「ジャンプチ ヒーローズ」「クラッシュフィーバー」といった人気スマホゲームの開発を手掛けるワンダープラネット株式会社。ゲーム開発をおこなう企業の多くが首都圏に集中する中、同社は名古屋に本社を構え、今年東証マザーズに上場しました。

今回は、同社執行役員VPoE兼EDMO室長の開哲一氏、名古屋スタジオ開発グループ長の桐島昌吾氏にお話を伺いました。それぞれ東京と名古屋で開発の責任者を務めるお二人に、同社のエンジニア採用の話や、上場後に特に大切にしている人材育成や働く環境の整備について語っていただきました。


執行役員VPoE兼EDMO室長 開哲一氏
奈良先端科学技術大学院大学を卒業後、ソニー株式会社で新規サービスやアプリケーションの研究開発に従事。その後、現ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社で数々のウェブサービスを開発。モバイルブラウザ向けソーシャルゲームの企画開発を経て、タノシム株式会社では取締役CTOに。現職ではVPoEとEDMO室長という立場で、エンジニア組織の成長や生産性の最大化と、全社の技術を牽引する。


名古屋スタジオ開発グループ長 桐島昌吾氏

1978年生まれ。広島県出身。
Webシステムの受託開発・自社サービス開発の会社を経て2015年にワンダープラネット株式会社にジョイン。『クラッシュフィーバー』のリードサーバエンジニアとして従事した後に、『ジャンプチ ヒーローズ』のリードサーバエンジニア、スクラムマスターを経て、2019年より名古屋スタジオ開発グループ長として、名古屋スタジオの目指す組織作りとその成果最大化に従事。

少数でも「ものづくりの街」に集まる人材の思いは熱い

――そもそもの話になってしまうのですが、名古屋に本社を置いた背景をまずお聞きしてもよいでしょうか。

桐島昌吾氏(以下、「桐島」):代表の常川は名古屋出身なのですが、創業当時は名古屋にはゲーム会社やスタートアップ企業は多くありませんでした。この街でそれらの事業に関わる企業を設立し、大きくなって世界で活躍する会社をつくることができれば、雇用を含めて地元に貢献でき、起業家として意義があるのではないかと考えたところがスタートと聞いています。

――大きなチャレンジだったのですね。

桐島:そうですね。東京一極集中の中ですから、チャレンジングではあったと思います。東海地方では、ゲームを事業のメインにしている企業が少なく、あったとしても規模感があまり大きくないという背景ゆえに、そのジャンルのスキルを持っている人が少ないのも事実です。

その一方で、名古屋は「ものづくりの街」です。エンジニアとしてのスキルやものづくりをする文化は潜在的にあり、優秀な人材も多い土地なので、期待値が高かったというのは間違いありません。そのためある程度の勝算もあったとは思います。

――ありがとうございます。実際に名古屋スタジオのエンジニア採用では、応募者の方からそういったところを感じますか?

桐島:どうしても業界経験者の絶対数は少ないですし、それに伴って当社の業務を遂行するにあたって必要なスキルを持っている即戦力の数も十分ではないという課題はあります。

それを踏まえた上で、東海圏で同業他社があまりいないということがチャンスにもなっています。たとえば、創業当時には、選択肢がなかったがゆえに別の業界で働いていた方が「やはりゲーム業界を諦めきれない。ゲーム開発をやりたい」という熱意を持って応募してくださったケースもあったようです。

――名古屋は即戦力層は少ないが、思いが強くポテンシャルが高い方が多いと言えそうですね。

桐島:まさに前述の例などがそうですね。今は会社の規模も随分大きくなりましたが、思いの強い人が集まってできた会社に、さらに熱い思いを持っている方が入ってくださっていると思います。

開哲一氏(以下、):東京スタジオでも同様に採用をおこなっていますが、名古屋と東京ではたしかに応募者のタイプというか、性質みたいなものは違うなと感じます。

新卒・中途問わず半年間の育成ロードマップを決める理由

――ここからは特に名古屋で入社されたエンジニアの、入社後の取り組みについてお聞きします。前述のとおりゲーム業界経験者が非常に少ない中で、どのように業界特有の知識をつけてもらい、一人前に育てていくのでしょうか?

桐島:入社後のプロセス、いわゆるオンボーディングについては、仕組みとして整えているところではありますが、ゲーミフィケーションを意識したものになっています。

当社では新入社員に対してメンターとトレーナーがつくことになっており、まずは彼らと一緒に本人の「実現したい夢や野望は何か」をしっかりすり合わせます。それから入社から半年間の短期ロードマップを作るのですが、ロードマップでは、入社後どのような役割を果たしていくのか、どのような成功体験を得ていくのかという点を重視しています。

どちらかというとメンターがロードマップを作る際に「どのようなキャリアを積んでいくか」を一緒に考えていく役割で、トレーナーが実際の業務を教える役割といった分担になっています。具体的には、最初に開発環境を整えたり、タスクを進めるにあたって技術的なサポートをしたりといったところまで面倒を見ます。

さらには、エンジニアのマネジャーとしてわたしが、2カ月に1度、現状とロードマップにブレがないかという観点でレビューもおこなっています。

――かなり手厚い印象を受けました。新卒だけでなく、中途採用者も同様ですか?

桐島:はい、共通のプロセスです。新卒の場合は、入社後に約2週間の新卒向け研修がありますが、それ以外は基本的に変わりません。

というのも、中途入社の方は、ゲーム業界での経験がないとはいえ、エンジニアとしてのスキルや経験はあるため、早く成果を出したいという焦りがある方が多いんです。その焦りから組織へのなじみが遅れて、空回りしてしまうパターンもありました。組織になじむ、そこにプラスして成果を出すという両軸が必要だと思っています。組織になじむ部分については、また別のプロセスでフォローしていますが、中途採用でも半年間のロードマップは作成してもらいます。

ただし、当然新入社員は右も左も分からないので、最初の1カ月はメンターとトレーナー主導で立てた計画をもとにタスクを進めます。その後の5カ月分をご自身からも意見を出していただいた上で作っていくことになります。

――中途入社の場合、入社後間もなくして「あとはプロジェクトに入って覚えてください」といったパターンも多いですよね。

桐島:おっしゃるとおり、以前は配属されてプロジェクトでやっていただくという流れでした。入社した方も不安ですが、既存メンバーにとっても、ある日突然チームにメンバーが増えて「どういうバックグラウンドを持っている人なんだろう」という探り探り感がありました。

また、成果を上げているメンバーが、入社後からそういった状態になるまでのプロセスに再現性がない状態でした。「たまたまうまくいった」と言えばいいでしょうか。

組織が成長していく中でそれではいけないなと思い、入社後の動きについてすべて整理してみたんです。その中でも特に活躍している社員にはある程度共通点みたいなものがありました。一方で、中には成果を出そうと焦って逆に遠回りしてしまったパターンもありました。それらの結果に基づいて、入社後に戦力になるまでのフローを導いた部分があります。

組織改編でエンジニアがよりゲーム開発に集中できる環境へ

――つづいて、組織体制についてお伺いします。今年9月に新体制へ移行され、「EDMO(エドモ)」という新組織が発足していますね。こちらはどのような組織でしょうか。

:EDMOは、わたしが室長を務めておりまして、プロジェクトを技術的にサポートする横断的な組織として新設しました。

背景としまして、それぞれのチームは目の前のプロダクトの開発を優先して進めるため、横の連携が弱いという課題を感じていました。たとえば、あるチームではすでに解決した技術課題と近いことが別のチームで起こっても、解決策の共有がうまくされていないためにまた解決のために工数をかけてしまうといったことがあったんです。

EDMOはそういった問題を俯瞰して見ることができる組織で、運用からまだそんなに経ってはいませんが、役割を果たせているなと感じる場面も多くなってきています。

特にこれまでプロジェクト単位で生まれたノウハウを会社として蓄積できていない状態だったので、きちんと資産化していくことに力を入れています。ここを進めていくと、次に新しくプロジェクトを始めるときは、その資産をベースにショートカットできる部分もあると思います。

――なるほど。EDMOができる前と後で、組織としてよい変化があったということでしたが、エンジニアへの影響などはどうですか?

桐島:EDMOの存在には、かなり助けられているところがありまして。

ゲーム制作って、いわゆる「ゲームのおもしろさ」を作り出すコアとなる部分だけではなく、その周辺の作業がとても多いんです。それが結構手間がかかるんですが、とあるプロジェクトでしっかりとやったけれども、また別のプロジェクトでその面倒なことをゼロからやらなければならないといったことが多々ありました。

先ほど資産化すると言ったのは、そういったコア部分以外の面倒な作業を基本的にはほぼなくして、プロジェクトにいるエンジニアたちは「ゲームのおもしろさ」を作ることだけに集中するための理想的な環境を作るためでもあるんです。

プロジェクトスタート時にそういった周辺のことは終わっている状態にできれば、ゲームを作るために入社したエンジニアのエンゲージメントを高めることにも寄与できると思います。

:あとは技術負債をいかに作らないようにするか、ですね。

桐島:技術負債の返済は、できればみんなやりたくないですからね(笑)。

:そうですね。ですので、技術的なサポートをどれだけ早いタイミングからできるかもEDMOの使命のひとつです。特に運用タイトルでは、技術負債が足かせになると、かなりメンタルが削られてしまいます。

――はじめにゲーム開発への思いの強い方が入社されるという話がありましたけど、本当にそういう方たちが集中してパフォーマンスを発揮できるための環境を整えていらっしゃるんだなと思いました。

:ありがとうございます。まだ、道半ばではありますけども、そういったところを目指してはいますね。

エンジニアのキャリアパスの整備と多様化

――さきほど少しエンゲージメントの話が出ましたが、新体制になって何か変化はありましたか?

桐島:もともと1on1の実施などでメンバーの状態は把握していましたが、ちょうど先月にサーベイを実施しました。具体的にそのデータを使って施策を打つのは、まだ先になるとは思うのですが、これまであまり定量的な測定ができていなかったので、今後に生かしていくつもりです。

特に規模が大きいプロジェクトでは、ピラミッド型の体制にして各自の裁量が減ってしまうと、エンゲージメントが下がる要因になるため注意が必要です。よって、プロジェクトは大きくても、小規模なチームを作ってリーダーポジションを多く作ることでメンバーのチャレンジの機会を作っています。

:一方で、エンジニアってやっぱり技術志向の人が多いですよね。これまではあまりマネジメント志向と技術志向のキャリアパスを明確にしていなかったので、各拠点でそれらを明確にしていこうとしています。そのうえで、「技術を極めて、自分がこの会社を技術で牽引していきたい」という人が、EDMOという突出したキャリアパスを選べるという多様性のある形にしたいですね。

交流と技術ノウハウの共有、両面を満たす勉強会

――名古屋と東京は、独立性を持った組織のようですが、何か交流の機会みたいなものはあるんでしょうか?

桐島:スタジオを横断した勉強会は実施しています。技術LT会のようなイベントを毎月やっていて、それは名古屋と東京で一緒にやっています。

具体的な内容としては、ノウハウの共有だったり、プロジェクトごとの取り組みを紹介したりですね。コロナになってからはリアルではなくオンラインで開催していますが、わりと草の根的に企画が立ち上がったりもしています。

名古屋スタジオが主催したものに東京スタジオの人たちが参加するとか、もちろんその逆もあります。

:リモートに入ってから増えたような気がしますよね。

桐島:そうですね。勉強会以外でも、開発中タイトルのリーダー同士が集まる会は週1でやっていて、お互いの技術的な課題を共有しています。ときにはサポートし合うこともあり、先行して取り組んでみたことの結果を共有したり、どう解決したかを教え合ったりもしています。

スタジオを横断した技術LTを実施する際は、テーマ選出のための運営委員会があります。「今こういうことをみんなにノウハウとして共有する必要があるよね」といった視点で、戦略的にテーマ選定をおこなっている部分もあります。やりたい人がやるという形だけではなく、今このタイミングでこれをやるべきだというところは話し合って決定しています。

――勉強会と聞くと、有志で集まってというイメージが強いですが、会社からもいろいろ促して、技術的な課題だったりの共有の場ともなっているんですね。

桐島:そうですね。わいわいと楽しんで交流する面と会社からこういうことを学んでほしいという面の両方ありますね。

ゲーム開発のさまざまなフェーズに携わり、技術的に成長できる

――最後に、御社に興味のあるエンジニアの方へ、メッセージなどあればお願いします。

桐島:会社としましては、上場し、さらにここから多くのチャレンジができるおもしろい状況になってきていると自負しています。

新規タイトルを0→1で作ることもありますし、運用タイトルをさらにスケールしていくこともあります。一方で、EDMOのような技術的なスキルを伸ばしていけるポジションもご用意しています。当社内でさまざまなキャリアパスを実現できる環境が整いつつあると言ってもよいと思います。

また、プロダクトや事業の成長をブーストできるエンジニアとしてのスキルや経験を高められる環境でもあります。

エンジニアとして技術力はもちろん大切です。ただ、そこに「会社の事業フェーズに合った最適解を出せる」というスキルがあれば、エンジニアとしての市場価値はとても高くなると思っています。これまでのスキルや経験を生かして、さらにポータブルなスキルを伸ばせる、しかも先を走っている先輩から学びながら身につけることができます。

:上場してからは以前より一層、社員の育成や組織づくりを大切にするという意識が高まっています。これまでは事業が最優先で、それも目先の成長をわりと追いかけていた部分があったのですが、今は事業も社員も中長期的な成長を見据えることに重きを置いています。

桐島の話にも関係しますが、当社はマトリックス組織でありつつ、職能軸ではなくプロダクト軸が強い組織体系を取っています。よって、エンジニアにも事業や、「ゲームのおもしろさ」を含めてユーザー価値を作る部分にコミットしてほしいんです。そのためには、言われたものを作るだけではなく、どうすればユーザーに価値を届け続けられるかを考える必要があります。

――さきほどのお話にもありましたが、ゲーム開発のコア部分に集中できる環境をどんどん整えてらっしゃるというお話だったので、そういう方がやりたいことをするには御社は理想的な環境ですよね。

桐島:ありがとうございます。どうしてもプロジェクト成功のためには、急ぎの機能開発やリリースがあります。そこに集中してパフォーマンスを出すには、他の部分で時間を取られることがないよう、役割を分けて効率をあげていきたいですね。

――企業の規模も大きくなってきて、組織の改編という手段も含めて、強みを生かせる理想的な環境になってきていると感じました。おふたりとも、ありがとうございました。


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