「経済を、もっとおもしろく。」を掲げ、新たな経済メディアとしてビジネスパーソンから大きな支持を集めるNewsPicks。莫大なデータを取り扱うプロダクト開発において、同社開発組織ではどのような組織づくりを志向しているのか。今回は、6月6日にpaizaで開催された「ITエンジニア マネジメントミートアップ」における、株式会社ユーザベース NewsPicks事業執行役員 CPO/CTO 文字拓郎氏の講演内容をレポートする。

文字 拓郎
株式会社ユーザベース NewsPicks事業執行役員CPO/CTO
シンプレクスにて、大手銀行や証券会社向けプロジェクトの開発責任者を多数経験し、NewsPicks 立ち上げ初期にエンジニアとして入社。一般ユーザー向けのプロダクト開発・新規事業立ち上げなどの推進後、2020 年から執行役員。2021 年から全社のプロダクト開発組織を管掌し、2022 年からはプレミアム事業、2023 年からプレミアム法人事業の担当役員を兼務。

心理的安全性は自律的な組織の基礎

文字氏は金融業界のトレーディングシステム、とくにデリバティブ領域の開発をバッググラウンドとし、数々のプロジェクトで開発責任者を歴任してきた。その後NewsPicksにジョインし立ち上げ初期から開発を担う。プロダクト開発や新規事業の立ち上げをけん引した後、現在はCTOとデザイナーなども含めたプロダクト開発全体を管掌する、CPOを兼務している。

講演冒頭、文字氏は自身の経歴を紹介するとともに、NewsPicksのサービスについて説明した。

「私たちは『新しい視点を集めて、経済の未来をひらく』をミッションとして、国内最大規模の経済ニュースプラットフォーム『NewsPicks』を提供しています。皆さんもご存じの通り、日本はこの数十年、社会的に停滞感があったと思います。私たちはとくに、変化や新しい挑戦を拒むような社会構造になっていることを課題感として持っていて、そのような環境を変えたい思いから、あえてメディアでチャレンジしています。メディアは斜陽産業になりかけているといわれていますが、このような時代だからこそ、新しいメディアをつくるのが日本にとって非常に重要だと考え、仕事をしています」

NewsPicksは2013年9月のスタートから、昨年で10周年を迎えた。現在、プロダクト開発の責任者として非エンジニア含め約100名をマネジメントしている文字氏は、今回のテーマである心理的安全性について「それ自体が目的ではない」という。

「私たちが本当につくりたいのは『自律的な組織』であり、そのための基礎となるのが心理的安全性です。今回の講演は、自律的なプロダクト開発を行える組織をつくるために、心理的安全性の高い組織をいかにつくっていくのかにフォーカスしてお話ししたいと考えています」

そこでまず、文字氏は自律的な組織に求められる要素は「能力」「仕組み」「文化」の3つと説明。能力はメンバーのスキルやチームに割り当てられたリソース、仕組みは目標設定や組織設計、権限委譲のあり方、文化は企業のバリューや心理的安全性の高い組織づくりを指す。その上で、文字氏は自律性の高い組織になったことによる自身の動き方の変化を語る。

「私が事業執行役員に就任したころのNewsPicksの開発組織は、まさに自律的ではない状態でした。そうなると、CTOのやるべきことが山積してしまいます。たとえばプロダクト開発の方向性を策定する必要も出てきて、開発が難しいプロジェクトになるとまずは自身でリードして技術方針を策定しなければならない。組織づくりを進めようにもトラブルが頻発し、障害が発生したらCTOが率先して対応を求められる。その中で並行して採用も進め、予算を策定したらそれを経営メンバーに説明しなければならない。私がCTOに就任した直後は、自分の時間が確保できず、ただただ忙殺されている状態でしたね。

現在ではNewsPicksの開発組織はかなり自律化が進んでいて、私自身が自由に動ける時間も増えてきています。たとえば、現在では開発リーダーが集まるミーティングにも出席する必要がなくなり、技術方針の策定は任せられるようになりました。そのほかにも障害対応や予算管理なども自律的に解決・改善が進むようになっています。その結果、私自身は、より会社として重要な新規事業や経営に注力できるようになりました」

このような変化を踏まえ、文字氏は「CTOに求められる役割は企業のフェーズや規模によって異なる」としながらも「エンジニアの代表というスタンスをとることはよくない」と語る。

「目線がエンジニアに寄りすぎてしまうと、CTOらしい仕事ができなくなります。私も最初のうちはエンジニア組織が盛り上がるような施策や、プロダクトマネジメント組織の立ち上げ、デザイナー組織の立て直しなど、解決しやすい局所的な課題に取り組んでいました。しかし、CTOがそればかりやっていても、経営や世の中にインパクトをもたらすことはできないと気付きました。もっと組織全体や未来を見据えた、大きな課題に取り組む必要があります。そのためには自律的な組織づくりが必要であり、その基礎である心理的安全性は非常に大事なテーマになります」

CTO自身が心理的安全性を実感できる組織へ

では、心理的安全性が担保され、自律した組織をつくるためには具体的にどのようなマネジメントが求められるのだろうか。

「実は、私自身はCTOやマネジメントにあまり興味のある人間ではありませんでした。これまではずっとプレイングマネージャーのポジションで、​​組織づくりとか心理的安全性についてしっかりと考えたこともなかったんです。そのため、就任から1年は組織づくりは失敗の連続で、四苦八苦していました。

そのような中で、一つの気づきがありました。それは私自身が組織のトップに立つリーダーであるにも関わらず、メンバーに言いたいことを言えない状態になっているという事実でした。そもそもリーダーが心理的安全性を感じられていない組織が、メンバーにとって居心地がいいわけがありません。まずは自分自身が心理的安全性を感じられるように変えていったところ、組織全体として改善されていきました」

文字氏は、まずは自身が心を開いて向き合える組織をつくることに注力したところ、メンバーからはポジティブなリアクションが返ってきたという。

「あるエンジニアから、『最近の文字さんからは愛が感じられる』と言われて。驚くと同時にうれしい体験でした(笑)。もともと私はプロダクトやコードに対して自分なりの愛を注いできたつもりですが、ようやく自分も組織やメンバーに愛を注げるようになってきた。そんな感慨を持ち、CTOとしての自信につながりました」

心理的安全性の高い組織をつくるための、3つのキーワード

では、実際に心理的安全性の高い組織をつくるためにはどのようなことが重要になるのだろうか。文字氏は「リーダーシップチーム」「チームの自信」「思い出ドリブン」というキーワードを掲げ、それぞれについて説明した。

「1つ目は、結束力のあるリーダーシップチームをつくっていくことです。ユーザベースは2020年に創業者の梅田優祐が退任していますが、そのときに梅田から『何でも言える、信頼できる部下をつくった方がいい』とアドバイスされました。これは非常に大事だと思っています。たとえば、役員同士の結束力がないチームは良い会社にならないように、組織文化はリーダーによって決まります。

私は、さまざまな組織と融和しながら事業にコミットする組織にしていきたいと考え、まず自分が信頼できるリーダーを集めてチームをつくることから始めました。本当になんでも話し合えるようになるまでには一定の時間がかかりますが、リーダシップチームに結束力が生まれれば、それは下のチームにも連鎖していきます。

リーダーシップチームを作るにあたっておすすめなのは、朝会です。エンジニア組織では良くやりますが、意外とそれ以外の組織ではやらないことが多いのではないでしょうか。ただの雑談でも、毎日話すことで少しずつチームの信頼関係や一体感が生まれていきます。

2つ目の「チームの自信」においても、リーダーの存在は非常に重要になります。まずリーダー自身が成功体験をつくり、それを発信していく。このとき、リーダーシップチームをつくれていれば、これもやりやすくなります。そして個人や組織がチャレンジをしてうまくいったときに、それをリーダーが発信すると、少しずつそれに感化されるメンバーが出てくるんです。そのときに、メンバーの挑戦をリーダーがしっかりと支援するのが大事です。私の心のKPIは「メンバーのチャレンジ数」と言っていますが、そういったカルチャーになると、好循環が生まれてきます。

エンジニア組織であれば、開発者体験の改善から取り組むのがやりやすいでしょう。実際に私たちは、3年かけて段階的に自信を作ってきたことが、チームに好循環をもたらしました

最後が少し変わっていますが、「思い出ドリブン」です。自分で言語化するとこの名前になりましたが、私がどういうチームをつくりたいか考えると『思い出を一緒につくれるチーム』と思い浮かびました。私たちは基本的にはフルリモートのカルチャーですが、最低でも月に1回はリアルで集まるようにしています。これは、私がメンバーと一緒に思い出をつくり、コミュニケーションパスを強化する狙いがあります。

また、リモートワークはコミュニケーションパスが劣化しやすい環境だと考えています。たとえばエンジニアと編集部のメンバーがいつの間にか疎遠になっていたり、エンジニア同士でもチーム間の交流が弱くなっていることがよくあります。 もちろんその対策には取り組んでいますが、やはり集まって顔を合わせて話す方がコミュニケーションパスが強化されやすいと思います。

私たちは有志による「チームアップ委員会」を作り、私自身もコミットして、チームを盛り上げるためのミートアップや季節に応じた企画などを運営しています。この時は、思い出に残りやすいように『ちょっと変なことをやる』のを大事にしています」

それぞれの具体的な取り組みについて、文字氏はNewsPicksでの具体的な事例を紹介しつつ、講演を以下のように締め括った。

「心理的安全性は自律的な組織をつくるための基礎です。そして、自律的な組織ができれば、CTOはより大きな仕事や自分がやりたい仕事に取り組めるようになります。そのためにはリーダーシップを持ち、自分なりの組織づくりのポリシーを持つことが大切です。そして何より、マネジメントは愛だと思っています。チームに対する愛が生まれ、伝わっていくと、組織は良い方向に動いていきます」

(取材/文/撮影:川島大雅

presented by paiza

Share

Tech Team Journalをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む