事業が急速に成長するスタートアップ期は、エンジニアリング組織にとっても変化が大きい時期です。開発リソースのひっ迫に対応するため、新たな人材を確保しなければならない一方で、人数が増えることによるコミュニケーションコストの問題にも対応していく必要があります。
これらがうまくいかないと、開発体制に支障をきたし、開発が停滞することにつながります。開発組織の問題が事業の足かせになるのはなんとしても避けなければなりません。
この記事では、開発リソースの安定性を保ちながらコミュニケーションでの問題も起こさないエンジニアリング組織をどう作っていくかについて、Webメディア運営やSEOツール「EmmaTools™」の開発などを手がける株式会社EXIDEAで執行役員CTOを務める梶野尊弘氏に解説していただきます。
需要が高まり続けるエンジニア。積極的に外部リソースを活用
スタートアップの採用担当をされていればご存知かと思いますが、ここ数年、エンジニアの需要は高まり続けており、優秀なエンジニアを採用することがどんどん大変になってきています。私はEXIDEAに入る前に人材系の企業で働いていたこともあり、エンジニアの採用が非常に難しいと痛感しています。
この状況で正社員採用に固執するのは得策ではありません。もちろん積極的に正社員の採用活動はやっていくべきですが、並行して業務委託などさまざまな雇用形態を組み合わせてチームを運用していくことが求められます。
最近はフリーランスで業務委託に携わるエンジニアの方が増えています。現在の市場感として、外部のリソースを使わないで開発するのは組織運営上ほぼあり得ないと言ってもいいでしょう。さらにEXIDEAでは、インターン生も積極的に受け入れています。新卒同様最初に一定の教育コストはかかるものの、比較的採用しやすいのが利点です。
これら正社員・業務委託・インターン生を組み合わせながらチームビルディングをしています。現在は正社員エンジニア3名、リードデザイナー1名、業務委託エンジニア6名、インターンエンジニア3名という開発体制です。これらのメンバーを、インフラといった組織横断的なものを実施するチームと、プロダクト(アプリケーション)の開発をメインで担当するチームの2つに分けて運用しています。
正社員と業務委託で役割は分ける
EXIDEAでは、正社員のエンジニアと業務委託のエンジニアで明確に役割を分けるようにしています。
正社員には、ビジネス観点やマネジメント能力をより求めています。開発能力ももちろんあってほしいですが、それ以上に事業サイドやデザイナーなどとしっかりと連携し、決まった方針を業務委託のエンジニアに伝え、開発をリードしていくスキルが大切です。さらに、新規機能などの提案もしてもらいたい。開発のスペシャリストというよりも、リーダーとして、ゼネラリスト的な総合力が強く求められるポジションとしています。
一方で、フリーランスの方に求めるのはまず開発能力です。まさにスペシャリストな方を求めます。以前は事業サイドとのミーティングにも参加してもらっていましたが、現在は基本的には社内のエンジニアとコミュニケーションをとってもらい開発に専念できる組織体制にしています。
インターン生は、基本的に理系で情報系の方しか採用していません。それでも比較的人材は見つかりますが、いくら情報系といっても多くが実務未経験なので、その点には注意が必要です。最初に開発業務に関する一通りの知識は身につけてもらわないといけませんから、教育・育成のコストが必要になります。EXIDEAでは私がインターン生向けの資料をすべて作っています。また、いきなりアプリケーションのメイン部分を開発するのはさすがに難しいので、個別に切り出せる機能などをお任せしています。また、インターン生でデータサイエンスチームを組み、社内のデータ基盤の整備などをおまかせするといったこともしています。
このように業務の変動量が大きい開発の部分を主に業務委託・インターン生にお任せしています。開発が活発なときには彼らの人数を増やし、落ち着いたときには減らすことで、常に最適な開発リソースが保てるように調整しています。
正社員には全員「CxO」を目指してほしい
安定して開発組織を運用するためには、開発サイドと事業サイドの意思疎通も重要です。そのためにも、正社員のエンジニアには、開発サイドのリーダーとして責任を持ってプロジェクトに取り組んでもらいたいと考えています。
スタートアップでは、採用するポジションが実質1人部署になることも多いです。特にそういったポジションでは、将来そのチームが大きくなったときにリーダーを務められるような人材を採用しておくとよいのではないかと思います。
EXIDEAはティール組織を目指しており、社員みんながそれぞれ事業やプロジェクトの責任者になってもらうことを期待しています。社内では「全員が『CxO』を張れる組織になろう」と言っています。将来的には、エンジニアに限らず、デザイナーやその他のメンバーも含めて、プロジェクトマネジメントができて、数字に対して責任を持てる方が増えてほしい。全員が個人事業主のような意識を持ち、自身の業務に責任を持って動ける組織が理想だと考えています。
自部署の整備と並行して他部署とのコミュニケーションを促進
事業サイドと開発サイドの意思疎通が円滑に進むように、ミーティングの形も見直しました。それまでは部署内だけで閉じたコミュニケーションをしていたところがあり、社内がバラバラに動いていると感じていたので、ミーティングから変えていきました。
現在は、プロジェクトマネジャー、インフラ担当者、デザイナー、データサイエンティストなどが集まるスクラムや、開発担当と事業担当によるプロダクト開発のスクラムを増やしました。そこでエンジニアを含めて各部署からメンバーが集まってディスカッションするようにしています。これを始めたことによって、関係者がそれぞれ今プロダクトに対して何を考えているかが他部署のメンバーにも伝わるようになり、それも開発体制の安定につながっています。
社内の連携がうまくいっていない組織にありがちなこととして、事業サイドや営業サイドと開発サイドの意思疎通ができていないパターンが非常に多いです。この両者はどうしても相手の考えや状況が分からない部分があります。たとえば、「技術的にどこが難しいか」などは事業サイドからは分からないことが多い。一方で、開発サイドも事業サイドのことが分からないから、作ったものが実際にちゃんと使われているのかだったり、どうやって使われているかだったりを知らないまま開発するといった事態が起きてしまう。結局、課題はコミュニケーションにあって、全員の意思がバラバラなせいで齟齬が生まれていたように思います。
ただし、そうは言ってもエンジニア全員が議論に入ればそれでいいかというと、そういうわけでもなく、人が多すぎて意見がまとまらなくなってしまうリスクがあります。現在はエンジニアとして事業サイドとコミュニケーションをとるのは、基本的に正社員のみとして、業務委託の方には正社員のエンジニアから方針を伝えるようにしています。部署間の意思疎通の機会を増やすとともに、意思決定のフローを整備したということです。
エンジニアや開発について社内に啓蒙するのもCTOの仕事
部署間の意思疎通とともに、エンジニアや開発といった技術的なことについて少しずつ他部署にも理解してもらえるように働きかけています。
たとえば、今エンジニアのリソースをどのくらい使ってもいいのか、といったことも事業サイドからは見えづらいものです。そういった点は私が積極的に間に入って、コミュニケーションを取るように促しています。
他にも、社内にデータがあるにもかかわらずそれを活用できていない部分があったため、データドリブンな考え方を啓蒙し、浸透させようとしています。さらに、設計書などのルールを決めたり、ナレッジを蓄積・共有したりといったことも取り組むようになりました。
IT系の企業といっても、部署によってはITをうまく活用できていない部分は意外と多くあります。そういった部分をこちらから指摘することもありますし、どういうところに困っているのかを把握するため、ヒアリングなどを実施することもあります。
経営陣が集まる会議でも、技術部門の責任者として「技術的にはこうですよ」という話はよくしますし、必要があれば他の人の意見に技術的な観点からつっこむようにしています。
開発組織、そして全社的な改革は今まさに真っ最中といったところです。
開発チームにしわ寄せが行かないような体制を作りたい
ここまで開発組織や会社全体の環境整備に取り組んできて、少しずつ前に進んできました。
CTOとして常に意識しているのは「開発サイドにしわ寄せがこないようにするためにどうすればいいか」ということです。事業サイドや営業サイドと開発サイドがあつれきを生まないためには、横の連携が不可欠です。開発サイドから見たときに、その連携の起点となるのがCTOの役割だと考えています。
今も何か問題が起きそうだと思えば、私がハブ役兼クッション役となり、組織間の齟齬が生まれないように動いています。今後も開発組織がよりよく回るためにはどうすればいいかを考えながらよりよい形を目指していきます。
そして最後に、ここまで読んでいただいたエンジニアの方へ。
EXIDEAは「0→1」も「1→10」も経験できる会社です。自分でプロダクトを作って自分で運用する経験は、自分を大きく成長させてくれます。これは分業化が進んでいる大企業ではなかなか味わえないものです。
誰かの役に立つようなプロダクトを作りたい、技術だけでなく人として成長したいという方にはとてもおすすめの環境です。そういう思いのある方、わたしたちと一緒に働いてみませんか? ご興味を持った方、ぜひお待ちしています。