映画ソムリエの東紗友美です。試写会などで毎月多くの新作映画を鑑賞させていただいているわたしが「今観るべき話題作」や「オススメ作品」や「絶対に外せない映画」をご紹介します。今週は全世界での興行収入1,000億円を突破した超話題作『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』もあります!
目次
『レッドロケット』(4/21公開)
このような人にオススメ!:
元ポルノスターが主人公!アメリカのアングラな部分を覗きたい人
第74回カンヌ国際映画祭で話題を呼んだ作品です。口先だけの元ポルノスターを主役に、社会の片隅で生きる人々を鮮やかに描いた、ひとクセありのヒューマンドラマです。アメリカ・テキサスを舞台に、故郷テキサスに戻った一文なしの元ポルノスターが近所のドーナツ店で働く少女と出会い、再起を夢みる姿を描きます。
実際に過去にポルノ出演経験があり、その映像が流出したことで一時表舞台から姿を消していたこともあるサイモン・レックスが主人公マイキー役を演じ、インディペンデント・スピリット・アワードやロサンゼルス批評家協会賞などで主演男優賞を受賞しました。あらためて映画の力ってすごいです。
なぜなら、映画を通すと、絶対に共感できないような存在がいつの間にやら目が離せない存在になっていきます。最初から最後まで、この主人公マイキーには、共感できるポイントがないのです。
いや、マイキーだけではありません。正直なところこの映画に登場するすべてのキャラクターに共感ができないにもかかわらず”惹かれてしまう”。そんなところにこの映画の面白さがあると思うんです。
皆、あまりにも利己的なのです。最たる人物は主人公ですが、負のパワーと言ってしまえばそれまでかもしれません。それでも、全員から”生きる強度”みたいなものを感じることができるのです。

犯罪まがいですが、なんとかしてやろうとしてイキイキとしてる妙なガッツ。アメリカの田舎町、うだつの上がらない日々を過ごしながらも全員から感じ取れる、雑草の如き逞しさ。
わたしはこのマイキーが好きなのか。嫌いなのか。それとも……。人間観察をしているつもりでしたが、彼についてどうおもっているのか自分の胸の内側を知りたくなってくる。こんな妙な感覚は久しぶりです。
アメリカのポルノ業界の裏側を知る会話も随所に登場します。とにかく普段なかなか触れることのできない作風です。
撮影はコロナ禍でしたが舞台となったのは、2016年のテキサス。16mmフィルムでテキサスを映した、だだっ広い道、工場の煙たなびく空、知らない街なのになんだか懐かしくて、行ったことのある街並みのようにも感じました。
『午前4時にパリの夜は明ける』(4/21公開)
このような人にオススメ:
1980年台のパリ、そして深夜のラジオが好きな人
1980年代のパリを舞台に、深夜放送のラジオ番組の仕事についたシングルマザーとその子どもたちや、孤独を抱える家出少女との交流を描いた人間ドラマです。
”深夜放送のラジオ局で働く女性”という設定を聞いたとき、即座に出演者の物語だと想像しました。しかし、主人公のシングルマザー・エリザベートの職種は、出演者とリスナーの電話を繋げる電話交換主。電話交換主といえど、ただ繋ぐわけではなく、電話を受け取り、内容を精査して、番組のホストとつなぎます。もともと彼女自身も長年リスナーだった番組でもあるという設定から、それがまたよりいっそうドラマチックでもあるんです。
この映画の原題は、「The Passengers of the Night」。このタイトルこそ当時実際にあったラジオ番組をモチーフにしているんだとか。なんともおしゃれ!

エリザベートがもう1度恋を見つけるようすを子どもが理解してくれていたり、フランスっぽい物語です。そして、このエリザベートという人物がとても良い人なんですよ。そこが見どころ。
彼女も自分の人生でいっぱいいっぱいなのに、それでも家出少女としてパリをさまよう少女にまで我が子のように優しく接するんです。無垢の魂といいますか。彼女の良い人ぶりに刺激されて自分まで優しくなれそう……。
エリザベートが仕事を終える午前4時。パリの明け方の景色は魔法がかかっているようで、みたことのなかった世界が広がっていました。懸命に生きる人々の姿を追いかける時間は、みる者にとっても幸せの定義を探す旅のようでもあります。1980年代のフランス、知らない時代の、過ぎ去った時代の空気を吸い込む心地よい時間になるはず。
『ザ・スーパーマリオブラザーズ』(4/28公開)
このような人にオススメ:
ゲームの世界に入ろう?マリオで育ったすべての人へ
「スーパーマリオ」のアニメーション映画化がついに公開!『ザ・スーパーマリオブラザーズ』の人気がとにかく凄いんです。公開からたった5日で全世界の売り上げは500億円を超え、全世界での興行収入1,000億円を突破!2023年公開映画1位に。アニメ映画で史上最高のオープニングを記録しました。GWはマリオたちと未知なる冒険へ出てはいかがでしょうか?
ニューヨーク・ブルックリンの配管工を営む双子の兄弟マリオとルイージが、地下に位置する謎の土管で迷い込んだのは、魔法に満ちた新たな世界。離れ離れになってしまった兄弟が、絆の力を試すべく世界の危機に立ち向かいます。
あまりにベタな感想をあえて言いますが、まるでゲームの中に入ったようです……。手を伸ばせば触れられそうなコインやきのこ、お恥ずかしながら何度か手を伸ばしていました。
そして同時にとても懐かしい。「世界のマリオ」とまで言われるようになった愛すべきキャラクター、勇敢で陽気な性格に元気をもらえる映画です。

ちなみに現在36歳の筆者は、小学生の頃にマリオをそれなりに楽しんで育ちました。マリオって日本人にとって、ほぼほぼ通過儀礼みたいなものですよね。コインをゲットしたときの音、アイテムゲット音、配管の中に入っていくときの音、聴き慣れた独特な効果音、「マンマミーア!」をはじめとするキャラクターの決め台詞などなど。
もう何年もプレイをしていないにもかかわらず体が覚えていて、ポップで色鮮やか、アクションとユーモアにあふれた世界観の作品なのに脳内は不思議とノスタルジーでいっぱいに……!
また『怪盗グルー』『ミニオンズ』『SING』など世界的ヒット作を生み出したイルミネーションですが、イルミネーションの創業者であり最高経営責任者のクリス・メレダンドリと、マリオの生みの親であり、任天堂の代表取締役フェローを務める宮本茂の両者、6年に渡り連帯して話し合いを重ねながら製作しただけあり、子供も完全に楽しめる内容になっています。ここがポイント!内容もおそらく4歳くらいからは完全に理解できるような気がしております。
それゆえ“マリオの登場する大人のドラマ”を期待していた層には、ドラマとしての物足りなさが少しある人もいるのかもしれません。しかし、ゲームの世界を臨場感たっぷりに映像化してくれて、冒険の旅に連れ出してくれる!それだけで私的には非常にすばらしい映画体験でした。逆にいえば無敵のスターを手に入れたように一時的に、完全に子ども心を取り戻せる作品になっていますよ。
(文:映画ソムリエ 東紗友美)