近年はさまざまな業界にIT技術が導入され、デジタルトランスフォーメーション(DX)によって効率化されたり、新たな価値を提供するサービスが誕生したりしています。中でも、まだまだ旧来の体制のままの業務が多く、DX化推進の余地が大きいのが医療業界です。

一方で、医療分野に進出するにはIT技術だけでなく専門知識も必要となります。エンジニア個人に高い適応力が求められるのはもちろん、開発組織全体としても、事業の拡大・多角化に適応しながらチームを成長させていかなければなりません。

この記事では、デジタル技術と高い歯科技工士の技術を生かした歯科矯正装置を製造し、歯科矯正のDXを推進しているSheepMedical株式会社のCTO 豊島正規氏に、エンジニアが新たなDX事業を進めていく上で必要となる資質やSheepMedicalにおける組織づくりの経験などについてお聞きしました。

歯科分野における課題とDX化の必要性

――まずは、SheepMedical株式会社の事業内容について教えてください。「歯科矯正のDX」とはどういった事業なのでしょうか。

豊島正規氏(以下、「豊島」):SheepMedicalではもともと、国内の歯科で使われるマウスピース型の矯正器具を製造・納品する事業をメインに展開しています。昨年からは海外9カ国にも子会社を作って、海外向けの製造・販売をするビジネスも始めました。同時に、クリニックから発注をする際のシステムなども開発しています。

国内では、昨年2社とのM&Aを行って、歯科領域に限らず腸内細菌の分析や姿勢の矯正などに関するビジネスも始めようとしています。姿勢の矯正というと日本ではあまり一般的ではありませんが、アメリカでは足病専門医(ポダイアトリスト)の先生も多く、ポピュラーな医療分野なんです。姿勢のゆがみには、足関節だけでなく歯並びや歯のかみ合わせも関連があると言われており、その両方からアプローチしようとしています。2022年は国内・外問わず、こうしたさまざまな分野での展開を考えています。

ーー歯科業界はIT化があまり進んでいないとのことですが、具体的にはどのようなところでしょうか。

豊島:例えば、みなさん歯が痛くなったら近所の歯医者さんに行きますよね。でも、いったん治療が完了するとそれで終了、不具合が起きなければ、特に次また行く予定はないという方がほとんどかと思います。あるいは忘れた頃に、歯医者さんから定期検診のお知らせなどのはがきが届いて診てもらうくらいではないでしょうか。はがきではなく、例えばLINEなどを使って、クリニックと患者さんがカジュアルにつながっているといった事例はまだまだ少ないのが現状です。

また、歯周病は大人の何人に1人がかかっているとか、実は怖い病気なんだという話を聞いたことがある方もいるかと思います。じゃあ近所の歯医者さんがどんな検査をしてくれるのかなと思って調べてみると、わかりやすいメニュー一覧などを出してくれているところは少ないでしょう。患者さんが興味を持つ瞬間があっても、治療や施術内容が見える化されていないので、わかりづらくてうまくマッチングができないといった課題もあります。

患者さんとのコミュニケーションだけではなく、クリニックと歯科技工所との間にも改善点があります。クリニックは、歯の詰め物やかぶせ物などを歯科技工所に発注して作ってもらいます。その際のやりとりも、紙ベースで手書きで指示を出したり、電話で連絡したりするケースが少なくありません。

現在Web系の企業などで働いているエンジニアの方からすると、まだまだ手作業の業務がかなり多い印象を受けるかと思います。逆に言えば、それくらいまだまだITが入り込める領域があるんです。我々は自社で歯科技工所を持っていて、こうした旧来のやりとりをオンラインによって改善し、発注から納品までのスピード化の実現に取り組んでいます。また、患者様向けのアプリケーションも開発しています。

ーー豊島さんの考える、SheepMedicalの事業の強みや魅力はどういったところにあるのでしょうか。

豊島:医療分野に進出するIT企業も最近増えていますが、エンジニアの方にとっては「専門色が強くて違いが分からない」、あるいは「高齢者向けの色が強くて興味がわかない」と感じている方もいるかもしれません。ただSheepMedicalでは、口腔医療という美容と健康が重なる領域を手がけていることが、ひとつの強みだと思っています。

例えば、マウスピース矯正は若い方が歯並びをきれいにする目的ですることが多いですが、ミドル層の方が矯正をする場合は、自分の歯を残したいという健康目的が強まります。腸内細菌や姿勢に関しても、治療だけでなく美容や予防医療としての目的もあります。こうした領域は若い方もメインターゲットになりますし、美容と健康の両軸からいろいろなアプローチがかけられるところに魅力があると感じます。

DX化の推進に向いているのは仮説検証を楽しめる人

ーーここからはエンジニア採用についてお聞きしたいと思います。現在のSheepMedicalにはどのような人が必要だとお考えですか。

豊島:歯科領域にすごく興味があって、ぜひ変えていきたいというエンジニアの方は現実的にはなかなかいないと思いますが……もちろんいたらぜひご応募くださいね(笑)。現在さまざまな事業を始めようとしています。歯はもちろん腸や姿勢の領域にも、これからゼロイチで挑戦していく予定です。まずは、PMF(プロダクトマーケットフィット)を、プロダクトマネジャー(PdM)はもちろんエンジニアチームも一緒になって、みんなで進めていかなければなりません。当然、我々が考えていた仮説とは全然違った結果が出る場合もあるでしょう。そんなときに「最初の話と違うじゃないか」となるのではなく、「なるほどこの仮説ははずれたのか、学びが増えたな」と考えられる方はすごく歓迎します。

我々は、まだまだオフラインが中心な領域を、これからITの力で活性化していくために、手探りで進んでいかなければなりません。これからIT化・DX化の余地が多い領域でビジネスを伸ばしていくことや、ITの力で何をどう効率化できるかの仮説検証に興味があって楽しめる人であれば向いているかと思います。

ゼロイチで重要となるスピード感と基盤づくりのバランス

ーー面接では応募者のどのような点を重視されていますか。

豊島:サービス志向と技術志向の両観点を重視しています。良いサービスを作っていくには、どちらも欠かせないと考えているからです。サービスをより良いものにするためにエンジニア発で行ったアイディアや取り組みなどがあれば、ぜひ聞かせてもらいたいと思っています。

もちろんエンジニアとしての技術力も見たいので、技術的な質問もします。特に現在はまだゼロイチのフェーズなので、スピードを重視しつつも、今後数年間を戦うための基盤となる部分も作っていかなければなりません。基盤がボロボロでは、あとから入ってくる人が苦労してしまいますが、かといってあまりそこにこだわりすぎるとスピードが遅くなってしまいますから、そのあたりは柔軟に対応できる人を求めています。

開発をしていると、「ここはあえて負債を抱えてもいい」みたいな判断をせざるを得ない場合もあるでしょう。そんなときに、PdMと「今回はあえてそうしておこう」という話ができるか、ソースコード上にも、例えば「ここはこんな事情でこうなっているけど、これがベストではない」といったコメントを残せるかが重要かと思います。

背景や情報をドキュメントとして残しておくカルチャー

ーー医療分野というと専門性が高く、入社された方はキャッチアップが大変そうな印象がありますが、どのようなサポートをされているのでしょうか。

豊島:最近はリモートワークが中心ですが、転職で入社された方にとって、リモートではハードルが高い場合もあるでしょう。わからないことがあったとき、相手の手があいていそうなタイミングを見てちょっと話しかけるといったことも、リモートではなかなか難しいかと思います。だから、特に最初の1、2週間くらいは、本人の希望によってはオフィス出社も可能にしています。もちろんリモート希望であればリモートも選択できます。

他にも、最初は既存の社員とペアプロをしてもらって、その中で「ここの設計書はあそこにある」「ここはあそこにデザインが置いてある」といったことを教えてもらうようにしています。最初に「これはここにあって、あれはあそこにあって…」と一気に説明されるよりも、オンデマンドで必要に応じて知っていったほうが理解しやすいでしょう。

また、設計書などのドキュメントはすごく大事にしています。ドキュメントを残しておくのは、ゼロイチのフェーズにいる人間の責務だと思っています。

ーー具体的には、どのようなドキュメントを残されているのでしょうか。

豊島:設計書だけでなく、ADR(アーキテクチャデシジョンレコーズ)、いわゆる「なぜそれを選んだのか」も大事にしています。「あえてここはスピードを重視してこんな作りにしました」といった背景を書いたり、ライブラリの選定にしても「なぜこれを使っているのか」「誰が決めたのか」といったことを残しています。

重要なのは、すべてが常にロジカルな考えをもとに選択されているわけではないということです。例えば、「最近話題だから使ってみたかった」という理由でツールを選ぶ場合もあるでしょう。そうだったとしても、やはり残しておくのが大事なんです。使っていて問題が起きたときに、何も残っていないと、あとから入ってきた人が「変更してもいいのかどうか」を判断できませんよね。でも「使ってみたかった」だけでそんなに深い理由がないのであれば、「じゃあ変えちゃいましょう」という選択もできる。そうやって背景を残しておくことで、システムの健全さをキープできればと考えています。

実際のシステム的な部分だけでなく、要件の背景についても同様です。例えば、社内には元歯科医師や元歯科衛生士、元歯科助手といった社員もいるので、彼らにヒアリングして「クリニックではこういうことをされるから、こんな仕様なんだ」と情報を得たら、それも設計書に残してもらいます。これもあとから見た人が「なぜこんな仕様になったのか」を読み解けるようにするためです。もちろんすべてを完璧に残せているわけではありませんが、「情報を残す、ドキュメントをしっかり書く」といったカルチャーを醸成したいと考えています。

ーー豊島さんがそれほどまでにドキュメントを重視されるようになったのは、何かきっかけがあったのでしょうか。

豊島:私がこれまでのキャリアでも、ゼロイチのフェーズから携わる業務が多かったからかもしれません。最初からいると、当然あとから入ってきた人に「ここはなんでこうなっているんですか」と聞かれます。そのときに「こんな事情でこうしたんだよ」と答えられると、理解が深まって喜ばれたりしますが、一方で「なぜこうしたのか思い出せない」という部分があると、あとから来た人は怖くなって、その部分には触れなくなってしまいます。そうすると、誰もわからない、誰も触れないアンコントローラブルな領域ができてしまう。やっぱり背景は残しておかないといけないな…と思っていたときに、ADRの概念を知って、それ以降は意識して残すようにしています。

実際、新しく入社した人の振り返りなどでは「背景がここまで残っているドキュメントは初めて見た。おかげでスムーズにキャッチアップができた」という話が出たりするので、効果は出ているかと思います。

ーー最後に、SheepMedicalへの応募を検討されている方にメッセージをお願いします。

豊島:医療はまだまだITでレバレッジが効く可能性が高い領域です。そしてSheepMedicalでは、クリニックにおける対患者さんの部分はもちろん、歯科技工所の工場におけるDX化も推進しています。今までとはちょっと違う体験という意味で、「ドメイン駆動転職」というか、IT×医療、IT×製造の仕事に面白みを見出して、入社してきたメンバーが多くいます。同じように、ITを何かと掛け合わせて今までにない経験をしてみたい方にはすごく合うと思います。

また海外向けの展開は今後も増やしていく予定です。日本発で海外展開をしている企業なので、いきなり外資系に挑戦するよりは、ハードルも低いのではないでしょうか。英語が使える人であれば、海外スタッフとのミーティングにも参加できますから、そういった海外事業に興味がある方もぜひご応募いただければと思います。


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