2021年7月、Sansan株式会社の研究開発部 副部長として入社し、その後わずか半年という異例のスピードで同社VPoEに就任された西場正浩さん。
退職ツイートに多くの企業からアプローチのあった西場さんの興味をひいたのは、グローバルテックカンパニーを目指すSansanでの組織マネジメントでした。現在の組織課題を解決し、会社が次のステージへ進むために、「早く今の自分の役割を終えたい」と話す同氏。自身はもちろんメンバーの非連続な成長をどのように実現していこうと考えているのか、お話を伺いました。
Sansan株式会社 CTO 藤倉成太氏へのインタビュー記事はこちら
急成長したからこその組織課題と解決の先にある未来像
――Tech Team Journalでは、2021年7月にSansan CTOの藤倉成太さんに組織再編についてお話を伺いました。西場さんが入社されたころは特に変化が大きいフェーズだったと思います。現在の開発組織の課題について教えてください。
西場正浩氏(以下、西場):おっしゃるとおり、当社の組織構造や体制は、技術本部を取り巻く環境を含めどんどん変わってきています。
その中で組織が急拡大したことによる課題が見えてきています。具体的には、得られる情報の差が挙げられます。わたしも含めて入社して間もない人と、10年前からいる人とでは情報の得やすさが違っていたり、もしくはデータのフォーマットや運用フローが定まっていないために効率化しきれていない面もあります。
結果的に意図せずトップダウンになってしまうこともあるのですが、そこを解消し、ボトムアップで動く組織にしたいと考えています。ボトムアップに必要なのは、現場に裁量を渡すことと、情報をオープンにすることがセットです。裁量があったとしても情報がないと自ら判断して動くことはできませんから。
たとえば、今までも十分裁量はありましたが、それを改めて「現場に裁量がある組織だよ」と繰り返し言うことで、現場で考えていい・判断していいというのをしっかり伝えています。
また、情報をオープンにする一つの例として、技術本部の役員・CTO・VPoEによる「ステコミ」という会議の内容を直接メンバーに対して報告することに積極的に取り組んでいますね。
――再編から少し時間が経って、解決できたと手応えを感じているものはありますか。
西場:ある部分とない部分があるのが正直なところですね。そもそも「ここまでやったら終わり」ではなく、追求し続けるものなのでゴールはありません。
ただ、ひとつ言えるとすれば、技術本部として「ボトムアップの組織にする。グローバルテックカンパニーになる。そのために開発組織としてビジネスをリードする」というメッセージを明確に打ち出すことはできました。それに基づいてさまざまな制度や仕組みを再設計できていると思います。
――今お話しいただいた内容と重なる部分もあると思いますが、今後、開発組織として目指す形や将来像についてお聞かせください。
西場:一番はやはり全社的なテーマであり、わたし自身最大の関心事でもあるグローバル展開ですね。
これは単に海外に開発拠点や関連会社があるのではなく、世界中で当社のサービス、たとえば営業DXサービス「Sansan」やクラウド請求書受領サービス「Bill One」といったプロダクトをみんなでつくっている状況にしたいという意味です。
世界でそれを実現するには、中央集権やトップダウンではまったく回らないでしょうし、評価基準を世界共通にして人の行き来をしやすくするなど運用面でも整える必要がある部分はたくさんあります。ボトムアップで機動性を高くするには、情報の透明性や評価基準を標準化して合理性を持たせることが不可欠です。
そういったところをしっかり整備して、グローバルに同じプロダクトを作り、人の行き来もしやすいチャレンジングな組織にしていきたいと思っています。
VPoEとして「今の自分にできること」を早く終わらせたい理由
――現在、VPoEとして特に力を入れていること、もしくはこれから特に注力したいと思われていることはなんでしょうか?
西場:前述のボトムアップと情報のオープン化に加え、権限や裁量を渡せる人たちの採用・育成にも力を入れていくつもりです。
ただ、採用エージェントとコミュニケーションするだけで自ずといい人材が現れるわけでもないですし、SNSを活用すれば増えるかというとそれも難しい。必要なのは、小手先のテクニックではなく、会社の魅力を高めることです。
たとえば、Sansanでは新しい大きなチャレンジができる、成長機会があって評価も適切にされる、プロダクトや会社も成長していく、それによって世の中もよくなっていくというイメージを社内外の人が思い描ける状況です。この循環をいかにつくるかがVPoEとしての役割だと思います。
つまりエンジニアが楽しみながらチャレンジをして、その結果プロダクトがよりよくなり、ビジネスが拡大するという仕組みをつくるのがわたしのやるべきことです。それができたころには、真の意味でグローバルテックカンパニーになっているでしょうね。
――西場さんの役割も変わっていきそうですね。
西場:極端に言えば、今のわたしの役目は早く終えなければいけないと思っているんです。それはできるだけ早く現在の組織課題を解決し、会社を次のステージにあげるためです。ここまで挙げてきた課題を早く解決して、今のフェーズから一段階上にあがることがもっとも重要です。
そしてもしわたしが今の課題を解決したあと、Sansanが目指すグローバルテックカンパニーのVPoEとして役目を果たすためには、課題解決に取り組みながら実力をつけ、自身の限界値を引き上げる努力をして次のフェーズでも活躍できる人になる必要があります。ただ、これまでの延長線では難しいでしょうね。だからわたし自身、大きな変化をするためには、今まで試したことのない未知の領域にチャレンジすることが必要になると思います。
限界を突破して非連続な成長を遂げるために
――外から見ていると、転職前のご活躍はもちろんですが、入社後まもなくVPoEになられた西場さんは十分チャレンジをされてきたエンジニアだという印象ですが……。
西場:自分なりにチャレンジングなほうを選択してきたつもりですが、振り返ってみると得意なことを選んできたのかもしれないと思う部分もあるんですよね。
わたしはクオンツ(金融工学)と呼ばれる領域から機械学習エンジニアになって、エンジニアリングマネジャーや採用マーケティングもやってきました。PdM(プロダクトマネジャー)として新規プロダクトの立ち上げもやりましたし、既存プロダクトの立て直しもやりました。さらにSansanでは研究開発部の副部長から部長、現在はVPoEになりました。いろいろなことをやってきた自負はありますが、それでも得意ではない新しい分野へのチャレンジはあまりなかった気がします。
もちろん得意な領域を選んでいるとしても、自分の成果をいかに大きくするか、どうやって事業インパクトを出すかを考えて実行してきた点はチャレンジが含まれるとは思います。
――それで言うと、今回のVPoE就任はチャレンジの要素が強いんじゃないですか?新しい挑戦が始まったばかりのように思います。
西場:そうですね。とは言えこれもどちらかといえば得意分野なんだと思います。だからこそ経営陣がわたしにこの役割を任せてくれたとも言えますが、自身の限界を突破するチャレンジはしていきたいです。
そしてメンバーにももっとチャレンジを促し、成長できる環境を提供したいと思っています。過去にイベントでも話したことがありますが、メンバーも自分自身も今の延長ではなく、いかに非連続な成長を遂げられるか、その機会をどうつくっていくか、いわゆる「チャレンジマネジメント」がわたしの最大のテーマです。
――西場さんが理想としているイメージ像というのはあるのでしょうか?
西場:今はグローバルを舞台にして、非連続な成長をし続けている人たちです。言葉にすると簡単ですが、実際は非常に難しいです。
わたしがやってきたのは、言うなら継続的イノベーションで非連続性はないと思っています。現状からスムーズにランディングして、スムーズに貢献していく。そういう動き方を意識してやっている面ももちろんありますが、破壊的イノベーションではない以上、組織に対して大きな変化はもたらせません。「西場が来てからなんとなくよくなった」と言ってもらえるのは、悪いことではありません。しかし、劇的な変化ではないんですね。
昔から、すごい人たちを見ると、自分は何が足りていないのかを考えて、その姿を追い求める性分でした。自分ができないことをすごく高いレベルでこなしている人を見ると、単純にカッコいいですよね。わたしの状況や興味、時代も変わるので、同じ人を追いかけ続けているわけではないですが、このハングリー精神や上昇志向は仕事への取り組み方にもつながっていると思います。
よりチャレンジングな環境での組織マネジメントを求めて
――ここまでのお話を聞くと、西場さんが多くの企業からアプローチがあった中で、Sansanを選んだのは、やはりよりチャレンジングな環境だと感じたからだったんでしょうか。
西場:転職に至るまでの話を少しさせていただくと、前職のエムスリー株式会社に入って4~5年ほど経ち、自分自身の成長が鈍ってきたと感じ始めていました。また、わたしがいることによってリーダーのポジションが空かないことも懸念していました。
さきほどもお伝えしたとおり、前職ではエンジニアだけではなく、エンジニアリングマネジャーやPdM、採用人事を経て、最終的には事業責任者も任されました。その中で「やっぱり組織っていいな」と思うようになったんです。これまでもひとりで問題解決に取り組むより、みんなで大きな問題に立ち向かうためのチームマネジメントに徹してきましたし、そういう役割が向いているという自覚もあります。
そう考えたときにやはりわたしの目的は組織マネジメントだなと。エンジニアやPdMとして大きなプロダクトをつくりたいのではなく、組織マネジメントをすることによって大きな成果を上げたいと考えるようになりました。
――「Sansanならそれが実現できる」と感じたのはどういった点からでしょうか?
西場:ビジネスそのものやつくっているプロダクトにひかれた部分も大きいですが、会社の規模が急速に大きくなっているところですね。
硬直している組織で自分がマネジメントをやりたいとなると、他のマネジャーからそのポジションを奪わなければいけない場合があります。またはすでに決まった運用があって、それをいかにうまく回すかが重要になっているケースもあると思います。Sansanのように人だけでなく、ビジネスもプロダクトも増えていて、組織が急拡大している状況であれば、ポジションも空いていて、さまざまな変化も起こしやすいだろうと考えました。そういった観点から、わたしが組織マネジメントのスキルを伸ばしていくためにSansanはよい環境だと思いました。
そしてなによりも経営陣が「グローバルに爪痕を残す」と言い続けて、前に進んでいる点がチャレンジングで魅力がありました。経営陣の過去のインタビュー記事を見ると、当時、海外で使われているITのプロダクトやサービスは欧米のものばかりで、日本を含むアジア諸国のものはほぼなかったそうです。そういったところに挑めるのは当社のおもしろいところです。
理想像は定めない。Sansanには多様な活躍の場がある
――最後に西場さんが思う、Sansanが求めるエンジニア像、あるいはメンバーにこうなってほしいといった姿があれば教えてください。
西場:当社は現在すでにある程度の規模の組織になっていますので、求めるエンジニア像というのをひとつに決めなくてもよいと思っています。
立ち上げて間もない会社のひとりめのエンジニアなどであれば、「プロダクト思考やビジネス思考を持ったエンジニアが欲しい」ということを言えると思うのですが、当社の場合はむしろさまざまな個性や特性を持った方に来てもらいたいというのが答えです。
ビジネス思考が強い人、プロダクト思考が強い人、チームやメンバーへの思いやりが強い人、将来VPoEになりたい人、「グローバルを舞台に技術で勝負をしたい」とギラギラした人、あるいはプロダクトはなんでもよくて自分の技術をひたすら伸ばしたい人、起業や経営、人事に興味がある人…誰でも活躍できる場があります。
――多様なポジションがある御社ならではですね。思考やスキルはさまざまかと思いますが、共通する点というのはありますか?
西場:成長意欲が強い人と言おうと思ったのですが、わたし自身家庭を持って「子どもがまだ幼いうちに自分のエンジニアとしての成長を最優先にして働けるだろうか?」と考えたことがあります。正直、自分自身の成長よりも我が子の成長が一番の優先事項です、という人も多いと思います。そのような状況の方が活躍できないかと問われると、そうではありません。当社は子育て支援の制度も充実しています。できることをできる時間でやって、会社に貢献してもらえればいいと言える会社ですし、今後も言い続けられる会社でありたいです。
そのためひとつの理想像というのはやはりなくて、唯一挙げるとしたらエンジニアの仕事が好きであることかもしれません。嫌々エンジニアをやっていて、「毎日つらいんです」という方は、マネジャーとしても心配になりますので、エンジニアリングが楽しいと言える人がいいですね。
そしてエンジニアに限らず、当社はミッション・ビジョンを非常に重視していますので、ミッション・ビジョンに共感していただける方であればうれしいです。
――ありがとうございました。