Web制作・システム開発・人材マッチングなどを主事業とする株式会社GIGが「全社AI導入宣言」と題されたリリースを発表。全社をあげて、GitHub CopilotやChatGPTなどのAIツールを積極的に導入し、全社員の“AIネイティブ化”を目指すことを宣言した。
このリリース発表に込められた意図、ならびにAIと企業ブランディングの関係性について、株式会社GIGのメディア事業部長・内田一良(じきるう)氏に話を聞いた。
目次
「全社AI導入宣言」に込められた“裏の意図”
ーー今回発表された「全社AI導入宣言」は、企業ブランディングとして面白いリリースだなと感じました。どういう経緯で発表することになったのでしょうか?
内田一良(以下、内田):
2022年夏頃からAIツールが大きな盛り上がりを見せていますよね。とくに「Midjourney(ミッドジャーニー)」や「Stable Diffusion(ステイブル ディフュジョン)」などの画像生成系AIツール、そしてお馴染みのChatGPTなど。
弊社では早い段階から、コーディング支援AIツール「GitHub Copilot」などを導入したり、ChatGPTのAPIを自社サービス(フリーランス・副業向けマッチングサービス「Workship」など)に活用したりしていました。
ある日ふと、世間がAIに注目する以前から、結構AIを活用しているなと気づいたんです。これはリリースとして宣言を出しちゃってもいいんじゃないか、と思い立ちまして。経営陣も含め「全社としてAIを活用していこう」と機運が高まっていたタイミングだったので、PR的にも注目されることを見越して宣言を出すことにしました。
ーー今回の宣言について、社内ではどんな反応ですか?
内田:
弊社には数年前から「AIエンジニア」と呼ばれる職種があったり、創業当時からAIや機械学習にまつわる社内勉強会を定期開催したりなど、AIに明るい土壌があると感じています。
ただ「ガンガンAIを使っていこう!」という社員もいれば、やっぱり控えめな社員もいるんですよね。慣れていない、よく知らない、という理由で。その気持ちはよくわかるのですが、そういったAIに対して控えめな層に発破をかけるために、あえて今回の宣言を出した裏の意図もあります。
AIツールに興味を持ってもらうカギは「おじさん構文」?
ーーAIツール導入を社内に広めるにあたって、どんな課題がありますか?
内田:
勉強会やSlackの専用チャンネルなどで、各AIツールの使い方や仕組みなどを共有していますが、特に最近のAI界隈ってトレンドが移り変わるのが早いんですよ。先週使っていたものが今週になって古くなる、といったことが往々にして起こる。だからこそ、AIツールに触れるのは早ければ早いほどいいと思っています。
ただ、社内勉強会などはあくまで任意参加なので、興味が持てない場合は参加しないですよね。なるべく興味を持ってもらえるようなテーマを据えて「AIってもっと気軽なものなんだよ!」って伝えていく姿勢が大事かな、と思っています。たとえば「ChatGPTで文章をおじさん構文風に変換するプロンプトを作ってみよう!」とか、面白いですよね。
ーー 一気に興味がわきますね。
内田:
これまでAIに興味があった人は、何も働きかけなくても自らAIツールを使い倒します。ただ、AIツールには弊害があるのも事実です。検索ツールのように使ったら、間違った情報を提示してくる場合もありますから。その点で、まだまだ二の足を踏んでいる人は多いのかな、と思います。
解決策として、AIツールを活用するにあたっての社内マニュアル制作を進めているところです。あとは、手軽に使えるプロンプトをまとめて社内共有し、よいプロンプトがあったらどんどん追加できるような仕組みも。
AI界隈のトレンドは移り変わりが早いですから、ひとりだとカバーしきれません。みんなで共有し合いながら、どんどん情報をキャッチしていく必要があると思います。
AI分野で遅れをとらないために
ーー今回の宣言に「社員全員がAIネイティブになることを目指す」と書かれていますが、この点でどんなメリットがあると考えていますか?
内田:
メリットよりも「デメリットをなくす」といった観点のほうがしっくりきます。言ってしまえば“AI分野で遅れをとりたくない”んですよね。
繰り返しになりますが、今のAI界隈ってほんとうに進化が早いんです。そんななかで、社内のごく一部の人だけがAIに強くなっても意味がないと思っていて。他社もどんどんAIツールの導入を進めていくでしょうし、サービス開発もしていくでしょう。そんななかで、そもそも社員がAIについて理解が浅かったら、よい開発はできない。それだけは避けたい、という気持ちが強いです。
以前は、AIってAIエンジニアをはじめとする技術者にしか扱えないものでした。でも、いまは一般の方でも使えるようになってきています。僕も非エンジニアですが、ほんの少し勉強しただけでChatGPTやStable Diffusionなどはだいたい弄れるようになりました。そんな、誰もがAIを使える状況で、社員がAIネイティブじゃなかったら、今後も会社が成長する上でリスクが大きいんじゃないか、と。
ーーお話をうかがってると、どんどん危機感が増してきました……。
内田:
1000人を対象にした生成AIに関するアンケートによると、「AIを使ったことがある」「業務で活用している」と回答したのは合計10%とのことでした。一見少なく見えるかもしれませんが、わずか1年足らずで10%が使っていると考えると、ちょっと危機感を覚える結果ですよね。
こうなってくると、ただ「わからないから」「知らないから」というだけでAIに触れないのは、リスクが高すぎます。
そういえば、iPhoneのようなスマホが初めて登場したのは今から約16年前ですよね。いまでは当たり前のデバイスになっていますが、16年前には存在すらしていませんでした。何が言いたいかというと、いま話題のAIツールたちは、10〜15年後の未来では当たり前のものになっている可能性があるんです。これからの新卒たちはAIを使うのが当然の、AIネイティブになっている見込みも十分あります。「全社AI導入宣言」は、会社が時代に取り残されないための、いわば“リスクヘッジのための導入宣言”なんです。
GIGのAI活用事例
ーー株式会社GIGでは、現時点で具体的にどのようなAIツール活用を進めていますか?
内田:
たとえば、フリーランス・副業向けマッチングサービス「Workship」では、ChatGPTのAPIを使用した、自己紹介文の作成機能、ならびに求人票の作成機能などを最近導入しました。
なお、おすすめの求人や人材レコメンド機能については、Workshipリリース当初からAIや機械学習を活用しています。決してAI活用は今に始まったことじゃないんです。

また、リード獲得に必要な機能を備えたCMS・CRMツール「LeadGrid」でも、AI機能を鋭意開発中です。これはまだ詳細は言えないので、ぜひ楽しみにしておいてください。

そのほかデザイナー専門のエージェントサービス「クロスデザイナー」の社内ツールとして、一部でAIを活用しています。社内ツールについては他業務でも順次AIを導入していく予定です。

2030年には、AIがライターを超える?
ーー社内外問わず、AIをフル活用しているんですね。株式会社GIGでは、日本最大級のフリーランス・副業メディア「Workship MAGAZINE」の運営もされていると思います。こちらの記事制作についてはどのように活用していますか?
内田:
記事制作におけるAI活用については、これからの課題だと思っています。
たとえば、「ChatGPTでプロンプトを組めば、一発で記事が仕上がります!」などのようなツイートを一時期よく見ました。実際に僕も独自に組んでみましたが、確かにAIツールだけでも記事は作れましたし、叩き台にするなら十分有効なものだとは思います。しかし、それをそのまま掲載できるケースは少ないです。AIだけで作った記事は、普遍的で平凡な、当たり障りのないものになりやすいですから。やはりまだまだ、人による取材や編集、校正などは必要だと思います。
ただ、事前リサーチや構成案の作成など、取材や編集以外の周辺業務はAIに任せられるレベルです。事前準備はAI、取材は人間、文字起こしや原稿化はAI、編集や最後の微調整は人間……など、分業化していくかもしれません。
ーーAIの台頭によってライターの仕事がなくなってしまうかも、という声もありますが、分業化と聞くと少し救われる気がします。
内田:
もちろん、リスクもありますよ。言ってしまえば、ライターになりたての駆け出しライターさんよりは、AIのほうがよい記事をつくれる可能性もある。AIをうまく教育や学習に活用できるなら話は別ですが、そうじゃないなら若手が淘汰される恐れがあります。
一部の研究では、取材から原稿を書くまでのステップに関して、AIは2030年までにプロライターを超えると言われています。記事制作において、各々が向き合い方を変えなきゃいけないタイミングなのかもしれませんね。
軸はブレない、アプローチを変えるだけ
ーー今回「全社AI導入宣言」を発表したことにより、企業ブランディングにはどのような影響があるとお考えでしょうか?
内田:
その点については、昔から今も、そして今後も変わらない軸があります。GIGには創業時から「テクノロジーとクリエイティブで、セカイをより良くする」というパーパスがあるので、これは今後も変わりません。
今回のケースで言うなら「テクノロジー=AI」「クリエイティブ=創造や課題解決」です。このふたつの力で世界を良くする。「全社AI導入宣言」を出したからといって、パーパスが揺らぐことはないです。ただ、パーパスを実現するためのアプローチの一つというだけですね。
これまで弊社では、多くのフリーランサーと一緒にお仕事をさせてもらっています。そんななか、まだまだフリーランサーの活用が進んでいない課題を解決したい思いから「Workship」ができました。そういった自社のノウハウ、経験、知見などのリソースとパーパスを掛け合わせた先に、今と未来があるのかなと思ってます。「全社AI導入宣言」によって、全社員AIネイティブを目指すのは、その流れの一環だと考えています。
(文/取材:北村有、撮影:渡会春加)