を目にしました。日本ではまだそこまでAIが日常に溶け込んでいる感覚はありませんが、アメリカではAIがすでに当たり前の存在になりつつあることを強く感じました。

新田氏:Microsoftのオフィスでも『A new AI ara begins』という旗がたくさん立っていて、本当にAIで世の中を変えていくんだという強い意気込みを感じましたね。このホットな情報を皆さんにも咀嚼してお届けし、日常的な業務など、いろいろなところに生かしていただければと思っています。

トレンドからみる3つのポイント

新田氏は、生成AIの最新トレンドを3つのポイントに整理して解説。これらのトレンドは、今後の生成AI開発や利用の方向性を示す重要な指標となります。

1. AIのケイパビリティ向上

新田氏:まず注目すべきは、AIのケイパビリティの向上です。とくに『Copilot』という概念が重要です。これは、マルチターンで会話ができるエージェント機能を持ち、複雑な認知機能を要するタスクの手助けをするソフトウェアの総称である、とMicrosoftでは言われています。

今までの生成AIの活用手法は、DeepLのような翻訳ツールと同様に、テキストをコピペしたら結果が返ってくるだけのシングルターン形式が一般的でした。一方で、Copilotは業務フローの中に深く入り込んで、会話の中で認知機能を持ってサジェストしたり、タスクの実行まで代替していく。

たとえば、Teamsのような日常的に使うツールの中にAIが組み込まれ、会議中にCopilotが自動的に重要なポイントを抽出し、会議後にはアクションアイテムを提案、さらにそれを関連するプロジェクト管理ツールに自動で登録するといったことが可能になります。そこがゲームチェンジの大きな部分ですね。彼らが目指しているのは “Take Action(行動を起こす)” だと、強く言っていました。

森重氏:「Copilotと生成AIは、似て非なるもの」だと考えています。Copilotは、私たちの業務を支援するソフトウェアであり、生成AIはその中の一つの技術要素でしかありません。そして、有用なCopilotを構築する上で、今まで私たちエンジニアが作ってきたルールベースのロジックを、どのように生成AIと組み合わせるかということがものすごい重要なテーマになります。実際に、Microsoftも、イベント内では生成AIというフレーズは使わずに、Copilotという言葉を使う姿勢が見られました。

新田氏:まさにそうですね。さまざまなSaaSやソフトウェア、データ基盤がある中で、データセットやアプリケーションをつなぎ合わせていくような存在として生成AIを活用していくというのは、一つ重要なポイントだと感じました。

2. LLMからSLMへの移行

新田氏:2つ目のトレンドは、大規模言語モデル(LLM)から小規模言語モデル(SLM)への移行です。SLMは、より小さく、早く、特定の業務に特化したモデルです。

LLMは学習コストが高く、ハルシネーションのリスクもある。それに対してSLMは、より安全で特化型、高速なモデルとして注目されています。実際、AI搭載のPCなども発表されていて、ローカル環境やオンプレミスでの実行が可能になってきています。これは、データプライバシーやセキュリティの観点からも重要な進展です。

森重氏:シンプルな結論としては、もう多くの企業が精度改善、応答速度改善をするフェーズに入ったということを表していると思います。今までは、1分くらいの待ち時間に耐えられていたんですけど、徐々に多くの人がLLMネイティブになりだして、生成AIの体験への期待値が向上しました。それゆえ、もう少し回答の品質を高めたい、速度を速くしたいというような声が上がってきたため、SLMのようにパフォーマンス最適を行うに必要な技術要素の研究が深掘りされたと解釈しました。

3. MaaSとLLMOpsの活用

新田氏:3つ目は、MaaS(Model as a Service)とLLMOpsの概念です。LLMOpsは、従来のMLOps(機械学習オペレーション)の概念を大規模言語モデルに適用したものです。これには、複数のAIモデルの選択、運用改善、モニタリングなど、AIモデルのライフサイクル全体を管理するプロセスが含まれます。

たとえばAzure AI Studioでは、gptやPhi-3をはじめ、1,600以上のモデルが搭載されています。それらを業務に特化した形でチューニングし、パフォーマンスを継続的にモニタリングし、評価と改善を繰り返すことをサポートしています。このようなLLMの運用が非常に重要性の高い時代になってきています。

新田氏:最近は各社さん、〇〇Studioといった、いろいろな統合管理ツールを出されていますが、この辺りについてはいかがですか?

森重氏:統合管理ツールは多くの場合、データ蓄積の役割と密につながっていることが多く、一度、統合管理ツールの運用を始めると、他のツールへの移行コストがかなりかかってしまいます。そのため、各社とも、ユーザーを握りにいくために、統合管理ツールやLLMOpsのツールの開発と導入を重要な布石として捉えている、というのが自分の見解ですね。

新田氏:今は本当にロックアップされずにいろいろなものを使ってみるのがいいのかもしれないですね。

森重氏:そうですね。実際にお客様の中とかでも、AWSとAzureを並行して使い分けているリッチなお客様もいます(笑)

AI活用人材に求められる3段階のスキルセット

新田氏は、生成AIの時代に求められるスキルセットについて「大きく3つのレベルに分解できる」と語りました。これらのスキルセットは、AIの進化にともない、エンジニアが身につけるべき重要な能力を示しています。

LEVEL1. すべてのAI利用者に求められるスキル

新田氏:まず、すべてのAI利用者に求められるのは基本的なデジタルリテラシーです。人とAIとの区別ができ、ハルシネーションのリスクを理解し、適切なデータを与えられる能力が必要です。とくに会話型のAIは延々と会話ができるため、いかに最短距離で自分が必要な情報を取得していくかが重要です。非常に構造化した考え方、論理的な思考が求められます。

すべてのAI利用者に必要なデジタルスキル:
基本的なデジタルリテラシー
質問力・対話力・論理的思考力
変化への適応・反復思考

森重氏:思考の部分はとくに重要ですね。考える「思考力」と、試す「試行力」の両輪が必要だという話を私もよくします。実際に私の仲間にも、エンジニア経験がない中で、GitHub Copilotを使って一つシステム開発案件をやり遂げたメンバーがいます。そのメンバーが特筆して持っていたスキルは、「思考力」と「試行力」でした。

新田氏:どんどん敷居が下がっていく部分もあるので、積極的にこういったツールを活用していくことは非常に重要ですよね。日常的に使うアプリケーションの隣にAIがいる状態になってきますので、これらを活用していくことが非常に重要です。

LEVEL2. プロンプトエンジニアに求められるスキル

新田氏:プロンプトエンジニアには、Webネットワークやデータリテラシーが重要になってきます。

森重氏:おっしゃる通りだと思います。その他にも、「プログラミング的思考」と「業務設計力」もかなり重要だと思います。やっぱりまず人間がシステムをちゃんと理解しないと、AIに適切な指示を出せませんからね。ここに対して根本的なコンピュータサイエンスの理解、そのレイヤーからしっかりと理解しておくことは、これから長く続くシステムをつくるためには必要だと思います。

新田氏:AIを搭載したソフトウェアを作っていくときに、特定のユースケースや困っている点をデザイン思考的にアプローチすることで、お客様も「生成AIでこんなことができるかもしれない!」とアイデアが豊かになってくるんですよね。

森重氏:私も同意見です。別の表現で説明すると、DXだけでなく、BX(ビジネストランスフォーメーション)にも焦点を当てることが重要だと考えています。ビジネスを変革させるために、プロンプトエンジニアも常にその視点を意識し続けないといけないですね。

プロンプトエンジニアに求められるスキル:
Web/AI/データリテラシー/業務知識
プログラミング的思考・業務設計力
コラボレーション、顧客への共感

LEVEL3. AIエンジニアに求められるスキル

新田氏:AIエンジニアには、モデルの選択・構築・チューニング・運用・評価のスキルが求められます。また、ハードウェアに関する知識やアルゴリズムの理解も重要です。

森重氏:とくに、データサイエンティストとソフトウェアエンジニアの両方の視点が必要になってきます。一般的に、データサイエンティストは、精度改善のためのデータ理解やハイパーパラメータの調整が得意な一方で、ソフトウェアエンジニアはシステムのパフォーマンス(応答速度や可用性など)の改善が得意と捉えることができます。AIエンジニアには、この両方の視点が必要です。

AIエンジニアに求められるスキル:
AI/データ/ハードウェア知識
機械学習・検索アルゴリズム
反復思考・事実に基づく判断

新田氏: 結局のところ、これからは生成AIとソフトウェアエンジニアリングのハイブリッドなスキルセットが重要になってくると考えています。

森重氏:ソフトウェアエンジニアのスキルが必要だというのは、本当におっしゃる通りだと思います。私の経験上「データサイエンティストから生成AIエンジニアになった人」と「もともとソフトウェアエンジニアから生成AIエンジニアになった人」を比べると、比較的後者の方が、今のフェーズでは活躍しているケースが多い印象ですね。

理由としては、AIモデルの部分はAPIとしてパッケージ化されているケースがほとんどなため、しっかりと核となる基礎知識だけを学べば、既存のソフトウェアエンジニアリングの知識や経験と組み合わせて、ある程度のLLMシステムが作れてしまうからです。また、この1年間のフェーズでは、精度改善よりも、社内で安定して動作するシステムをつくることが重要視されていたという背景もありますね。

新田氏:たしかに市民化、民主化ではないですけれども、今まではモデル開発をする人がAIエンジニアと言われていたところから、ソフトウェアライクに生成AIを使えるようになったのは大きな変革ですね。

森重氏:はい、モデルを直接的に触れずに生成AIのシステムが作れるようになったのは、ひとつのキーポイントだと思います。一方で、ここ数か月のお客様との取り組みを振り返ると、徐々に精度改善や速度改善などの品質向上にニーズが広がってきています。とくに、RAGの精度改善のお仕事は、この数か月でかなり増えました。これにより、ソフトウェアライクに生成AIをつくるスキルだけでなく、RAGの精度改善をしたり、ユーザーにとって使いやすい(違和感のない)会話設計(カンバセーション・デザイン)を試行錯誤するPDCA力は、よりいっそう必要になってくると思います。そのため、今後「データサイエンティストから生成AIエンジニアになった人」がより活躍できる世界観に遷移していくと思います。

最後に

新田氏:「Copilot」という大きなキーワードがありましたが、プロンプトエンジニアリングとソフトウェアエンジニアリングをハイブリッドに掛け合わせることが、非常に重要です。AIエンジニアの方からソフトウェアの領域に入ってくる人もいれば、ソフトウェアエンジニアからAI領域に入っていくみたいな人もいると思いますが、いかにハイブリッドに特色を深めていくかというところが重要なのではないかと思っております。

森重氏:生成AI領域はまだまだフロンティアの段階なので、今から調整し始めても遅くありません。5年後、10年後に「あのとき、ここにBETして良かった」と思えるはずです。少しでもご関心があれば、何か新しく生成AIや関連の技術であったりとか、利用を始めてみると良いんじゃないかな、と思います。みんなで生成AIの業界に飛び込んでいきましょう。

取材後記:ソフトウェアエンジニアリングの重要性を再認識

本講演では、最新のAIトレンドの紹介を軸に、LLMOpsへの注目の高まりや、生成AIエンジニアに求められるスキルセットを体系的に紹介いただきました。とくに、ソフトウェアエンジニアリングスキルの重要性を熱心に語られるお二人のようすは大変印象的でした。

私自身、エンジニアとして仕事をする上で、GitHub CopilotやChatGPTなどの生成AIを日々活用しています。業務効率化が加速する一方、アウトプット品質を担保するための仮説検証・反復試行マインド、事実に基づく判断が必要です。生成AIのトレンドを追う中でも「ソフトウェアエンジニアリングスキルの学びを止めてはならない」と再認識した講演内容でした。

(文:星影

presented by paiza

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